番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

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16章 英雄の国

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「なんだ?意味がわからん。だから貴様は誰だって言ってるんだ、よ!」

 金狼獣人の青年はそう言いながら、シェリーに向って拳を振り上げてきた。相手が攻撃してきたのだから、反撃して構わないだろうと判断したところで、シェリーの横に一迅の風が吹き抜ける。

「弱っちいクセに吠えるな。シェリーに手を出して、ただで済むと思うなよ。」

 オルクスが金狼獣人の青年に蹴りをかましていた。

「うっ。」

 金狼獣人の青年はオルクスの蹴りの一撃だけで膝をついてしまった。弱い。弱すぎる。これで傭兵団の団長だとよく言い張ったものだ。よくあれ程の啖呵を切れたものだ。

「弱っ。マリアさんの兄弟とは思えないほど弱いですね。英雄の子孫とはこんなに弱いものなのですか?」

 シェリーはあまりに予想外過ぎて思っていた事を口に出してしまった。あれだけのことを言ったのだから、もう少し粘るのかと思えば一撃で膝をついてしまったことに呆れてしまった。

「朝から騒がしいと思えばラースの嬢ちゃんか。それもそれなりに頑張っているんだから言ってくれるな。」

 そう言いながら2階から降りてきたのは、ボサボサの金髪をかき、眠そうな金色の目をシェリーに向けながら、上半身裸の金狼獣人の青年が降りてきた。団員に叩き起こされたのだろうが、もう少し身なりを整えて出てきて欲しいものだ。

「シド総帥閣下。もう、5刻10時ですが?暇なのですね。ギルドマスターが仕事が溜まっていると言っていましたよ。帰りに暇そうでしたよと報告しておきます。」

 そう、眠そうに階段を降りてきた人物こそ、この傭兵団の総帥であり、金狼族の族長である。しかし、見た目には息子であるそこで膝を付いている金狼の青年やシェリーの後ろにいる孫であるグレイと変わらない年頃の姿だ。

「やめろ。ただでさえどっかのバカが、引き継ぎもせずに辞めやがったから、俺が出向いてやる仕事が増えたんだよ。」

 どうやら、ここでもオルクスがいなくなったことで、仕事のしわ寄せが来ているようだ。しかし、冒険者ギルドでの依頼もこなし、傭兵団の仕事もこなし、フェクトス総統の元でも仕事をこなしていたオルクスがすごいのか、それとも、それ程のこともできない金狼の青年がダメなのかはわからないが、色々問題が起きているようだ。

「そのバカがなぜここにいるんだ?番を連れて戻ってくると言ったまま辞めやがったバカが。」

「あー。フェクトス総統から聞いていると思うけど、その報告に来た。」

「遅い!1ヶ月は経っているぞ。で、その番はどうした。まさかそこのラースの凶暴な嬢ちゃんだとは言わないよな。」

「そうだ。」

「・・・。」

 オルクスのその言葉にシド総帥は、オルクスとシェリーを見比べるが、シェリーはいつも通りの無表情で何もかわらない。

「ちょっと、寝直してくる。」

 シド総帥はあまりにもありえないことに現実逃避を始めた。

「シド総帥閣下。寝るのは後にしてこちらの用事を済ませたいのですが?マリアさんから言われたことなのでさっさと済ませたいのです。」

「マリアが?はぁ。2階に上がって来い。それから、訓練をサボったヤツ全員フルコースだからな覚えとけよ。」

 そう言って、シド総帥は踵を返して2階へ上がって行く後ろからは「「「えー!」」」と言う団員の悲鳴が響き渡っていた。


 シェリーたちは2階にある会議室のような広い一部屋に通された。そこは中央に大きなテーブルが居座り、その周りに十数個の椅子がテーブルの周りに配置されていた。その奥側の長椅子に偉そうに座ったシド総帥が向かい側に座るように促す。
 今回、シド総帥に用件があるのが、オルクスとグレイなのでシェリーは立ったままでいいと入り口のところにいたのだが、カイルに連れていかれ、シド総帥の向かい側に座ったグレイの隣に座らされる。
 正確にはグレイの隣にはカイルが座りその膝の上に座らされた。グレイの反対側の隣にオルクスが座り、スーウェンはカイルの後ろに立ったままいるようだ。

 この光景にシド総帥は眉をひそめる。先程オルクスはシェリーの事を番だと言ったのに、目の前の光景がその言葉と合わないと思っているのだろう。

「で、マリアは何を言ってきたのだ?」

「報告はキチンとしろと言われた。」

 オルクスが端的に答えた。

「ほぅ。で、お前は今更言い訳をしにきたのか?」

「言い訳?言い訳じゃないぞ。番のところにいるから辞めるというのを言いに来た。」

「だから、遅いってんだよ!お前が突然辞めるからこっちは仕事が回らなくなって、俺まで駆り出されてるんだぞ!」

「たまにはシド総帥も現場に出た方がいい。」

「俺は俺の仕事があるって言っていただろうが!」

 ここ一ヶ月程でシド総帥のストレスは相当溜まっているようだ。
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