私達、婚約破棄しましょう

アリス

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神官

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それからシオンはエニシダの好意を無駄にするわけにはいかず、ただ無気力のまま生きていた。

今のシオンはいつ死んでもおかしくないくらい弱っていた。

顔の烙印が消えたおかげで、シオンは街で仕事をすることができていた。

鞄には金貨も入っていて、家を借りることもできた。

エニシダには街を出て、違う街で生きていけと言われたが、ずっとこの街に居座り続けていた。

普通の人間として暮らし始めて、すでに半年が過ぎた。

自分が何をしたいのかがわからなかった。

それでも、エニシダとの繋がりを感じていたくて、森に薬草をとりに行き、本に書かれた髪染めや肌の色を変えるものを作る日々をおくっていた。

そんなある日、森で薬草を摘んでいると、争うような声が聞こえてきた。

シオンは最初はその声を無視していたが、「悪魔の子のくせに」と言う言葉を聞いた瞬間、気づいたら声のする場所に向かって走っていた。

洞窟で働いていた頃より筋肉が落ちていたので、昔のように走ることはできなかったが、それでも足は早いので、すぐに辿り着くことができた。

思った以上に人が多かった。

服装を見る限り、見習い神官たちだった。

それにしてもおかしい。

神官は神に祝福されたものたちがなるものだ。

それなのに、ここにいるものの誰も相応しいとは思えないものたちばかりだった。

悪魔の子と呼ばれるものと、大勢で一人の人間をいじめるものたち。

どう考えても神官になれそうなものは一人もいない。

やはり神などこの世には存在しないな、とシオンは改めて強くそう思った。

昔のシオンだったら、間違いなく見捨てていた。

だが、エニシダの優しさを知ったいま見捨てることなどできない。

それに、あれは過去の自分だ。

勝つ自信はないが、引くわけにはいかない状況だ。

とりあえず武器になりそうなものがないか、周囲を確認すると結構なものが武器なりそうだった。

長く太い木の枝、大きな石、尖った石。

壊れてもたくさん落ちているので困ることはない。

シオンは落ちている石を何個か拾い、虐めている神官たちに向かって投げた。

一個投げると、また一個と、向こうが何か仕掛ける暇も与えないように投げ続けたが、人数が多くて何人かはこっちに向かって走ってきた。

持っていた石を捨て、長く太い木の枝に武器を変える。

木の枝をぶん回し、近づけられないようにする。

怯んだら木の枝で殴るを繰り返した。

無我夢中でそうしていると、いつの間にか全員を倒していた。

かっこいい倒し方ではなかったが、結果は変わらないので良しとした。

シオンは虐められていた神官に近づくと、彼は意識を飛ばしていた。

体中泥だらけだ。

ずっと蹴られていたとわかるほど酷い。

シオンは彼を背負い、借りた家に戻った。

シオンの家は小さく、寝られる場所はベッドしかないので、仕方なく男をベッドの上に寝かした。

男の傷を確認しようとすると、顔にある烙印に目がいった。

自分にもあるが、どうして神官の彼にそれがあるのか不思議だった。

それが気になり過ぎて男の顔を見ていると、シオンの視線に気づいたのか、男が目を覚ました。

男はシオンと目が合うと、目を見開いて驚いた。

すぐに顔を隠し、距離を取った。

自分も男と同じだから、いま何を思っているのか手に取るようにシオンにはわかった。

「大丈夫だ。何もしない」と言っても信じてもらえない。

理由は簡単だ。

今のシオンは普通の人間にしか見えないからだ。

信じてもらうには一つしかない。

シオンは顔に塗ったものを落とし、本当の姿に戻る。

男はシオンの顔を見ると、さらに目を大きくして驚きを隠せないでいた。

シオンは優しく微笑み、男を落ち着かせるためこう言った。

「大丈夫です。何もしません」

男はシオンも同類だとわかり、ようやく安心したように体の力を抜いた。

「あなたは魔法使いなのですか?」

男の表情は強張ったままだが、危害を加えられないと確信したのか、男は口を開いた。

どう見ても男の方が年上なのに敬語を使われて、シオンは変な気分になる。

「いいえ。違います」

男がなぜそんな質問をしてきたのかシオンにはわかっていたが、信用してもいいのかまだ判断ができなかった。

助けたからには最後まで責任を持つつもりだが、それでもどこまで話すかは男次第だ。

きちんと見極めないといけない。

「じゃあ、どうし……いえ、なんでもありません」

男は途中で言いかけたことをやめた。

シオンは男が何を聞きたかったのかわかっていたので、その選択に驚いた。

シオンたち悪魔の子にとって烙印を消せる方法があるなら、どんな手を使っても知りたい情報だ。

それなのに、聞くのをやめる選択をするという事実が信じられなかった。

「聞かないのですか?」

今思えばこの質問は残酷だったと思う。

子供だったとしても許されないことだ。

「ああ」

「どうしてですか?」

「生きていく自信がない。例え、普通に戻れたとしても、この力がある以上、俺は神殿に身を置かないといけない。顔も覚えられているし、逃げられない」

逃げるには死ぬしかない。

シオンには男がそう言っているように聞こえた。

その瞬間、シオンはようやく自分のやるべきことがわかった。

「逃げれますよ」

「え?」

シオンは水を頭にかける。

「え?ちょ!?は……?」

男はシオンの奇行に驚くも、すぐに髪の色が変わったことの方に驚いた。

「大丈夫です。俺が必ずあなたを助けます」
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