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33話 銀色の髪
しおりを挟む「きゃあっ!」
「……?…っぐっ、ぢょっど…アイリス…ぐびが!…」
「あっ、…ごっ、ごめんなさい、すぐに外すわ」
突然のアイリスの叫び声にカイルは目を覚ましたが、首に巻き付けられた包帯をそのままにアイリスが遠ざかろうとしたので、思い切り首が絞まってしまった。
アイリスは自分の手首に巻いた包帯を急いで外し、後ろを向く。
「ア、アクア!あなた裸よ⁉︎早く服を着てくれない⁉︎」
「あっ…」
そう言われて自分を見ると、下半身は毛布を被っていたが、上半身は裸のままだった。
「ごっ、ごめん、ごめん、いつも僕の方が起きるのが早いから大丈夫だったんだけど…すぐに着るよ」
カイルは慌てて服に袖を通した。
「…お待たせ。もう大丈夫だよ」
それを聞いて振り向いたアイリスに、カイルは
「昨日は心配かけてごめんね」
と言って申し訳なさそうに微笑んだ。
「…説明してくれるの?」
「……」
「…記憶が戻って帰りたくなったのかと思ったわ…」
「……」
「…言い辛いことなら無理には聞かないけど、ここに居てくれるのか出て行ってしまうのか、…それだけは教えてほしいの。
…もしかしたら、私も出て行かないといけないかもしれないから…」
「どういうことだ⁉︎」
最後の言葉に驚いたカイルは、思わず声を荒らげた。
「……昨日あなたに見せたバッヂあったでしょ?
ほら、川で拾った金色の…」
「あ、ああ」
「あれ…多分カイル殿下の物なのよ…もうこの場所がバレてるかもしれないの…」
カイルは目を丸くして驚いた。
「あれが僕の物だって知ってたのか⁉︎…あっ」
慌てて口に手を当て誤魔化した…がもう遅く、しっかり聞こえたアイリスは怪訝な顔をしていた。
「…?僕のモノ?…え?…え⁇…まさ…か…」
「……」
汗を額に伝わせながら目を泳がせて黙っているカイルをよそに、アイリスは探偵かのように腕を組み、ジーッとカイルを見て思案する。
「…そういえば小さい頃遊んでたあのカイル殿下の髪の色…アクアと同じ銀色だったような…
…顔立ちの美しさも同じ…
…え?…え⁉︎…う、嘘でしょ…?アクアが?ア、アクアがまさかカイル殿下⁉︎」
カイルはもうアイリスには敵わない気がして、観念すると小さく頷いた。それを見てアイリスは口に手を当て真っ青になる。
「…びっくりさせてごめん。…でも君を騙してたわけじゃない。…記憶を無くしていたのは本当なんだ。それだけは信じて欲しい。
昨日あのバッヂを見たのがきっかけになって記憶が戻ったんだ。
それでちょっと王宮の様子を見てきたんだよ」
「ちょ、ちょっと待って…
じゃあアクアの記憶は?カイル殿下に戻ったら遊び人に戻っちゃうの⁉︎」
アイリスは悲しい顔で本人を前に失礼なことを言った。
「アクアの記憶は全部残ってるよ。本質的にはカイルもアクアも同じで性格も変わらない。
…それに遊び人というのは誤解なんだ。
ただの噂なんだよ。
それを放って置いた僕も悪いんだけどね…
ほら、夜は狼の姿になってしまうだろ?
見られたらまずいから、毎晩王宮の外に出て隠れていただけなんだ。
ただ、君が僕を嫌ってる原因の、戦争でたくさん人を殺めたということは…本当だけどね…
…アイリスは…やっぱり僕が嫌い?人を殺した人間は許せない?」
カイルは懇願するような目で聞いた。
…嫌いと言って欲しくなかった。
「…そんな…突然言われても…わからない…
アクアのことは…毎日楽しくて…居なくなって、とても大事だったってわかったけど…
…カイル殿下のことは何も知らないから…」
アイリスは困った顔をして、自信無さげに小さく口籠もる。
「…僕は僕なんだけどな……
まぁ、とにかくカイルだとわかってしまったならもうここにはいられそうにないね…」
カイルは寂しそうにそう言ったが、しかし悩んでいるアイリスにこれ以上気を遣わせたくなくて笑って見せた。
「えっ?出て行っちゃうの⁇」
アイリスはさっき悩んでいたのはすっかり忘れたかのように、焦って言った。
「そりゃあ、僕はもうカイルだからね…」
カイルは諦めたように微笑んでそう言った。
「そっか…
第一王子が居なくなったら王宮は大騒ぎでしょうからね…」
アイリスは、カイルが自分を気遣ってそう言ったとは気付かず、王宮から王子が居なくなっているという事態を心配した。
「……いや、それはちょっと事情があって、王宮のことはまぁ、大丈夫なんだけど…
君が嫌いなカイルとはもう一緒に居たくないんじゃないかと思って…
ああ、そうだ…君との婚約も、多分なくなるかもしれないし…安心して?
きっともう家に戻っても大丈夫だよ?」
「…?どういうこと?」
「……」
そう聞かれて、ふとカイルは思った。
アイリスは家に戻れば王宮で起きている事態を知ることになる。
その時に、あのマリーサの腹の子が自分の子だと聞かされるだろう。だから処刑を恐れて逃げているのだと。
いずれ精霊になってしまうのだとしても、その噂をアイリスに信じられてしまうことだけはどうしても嫌だった。
あの幼い日にした結婚の約束を、カイルはずっと心に持っていたし、そもそもいずれ婚約者になると決まっている相手がいるのに裏切るはずもない。
自分がアイリスと幸せになれなかったとしても、自分の思いを踏みにじられることだけは耐えられなかった。
だから、もうここまで来たらと、全部話すことにした。精霊の話以外は…
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