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19話 アクアの記憶5 第二王子の婚約者
しおりを挟む「あっ!まずい!」
久しぶりに執務机の椅子に座ったカイルは小さく叫んだ。社交パーティーのことを考えて、今更夜になると精霊姿になってしまうということを思い出してしまったのだ。
しかし、慌てて案内を見ると、ほっとした。そのパーティーは日中に行われるガーデンパーティーだった。
「ふぅ…どんな風に変わるのか知らないが、気をつけないといけないな」
そう呟きながらも、ひとまず今回は弟の婚約者にも挨拶できそうだと安心した。
ザワザワ——ザワザワ——
「いやぁ、カイル殿下の戦争でのご活躍ぶりはすごかったらしいですなぁ。
次々と敵を薙ぎ倒していく姿はまるで軍神のようだったとみんな騒いでいますよ。
本当にこんな頼もしい方が未来の王だとは、この国もまだまだ安泰ですなぁ」
「いえ、とんでもございません。
私など、ただ無我夢中にその場をやり過ごしていただけに過ぎませんから。
一緒に戦ってくれた多くの兵のおかげで、今こうして平和が保たれているのです」
「ご謙遜などいりませんよ。本当に殿下は素晴らしい。この国を頼みましたよ」
「はい、精一杯努めて参ります、では」
弟に誘われたガーデンパーティーで、国の重鎮たちに挨拶まわりをしていたカイルは、そろそろ社交辞令の投げつけ合いにうんざりしていた。
戦争にはない腹の探り合いを久しぶりに痛感したカイルは、胃の痛くなる思いだった。
「兄上!」
声のする方を見ると、マクロスが誰かを連れてカイルのところへ向かってこようとしていた。
(あれが婚約者か?)
肩辺りまで伸ばした薄いピンク色の髪をふわりふわりと揺らしながら、近づいてくる。
「兄上、お疲れのところ申し訳ありませんが、僕の婚約者を紹介させてください」
「ああ、待ってたよ」
カイルは本当に嬉しそうに微笑んだ。その笑顔を見てマクロスは安心すると、自分の隣に立つ女性の紹介を始めた。
「こちらがこの前話していた婚約者のドルマン侯爵令嬢マリーサです」
「マリーサです。カイル殿下、どうぞ宜しくお願い致しますわ」
そう言ってマリーサは可愛らしくカーテシーをして見せた。
丸顔で幼く見える顔には、大きな青い瞳がくるくるとよく動いて、男なら誰でも好きになってしまいそうな可愛らしい子だった。
「ああ、宜しく頼む。
それから、弟と仲良くしてやってほしい」
「ええ、もちろんですわ」
そう言って、マリーサは可愛らしく微笑んだ。
「じゃ、そういうことだから、兄上」
そう言ってそそくさとマリーサを連れて行ってしまった。
マリーサはカイルの顔をきちんと見る間もなかったので驚いたが、マクロスはマリーサの笑顔を誰にも見せたくなくて、それに美しい兄を見せるのは危険だと思い、素早くその場を立ち去った。
それがカイルには見え見えで、可笑しくなって笑ってしまった。
「あははっ、なんだ、あれ?マクロスってあんなに嫉妬深かったんだな。可愛いとこあるじゃないか」
そう言いながら、久しぶりに再会できた可愛い弟のことを微笑ましく思って、後ろ姿を眺めていた。
大好きな相手と結婚できるのであろうマクロスに、幸せになってほしいとカイルは心から願った。
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