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18 神殿での活動
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神殿では、活動の実績に伴って階級が上がる。
鉄級から始まり、銅級、青銅級、銀級、翡翠級、金級、白金級。
この制度は国で統一されている。
神殿の清掃や孤児院の世話、薬草の採取で上がれるのは銅級まで。
青銅級以上は、禍憑の討伐への貢献度によって決まる。
母・透子は上から三番目の翡翠級。ちなみに、最上位の白金級は国に五人しかおらず、金級も三十人に満たないという。
瑞葉は母との訓練と並行して、神殿での活動を始めることになった。
活動にあたっては、身元を隠すために「母の遠縁の娘」という設定が用意され、さらに叔父が作った特殊な眼鏡をかけることになった。
その眼鏡は、かけるだけで容姿の魅力を半減させるという不思議な品だ。
母譲りの可憐な容姿を持つ瑞葉も、これをかければ華やかさはすっかり影をひそめる。ただし、よく見れば「地味ながら素朴で可愛らしい少女」程度には見えてしまうのだが。
この眼鏡を提案してくれたのは叔父だった。
彼は以前の件について改めて謝罪に訪れた際、神殿で活動を始めるという話を聞き、それならと後日持ってきてくれたのだ。もともとは、ある上位の家から「容姿を目立たなくできる品を作れないか」と頼まれて開発したものらしい。
しかも叔父様は、私に似合うような形状にわざわざ作り替えてくれた。
試しに掛けてみると、瑞葉本人にはあまり違いが分からなかったが、光矢は大絶賛だった。
「これなら悪い虫も寄ってこない!」と満足げに言うので、瑞葉が「虫除けの効果もあるなんて便利ね」と返したところ、なぜか不思議そうな顔をされた。
ともかく、こうして瑞葉は眼鏡をつけ、神殿に通うことになった。
神殿での活動は、掃除や孤児院の世話、薬草の採取などを行うと、活動によって報酬を受け取ることができる。平民の中ではこの報酬で生計を立てているものもいる。しかし、神守の子どもたちは基本的に、学院に入る前の社会勉強の一環として神殿に通わされているため、報酬をもらうことはほとんどない。
瑞葉は、神殿に来るとまずは境内や施設の掃除をし、併設の孤児院へ向かう。そこで子どもたちと遊んだり、少し年長の子には読み書きや簡単な計算を教えたり、絵本を読んでやったり、折り紙を一緒に折ったりする。この時間が瑞葉はとくに大好きだった。
その思いは子どもたちにも伝わり、穏やかで優しい瑞葉は、すぐに大人気となった。
しばらく通ううちに、同じく活動に来ている同年代の顔ぶれも覚えてきた。
目立つのは、七日に一度ほど、取り巻きを引き連れて現れる笠原綾乃という娘。中中位の神守の家の生まれで、この支部に出入りする神守の子どもの中では家格が最も高いらしい。
しかし、評判はあまり芳しくない。点数稼ぎのために仕事を請け負い、自分より位の低い者に押し付け、それを自分の功績として報告しているのだ。瑞葉は水無瀬家当主夫人の遠縁という設定があるため、彼女から直接絡まれることはない。綾乃はその間、取り巻きとお茶を飲みながら世間話に興じている。
あるとき、仕事を押し付けられた子に声をかけた。
「神殿に一緒に言いに行きましょうか?」
するとその子は、くすりと笑って首を振った。
「大丈夫。神殿の人もわかってるから。あの人、自分に点数が入ってないことに気づいてないのよ」
それを聞き、瑞葉は胸をなで下ろして自分の作業に戻った。
そして、休憩時間。
飲み物を受け取り、本を読みながら木陰でひと息つこうと思ったら、すでに先客がいた。
立ち去ろうとしたそのとき、彼が読んでいる本に目が吸い寄せられた。
あれは、上月先生の最新刊『神気は友達』!
上月先生は大衆的に有名な作家ではないが、神気研究の一部では知らぬ者のない人物だ。発行部数が少なく、手に入れるのも難しい。水無瀬家でも予約してから一月は待たなければならない。瑞葉も届くのを心待ちにしていた一人だ。
じっと見つめてしまっていたせいか、先客が顔を上げた。
もじゃもじゃの髪に長い前髪、眼鏡の奥の目はよく見えない。年は同じくらいだろうが、見覚えはない。討伐隊の所属者かもしれない。
「……何か用か?」
「すみません。先客がいらっしゃるとは思わなくて。それに、その本……私、届くのを心待ちにしていたんです。つい、見入ってしまって」
「この本、知っているのか?」
「はい。上月先生が大好きで、今日は前巻の『神気はひらめき』を読み返そうと思って持ってきていたんです」
そう言って、自分の本を見せる。
「この先生は神気の応用の発想がすばらしいですよね。どうしてこんな考えが浮かぶのか……いつか直接お話を伺ってみたいです」
「……君、わかってるな。俺も上月先生好きなんだ」
彼は少し嬉しそうに笑った。
そのあとは休憩時間いっぱい、上月先生の魅力を語り合った。名前は『アオ』と言うらしい。
それからというもの、瑞葉は神殿で彼をよく見かけるようになり、彼は自分の蔵書から珍しい本を貸してくれるようになった。どれも入手困難な希少本ばかりだ。きっと大きな商会のご子息なのだろう――そう思いつつ、瑞葉は新しい友達ができた喜びで、神殿に通うのがますます楽しみになっていった。
鉄級から始まり、銅級、青銅級、銀級、翡翠級、金級、白金級。
この制度は国で統一されている。
神殿の清掃や孤児院の世話、薬草の採取で上がれるのは銅級まで。
青銅級以上は、禍憑の討伐への貢献度によって決まる。
母・透子は上から三番目の翡翠級。ちなみに、最上位の白金級は国に五人しかおらず、金級も三十人に満たないという。
瑞葉は母との訓練と並行して、神殿での活動を始めることになった。
活動にあたっては、身元を隠すために「母の遠縁の娘」という設定が用意され、さらに叔父が作った特殊な眼鏡をかけることになった。
その眼鏡は、かけるだけで容姿の魅力を半減させるという不思議な品だ。
母譲りの可憐な容姿を持つ瑞葉も、これをかければ華やかさはすっかり影をひそめる。ただし、よく見れば「地味ながら素朴で可愛らしい少女」程度には見えてしまうのだが。
この眼鏡を提案してくれたのは叔父だった。
彼は以前の件について改めて謝罪に訪れた際、神殿で活動を始めるという話を聞き、それならと後日持ってきてくれたのだ。もともとは、ある上位の家から「容姿を目立たなくできる品を作れないか」と頼まれて開発したものらしい。
しかも叔父様は、私に似合うような形状にわざわざ作り替えてくれた。
試しに掛けてみると、瑞葉本人にはあまり違いが分からなかったが、光矢は大絶賛だった。
「これなら悪い虫も寄ってこない!」と満足げに言うので、瑞葉が「虫除けの効果もあるなんて便利ね」と返したところ、なぜか不思議そうな顔をされた。
ともかく、こうして瑞葉は眼鏡をつけ、神殿に通うことになった。
神殿での活動は、掃除や孤児院の世話、薬草の採取などを行うと、活動によって報酬を受け取ることができる。平民の中ではこの報酬で生計を立てているものもいる。しかし、神守の子どもたちは基本的に、学院に入る前の社会勉強の一環として神殿に通わされているため、報酬をもらうことはほとんどない。
瑞葉は、神殿に来るとまずは境内や施設の掃除をし、併設の孤児院へ向かう。そこで子どもたちと遊んだり、少し年長の子には読み書きや簡単な計算を教えたり、絵本を読んでやったり、折り紙を一緒に折ったりする。この時間が瑞葉はとくに大好きだった。
その思いは子どもたちにも伝わり、穏やかで優しい瑞葉は、すぐに大人気となった。
しばらく通ううちに、同じく活動に来ている同年代の顔ぶれも覚えてきた。
目立つのは、七日に一度ほど、取り巻きを引き連れて現れる笠原綾乃という娘。中中位の神守の家の生まれで、この支部に出入りする神守の子どもの中では家格が最も高いらしい。
しかし、評判はあまり芳しくない。点数稼ぎのために仕事を請け負い、自分より位の低い者に押し付け、それを自分の功績として報告しているのだ。瑞葉は水無瀬家当主夫人の遠縁という設定があるため、彼女から直接絡まれることはない。綾乃はその間、取り巻きとお茶を飲みながら世間話に興じている。
あるとき、仕事を押し付けられた子に声をかけた。
「神殿に一緒に言いに行きましょうか?」
するとその子は、くすりと笑って首を振った。
「大丈夫。神殿の人もわかってるから。あの人、自分に点数が入ってないことに気づいてないのよ」
それを聞き、瑞葉は胸をなで下ろして自分の作業に戻った。
そして、休憩時間。
飲み物を受け取り、本を読みながら木陰でひと息つこうと思ったら、すでに先客がいた。
立ち去ろうとしたそのとき、彼が読んでいる本に目が吸い寄せられた。
あれは、上月先生の最新刊『神気は友達』!
上月先生は大衆的に有名な作家ではないが、神気研究の一部では知らぬ者のない人物だ。発行部数が少なく、手に入れるのも難しい。水無瀬家でも予約してから一月は待たなければならない。瑞葉も届くのを心待ちにしていた一人だ。
じっと見つめてしまっていたせいか、先客が顔を上げた。
もじゃもじゃの髪に長い前髪、眼鏡の奥の目はよく見えない。年は同じくらいだろうが、見覚えはない。討伐隊の所属者かもしれない。
「……何か用か?」
「すみません。先客がいらっしゃるとは思わなくて。それに、その本……私、届くのを心待ちにしていたんです。つい、見入ってしまって」
「この本、知っているのか?」
「はい。上月先生が大好きで、今日は前巻の『神気はひらめき』を読み返そうと思って持ってきていたんです」
そう言って、自分の本を見せる。
「この先生は神気の応用の発想がすばらしいですよね。どうしてこんな考えが浮かぶのか……いつか直接お話を伺ってみたいです」
「……君、わかってるな。俺も上月先生好きなんだ」
彼は少し嬉しそうに笑った。
そのあとは休憩時間いっぱい、上月先生の魅力を語り合った。名前は『アオ』と言うらしい。
それからというもの、瑞葉は神殿で彼をよく見かけるようになり、彼は自分の蔵書から珍しい本を貸してくれるようになった。どれも入手困難な希少本ばかりだ。きっと大きな商会のご子息なのだろう――そう思いつつ、瑞葉は新しい友達ができた喜びで、神殿に通うのがますます楽しみになっていった。
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