【完結】政略結婚はお断り致します!

かまり

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16話 アクアの記憶2 白い世界

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 カイルが突然立たされたその空間は、見渡す限り真っ白で、馬も敵の兵士も味方の兵士も誰一人いない。それどころか、戦っていた平原の緑さえもなく、手にしていた剣もどこにもなかった…

 何一つない白の世界…

「ど、どこだ…ここは…まさか、死の世界?…僕はやられたのか?」

 カイルがそう呟いた時、目の前にすうっと大きな美しい銀色の狼が現れた。

「うわっ⁉︎な、なんだ⁉︎」

 驚いて、カイルは後ろへ飛び退いた。

(こわがらないで…何もしないから)

 頭の中に若そうな女性の声が響いた。美しく銀色に光る狼は四つ足で立ったまま、ずっとカイルを見つめている。

「ま、まさか、この狼が話しかけてるのか…?」

(そうよ…狼って言わないで?

私はこの世界の精霊、フーラ。私、ずっとあなたを見ていたの…

とてもキレイな人だと思って。精霊は心のキレイな人が大好きなの。だからあなたのことが大好きで見ていたの)

「……」

(不思議そうな顔してる…その顔も素敵よ?

ねえ、私あなたに泣いてほしくないの。
ずっと泣いてたでしょ?

見ていられなくなって、ここへ呼んじゃった)

「…戻してくれ。僕はまだ戦わないといけないんだ」

(いやよ。だってあなたまた泣いちゃうでしょう?ここに居れば大丈夫よ?

誰かを傷つけることも傷つけられることもない。
きっとあなたの望む世界よ?)

「…僕が良くても、放ったらかしたあとのみんなはどうなる?僕は王太子なんだ。国を背負う身として1人逃げ出すわけにはいかない」

(戦いたい人たちは勝手に戦えばいいんじゃない?あなたのようにキレイな人は見当たらないわよ?)

「…それでも!みんな大切な人や大切に思ってくれる人がいるんだ!生きて帰れるように、せめて味方だけでも守ってやりたい…頼む、戻してくれ!」

(…そうねえ。じゃあこの戦争、終わらせてあげましょうか?そうすれば敵も味方もみんな無事に帰れるわよ?)

「できるのかっ⁉︎」

(ええ。あなたが望むなら、手を貸してあげなくもないけど…ただし、私の条件をのんでくれたら、ね?)

「どんな条件だ⁉︎」

(私の番になってほしいわ)

「つがい?どういうことだ?」

(あなたも精霊になって、人間でいうところの伴侶のようになって、ずーっと私と一緒にいるということよ?)

「精霊?…僕が?…なれるのか?」

(ええ、なれるわ。私が力を与えればね)

「…それでこの戦争を…本当に終わらせてくれるのか?」

(精霊は嘘をついたりしないわ。人間とは違うのよ?)

「…そうか。しかし、僕には結婚の約束をしている子がいるんだ。その子が待っているから…何か違う条件にはしてもらえないだろうか?」

(…あなたはその子が好きなの?その子もあなたを好きなの?)

「…それは…好きというか、妹みたいなもの…かな。大事には思っている。しかし、あれからもう何年も経ってしまったから向こうの気持ちまでは…わからない…」

(じゃあ、気にしなくていいんじゃない?)

「…約束は…守りたい」

(そう…まぁ、そういうキレイなところが好きだからいいんだけど…

じゃあこうしましょう?

あなたは私との約束を忘れないように、夜の間だけ精霊になってもらうわ。

でも、もしあなたが、その子と愛し愛される仲になったなら、番にするのは諦めて、精霊の姿からも解放してあげる。

期限は今から3年。

その間に、もしあなたたちが相思相愛にならなければ、あなたは完全な精霊になって私の番になって?)

「…3年か。…もし好きになって貰えずに僕が精霊になってしまっても、相手も次の相手をまだ探せる年齢なはずだ。…まぁ…それならいいだろう」

(契約成立ね?あっ、そうそう、このことは誰にも内緒よ?誰かに言ったらその時点で契約違反としてすぐに精霊になってもらうわ。ふふっ、楽しみね。じゃあ3年後にまた会いましょう)

 そう言ってフーラの姿が消えた。

「あっ!」

 とカイルが小さく叫ぶと、また瞬時に場所が変わり——

 そこは、もう4年も帰れていなかった懐かしい自分の育った場所、ジーニアス国の王宮にある、カイルの執務室だった。

 唖然としたカイルは、しばらく現実なのかわからずに呆っとしてしまっていた。

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