59 / 59
最終話 それぞれの幸せ
しおりを挟む
「ねぇ、叔父上?明日晴れたら釣りに行きたいな?教えてくれる?」
「ああ、いいとも。何匹釣れるか競争しよう」
「えー、絶対負けるに決まってるよー」
「そんなのやってみないとわからないだろう?」
「…お姉様には勝ちたいな」
「よし!じゃあ頑張らないと!お姉様はいっぱい釣って帰ったぞ?」
「え?そうなの?えー、負けたくない!」
「はははっ、じゃあ早く寝て明日に備えよう。今日は何の本を読もうか?」
「えーとね……えっ…と…」
小さな男の子は沢山の絵本の前で選んでいるうちに眠ってしまった。
マクロスはその男の子を大切そうに抱えてベッドに運ぶ。
カイルとアイリスが初めての懐妊報告に来てから10年。
2人はニ男三女に恵まれ、入れ替わり立ち替わり子どもたちがフーラに乗せられてマクロスのところへ来ては、1週間ほど泊まって行く。
山暮らしを小さい頃からさせて精神力を鍛えてほしいなどと言われ、マクロスは体よく子守りを押し付けられている毎日だった。
しかし、マクロスはおかげで毎日賑やかな生活を送り、子どもたちも自然を知って延び延びと育っていた。
いずれその子どもたち5人のうちの誰かがジルコニア公爵家を継ぐことにしてくれるらしい。
(兄上、義姉上、本当にありがとう。僕は幸せだよ)
すやすや眠る子供の顔を見つめるマクロスの顔は本当の父親のように優しい顔をしていた。
「ねぇ、カイル?起きてる?」
「…ん?起きてるよ?アイリス眠ってなかった?」
カイルは眠そうにしながら、隣で横になっているアイリスにそう聞いた。
「変な夢見て起きちゃった」
「え?どんな?」
「木から落ちる夢」
「それは怖かったね」
そう言って、アイリスを優しく抱きしめた。
「それがね?小さなあなたが助けてくれるの。でも私怪我しちゃって、あなたがおぶってくれて、すごくかっこよくて大好きって思って、絶対結婚するーって叫んでるのよ?おかしいでしょ?もう結婚してるのにね?ふふふっ」
と、アイリスがおかしそうに笑った。
カイルは目を瞠る。
「その夢の中の怪我って左腕?」
「え?どっちかまでは覚えてないけど、ええ、腕だったわ?どうしてわかったの?」
カイルはアイリスの手を取って、袖を捲ると左腕の上の方を指差した。
「…⁉︎え?これって、…傷痕?」
「…その夢は僕と君が小さい頃体験した本当のことなんだよ。夢に記憶が出てきたんだね。
あの時は君を守りきれなくてごめん。傷なんか作ってしまって…」
「…この傷のおかげで、あなたはお嫁さんにしてくれるって言ってたわ。だから私は傷ができてよかったって思ったの。…それから結婚の約束をして…
これも本当のこと?」
「そうだよ?僕が10歳で君が6歳の時の事だから忘れて当然なのに、僕は間抜けにも真に受けてしまって…ほんとに馬鹿な男だろ?」
「カイル!」
アイリスはカイルに抱きついた。
「私ったらそんなことも忘れてあなたから逃げてたなんて、信じられない!ごめんね、本当にごめんなさい」
「いいんだよ。僕も記憶喪失になって、2人はあの出会いで良かったんだ。令嬢でも王子でもなく、ただの人間として愛し合えたんだから。君に出会えて本当によかった。…大好きだよ、アイリス」
2人はあの頃の狼と少女のように、寄り添って幸せな眠りについた。
fin
「ああ、いいとも。何匹釣れるか競争しよう」
「えー、絶対負けるに決まってるよー」
「そんなのやってみないとわからないだろう?」
「…お姉様には勝ちたいな」
「よし!じゃあ頑張らないと!お姉様はいっぱい釣って帰ったぞ?」
「え?そうなの?えー、負けたくない!」
「はははっ、じゃあ早く寝て明日に備えよう。今日は何の本を読もうか?」
「えーとね……えっ…と…」
小さな男の子は沢山の絵本の前で選んでいるうちに眠ってしまった。
マクロスはその男の子を大切そうに抱えてベッドに運ぶ。
カイルとアイリスが初めての懐妊報告に来てから10年。
2人はニ男三女に恵まれ、入れ替わり立ち替わり子どもたちがフーラに乗せられてマクロスのところへ来ては、1週間ほど泊まって行く。
山暮らしを小さい頃からさせて精神力を鍛えてほしいなどと言われ、マクロスは体よく子守りを押し付けられている毎日だった。
しかし、マクロスはおかげで毎日賑やかな生活を送り、子どもたちも自然を知って延び延びと育っていた。
いずれその子どもたち5人のうちの誰かがジルコニア公爵家を継ぐことにしてくれるらしい。
(兄上、義姉上、本当にありがとう。僕は幸せだよ)
すやすや眠る子供の顔を見つめるマクロスの顔は本当の父親のように優しい顔をしていた。
「ねぇ、カイル?起きてる?」
「…ん?起きてるよ?アイリス眠ってなかった?」
カイルは眠そうにしながら、隣で横になっているアイリスにそう聞いた。
「変な夢見て起きちゃった」
「え?どんな?」
「木から落ちる夢」
「それは怖かったね」
そう言って、アイリスを優しく抱きしめた。
「それがね?小さなあなたが助けてくれるの。でも私怪我しちゃって、あなたがおぶってくれて、すごくかっこよくて大好きって思って、絶対結婚するーって叫んでるのよ?おかしいでしょ?もう結婚してるのにね?ふふふっ」
と、アイリスがおかしそうに笑った。
カイルは目を瞠る。
「その夢の中の怪我って左腕?」
「え?どっちかまでは覚えてないけど、ええ、腕だったわ?どうしてわかったの?」
カイルはアイリスの手を取って、袖を捲ると左腕の上の方を指差した。
「…⁉︎え?これって、…傷痕?」
「…その夢は僕と君が小さい頃体験した本当のことなんだよ。夢に記憶が出てきたんだね。
あの時は君を守りきれなくてごめん。傷なんか作ってしまって…」
「…この傷のおかげで、あなたはお嫁さんにしてくれるって言ってたわ。だから私は傷ができてよかったって思ったの。…それから結婚の約束をして…
これも本当のこと?」
「そうだよ?僕が10歳で君が6歳の時の事だから忘れて当然なのに、僕は間抜けにも真に受けてしまって…ほんとに馬鹿な男だろ?」
「カイル!」
アイリスはカイルに抱きついた。
「私ったらそんなことも忘れてあなたから逃げてたなんて、信じられない!ごめんね、本当にごめんなさい」
「いいんだよ。僕も記憶喪失になって、2人はあの出会いで良かったんだ。令嬢でも王子でもなく、ただの人間として愛し合えたんだから。君に出会えて本当によかった。…大好きだよ、アイリス」
2人はあの頃の狼と少女のように、寄り添って幸せな眠りについた。
fin
23
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(15件)
あなたにおすすめの小説
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
悪役令嬢、記憶をなくして辺境でカフェを開きます〜お忍びで通ってくる元婚約者の王子様、私はあなたのことなど知りません〜
咲月ねむと
恋愛
王子の婚約者だった公爵令嬢セレスティーナは、断罪イベントの最中、興奮のあまり階段から転げ落ち、頭を打ってしまう。目覚めた彼女は、なんと「悪役令嬢として生きてきた数年間」の記憶をすっぽりと失い、動物を愛する心優しくおっとりした本来の性格に戻っていた。
もはや王宮に居場所はないと、自ら婚約破棄を申し出て辺境の領地へ。そこで動物たちに異常に好かれる体質を活かし、もふもふの聖獣たちが集まるカフェを開店し、穏やかな日々を送り始める。
一方、セレスティーナの豹変ぶりが気になって仕方ない元婚約者の王子・アルフレッドは、身分を隠してお忍びでカフェを訪れる。別人になったかのような彼女に戸惑いながらも、次第に本当の彼女に惹かれていくが、セレスティーナは彼のことを全く覚えておらず…?
※これはかなり人を選ぶ作品です。
感想欄にもある通り、私自身も再度読み返してみて、皆様のおっしゃる通りもう少しプロットをしっかりしてればと。
それでも大丈夫って方は、ぜひ。
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない
ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。
公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。
旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。
そんな私は旦那様に感謝しています。
無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。
そんな二人の日常を書いてみました。
お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m
無事完結しました!
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
はじめまして。
とても素晴らしいお話でした👍
特に山小屋での二人の生活はワクワクします
アイリスの父譲りな性格は
好ましく、父である公爵の子供の頃〜若い頃の
お話も読んでみたくなりました
フーラのお話もあるとよいなぁ。
勝手にTwitterにシェアしました
よろしかったでしょうか
他作も拝読したいと思います
GWに心地よいお話に出会えて
幸せです
ありがとうございました
そんな風に思ってくださって本当にありがとうございます‼︎
最近こんなことして何してるんだろう…と落ち込んでたのでf^_^;次作を出すのも迷っていましたが、とっても励みになりました٩(๑❛ᴗ❛๑)۶
Twitterでシェアまでして頂いて、感謝しかありません(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
父やフーラのスピンオフ、確かに面白そうですねΣ(*゚∀゚*)
またいつか書いてみたい(≧∀≦)
小気味良い女主人公は今回が初めてだったので、他作はがっかりさせてしまうかもしれないと心配ですが、もし良ければご一読頂けると幸いです(*^▽^*)
最後までお読みくださり本当にありがとうございました!感謝m(_ _)m感謝
大魔法使い確定:(;゙゚'ω゚'):
最後までお読みくださり本当にありがとうございました(*≧∀≦*)
マリーサ……素直にマクロスの迎えを待っていれば、浮気癖さえ許してくれたのに…(T ^ T)
せっかく処刑を逃れたのになぁ…
でもマクロスはまぁまぁのヤンデレ気質なので、ずっと離れない墓標を眺めているだけで幸せなのです…:(;゙゚'ω゚'):
公爵と子どもたちのおかげで明るく過ごせて、歪みも矯正されそうで本当によかった…
子どもたちを送り込んでいるのは、もちろんカイルとアイリスの配慮というわけなのです(*´꒳`*)
フーラはもう
カイルよりアイリスの虜ですね( ̄▽ ̄)
きっとカイルが魂になってもアイリスから奪うことはないかもです(^_^)v
最後までお読みくださって本当にありがとうございました!沢山感想を頂けて大きな励みになりました╰(*´︶`*)╯♡
心より 感謝m(_ _)m感謝 申し上げます!