20 / 96
19 救出1
しおりを挟む
今日は久しぶりに佳乃と一緒に神殿で活動する。最近は一人で来ることも多いのだ。二人で掃除を終え、孤児院で小さい子向けに絵本を読もうと、絵本を選んでもらっていたときだった。
「そういえば、今日は大きい子が少ないのね」
問いかけると、子どもたちは絵本を選ぶ手を止めて答えた。
「あのね、おにいちゃんたちは、やくそうをとりにいったの」
「えっ、子どもたちだけで?」
「うん。おおきいおにいちゃん3人でいったの」
「先生は知ってるの?」
「ううん、せんせいはようじででかけてるんだ。ひらひらのおようふくきた、くるくるのおねえちゃんがね、ないしょでおねがいしてきたの。たくさんおこづかいをくれるんだって」
佳乃と顔を見合わせる。
ひらひらのくるくる……おそらく笠原綾乃だ。まさか孤児院の子どもたちまで巻き込んでいたとは。
「そういえば、おそいね。あさはやくからでていったのに」
一人の子がそう言うと、皆が不安そうな顔になった。森の浅いところなら危険はないが、薬草を探すうちに奥へ入り、禍憑の生息域に足を踏み入れてしまうこともある。
「絵本はまた今度にするわね。お姉ちゃんたち、心配だから探してくるわ」
「うん、おにいちゃんたちをおねがい」
心配そうに見送る子どもたちに手を振り、私と佳乃は足早に森へ向かった。
「瑞葉様、最近、緊急依頼で薬草採取が出ていました。緊急依頼は点数が高いので、笠原綾乃が受けたのでしょう」
「私もそう思うわ。子どもたちに採らせて自分の点数にするつもりね。わずかな報酬を渡して」
「急ぎましょう」
神気を巡らせ、人の気配を探る。遠方に、人と禍憑の反応を感じた。
「禍憑と一緒にいるわ。急がないと」
身体を神気で強化し、駆ける。ほどなくして、現場が見えた。
一番体格の大きい大輔が、他の子を守るように採取用の小型のナイフを振るい、一匹の穢牙兎を必死に追い払っていた。神気を扱えない者にとっては、穢牙兎一匹といえど脅威だ。
大輔の体にも怪我があり、庇われている二人はぐったりしている。傷口は黒く変色し、穢れに侵されているのがわかった。
射程に入ると同時に、子どもたちを包み込む結界を展開する。
大輔は私たちに気づくと、泣きそうな表情で安堵した。
すぐに佳乃が攻撃し、禍憑は霧散した。
「もう大丈夫よ。よく頑張ったわね」
そう声をかけると、大輔は唇を震わせながらも言った。
「お嬢! 翔太と健二が動かないんだ」
二人はかなり穢れが回ってしまっている。急がなければ命に関わる。
私は集中して穢れを浄化し、傷を癒やした。一命は取り留めたが、意識はまだ戻らない。
「大輔、二人はもう大丈夫よ」
「ありがとう……もうだめかと思った」
彼はついに涙をこぼした。まだ十歳。必死に仲間を守っていたのだ。
大輔の腕も治療すると、彼は「痛くなくなった」と驚きの声をあげた。
その時――
「瑞葉様!! 岩毛熊(がもうぐま)の群れが接近中です。おそらく十頭ほどかと!」
「えっ!」
岩毛熊は、一頭でも並の兵が複数で戦う。十頭となれば、佳乃一人では危うい。
私は即座に判断した。
「佳乃、増援を呼んできて! 私は結界で子どもたちを守るわ」
佳乃は一瞬迷いを見せたが、神気で身体を限界まで強化し、風のような速さで森を去った。
私は結界の強度を最大に高めた。これは母の全力攻撃にも耐えた結界だ。絶対に破らせない。
「大輔、さっきの話を聞いていたわね? 岩毛熊がこちらに向かっている。佳乃が助けを呼びに行ったわ。この中にいれば絶対に安全だから、外に出ないで」
「わかった」
大輔は動揺せず、真剣な目で答えた──この子は将来有望だ。希望するなら父の討伐隊で鍛えてもらうよう頼んでみよう。
そう考えているうちに、森の奥から獣の荒い息遣いと地響きが近づいてくる。
葉擦れの音をかき消すように、低い唸り声が耳に届いた。
「そういえば、今日は大きい子が少ないのね」
問いかけると、子どもたちは絵本を選ぶ手を止めて答えた。
「あのね、おにいちゃんたちは、やくそうをとりにいったの」
「えっ、子どもたちだけで?」
「うん。おおきいおにいちゃん3人でいったの」
「先生は知ってるの?」
「ううん、せんせいはようじででかけてるんだ。ひらひらのおようふくきた、くるくるのおねえちゃんがね、ないしょでおねがいしてきたの。たくさんおこづかいをくれるんだって」
佳乃と顔を見合わせる。
ひらひらのくるくる……おそらく笠原綾乃だ。まさか孤児院の子どもたちまで巻き込んでいたとは。
「そういえば、おそいね。あさはやくからでていったのに」
一人の子がそう言うと、皆が不安そうな顔になった。森の浅いところなら危険はないが、薬草を探すうちに奥へ入り、禍憑の生息域に足を踏み入れてしまうこともある。
「絵本はまた今度にするわね。お姉ちゃんたち、心配だから探してくるわ」
「うん、おにいちゃんたちをおねがい」
心配そうに見送る子どもたちに手を振り、私と佳乃は足早に森へ向かった。
「瑞葉様、最近、緊急依頼で薬草採取が出ていました。緊急依頼は点数が高いので、笠原綾乃が受けたのでしょう」
「私もそう思うわ。子どもたちに採らせて自分の点数にするつもりね。わずかな報酬を渡して」
「急ぎましょう」
神気を巡らせ、人の気配を探る。遠方に、人と禍憑の反応を感じた。
「禍憑と一緒にいるわ。急がないと」
身体を神気で強化し、駆ける。ほどなくして、現場が見えた。
一番体格の大きい大輔が、他の子を守るように採取用の小型のナイフを振るい、一匹の穢牙兎を必死に追い払っていた。神気を扱えない者にとっては、穢牙兎一匹といえど脅威だ。
大輔の体にも怪我があり、庇われている二人はぐったりしている。傷口は黒く変色し、穢れに侵されているのがわかった。
射程に入ると同時に、子どもたちを包み込む結界を展開する。
大輔は私たちに気づくと、泣きそうな表情で安堵した。
すぐに佳乃が攻撃し、禍憑は霧散した。
「もう大丈夫よ。よく頑張ったわね」
そう声をかけると、大輔は唇を震わせながらも言った。
「お嬢! 翔太と健二が動かないんだ」
二人はかなり穢れが回ってしまっている。急がなければ命に関わる。
私は集中して穢れを浄化し、傷を癒やした。一命は取り留めたが、意識はまだ戻らない。
「大輔、二人はもう大丈夫よ」
「ありがとう……もうだめかと思った」
彼はついに涙をこぼした。まだ十歳。必死に仲間を守っていたのだ。
大輔の腕も治療すると、彼は「痛くなくなった」と驚きの声をあげた。
その時――
「瑞葉様!! 岩毛熊(がもうぐま)の群れが接近中です。おそらく十頭ほどかと!」
「えっ!」
岩毛熊は、一頭でも並の兵が複数で戦う。十頭となれば、佳乃一人では危うい。
私は即座に判断した。
「佳乃、増援を呼んできて! 私は結界で子どもたちを守るわ」
佳乃は一瞬迷いを見せたが、神気で身体を限界まで強化し、風のような速さで森を去った。
私は結界の強度を最大に高めた。これは母の全力攻撃にも耐えた結界だ。絶対に破らせない。
「大輔、さっきの話を聞いていたわね? 岩毛熊がこちらに向かっている。佳乃が助けを呼びに行ったわ。この中にいれば絶対に安全だから、外に出ないで」
「わかった」
大輔は動揺せず、真剣な目で答えた──この子は将来有望だ。希望するなら父の討伐隊で鍛えてもらうよう頼んでみよう。
そう考えているうちに、森の奥から獣の荒い息遣いと地響きが近づいてくる。
葉擦れの音をかき消すように、低い唸り声が耳に届いた。
0
あなたにおすすめの小説
復讐は、冷やして食すのが一番美味い
Yuito_Maru
ファンタジー
3度目の人生を生きるピオニー・レノドン。
1度目の人生は、愛した幼馴染と家族に裏切られ、無垢で無力のまま命を落とした。
2度目は、剣を磨き、王太子の婚約者となるも、1度目より惨めに死んでいった。
3度目は、微笑の裏で傭兵団を率い、冷たく復讐の刃を研ぐ。
狙うは、レノドン伯爵家、そして王家や腐った貴族たち。
「復讐とは、怒りを凍らせて成就する歪んだ喜びだ」――ピオニーは今、その意味を体現する。
-----
外部サイトでも掲載を行っております
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
無能だと捨てられた第七王女、前世の『カウンセラー』知識で人の心を読み解き、言葉だけで最強の騎士団を作り上げる
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
エルミート王国の第七王女リリアーナは、王族でありながら魔力を持たない『無能』として生まれ、北の塔に長年幽閉されていた。
ある日、高熱で生死の境をさまよった彼女は、前世で臨床心理士(カウンセラー)だった記憶を取り戻す。
時を同じくして、リリアーナは厄介払いのように、魔物の跋扈する極寒の地を治める『氷の辺境伯』アシュトン・グレイウォールに嫁がされることが決定する。
死地へ送られるも同然の状況だったが、リリアーナは絶望しなかった。
彼女には、前世で培った心理学の知識と言葉の力があったからだ。
心を閉ざした辺境伯、戦争のトラウマに苦しむ騎士たち、貧困にあえぐ領民。
リリアーナは彼らの声に耳を傾け、その知識を駆使して一人ひとりの心を丁寧に癒していく。
やがて彼女の言葉は、ならず者集団と揶揄された騎士団を鉄の結束を誇る最強の部隊へと変え、痩せた辺境の地を着実に豊かな場所へと改革していくのだった。
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
私の風呂敷は青いあいつのよりもちょっとだけいい
しろこねこ
ファンタジー
前世を思い出した15歳のリリィが風呂敷を発見する。その風呂敷は前世の記憶にある青いロボットのもつホニャララ風呂敷のようで、それよりもちょっとだけ高性能なやつだった。風呂敷を手にしたリリィが自由を手にする。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる