王太子殿下のやりなおし

3333(トリささみ)

文字の大きさ
10 / 11

10

しおりを挟む
「いいや、取り消すつもりはない。婚約破棄は遂行する。」

 僕はを取り出し、突きつけた。

「………?」

 アーデルハイトは書類に目を通すと、唖然とする。
 これまで眉ひとつ動かさず平静を保っていた彼女が、初めて見せた動揺だった。

「医者に診てもらった結果、僕は軽度のうつ状態だったことが分かった。原因は言わずもがな君だよ。」
「…そんな…ですが…うつ状態といえど軽度だったのでしょう?」
「アンタらしくもない軽率な発言だな。今はそうでも、アンタのどの心無い言葉が引き金になって悪化するか、分からない状況なんだぞ?」

 ここでソラが参入してきた。
 彼は僕の隣に立ち、アーデルハイトに反論する。

「っ!!」

 アーデルハイトは怒りに顔を顰めるが、ソラの言ってることが正論だと理解しているからだろう、何も言い返してこない。

「これまでズレアバに構い続け、婚約者である君を蔑ろにしてきたこと。さらに君に冤罪をかけ大勢の晒し者にしたこと。人生に一度の記念である皆の卒業パーティーを壊したこと。そして王命である婚約を独断で破棄したこと。すべてに謝罪しよう。だからその償いとして、僕は王太子を退位して魔王を倒す旅に出る。」

 アーデルハイトはもはや何も言えないようだ。
 茶番の断罪劇は読みきっていたが、ここからは想定外のようで。
 茫然自失のなか今にも泣き出しそうなほどに顔を歪めて立ち尽くしていた。

「アーデルハイトの新しき婚約者、そして新たなる王太子には、トリアトが選ばれることでしょう。それでは僕はこれで。」
「まっ、待ってください兄上!」

 トリアトがギャラリーの中から飛び出してきた。
 恐らくアーデルハイトに乱暴を働いたら取り押さえるつもりで、最前列の陰から待機していたのだろう。

「本気ですか?考え直してください!アーデルハイト様はこのようなことを望んでいたわけではありません!彼女はあなたのことを真に愛していて、あなたをお支えできる伴侶として頑張ってきたんですよ!?」

 トリアトは必死だ。
 無理もない。
 ズレアバやその取り巻きたちが裁かれ、僕もこれから償いをする。
 後に残るのは、王太子を精神が病むまで追い詰めておいて何の罰も受けず、新しい王太子の婚約者の座におさまろうとする女と、兄を追い詰めた女を慕い婚約を受け入れるお花畑の王子様。
 ふたりとも到底受け入れられるわけがない。
 しかし…

「溢れるほどの愛情を抱いていたとしても、注いでくれなければ、彼女から愛されて幸せだと僕が感じていなければ、何の意味もない。それはただ彼女ひとりが楽しいだけだよ。」

 とうとう何も言えなくなったトリアトとアーデルハイトを残して、僕は会場を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

劣等生の俺を、未来から来た学院一の優等生が「婚約者だ」と宣言し溺愛してくる

水凪しおん
BL
魔力制御ができず、常に暴発させては「劣等生」と蔑まれるアキト。彼の唯一の取り柄は、自分でも気づいていない規格外の魔力量だけだった。孤独と無力感に苛まれる日々のなか、彼の前に一人の男が現れる。学院一の秀才にして、全生徒の憧れの的であるカイだ。カイは衆目の前でアキトを「婚約者」だと宣言し、強引な同居生活を始める。 「君のすべては、俺が管理する」 戸惑いながらも、カイによる徹底的な管理生活の中で、アキトは自身の力が正しく使われる喜びと、誰かに必要とされる温かさを知っていく。しかし、なぜカイは自分にそこまで尽くすのか。彼の過保護な愛情の裏には、未来の世界の崩壊と、アキトを救えなかったという、痛切な後悔が隠されていた。 これは、絶望の運命に抗うため、未来から来た青年と、彼に愛されることで真の力に目覚める少年の、時を超えた愛と再生の物語。

転生場所は嫌われ所

あぎ
BL
会社員の千鶴(ちずる)は、今日も今日とて残業で、疲れていた そんな時、男子高校生が、きらりと光る穴へ吸い込まれたのを見た。 ※ ※ 最近かなり頻繁に起こる、これを皆『ホワイトルーム現象』と読んでいた。 とある解析者が、『ホワイトルーム現象が起きた時、その場にいると私たちの住む現実世界から望む仮想世界へ行くことが出来ます。』と、発表したが、それ以降、ホワイトルーム現象は起きなくなった ※ ※ そんな中、千鶴が見たのは何年も前に消息したはずのホワイトルーム現象。可愛らしい男の子が吸い込まれていて。 彼を助けたら、解析者の言う通りの異世界で。 16:00更新

異世界転生した悪役令息にざまぁされて断罪ルートに入った元主人公の僕がオメガバースBLゲームの世界から逃げるまで

0take
BL
ふとひらめいたオメガバースもの短編です。 登場人物はネームレス。 きっと似たような話が沢山あると思いますが、ご容赦下さい。 内容はタイトル通りです。 ※2025/08/04追記 お気に入りやしおり、イイねやエールをありがとうございます! 嬉しいです!

何故か男の僕が王子の閨係に選ばれました

まんまる
BL
貧乏男爵家の次男カナルは、ある日父親から呼ばれ、王太子の閨係に選ばれたと言われる。 どうして男の自分が?と戸惑いながらも、覚悟を決めて殿下の元へいく。 しかし、殿下は自分に触れることはなく、何か思いがあるようだった。 優しい二人の恋のお話です。 ※ショートショート集におまけ話を上げています。そちらも是非ご一読ください。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

処理中です...