神守の少女、二度目の人生は好きに生きます〜因縁相手は勝手に自滅〜

雪水砂糖

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16 晩餐会へ2

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 会場に到着した姫花と花蓮は、意気揚々と受付へと向かった。
 二人の格好を見た受付係は、一瞬ギョッとした表情を浮かべる。
 格好は季節外れで流行も外しており、しかも何やら……くさい。

 とはいえ、招待状は間違いなく本物だ。
 この招待状には神気の識別符が組み込まれており、受付の台座に置かれた照合器に招待状と本人の手をかざせば、持ち主と本人が一致するか判別できる。
 実はこの仕組み、姫花の元夫・浅井克己が開発したもので、莫大な使用料が入ってくるという。

 もちろん、結果は「一致」。
 受付としては断る理由がなく、渋々通すほかなかった。
 通した後で、念のため上に報告を入れたのだが。

 会場に入るやいなや、親子は早々に別行動を取り始める。

「私、あっちに知り合いがいるから話してくるわ」
「ええ、行ってらっしゃい」

 花蓮は、見知った同年代の子弟たちの輪を見つけ、その中へと歩み寄る。
 そこは、かつて花蓮が〝頂点〟として君臨していた集まりだった。

 花蓮の姿を認めた瞬間、楽しげだった輪の空気は一変する。
 警戒の色を浮かべる者、不安げに視線を逸らす者、あからさまに嫌そうな顔をする者――。
 おかしな格好をしており、何やら不快な臭いもするが、誰もそれを指摘するものはいない。

 沈黙を破ったのは、その中で花蓮に次いで家格が高い、由良家の長女だった。
「……まさか、来るとは思わなかったわ」

「正式に招待を受けたのよ。来てもいいでしょ」

「そう。それで、何か用?」

 この大規模な晩餐会で、目当ての人物を探し出せるかは分からない。
 時間を無駄にしたくなかったし、歓迎されていない空気は最初から感じ取っていた。

「あのね、教えてほしいことがあるの。教えてくれれば、すぐに行くわ」

「……何?」

「末継家の徹様って、どなたかわかる?」

「聞いてどうするの?」

「みんなもう知ってると思うけど、私、もうすぐ辺境へ行くでしょう? だから……昔、お母様が本当にお世話になった方だから、挨拶しておこうと思って」

 子どもながらに、これは黙っておいたほうがいいのではと思った。だが正直なところ、花蓮とはもう関わりたくないし、一緒にいるところを見られるのもごめんだった。しばし迷った末、口を開いた。

「この広い会場で末継様がどこにいるかは分からないけれど……あそこにいらっしゃる方なら、確かご親族よ」

「そうなのね。ありがとう」

 礼もそこそこに、花蓮は足早に去って行った。
 彼女たちも「また見つかると面倒」と思い、その場を離れた。

 花蓮は教えられた人物の元へと向かう。
 それは、祖父に近い年齢の、神守らしい威厳を備えた男性だった。この方がご親族ならきっと上位の家格に違いないわと思い、談笑している最中であったが、時間がない。花蓮は躊躇なく割り込んだ。

「お話し中、失礼します」

 あまりにも礼を欠いた態度に、男性は眉をひそめた。
「どこの家の子どもだ」

「私は、沼安姫花の娘です。少しお聞きしたいことがあって」

「……ああ、例の女の子どもか。親も親なら子も子だな。それで、何が聞きたい」

 この無礼な問題児が何を言い出すのか少し興味湧いた。

「末継家の徹様をご存じですか?」

「徹はわしの甥だが、それがどうした?」

 やった。それなら、この場で告げてしまおう。

「大叔父様でしたか! わたしは、徹様の実の娘です」

「……何を言っている? お前は水無瀬家当主の弟君の娘ではなかったと誰もが知っているが、父親は判明していないはずだ」

「母の日記で見つけたのです。私を身籠った当時、付き合っていたのは末継家の徹様だと」

 この話が仮に事実でも、甥はすでに他家に婿入りしている。
 わざわざ問題児の娘を引き取る義理などない。
 もし責任があるなら離縁の時点で水無瀬家から話があるはずだが、それもない。
 この娘は母と共に辺境へ行くことが決まっている。
 これは単独での暴走――おそらく、辺境で商家の娘になるのが嫌で、自分だけでも神守の社会に残りたいのだろう。

「そのような事実はない。お前の妄想だ。仮に事実だとしても、徹が引き取ることはない。失せろ」

「で、でも……せめて、お父様に会わせてください。お願いします」

「無礼者。誰か警邏を呼べ。こやつの母親を探し、ともにつまみ出せ」

「そんな……」

 周囲でこのやり取りを見ていたものたちは、さっそく知人にこのやり取りを伝えに散り散りになった。

 やがて警邏が現れ、花蓮は腕をつかまれて会場の外へ連れ出された。

 しばらく入口で待たされていると、騒がしくなり――
「ちょっと、離しなさいよ! 何の真似よ!」
 と怒鳴る声と共に、姫花が連れてこられた。

 花蓮の姿を見つけるなり、姫花は険しい顔で言った。
「こんな会、最低だわ。話しかけても誰もまともに応じようともしないし、挙げ句の果てには招待客を追い出すなんて」

 怒られるかと思ったが、母は何も知らされていない様子だった。
 花蓮は胸をなでおろす。だが、これで自分の望みは完全に潰えたのだ。

 二人は会場の外に出され、冷たい夜気にさらされた。
 遠くから、まだ会場の音楽や笑い声が聞こえる。
 姫花はぶつぶつと愚痴をこぼしながらも、歩き出す。

「せっかくの晩餐会だったのに……あんな仕打ち、覚えておきなさいよ」

 花蓮は黙って歩くしかなかった。
 頭の中では、末継徹の顔すら知らないまま終わったことへの悔しさと、冷ややかな拒絶の言葉が何度もよみがえっていた。


 そして、勝手に会へ出席し、挙句の果てには参加者の怒りを買って警邏に追い出された――その知らせを受けた沼安家の面々は、般若のごとく怒り、物置部屋の外から鍵をかけた。残りの滞在期間にできることなど何もなく、やがて辺境から迎えに来た馬車に乗せられ、二人はそのまま旅立つこととなった。
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