私は愛する婚約者に嘘をつく

白雲八鈴

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第8話 戻って来た王都は様子がおかしかった

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「吹雪が止んだ早朝に、山の中腹の洞窟に行ってみましたが、ただの祠でしたね。奥には山神らしいものが祀っているのみで、この地に誘導されたことがフェイクだったようです」

 レオが朝から行動を起こしていると思えば、怪しいと予想していた洞窟に行っていたようですね。
 しかし、これだとどこまでが嘘でどこまでが本当なのかわからなくなってきました。

「食事を終えたらさっさとこの地を去りましょう」

 そうですわね。この地に居座る必要はありません。

「レオ。どこまでが今回のことは本当だと思いますか?」
「難しいところですね。これは本当のことと嘘のことが混じり過ぎて、余計に難解になっていると思うのです」

 本当と嘘が混じっている。まるで私のようですわね。

「ネシスの件は途中までは本当だったとおもうのですが、途中から人として言動がおかしい者たちが現れだしたぐらいから、ズレが生じ始めたのではないのでしょうか?」
「レオ。それは南方の辺境以外全て嘘だったということになります」
「そうでしょうね。どこか行き先を誘導されているような感じがありましたから」

 大規模過ぎます! 私たちがここまでたどり着くまで、どれだけの施設を潰したと思っているのですか! 五十はくだりませんわよ!

「ヴィオラ。食べないのか?」
「え?」

 すぐ近くで声が聞こえて思わず振り返れば、直ぐ側にある黒い瞳と視線が合いました。

「私は味見をしたので、お腹がいっぱいですわ」

 するするっといつも通りの嘘が口から出てきます。

「味見。確かにスープを一口分とパンの端の方を食べていたが、それでお腹いっぱいになるはずないだろう」

 はっ! 今はシオン様が側にいたので、私が何を食べたかバレていましたわ。
 しかし手元にある材料ではシオン様が食べる分しか作れないのも事実です。

 シオン様は二人分ぐらいはペロリと食べてしまわれるので、私とレオの分の一日分の材料を使って作ったのです。

 配分的には次の町にたどり着く日数を考えると、これが今の精一杯なのです。

「兄上。出発する準備をしましょう」
「え? 第四王女さんがまだ寝ているが?」
「疲れているなら、今日一日ぐらい寝かせておいたほうが良いですよね」
「レオ。それもそうか」

 そう言って、兄弟二人は仲良く外に出ていってしまいました。

 え? この状況で私を置いて行くの? ちょっと酷くありませんか。レオ。
 閉じていく扉を睨みつけていると、体ごと向きを変えられてしまいました。

「ヴィオラ」

 シオン様はそう言って私にスプーンで掬ったスープを差し出しています。こ……これは、私が食べていいと?

 口を開けてパクリとスプーンを咥えると、スプーンが抜き取られると同時にスープと具材が口の中に満たされていきます。

 幸せです! ほっぺたと幸せが落ちないように両手で頬を包みます。
 味見をしたときより美味しいです。


 こうして私達は王都への帰路についたのでした。


《二人の兄弟》

「おお! マジで太陽が欠けていくな」

 馬車の周りの雪かきをして、積もった雪を馬車から下ろしているイオが空を見ながら感嘆の声を上げている。

「失明すると言われているので、見ない方がいいですよ。兄上」
「そう言われても、見てしまうよな」

 レオは二体の馬型の騎獣を引きいて、兄の行動を諌めていた。

「レオ。俺は一つ嫌な予感がしているのだが」

 空を見ていたイオが馬車の上からレオを見下ろしている。その表情は陰ってしまった太陽により窺うことはできない。

「まだ、確信がないのなら口にすべきではありませんよ兄上」
「はぁ、そうだな。しかし、今思ったが暗闇になる時間ってそんなに長くないよな。レオが言ったいた事を本当にしようと思ったら、かなり無理があるんじゃないのか?」

 すると、レオは騎獣を馬車につなぎながら何を言っているのだと言わんばかりに盛大なため息を吐き出している。

「それは机上の空論でしかないということです。そんなこと馬鹿でもわかるものですよ」
「いや、姫様は本気で言っていたんだろう?」
「だから姫様は馬鹿で可愛いではないですか」
「はぁ。俺もリカルド様にそう言えるだろうか」

 イオは暗闇と光の間の空を見上げて、そう呟いたのだった。


《ヴィオラSide》

 王都には一ヶ月かけて戻ってきました。春の豊饒祭の前後は何かと賑わう王都ですが、何故か喪に服しているような雰囲気に包まれています。

「ねぇ、何か王都であったって連絡受けている?」

 御者席の窓を開けてレオに聞いてみるも、レオは何も連絡を受けていないようです。

「いいえ、何も?」

 馬車の中から見る王都の雰囲気が、王族の喪に服しているかのような感じです。
 普段であれば、色鮮やかな衣服を身にまとった人々が行き交う大通りも、落ち着いた色の衣服を身に着けているのです。

 これは流石におかしいですわ。

「兄上なら何かご存知だったかもしれませんが、マルディアン聖王国に第四王女を送り届けに行ってしまいましたから」

 はい。翌日、第四王女の毒を解毒すると、最初は夢見心地で目を覚ましたのです。しかし、段々と顔色を青ざめて、国に帰ると騒ぎ出したのです。

 はぁ、そうですわよね。まだ十歳にもなっていないように見えましたので、家族に会いたくなっても仕方がありません。
 私はイオに早急にマルディアン聖王国に連れていくようにお願いしたのです。
 ええ、王太子殿下のグランディールに私は命令をする権限はありませんので。

 マルディアン聖王国は国の東側に隣接しておりますので、東側の主要都市まで同乗し、そこから私達だけ別の馬車を用意して王都まで戻って来たのです。

 ですから、この場にイオはいないのです。

「シオン様は何か聞いていたりしていますか?」

 王都の街の方を見ず、目を瞑って眉間にシワを寄せているシオン様に聞いてみます。

「ふん。どうせ、己の愚策にハマったのだろう?」

 どう解釈していいかわからない言葉が返ってきました。

「国王陛下を訪ねてみればすぐにわかる」
「あの、その言い方だとシオン様は何かご存知なのですか?」

 私の言葉に目を開けたシオン様は、赤い瞳で私を見てきました。
 またですか。

 ここ一ヶ月共に行動していてわかったことは、ほぼシオン様と厄災は混じっていると言っていいということです。

 ただ、赤い瞳でも話す言葉はシオン様だったりするので、聖女様が予言していたとおり、シオン様が優勢に表にでているという感じなのでしょう。

「さて、我が知っていることもあれば、知らぬこともある」

 いいえ、今はヘビのほうでした。

「例えばコーディアール神教国の聖女は魔王の存在を予言した。それはこやつの母も同じことを予言し、我はここに存在している」
「え? 聖女様もシオン様を魔王になると予言をされていたのですか?」

 あ……そう言えば、シオン様の聖女様の言葉の中にそのようなことを言われていましたわね。いいシオン様と悪いシオン様の話です。
 悪いシオン様と例えられたのが魔王のことだったのですか。

「それは隣国を含めて対策が練られるほどだった」
「凄く大事になっています」
「それはそうだろう。二人の聖女がそれを予言したのだ。その言葉には重みがある」

 言われてみればそうですわね。別々の国の聖女が予言したのです。

「そして我の行動を抑える為にそなたが生まれた」

 それはお母様からヘビの行動不能にさせる毒を教えてもらいました。ええ、この前使った『酔生夢死すいせいむし』もその一つです。

「それに目をつけたのがシュテンバルテン帝国の皇帝だ。魔王となるものを自由に扱えるそなたを手に入れれば、近隣国を掌握できると考えたようだな」
「え? 私は別にヘビを自由に扱っていませんわよ」

 するとヘビは赤い目を細めてクツクツと笑い出した。

「で、聖女様の件は昔のことなのでわかりませんが、帝国の件を何故知ることができたのですか? シオン様は学園からほとんど出ていませんわよ」
「シュテンバルテン帝国の者たちがこそこそと話しているのなら、聞き耳ぐらい立てるであろう?」

 あれ? それだとシオン様もその話を知っているということですか?

「帝国の件はシオン様もご存知だと?」
「知っておるぞ? だから、いつもやつらを牽制しておったであろう?」

 牽制? 牽制……? 文句は言っていましたわね。それのことでしょうか?

「だから、いつもそなたの護衛は姿を見せなかった。守るべき主がそこにいるにも関わらず」
「勘弁してくださいよ。私に矛先を向けないでください」

 御者席の方からレオの悲痛な叫び声が聞こえてきます。

「私の役目は姫様の護衛ですが、それは姫様の敵に対してであって、アスティル公爵子息様に敵視されることではありません」

 まぁ、レオは私と同じくほぼ一日中動いていましたので、姿を見せないからといって、私は文句を言うことはありませんと。

「レオはよくやってくれていると思っていますよ」
「私は時々姫様のそういうところで、命の危機感を感じるので側に居ないのですよ」
「はい?」

 褒めたのに、否定されてしまった。何故なのですか?

「ヴィオラ」

 名前を呼ばれてシオン様に視線を向ければ、黒い瞳と視線が合いました。あら? ヘビからシオン様に変わっていますわ。

「はい。どうかされましたか? シオン様」
「……王城についたから、国王陛下の元に向かおうか」

 何か別のことを言おうとされたようですが、馬車が止まったことにより、この状況を確認することを優先したようです。

 シオン様に手を取られて馬車を下りた私はふと足を止めました。

 私、正面から王城に入ったことがありませんわ。
 それもこんな旅に行っていたという薄汚れた姿では、王城に入ることは阻まれてしまうことでしょう。

「どうした?」
「あ、いいえ。私は裏からまいりますわ」

 するとシオン様は私を抱きかかえて、歩き出しました。
 ちょっと待ってください。流石にこれはありえませんわ。

「シオン様。下ろしてください。これはあまりにも……」
「国中の見聞を広めていた第二王女の帰還だ。誰が止めるのだ?」
「はい?」
「ヴィオラレイ第二王女様」

 ……シオン様に言われて、確かに国王陛下のサイン入りで婚姻の許可が出されていたことを思い出しましたが、あまりにも強引過ぎますわ!

 私の中でぐるぐると色んなことが巡っていましたら、いつのまにか国王陛下の執務室の前に来ていました。

 いつもは裏通路を通ってきているので、表から入るのは初めてですわ。

 この状況に何も指摘しない城の衛兵に近衛騎士。

 扉を守っている近衛騎士が、両開きの扉を開いてきたので、中に入っていいということでしょう。

 しかし、なぜ誰一人として視線が合わないのでしょうか?

 国王陛下の執務室に入ると、太陽のように輝く金髪に金眼を持つ壮齢の男性がその部屋の主として、威厳を放ち執務机の席についているのはいつものことです。ですが、ここでは見ない人物がいます。

「レイモンド第二王子……」

 第二側妃様を母親にもつ第二皇子が、国王陛下の執務室にいるではないですか。
 私が声をかけるとビクッと肩を震わせました。顔をこちらに向けていたので私だと認識したはずですのに、視線を合わせないように身体ごと、国王陛下の方に向けてこちらとは視線を合わせない態度です。

「レイモンド。姉に挨拶ぐらいしなさい」

 その言葉を発したあの男に信じられないという視線を向けます。一度たりとも私を娘だという扱いをしなかった男が、レイモンド第二王子に姉だと言ったのです。

「はい。……お……お久しぶりでございます。姉上」

 こちらを向いて私に視線を向けないように挨拶をしてきたのは、王族というにはくすんだ金髪に黄色みかがった金眼の十八歳の青年です。

 そうなのです。王族だからと言っても、世界を照らすような金髪金眼で生まれてくるとは限らないのです。
 この男の子供の中で、王族らしい色合いを受け継いたのは私と王太子と一番下の第五皇子だけです。

「お久しぶりです。レイモンド第二王子殿下。しかしなぜ、国王陛下の執務室にいらっしゃるのでしょうか?」
「わ……私が、王太子を拝命したからです」
「え? リカルド王太子殿下は?」
「チッ! 貴女が殺しておいてよく言いますね」
「私が殺した?」

 私はこの半年間は南方から北側に向かって、誘導されたように敵という者の施設を潰していたのです。
 そんな私がどうやって王太子を殺したというのでしょう?

「ふん! ただ己の策に溺れたヤツが死んだだけだ。それよりも英雄王ヴィルヘルムよ。こやつが次の王か?まだ、小癪な策を使う小僧の方がましだっただろう?」

 英雄王ヴィルヘルム。それがこの男の玉座を飾る異名です。
 厄災ヴァリトラを倒した、この国を治めている偉大なる王の名です。

 そしてなぜ、ヘビがまた出てきているのですか?


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