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34話 道を照らす光
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カイルはついに王宮で起きたことをアイリスに打ち明けた。
アイリスは最後まで黙って聞いていたが、聞き終わる頃には頬に涙が伝っていた。
これまでアクアと過ごしてきて、アクアの性格はよく分かっている。その性格がカイルと同じだと言うなら、この話は全て真実であるとアイリスは信じることができた。
目の前の優しい人が悪意ある人間によって追い詰められているのだと知ると、どうしようもなく悲しくなり、痛みの涙は堪えられても、人のためを思う涙は止められなかった。
「……ひどい…この少しの間にそんなことになっていただなんて…
殿下、私…本当にごめんなさい…
そうとは知らずにこんなに勝手な真似を…」
アイリスは噂話に振り回されて、カイルの本当の姿を知ろうともせず、一人世の中の無情な束縛から逃げ出して自由を掴んだつもりになっていたことを心から恥じた。
「いや、いいんだ。寧ろここに居てくれてよかったよ。もし婚約者として僕の近くにいれば、君までマリーサに何かされていたかもしれない」
カイルは慰めるために言ったとはいえ、本当にそうだったかもしれないと思うと、背筋が凍るような気がした。
しかし、それを聞いて、アイリスの表情にみるみる怒りが込められていく。
「そんな危ない人が王妃になろうとしてるだなんて…絶対ダメよ!国が潰されてしまうわ!
それにマクロス様だって、いつ裏切られるかわかったもんじゃないわよ!」
「お、落ち着いて、アイリス?」
憤慨し始めたアイリスを慌てて諌めようとするが、アイリスは冷静になろうとしているカイルにまで腹が立ってきた。
「これが落ち着いていられますか⁉︎
もうすぐ本当にマリーサさんが王妃になってしまうというのに、ぐずぐずしている場合じゃないですよ⁉︎」
怒った顔で覗き込まれたカイルは、少し後退って、困った顔をした。
「…でも、マリーサの罪を暴いて僕が戻れば、君が王妃になることになるんだよ?…いいの?」
カイルは自信無さげに小さな声で聞いた。いい、と言って欲しかった…
しかし王妃と聞いたアイリスは目を泳がせ、「…それは…わかりませんが…」と濁しながら、
「とにかく!マリーサさんだけは王妃にしてはいけない!そうじゃありませんか⁇」
と、またカイルに怒って詰め寄った。
「…ははっ、…本当に君はすごいね」
目を丸くしながらカイルは言った。
「…僕みたいにごちゃごちゃ考えずにはっきり自分の意見を持っていて、ほんと尊敬するよ」
「なんですか、それ?馬鹿にしてます?」
腰に手を当てて、アイリスは怒った顔をして見せる。
「いいや、本気だよ?……僕はだめだ。あれこれ考え過ぎて何も答えを出せなかった。
でも、…そうだね。アイリス、君の言う通りだ。
たしかに、マリーサにこの国を預けるわけにはいかない。
僕が4年もの戦いで必死に守ったこの国を、あんな女に奪われてたまるか…!」
カイルは覚悟を決めると、しっかりとした敵意をマリーサに持ったことを自覚し、目に炎が宿った。
「そうよ!その意気よ!アクア!あっ、違ったカイル殿下!」
アイリスは胸の前で両手に拳を作り、カイルを応援した。
「ふふっ、どっちでも呼びやすい方でいいよ、殿下もなくていい。カイルって呼んでくれたら嬉しいな」
カイルは自分の赴くべき道がはっきりし、その道に明かりを照してくれたのが目の前の大好きな女の子なんだと思うと、自然と顔が綻んだ。
「じゃあカイル?」
「ん?」
カイルは本当の名前を呼ばれたのが嬉しくて、満面の笑みで返事をした。…が
「狼に変わるのはなんでなの?」
「えっと……そ、それはまだ思い出せないみたいなんだ。ほんとに…なんでなんだろうな?ははっ」
痛いところを突かれ焦ったカイルは頭を掻きながら目を泳がせた。
「…ふーん?…まぁ、狼さん可愛いからそのままでもいいんだけどね?
ふふっ、早く触りたい!背中に乗せてくれたのよ?カイルは忘れてるんでしょうけど?
とってもふわふわで気持ちいいし、早くて楽しかったー。またやって欲しいな。あっ、今言っても覚えてないのかぁ、残念」
「あ、ははは。狼になったら乗りたい時に勝手に乗ってくれればいいよ。きっと怒ったりしないと思うから…ね?ははは」
カイルは全部記憶は繋がってるとは言えず、空笑いで誤魔化した。
「いいの?ふふっ、じゃあまた乗せて貰っちゃお」
と、何も知らないアイリスはニコニコして喜んだ。
アイリスは最後まで黙って聞いていたが、聞き終わる頃には頬に涙が伝っていた。
これまでアクアと過ごしてきて、アクアの性格はよく分かっている。その性格がカイルと同じだと言うなら、この話は全て真実であるとアイリスは信じることができた。
目の前の優しい人が悪意ある人間によって追い詰められているのだと知ると、どうしようもなく悲しくなり、痛みの涙は堪えられても、人のためを思う涙は止められなかった。
「……ひどい…この少しの間にそんなことになっていただなんて…
殿下、私…本当にごめんなさい…
そうとは知らずにこんなに勝手な真似を…」
アイリスは噂話に振り回されて、カイルの本当の姿を知ろうともせず、一人世の中の無情な束縛から逃げ出して自由を掴んだつもりになっていたことを心から恥じた。
「いや、いいんだ。寧ろここに居てくれてよかったよ。もし婚約者として僕の近くにいれば、君までマリーサに何かされていたかもしれない」
カイルは慰めるために言ったとはいえ、本当にそうだったかもしれないと思うと、背筋が凍るような気がした。
しかし、それを聞いて、アイリスの表情にみるみる怒りが込められていく。
「そんな危ない人が王妃になろうとしてるだなんて…絶対ダメよ!国が潰されてしまうわ!
それにマクロス様だって、いつ裏切られるかわかったもんじゃないわよ!」
「お、落ち着いて、アイリス?」
憤慨し始めたアイリスを慌てて諌めようとするが、アイリスは冷静になろうとしているカイルにまで腹が立ってきた。
「これが落ち着いていられますか⁉︎
もうすぐ本当にマリーサさんが王妃になってしまうというのに、ぐずぐずしている場合じゃないですよ⁉︎」
怒った顔で覗き込まれたカイルは、少し後退って、困った顔をした。
「…でも、マリーサの罪を暴いて僕が戻れば、君が王妃になることになるんだよ?…いいの?」
カイルは自信無さげに小さな声で聞いた。いい、と言って欲しかった…
しかし王妃と聞いたアイリスは目を泳がせ、「…それは…わかりませんが…」と濁しながら、
「とにかく!マリーサさんだけは王妃にしてはいけない!そうじゃありませんか⁇」
と、またカイルに怒って詰め寄った。
「…ははっ、…本当に君はすごいね」
目を丸くしながらカイルは言った。
「…僕みたいにごちゃごちゃ考えずにはっきり自分の意見を持っていて、ほんと尊敬するよ」
「なんですか、それ?馬鹿にしてます?」
腰に手を当てて、アイリスは怒った顔をして見せる。
「いいや、本気だよ?……僕はだめだ。あれこれ考え過ぎて何も答えを出せなかった。
でも、…そうだね。アイリス、君の言う通りだ。
たしかに、マリーサにこの国を預けるわけにはいかない。
僕が4年もの戦いで必死に守ったこの国を、あんな女に奪われてたまるか…!」
カイルは覚悟を決めると、しっかりとした敵意をマリーサに持ったことを自覚し、目に炎が宿った。
「そうよ!その意気よ!アクア!あっ、違ったカイル殿下!」
アイリスは胸の前で両手に拳を作り、カイルを応援した。
「ふふっ、どっちでも呼びやすい方でいいよ、殿下もなくていい。カイルって呼んでくれたら嬉しいな」
カイルは自分の赴くべき道がはっきりし、その道に明かりを照してくれたのが目の前の大好きな女の子なんだと思うと、自然と顔が綻んだ。
「じゃあカイル?」
「ん?」
カイルは本当の名前を呼ばれたのが嬉しくて、満面の笑みで返事をした。…が
「狼に変わるのはなんでなの?」
「えっと……そ、それはまだ思い出せないみたいなんだ。ほんとに…なんでなんだろうな?ははっ」
痛いところを突かれ焦ったカイルは頭を掻きながら目を泳がせた。
「…ふーん?…まぁ、狼さん可愛いからそのままでもいいんだけどね?
ふふっ、早く触りたい!背中に乗せてくれたのよ?カイルは忘れてるんでしょうけど?
とってもふわふわで気持ちいいし、早くて楽しかったー。またやって欲しいな。あっ、今言っても覚えてないのかぁ、残念」
「あ、ははは。狼になったら乗りたい時に勝手に乗ってくれればいいよ。きっと怒ったりしないと思うから…ね?ははは」
カイルは全部記憶は繋がってるとは言えず、空笑いで誤魔化した。
「いいの?ふふっ、じゃあまた乗せて貰っちゃお」
と、何も知らないアイリスはニコニコして喜んだ。
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