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魔法の壁
しおりを挟むあのときの彼女はいったいなんの本をおすすめしてくれたのだろうか。
本のタイトルを思い出せない。
いや、内容も思い出せない。
嬉しそうにその本の話をしていたエニシダばかりに目がいった。
そのときの笑顔を昨日のことように思い出せるのに、本のタイトルと内容だけが思い出せない。
イフェイオンは記憶力が他人よりもずば抜けているのに、まるでその言葉を記憶していたくないかのように全く思い出せなかった。
思い出したくないのなら、それでいい、と過去の記憶から現実に戻り、イフェイオンはエニシダを探しに行くために可能性がある山に登ることに決めた。
「その山に登るぞ」
イフェイオンはそう言うと、山に向かって歩いていく。
ユリウスは「はい」と返事をし、その後を追った。
山の中は普通なのに、どこか違和感を覚えた。
それが敵意ではないため、イフェイオンもすぐに気づくことができなかった。
頂上にまで登ったからこそ気づくことができた。
途中に感じた違和感が魔法だと言うことに。
戦場でなん度も魔法をくらったおかげか、魔法を使えなくてもほんの少しの魔力でも感じ取ることができるようになっていた。
一緒に登ったユリウスは何も感じていなかったのか「普通の山ですね。すみません」と謝ってきた。
エニシダを見つけられなかったせいで、余計なことを言ってしまったと後悔しているのだろうが、謝る必要などないと思っていた。
ユリウスがいなければ、ここまで追いつけることなどできなかっだはずだ。
一人だったら、情報を集めるのに苦労しただろう。
貴族相手なら優秀だが、平民相手ならイフェイオンは怖がられて「はい」か「いいえ」でしか答えられなくなる。
役立たずもいいところだった。
戦場の時はそんなことないのにな、とエニシダが関わるとポンコツになるなとユリウスは密かに思っていた。
「降りるぞ。少し気になる場所がある」
イフェイオンの言葉にユリウスはそんな場所あったかと記憶を辿るが、そんな場所はなかった。
自分とイフェイオンではみている景色が違うと改めて思い知らされた。
イフェイオンにはその場所がわかっているから、登っているときとは違い降りるときは早足だった。
「ここですか?」
暫く会話もなく、ただ降りているだけだったが、突然イフェイオンが立ち止まった。
ユリウスには普通の山の中にしか見えないが、イフェイオンには何か違って見えるのか、目が鋭くなっていた。
「ああ」
イフェイオンはそう言うと、ゆっくりと手を伸ばした。
イフェイオンの手が何かに触れると景色が歪んだ。
「……!?」
ユリウスはいきなり景色が変わり、驚きのあまり目を見開いた。
「魔法ですか?」
ユリウスはすぐに冷静さを取り戻して尋ねた。
「ああ。間違いなく、そうだろうな」
それ以外に考えられない。
誰かが意図的に、この向こうにある何かを隠していたのだろう。
多分それは「秘密の花園」と言われている場所だ。
イフェイオンはそう推測すると、魔法で隠されていた場所の中へ足を踏み入れる。
イフェイオンが魔法で隔てられた壁を取り抜けるとき、景色が歪んだ。
ユリウスもその後に続くように、その魔法の壁を通り抜けた。
壁を越えると、空気が透き通っていて気持ちいい。
魔法の壁の厚さは髪の毛一本と変わらない厚さなのに、それだけでこうも空気が変わるもの方二人は驚きを隠せなかった。
「どちからに行かれますか?」
道は二つある。
最初からそうだったのか、それとも魔法でそう作られたのかはわからないが、ユリウスはなんとなく後者だと思っていた。
「右に行く」
イフェイオンは目の前にある道を行くことにした。
右に立っていたから、そのまま選んだだけのかとユリウスは思った。
「わかりました。では、私は左の道を行きます」
イフェイオンも同じ考えだったのか、別の道を選んだことに何も言わなかった。
どちらの道にエニシダがいるかはわからないが、ユリウスはイフェイオンが選んだ道の方にいてくれたらいいと願った。
エニシダは自分のことを知らないはずだ。
知らない相手から、いきなりイフェイオンが会いにきていると言われても困るだろうし、感動の再開を自分が先にして薄れさせてしまうのも嫌だと思っていたし、自分が逆の立場だったら嫌だと思った。
ユリウスは確信していた。
きっと、ここにエニシダがいると。
ただ自分の選んだ道なのに、何故か嫌な予感がして、この道の向こう側にある景色を見るのを怖いと感じていた。
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