番とは呪いだと思いませんか―聖女だからと言ってツガイが五人も必要なのでしょうか―

白雲八鈴

文字の大きさ
713 / 894
27章 魔人と神人

700

しおりを挟む
 床に横たわる白い甲冑。金の装飾が施されて、何処となくくらいが高い人物が纏う甲冑に見える。

 だが、どう見てもそのアンバランスさに首を傾げてしまう。身体の線の細さは少年がまとうようなスリムさがあり、身体の厚みもない。しかし、その身長は190セルメルセンチメートルはあるように見える。

 敢えて表現するのであれば、ガリガリにやせ細った成人男性が纏う甲冑だ。その甲冑には勿論、かぶともついている。ただあるべきものが存在していなかった。普通はある視野を確保するための、目の位置に穴がないのだ。ただそのかわりに青い色のガラス質のラインが入っている。

「戦隊モノくさい」

 シェリーはボソっとつぶやいて、鞄から先程しまった青いビー玉を取り出す。それを胸の中央、位置的に言えば胸骨の上にある窪んだ穴に押し込めた。

 カチリと丸い玉を入れた瞬間に、勢いよく頭が持ち上がった。その頭をシェリーは拳で再び床に押し付ける。

「おはようございます。シュロス王。言いたいことはあるでしょうが、取り敢えず黙って壁と一体化してください」
「あ……佐々木さ……」
「黙る!」
「聞いてくれよ!佐々木さ……」
「黙れって言っている!私の忠告をきちんと聞かなかったのは、シュロス王です!このような状態になったのは、自業自得です」

 シェリーの態度の悪さもることながら、ただの甲冑に丸い玉をセットするだけで、動き出すことに驚きしかない。

 いや、これはシュロスが己の為に創り出したものだ。動き出すことが当然だ。

「いいですか。今は悪の組織の支部に潜入中です。今から侵入してくる悪魔から身を隠さないといけません。絶対に口を開いてはいけません」
「いや、この状態は口なんてないだろう?」

 シェリーがシュロスに理解できる用語で説明をし、口を開くなというと、まともな答えがシュロスから返ってきた。

 この甲冑に口は無いと。

「くっそダサい戦隊モノは言葉を話さずに、壁になってください」
「酷い。サポーターの佐々木さんに久しぶりに会ったのに、俺のランディウスがダサいだなんて」

 シュロスはこの甲冑に名前を付けていたようだ。そして、わざとらしく『シクシク』と言い出した。涙が出ないので、嘘泣きもできないからだろう。

「ちっ!侵入者が入ってきますので、さっさと壁になってください」

 シェリーは復元したばかりの甲冑の腕を取り、無理やり立たせて、壁に押し付けた。

 そのやり取りを見ていたモルテ王がボソリと呟く。

「黒の聖女の言葉の方が、理解不能だが?」

 シェリーはシュロスにわかる用語を使って話をしていたので、それは理解できない言葉はあっただろう。

「そいつを戦わせればいいじゃないか。どう見ても、そいつ超越者クラスだろう?」

 違った。わざわざ隠れるようなことをしなくても、この場には超越者クラスが存在しているのであれば、戦うことに何を躊躇するのかと問いたいようだ。

 討伐戦を戦ったオリバーの言葉から、完全体の悪魔は超越者ほど強くはなかったということがわかる。
 ならば、ここには超越者クラスの竜人カイルがおり、神人のモルテ王がいる。モルテ王にはレベルという概念が存在しないので、超越者とは言い切れないが、それに近い存在ということは窺い知れる。

 そして、怪しい甲冑が動く存在。モルテ王は瞬時にこの存在が超越者クラスだと見抜いた。

 人外と言われるほどの力を持つ超越者であれば、完全体の悪魔と言えども、簡単に捻り潰すことができるのではないのか。モルテ王からもっともな意見が出てきたのだ。

「モルテ王。神殺しに戦闘経験はないです」
「は?」
「言っていましたよね。引き寄せる。空間。転換。固定。移動不可。捕縛。これのどこに戦闘が必要だと思いますか?」

 シェリーが言った言葉はモルテ王が天井に描かれている陣を読み取ったときに出てきた言葉だ。
 これは動けない者の命に強靭な力をぶつけて奪ったという意味に等しい。だからこそ神殺しが成立したとも言える。

「うむ」

 シェリーの言葉に流石のモルテ王も黙ってしまった。超越者に至った経緯に言葉も出ないという感じなのだろう?

「モルテ……死の王!かっこい……」
『ガンッ!!』

 怪しい甲冑の頭が黒をまとった存在の方に向いて言いかけた言葉を、シェリーが甲冑の腹の部分を思いっきり叩いて黙らせた。

「話さないでくださいと言いましたよね。これ以上話すと、胸の青い部分をぶち抜きますから」

 シェリーはシュロスの魂の容れ物である青い石を破壊すると脅した。すると、甲冑は壁と一体化するように背筋を伸ばして押し黙ったまま動かなくなる。

「モルテ王。お願いします」

 シェリーは闇の加護を持つモルテ王に、この場を闇で覆うように頼んだ。

 そうして前述の通り、完全体の悪魔がどのような存在か見極め、モルテ王がいとも簡単に屠ってしまったのだった。


_________
補足

 神々の名は、の世界かぶれしている白き神が適当につけています。


700話!

700話のお礼の閑話ですが、出てきていない人たちの話にします。はい、この一、二年ほど存在感がない4人です。


__________

【ラース公国 ドルロール遺跡】

「なぁ、おかしいと思わないか?」

 ここはドルロール遺跡のダンジョンの中。ダンジョンの中のはずだが、そこは石造りの神殿が存在している。言葉を発したグレイはその神殿の側に流れている水路の水を頭からかぶり、何やらベトベトした粘液状の物を落としていた。
 赤い髪には水がまとわりつき、ぺったりとしているが、頭の上の三角の耳は、何かを警戒しているのか、前にも後ろにも動かしている。

「おかしいだろう!全然前に進めないじゃないか!」

 そう反論するのは、石畳の地面に転がっているオルクスだ。どうも立ち上がる気力はないようだが、背後の太い斑のしっぽはバシバシと地面を叩いている。

「これ本当に三ヶ月でどうにかなるのですか?」

 スーウェンは、回復の魔術をリオンに掛けながら疑問を投げかけている。
 そして回復魔術を掛けられているリオンはといえば、一人満身創痍で血が滴っている。

「するしかないだろう。このままだとカイルの一人勝ちだ」

 勝ち負けの基準がズレているような気がするが、彼らからすれば真っ当な基準なのかもしれない。

「違う!」

 グレイは三人の言葉を否定した。

「9ヶ月も出番がないっておかしいだろう!その前は1年近くだ!絶対に蔑ろにされている!」

 ……この言葉に対するコメントは控えよう。

「グレイ。何を言っているんだ?」
「あれですかね。ご主人様と突然離れることになったので、怒っているのですよね」
「あの、女神ナディアはもう少し光の神ルーチェ様を見習うべきだ」

 グレイの言葉に同意する者はいなかった。そしてリオンは女神ナディアは光の神ルーチェを見習った方がいいと言っているが、彼の中では女神ルーチェの本質は見なかったことにされてしまったようだ。
 人という者は見たいものしか見ない性質もある。仕方がないことだ。

「しかし、2日しか経っていないけど、シェリーのご飯が食べたい」
「ここは食べ物は豊富にあるのですが、やはりご主人様の料理が食べたいですよね」

 スーウェンはちらりと横目で神殿の方に視線を向ける。石造りの神殿の中には重そうな石の台が置かれてあり、その上には多種多様な食べ物が積み上がっていた。

「ああ、ここの神殿の物はナディア様に捧げられた供物の御下がりだから、食べていいと聞いている」

 現実逃避をしていたグレイが復活し、神殿の中にある大量の食べ物の説明をしてくれた。

 今は冬なので、果物などそのまま食べられる物は少なく、干し肉や保存食のパンが目立つ。しかし、中にはそのまま食べられそうな食事もあった。

「新年の祝いの膳もあるから、調理しなくても良さそうで、良かったな」

 新年を祝うために女神ナディアに捧げられた食事も交じっているので、食べることには困ることはないだろう。しかし、今までシェリーが作った料理を食べていた者たちからすれば、気に入らないという雰囲気がありありと見て取れる。
 いや、番であるシェリーの作った物を一人だけ食べているだろうという現実が、彼らは不満だということだ。

 しかし、現在シェリーとカイルはラース公国のヴァンジェオ城に滞在しているので、シェリーが食事を作ることはないのだが、何かしらカイルの一人勝ちが気に入らないということだ。

「しかし、お前ら!俺の側で魔眼に操られるな!一番被害を受けているのは俺じゃないか!」

 グレイは色々鬱憤が溜まっているらしい。三人を見下ろしながら叫んでいる。

「ここはまだ三階層だぞ!あと九十七階層あるって知っているよな!」

 丸一日かけて進めた階層は三階層だけだったようだ。しかしシェリーは百階層を二日で攻略したと言っていなかっただろうか。

「オルクス!罠もあるって説明したのに、なんで突っ走って、ハマっているんだ!ヨーコさんのダンジョンの経験が何も生きていないじゃないか!」

 オルクスが倒れている理由は、何度か罠にハマった結果だったらしい。陽子の【愚者の常闇】ダンジョンは、死者がでない設定だが、このオルクスの状態から見れば、致死的な罠があったと予想できる。

「スーウェン!索敵の精度をもっと上げられないのか?それだとシェリー以下だ。魔眼持ちの魔物の遭遇には、備えなければならないって言っているよな」

 エルフと言えども、シェリーのチートスキルと対抗しようとすれば、骨が折れるだろう。
 索敵魔術は敵が近づいてきたことを知らせるものであるが、魔物の種類や特性まで見極めることなどできない。それを求めるのであれば、一から魔術の構築をしなければならないだろう。

「それからリオン!操られて鬼人化するな!操られないようにするか、鬼人化しないようにしろ!俺が死ぬだろうが!」

 グレイが一番憤っているのは、リオンに対してだった。

「お陰で魔物の体液をもろに被ってしまったじゃないか!」

 先ほどグレイにまとわりついていたのは、ベトベトした茶褐色の粘液状のモノだった。普通の体液ならここまでグレイを怒らすことはなかったのだろう。
 グレイについていた粘液状の物を頭からかぶったとしたら、呼吸すらも危うくなっていた可能性がある。いや死ぬと言っていたから本当に死にかけていたのだろう。

 ダンジョンの魔物でもなく、罠でもなく。仲間であるリオンの攻撃の余波を食らって死にかけたのだ。

 それはグレイも現実逃避したくもなる。

「それぐらい避けろよ」
「獣人なら可能ではないのですか?」
「近くにいるのが悪い」

「リオンが暴走して、魔物ごと俺を殺そうと追ってきたんじゃないか!それに本気で避けたら、獣化して話せなくなるじゃないか!」

 グレイは己の未熟さを棚に上げて、叫んでいるのだった。


_______________

ここまで読んでいただきましてありがとうございます。
 700話も書いてまだ正月が過ぎたところまでしか来ていない事実!
 そして700話もお付き合いしていただきまして、ありがとうございます。あと一ヶ月ほどですかね。この作品も5年目に突入します。

 ほぼ5年間もお付き合いくださっている読者様もいらっしゃると思うと、全然終わらなくてごめないという感じです。
 物語の時間ではまだ半年しか経っていないので、まだまだ続きますよ。

しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

魔王の娘に転生した私は、恐れられるどころか世界一の美貌で恋愛ルート確定でした

月影みるく
恋愛
目を覚ましたら、私は異世界で―― 恐怖と絶望の象徴・魔王の娘として生まれていた。 この世界で魔王の血を引く者は、恐れられ、忌み嫌われる存在。 孤独な運命を覚悟していたはずなのに、なぜか周囲の反応がおかしい。 父である魔王は超美形で娘に激甘。 魔族たちは命がけで守ってくる。 さらに人間側の勇者や王子、騎士までもが、次々と私に惹かれていき――。 どうやら私は、世界一の美貌を持って生まれてしまったらしい。 恐れられるはずだった魔王の娘・セラフィナ・ノワールの人生は、 気づけば溺愛と恋愛フラグだらけ。 これは、 魔王の血と世界一の美貌を持つ少女が、 数多の想いの中から“運命の恋”を選ぶ、 甘くて危険な異世界恋愛ファンタジー。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

処理中です...