【完結】政略結婚はお断り致します!

かまり

文字の大きさ
9 / 59

8話 苦しい思い

しおりを挟む
(驚いたな…この子が王妃⁇…確かに見た目は整っているが、王妃候補と言えばもっと気品があって、毎日王妃教育を受け、時間があればパーティ用のドレスでも選んだりしてるものなんじゃないのか?そもそもこんな森の中で暮らせるような神経はしていないはず…)

 アクアはにわかには信じられないという顔をしていたが、これまでのアイリスを知る限り、嘘をつけるようにも思えなかった。

 しかしあまりに突拍子もないことだったので、やはり半信半疑で続きを聞いた。

「…それが本当なら…国の一大事じゃないか?」

 アクアは少し険しい顔をした。

「……別に私がいなくても、他にいくらでも相手はいるでしょ?…公爵家だって他にもあるんだし、他国のお姫様だって…探せばいるじゃない?」

「…そんな簡単な話じゃない。…国の勢力図が変わってしまうんだよ?

僕の知識で覚えている限りでは、今この国で一番力を持っていて、第一王子の後見役になっている公爵家は、国や民のことを一番に考えてくれる公明正大な公爵だったはずだ。

それが君の実家なんだとしたら、第一王子と結婚でさらに強く結びつくことによって、国の安寧は確約されるとも言える。

しかし、違う勢力図に変わってしまったら一体国はどうなってしまうのか…」

 アクアは厳しい顔をして俯いた。

 アイリスは悲しい顔になる。

「…ほらね?その考えが政略結婚だって言ってるのよ。国や国民のために犠牲になれってことでしょ?

…それは国にとって必要なことかもしれないけど、私だって1人の人間なのよ…

恋くらいしてみたいじゃない…
結婚だって、自分が好きになった人と愛し愛されて結婚したいのよ…

公爵家に生まれた人間として、それは我儘だとはわかってるけど、人としての気持ちを奪われたくない……

でも、…それでも私だって覚悟しようと何度か思ったわよ?

だけど、…そんな放蕩者だなんて…他に側妃をたくさん置かれたりしたら…私耐えられない…

だからどうしても気持ちに整理がつけられなくて…」

 アイリスは逃避行することで考えないようにしてきた現実をまざまざと突きつけられ、目に涙が溜まってきたが、流れ落ちないようになんとか堪えた。

 しかし、国や国民のこと、そして自分の気持ちとを天秤にかけると、どちらに傾くこともできないその大きな葛藤に苛まれて、今まで心に隠してきたものが溢れ出すように、結局泣き出してしまった。

「あっ、アイリス、ごめん!僕が無神経だった。そんな身分の君がこの場所に居るというのは、とんでもない覚悟と勇気が必要だったはずだ。それなのに責めるようなことを言って申し訳なかった。 

……僕は君の味方だ。命の恩人なんだから、世間が何と言おうと、僕は君の気持ちを一番に優先するよ。

だから、ほら、泣かないで?」

 アクアは優しくそう言って、ベッドのそばの椅子に座るアイリスの頭を撫でた。

 アイリスはしかし首を横に振った。命の恩人だからどんな考え方も許されるなんてそれは嫌だった。

 親と直接対決できずにこんなところに隠れていることこそ、自分自身、間違ったことをしているとわかっている証拠だったから。

 色々な人に迷惑をかけてこんなことをしている自分も、政略結婚をしないといけない身の上も、命を助けられたからという理由で善悪の区別なく全てを許してくれようとするアクアも、全部嫌に思えて全てを投げ出したくなった。

 アイリスは今まで溜めに溜めてきた思いを全て涙で洗い流すように泣き続けた。

 その間ずっと頭を優しく撫で続けてくれるアクアの手に安心して、アイリスはいつの間にかベッドに突っ伏して寝てしまった。

 
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜

咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。 もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。 一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…? ※これはかなり人を選ぶ作品です。 感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。 それでも大丈夫って方は、ぜひ。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

処理中です...