883 / 894
28章 穢れと鬼
869
しおりを挟む
「アフィーリアの姿が見えないが?」
カイルに腕を取られて、食べさせている風になっているシェリーに、炎王が尋ねた。
「りんご飴とやらを買いに行くと言っていましたね」
シェリーは死んだ魚の目をしたまま、答える。
確かに、茶屋で団子を食べているのは、シェリーとヴィーネだけだった。この場にはアフィーリアはいない。
「りんご飴ってそこに売っているのだが?」
炎王が指し示したほうには、赤い大玉の果実に赤い飴でコーティングされたものが串刺しされ屋台に並べられていた。
「そうですね。中が紫のベレアの実を採用した理由を聞きたいところですね」
遠目から見るとりんご飴と思えるが、果実は全く別の物のようだ。
「違うだろう!買いに行くと言った店に何故いない!」
「別に親が連れ歩く歳でもないのですから、お好きなように祭りを楽しめばいいのではないのですか?」
アフィーリアはシェリーと同じ歳だ。
周りが口を出す歳ではない。
炎王が過保護過ぎるのではと、シェリーはため息を吐いた。
「ただ、物をもらうには金銭が必要だという認識がないようで、りんご飴の分は建て替えておきました」
「それをわかっていて、放置しないで欲しい。佐々木さん。あと小遣いは持たせているはずだ」
どうやらアフィーリアには常識が欠けているようだ。
いや、それがアフィーリアにとって当たり前だったのだ。
数ヶ月前まで、王太子の姫君として扱われていたのだ。
街に出てこれが欲しいと言えば手に入る立場、お付の者が金銭を払っているという感覚がなかったのだろう。
「炎王。私は言いましたよ。ルーちゃんに会いたいのであれば、市井で暮らせるようにしてくださいと。このままでは、絶対に許しません」
「小姑。怖い。これが嫁いびり」
両手に三色団子を持っているヴィーネがボソリとつぶやく。その言葉にシェリーがピクリと反応した。
「私のルーちゃんに、迷惑をかける嫁は必要ありません!」
シェリーのルークへの愛情に一切の揺らぎはなく、それがルークの番だったとしても容赦はなかった。
「てめぇ!何故に勝手に終わらせているんだ!」
そこに怒りを顕にしたイゾラが瓦礫を破壊しながらやってきた。
どうやら、シェリーに呼ばれていなくなったカイルを、今まで警戒していたようだ。
「イゾラ。街の中で暴れるなと言ったよな」
「イゾラさん。アフィーリアが迷子になって、逃げ惑っているようなので、連れてきてくれませんか?」
炎王がイゾラに注意する言葉にかぶさるようにシェリーが、アフィーリアを連れてくるように頼む。
炎王は、何をイゾラに言っているのかと疑問の視線をシェリーに向けた。
「佐々木さん。イゾラに……」
「あ?あの生意気なクソガキか?仕方がねぇな」
すると、イゾラは意外にも文句を言うことなく、シェリーが指し示した方向に消えていく。
そのイゾラの行動にも炎王は驚きを顕にしていた。
あのイゾラが。という表情を浮かべてだ。
「イゾラさんも迷子なのですよ」
「佐々木さん。何を言っている。それにこれ以上街を壊されても困るんだ」
炎王はシェリーの言っている言葉が理解できなかった。迷子なのはアフィーリアの方だと。
「イゾラさんは、この地を守護していた鬼王です。でも、この様変わりした風景をみて、虚無感に襲われたのでしょうね」
イゾラ自身は、魔導王とエルフの王の戦いの余波に例えたが、シェリーはそれを虚無感と受け取ったらしい。
いや、南側にある山々がもし一瞬にして消し飛んだのであれば、それは己の力の範疇に収まることではないと感じとったという意味だろう。
そして炎王が作り上げたこの風景が、それと同じだとイゾラが言ったのだ。
「今まで守ってきたものは何も残っていないと」
「何を言っている。俺はこの島の人々に暮らしやすいようにしていっただけだ。何も壊してはいない」
「鬼王イゾラが君臨した島の面影は?」
シェリーにそう問われた炎王は、空を見上げ大きくため息を吐いた。
「ない」
ただ一言だけ炎王はつぶやく。
「この世界の人々は不変を好むところがありますよね」
「ああ」
「変わらないものがあるというのが、落ち着くところがあるのかもしれませんね」
「ああ」
「なので、いっそうのこと島の外に出てみては如何ですかと言ってみました」
「は?」
先程まで神妙な面持ちだった炎王が、聞き捨てならない言葉が聞こえたと自分の耳を疑った。
「島の外?」
「はい。世界には強い人はたくさんいますからね」
「止めてくれ、絶対にクレームが俺のところに来るじゃないか!鬼人が暴れまわっているって!」
正確には今の五代目の炎王にクレームがいくのだが、結局のところ炎王に話がくるということだ。
「炎王。イゾラさんは言葉がわかります」
だが、シェリーは炎王のツッコミをスルーして、またおかしなことを口にしている。
そんな当たり前のことわざわざ言わなくてもいいだろう。
「それはそうだろうな」
「話が通じます」
「そう……だな?通じているのか?」
「彼もまた王なのです。その拳を振るうのは何かを守るためだったのでは?……まぁ、行き過ぎとは思いますがね」
シェリーはそう言いながら、イゾラが消えていたほうに視線を向けた。遠くの方に煙が立ち上っており、爆音が響いてきたのだった。
カイルに腕を取られて、食べさせている風になっているシェリーに、炎王が尋ねた。
「りんご飴とやらを買いに行くと言っていましたね」
シェリーは死んだ魚の目をしたまま、答える。
確かに、茶屋で団子を食べているのは、シェリーとヴィーネだけだった。この場にはアフィーリアはいない。
「りんご飴ってそこに売っているのだが?」
炎王が指し示したほうには、赤い大玉の果実に赤い飴でコーティングされたものが串刺しされ屋台に並べられていた。
「そうですね。中が紫のベレアの実を採用した理由を聞きたいところですね」
遠目から見るとりんご飴と思えるが、果実は全く別の物のようだ。
「違うだろう!買いに行くと言った店に何故いない!」
「別に親が連れ歩く歳でもないのですから、お好きなように祭りを楽しめばいいのではないのですか?」
アフィーリアはシェリーと同じ歳だ。
周りが口を出す歳ではない。
炎王が過保護過ぎるのではと、シェリーはため息を吐いた。
「ただ、物をもらうには金銭が必要だという認識がないようで、りんご飴の分は建て替えておきました」
「それをわかっていて、放置しないで欲しい。佐々木さん。あと小遣いは持たせているはずだ」
どうやらアフィーリアには常識が欠けているようだ。
いや、それがアフィーリアにとって当たり前だったのだ。
数ヶ月前まで、王太子の姫君として扱われていたのだ。
街に出てこれが欲しいと言えば手に入る立場、お付の者が金銭を払っているという感覚がなかったのだろう。
「炎王。私は言いましたよ。ルーちゃんに会いたいのであれば、市井で暮らせるようにしてくださいと。このままでは、絶対に許しません」
「小姑。怖い。これが嫁いびり」
両手に三色団子を持っているヴィーネがボソリとつぶやく。その言葉にシェリーがピクリと反応した。
「私のルーちゃんに、迷惑をかける嫁は必要ありません!」
シェリーのルークへの愛情に一切の揺らぎはなく、それがルークの番だったとしても容赦はなかった。
「てめぇ!何故に勝手に終わらせているんだ!」
そこに怒りを顕にしたイゾラが瓦礫を破壊しながらやってきた。
どうやら、シェリーに呼ばれていなくなったカイルを、今まで警戒していたようだ。
「イゾラ。街の中で暴れるなと言ったよな」
「イゾラさん。アフィーリアが迷子になって、逃げ惑っているようなので、連れてきてくれませんか?」
炎王がイゾラに注意する言葉にかぶさるようにシェリーが、アフィーリアを連れてくるように頼む。
炎王は、何をイゾラに言っているのかと疑問の視線をシェリーに向けた。
「佐々木さん。イゾラに……」
「あ?あの生意気なクソガキか?仕方がねぇな」
すると、イゾラは意外にも文句を言うことなく、シェリーが指し示した方向に消えていく。
そのイゾラの行動にも炎王は驚きを顕にしていた。
あのイゾラが。という表情を浮かべてだ。
「イゾラさんも迷子なのですよ」
「佐々木さん。何を言っている。それにこれ以上街を壊されても困るんだ」
炎王はシェリーの言っている言葉が理解できなかった。迷子なのはアフィーリアの方だと。
「イゾラさんは、この地を守護していた鬼王です。でも、この様変わりした風景をみて、虚無感に襲われたのでしょうね」
イゾラ自身は、魔導王とエルフの王の戦いの余波に例えたが、シェリーはそれを虚無感と受け取ったらしい。
いや、南側にある山々がもし一瞬にして消し飛んだのであれば、それは己の力の範疇に収まることではないと感じとったという意味だろう。
そして炎王が作り上げたこの風景が、それと同じだとイゾラが言ったのだ。
「今まで守ってきたものは何も残っていないと」
「何を言っている。俺はこの島の人々に暮らしやすいようにしていっただけだ。何も壊してはいない」
「鬼王イゾラが君臨した島の面影は?」
シェリーにそう問われた炎王は、空を見上げ大きくため息を吐いた。
「ない」
ただ一言だけ炎王はつぶやく。
「この世界の人々は不変を好むところがありますよね」
「ああ」
「変わらないものがあるというのが、落ち着くところがあるのかもしれませんね」
「ああ」
「なので、いっそうのこと島の外に出てみては如何ですかと言ってみました」
「は?」
先程まで神妙な面持ちだった炎王が、聞き捨てならない言葉が聞こえたと自分の耳を疑った。
「島の外?」
「はい。世界には強い人はたくさんいますからね」
「止めてくれ、絶対にクレームが俺のところに来るじゃないか!鬼人が暴れまわっているって!」
正確には今の五代目の炎王にクレームがいくのだが、結局のところ炎王に話がくるということだ。
「炎王。イゾラさんは言葉がわかります」
だが、シェリーは炎王のツッコミをスルーして、またおかしなことを口にしている。
そんな当たり前のことわざわざ言わなくてもいいだろう。
「それはそうだろうな」
「話が通じます」
「そう……だな?通じているのか?」
「彼もまた王なのです。その拳を振るうのは何かを守るためだったのでは?……まぁ、行き過ぎとは思いますがね」
シェリーはそう言いながら、イゾラが消えていたほうに視線を向けた。遠くの方に煙が立ち上っており、爆音が響いてきたのだった。
13
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
魔王の娘に転生した私は、恐れられるどころか世界一の美貌で恋愛ルート確定でした
月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、私は異世界で――
恐怖と絶望の象徴・魔王の娘として生まれていた。
この世界で魔王の血を引く者は、恐れられ、忌み嫌われる存在。
孤独な運命を覚悟していたはずなのに、なぜか周囲の反応がおかしい。
父である魔王は超美形で娘に激甘。
魔族たちは命がけで守ってくる。
さらに人間側の勇者や王子、騎士までもが、次々と私に惹かれていき――。
どうやら私は、世界一の美貌を持って生まれてしまったらしい。
恐れられるはずだった魔王の娘・セラフィナ・ノワールの人生は、
気づけば溺愛と恋愛フラグだらけ。
これは、
魔王の血と世界一の美貌を持つ少女が、
数多の想いの中から“運命の恋”を選ぶ、
甘くて危険な異世界恋愛ファンタジー。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる