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9話 どこに行ったの?
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——「ぅ…うん」
アイリスはベッドの中で目を覚ました。窓の外を見ると外はすっかり暗くなっていた。
じんわりとさっきまでの記憶がよみがえってきて、自分が泣き疲れてそのまま寝てしまったのだと思い出す。
たぶん夕方くらいから寝始めてしまったから、朝まで眠れず、夜中に目が覚めてしまったのだろう。
しかし、そこでハッとなった。
(あれ⁉︎アクアはどこ⁉︎)
ベッドにはアクアが休んでいたはずなのに、代わりにアイリスが寝ていて、アクアはどこにもいない。
(…記憶思い出して帰っちゃったのかしら…?でもあんな大変な怪我をしてるのに、こんな暗い森を抜けて帰るなんて…)
アイリスは慌ててベッドから降りようとした。
ムギュッ
「きゃっ‼︎なっ、なに⁉︎」
何か踏みつけた感触があり、ランプに火を灯して部屋の中を照らした。
「…キ、キャーーーッッッ!!」
アイリスは叫びながら一目散に玄関扉まで逃げ出した。アイリスが踏んだのは…銀色の大きな狼だった…
しかもその大きさはアイリスの3倍はあるように思われた!一瞬大きさから熊かとも思ったが、尻尾の長さと耳の形が明らかに狼だった。
(なっ、なっ、なんで⁉︎なんでこんな巨大な狼がうちの中で寝てるの⁉︎)
アイリスは扉に張り付いて、見間違いじゃないかベッドの下をもう一度よく見た。
(い、いる…間違いないわ。な、なんで?ど、どうしよう…猟銃なんてないし…)
狼は踏まれて少し起きたが、また目を閉じて眠っていたのに、大きな叫び声で完全に目を覚ますと、ゆっくり起き上がり、足音を立てることなくアイリスに近寄ってくる。
扉を開ければすぐ外に逃げられるのに、アイリスは足がすくんで動けなかった。
(たっ、食べられるっっ!)
と、アイリスが観念して目をギュッと閉じた時…
スリスリ
(えっ?)
大きな狼は、アイリスの足に猫のようにスリ寄ってきた。
(そっ、そんなことして…けっ、けっきょく足にガブッと噛み付くつもりなんでしょ⁉︎)
アイリスは膝をガクガクと震わせながら、恐る恐る目を開けて狼を見た。
狼は、アイリスの前にちょこんと座り、何もせずじっとアイリスを見つめている。
微動だにしない1人と1匹はしばらく見つめ合っていたが、やがて狼はベッドの方へ歩いて行くと、ベッド下に頭を突っ込み、本を1冊咥えてアイリスの前に持ってきた。
狼は口で器用に本を捲ると、その上に前足を一本乗せて、アイリスを見上げた。
(え?な、なに?まさか、それを見ろってこと⁇)
そんなわけないと思いながらも、攻撃してくる様子もないので、恐々その本を少し離れて覗き見た。ただの辞書が無造作に開かれているだけのように思えてアイリスは首を傾げる。
その様子を見た狼はトントンと、同じ場所を肉球で叩いた。
(⁇な、なに⁇そこを見てほしいの⁇…変な狼ね…)
しかし、そう思いながらもアイリスは素直に狼の前足が置いてある箇所をランプを持ってきてしっかり照らして読んだ。
「えー?何々?ちょっと、その足どけてくれる?読めないじゃない」
いつの間にかその狼が恐くなくなってきたアイリスは、人に話しかけるようにそう言って、前足を軽く持ち上げた。
狼は怒りもせず、足をすっと避ける。
「あら?あなたお利口さんね?ふふっ。そうしてるとかわいいわよ?」
大きいのに座る姿が可愛い銀狼に、まるでペットかのように声をかけたり、前足を持ち上げるアイリスはきっと大物だ。
「…えっと?ここよね?さっき見てほしそうにしてたところって…
……【アクアマリン】アクアマリンは青色のベリル(緑柱石)である。緑柱石のうち透明で青い色調のものの宝石名…
これでいいの?」
アイリスはそう聞きながら狼を振り返ると、狼はワフっと吠えた。しかしアイリスは首を傾げる。
狼はもう一度辞書の同じ箇所をトントンと前足で叩いた。アイリスはやっぱりわけがわからず、腕組みをして顔を顰めてしまった。
クゥーンと悲しそうに鳴いた狼は2本の前足で辞書に乗り、片方は置いたまま、もう片方は見て見てと言うようにトントン叩いた。
アイリスはもう一度覗き込むと、さっき読んだ場所の一部分が前足で蓋をされ、1つの単語だけが見えていた。
「?それを読むの?…アクア?…え?…アクア?」
ワフっ
狼は嬉しそうに小さく吠えた。
「…あっ、あはは?え?えっ⁉︎まさかよ…ね?ちょっ、ちょっと、ちょっとじっとしててね!」
アイリスはまさかとは思ったが、狼の肩のあたりのフサフサの長い毛をそっと掻き分けた。
ドサッ
アイリスは驚いてその場に尻餅をつくと、狼が近づいてきて、心配そうにクゥーンと啼いた。
「……その肩の傷……
あなた…まさか…本当に…アクア…なの?」
狼はもう一度小さくワフっと言いながら、アイリスの足に頭を擦り付けた…
アイリスはベッドの中で目を覚ました。窓の外を見ると外はすっかり暗くなっていた。
じんわりとさっきまでの記憶がよみがえってきて、自分が泣き疲れてそのまま寝てしまったのだと思い出す。
たぶん夕方くらいから寝始めてしまったから、朝まで眠れず、夜中に目が覚めてしまったのだろう。
しかし、そこでハッとなった。
(あれ⁉︎アクアはどこ⁉︎)
ベッドにはアクアが休んでいたはずなのに、代わりにアイリスが寝ていて、アクアはどこにもいない。
(…記憶思い出して帰っちゃったのかしら…?でもあんな大変な怪我をしてるのに、こんな暗い森を抜けて帰るなんて…)
アイリスは慌ててベッドから降りようとした。
ムギュッ
「きゃっ‼︎なっ、なに⁉︎」
何か踏みつけた感触があり、ランプに火を灯して部屋の中を照らした。
「…キ、キャーーーッッッ!!」
アイリスは叫びながら一目散に玄関扉まで逃げ出した。アイリスが踏んだのは…銀色の大きな狼だった…
しかもその大きさはアイリスの3倍はあるように思われた!一瞬大きさから熊かとも思ったが、尻尾の長さと耳の形が明らかに狼だった。
(なっ、なっ、なんで⁉︎なんでこんな巨大な狼がうちの中で寝てるの⁉︎)
アイリスは扉に張り付いて、見間違いじゃないかベッドの下をもう一度よく見た。
(い、いる…間違いないわ。な、なんで?ど、どうしよう…猟銃なんてないし…)
狼は踏まれて少し起きたが、また目を閉じて眠っていたのに、大きな叫び声で完全に目を覚ますと、ゆっくり起き上がり、足音を立てることなくアイリスに近寄ってくる。
扉を開ければすぐ外に逃げられるのに、アイリスは足がすくんで動けなかった。
(たっ、食べられるっっ!)
と、アイリスが観念して目をギュッと閉じた時…
スリスリ
(えっ?)
大きな狼は、アイリスの足に猫のようにスリ寄ってきた。
(そっ、そんなことして…けっ、けっきょく足にガブッと噛み付くつもりなんでしょ⁉︎)
アイリスは膝をガクガクと震わせながら、恐る恐る目を開けて狼を見た。
狼は、アイリスの前にちょこんと座り、何もせずじっとアイリスを見つめている。
微動だにしない1人と1匹はしばらく見つめ合っていたが、やがて狼はベッドの方へ歩いて行くと、ベッド下に頭を突っ込み、本を1冊咥えてアイリスの前に持ってきた。
狼は口で器用に本を捲ると、その上に前足を一本乗せて、アイリスを見上げた。
(え?な、なに?まさか、それを見ろってこと⁇)
そんなわけないと思いながらも、攻撃してくる様子もないので、恐々その本を少し離れて覗き見た。ただの辞書が無造作に開かれているだけのように思えてアイリスは首を傾げる。
その様子を見た狼はトントンと、同じ場所を肉球で叩いた。
(⁇な、なに⁇そこを見てほしいの⁇…変な狼ね…)
しかし、そう思いながらもアイリスは素直に狼の前足が置いてある箇所をランプを持ってきてしっかり照らして読んだ。
「えー?何々?ちょっと、その足どけてくれる?読めないじゃない」
いつの間にかその狼が恐くなくなってきたアイリスは、人に話しかけるようにそう言って、前足を軽く持ち上げた。
狼は怒りもせず、足をすっと避ける。
「あら?あなたお利口さんね?ふふっ。そうしてるとかわいいわよ?」
大きいのに座る姿が可愛い銀狼に、まるでペットかのように声をかけたり、前足を持ち上げるアイリスはきっと大物だ。
「…えっと?ここよね?さっき見てほしそうにしてたところって…
……【アクアマリン】アクアマリンは青色のベリル(緑柱石)である。緑柱石のうち透明で青い色調のものの宝石名…
これでいいの?」
アイリスはそう聞きながら狼を振り返ると、狼はワフっと吠えた。しかしアイリスは首を傾げる。
狼はもう一度辞書の同じ箇所をトントンと前足で叩いた。アイリスはやっぱりわけがわからず、腕組みをして顔を顰めてしまった。
クゥーンと悲しそうに鳴いた狼は2本の前足で辞書に乗り、片方は置いたまま、もう片方は見て見てと言うようにトントン叩いた。
アイリスはもう一度覗き込むと、さっき読んだ場所の一部分が前足で蓋をされ、1つの単語だけが見えていた。
「?それを読むの?…アクア?…え?…アクア?」
ワフっ
狼は嬉しそうに小さく吠えた。
「…あっ、あはは?え?えっ⁉︎まさかよ…ね?ちょっ、ちょっと、ちょっとじっとしててね!」
アイリスはまさかとは思ったが、狼の肩のあたりのフサフサの長い毛をそっと掻き分けた。
ドサッ
アイリスは驚いてその場に尻餅をつくと、狼が近づいてきて、心配そうにクゥーンと啼いた。
「……その肩の傷……
あなた…まさか…本当に…アクア…なの?」
狼はもう一度小さくワフっと言いながら、アイリスの足に頭を擦り付けた…
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