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29 時戻りの告白
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家に着くと、応接室に入り、侍女にお茶を用意してもらった。
部屋にいるのは、お父様、お母様、叔父様、そして光矢だけ。
「今から話すことは、荒唐無稽で、とても信じられないと思います」
「あなたの言うことなら信じるわ」
お母様が優しく答える。
「俺まで聞いてもいい話なのか?」
「えぇ、叔父様は家族ですもの。ね、光矢」
「うん。叔父様にも聞いてほしい。信頼できる大人には、なるべく知っていてもらった方がいいと思う」
「光矢は知っているのか?」
「はい」
「そうか……では、聞かせてくれ」
「はい。……実は私、時戻りをしているのです」
「「「えっ……!」」」
三人とも驚愕の表情に包まれた。
「前の人生では、十六歳まで生きました。死んだと思った瞬間、八歳に戻っていたのです」
「そんな……あなたが死んだなんて! それに十六歳なんて、まだ子どもじゃない!」お母様は声を震わせた。
「お母様、信じてくださるのですか?」
「ええ。あなたがこんなことで嘘をつくはずがないもの」
「”時戻り”か……文献で読んだことがある」
叔父様が低くつぶやく。
「確か『強い感情を抱いて死んだ魂が、膨大な神気を媒介に時間を遡る現象』とされていたな」
お父様は静かに目を閉じ、天を仰いだまま言葉を発さなかった。
「お父様、信じてもらえないのは当然です。こんなおとぎ話のような話……」
「……いや、信じる。自分が不甲斐ないのだ。愛する娘をそんな状況で死なせてしまった自分に」
「……私もよ。私はその時、何をしていたのかしら」お母様も悔やむように首を振った。
「父様、母様。姉さまが体術を習いたいと言った日のことを覚えていますか?」光矢が口を開く。
「ええ、もちろん。覚えているわ。あの日の夕食から、すべてが変わったのよね」
「その日の朝だったのです。姉さまが時戻りしてきたのは」
「あの日に?!」
光矢は続ける。
「幼い頃から僕たちは毎日一緒に食事をしていました。でも、あの日の朝、姉さまは僕の姿を見るなり、抱きしめてきて子どものように泣くじゃくったのです『ごめんね』と何回も謝りながら。あまりに様子がおかしかったので、僕から問いただしました」
「……」両親は言葉を失う。
「すると姉さまは、『十六歳のとき僕と一緒に死に、今朝時戻りした』と告げたのです」
「光矢まで!? 一体何があったの?」
「……花蓮に嵌められたのです」
「花蓮ですって!!!」
私はうなずき、淡々と語る。
「十六歳のとき、上大位の家の婚約者候補に私の名が挙がりました。花蓮は候補にもなれず……それで、私を排除しようとしたのです。神気を封じる神具を置いた部屋に連れ込み、荒くれ者を雇って私を傷物にしようとしました。私が使えなくなれば、花蓮が水無瀬家の養女となり、上大位へ嫁げると」
「そんなことはあり得ない! 養女になど絶対にしないし、あのような娘が選ばれることもない」お父様は憤る。
「そこに光矢が助けに来てくれました。ですが、神気を封じられていたので……殺されてしまったのです。息を引き取る直前、光矢は神気を私に渡してくれました。そして、その死にざまを目の前にして……私は莫大な神気を暴発させ、時戻りが起こったのでしょう」
思い返すと胸が苦しくなる。両親は顔を歪め、深い衝撃に沈んでいた。
「……あの日の夕食のあと、あなたは私と蒼一さんの部屋に来てくれたわね」お母様が口を開く。「沼安姫花の策略で誤解していた私たちを正してくれた。もし誤解したままでいたら……あなたの言う未来が訪れていたのね」
「本当に申し訳ない。時戻りには『強い感情を抱いて死ぬ』ことが条件のひとつなのだろう。親である私たちが守れなかったばかりに……光矢まで死なせてしまった」
「僕はまったく覚えていません。でも、その状況なら同じことをしただろうなと思います」
「俺もだ……」叔父様は沈痛な面持ちで言う。「謝っても謝り足りない。あんな害にしかならない相手と契約結婚したばかりに、瑞葉と光矢の命まで失われていたとは……」
私は首を振る。
「私は時戻りして最初に思いました。花蓮を許さない、復讐してやると。けれど……お父様とお母様の誤解が解け、あの親子が辺境送りになったことで、未来は変わったのだと感じました。警戒は続けます。けれど私は復讐のためだけに生きるのではなく、神殿での活動を始め、もっと広い世界を見たいと思うようになったのです」
「……瑞葉」お母様が涙ぐむ。
「十六歳まで生きた経験があるので、勉強や礼儀作法などは一通り身についていました。ですから、私が天賦の才を持っているわけではありません。さらに、すべての出来事を記憶しているわけでもないのです。今日の皇女殿下の誘拐事件も、実際に起きてから思い出したほどです」
「そうだったの……それで救出に向かったのね」
「はい。以前の人生では皇女殿下は誘拐されて、戻られはしましたが、二度と表舞台には立たれませんでした」
光矢が一歩前に出る。
「……姉さま、僕のことも話すよ」
「うん。光矢が決めたことなら」
部屋にいるのは、お父様、お母様、叔父様、そして光矢だけ。
「今から話すことは、荒唐無稽で、とても信じられないと思います」
「あなたの言うことなら信じるわ」
お母様が優しく答える。
「俺まで聞いてもいい話なのか?」
「えぇ、叔父様は家族ですもの。ね、光矢」
「うん。叔父様にも聞いてほしい。信頼できる大人には、なるべく知っていてもらった方がいいと思う」
「光矢は知っているのか?」
「はい」
「そうか……では、聞かせてくれ」
「はい。……実は私、時戻りをしているのです」
「「「えっ……!」」」
三人とも驚愕の表情に包まれた。
「前の人生では、十六歳まで生きました。死んだと思った瞬間、八歳に戻っていたのです」
「そんな……あなたが死んだなんて! それに十六歳なんて、まだ子どもじゃない!」お母様は声を震わせた。
「お母様、信じてくださるのですか?」
「ええ。あなたがこんなことで嘘をつくはずがないもの」
「”時戻り”か……文献で読んだことがある」
叔父様が低くつぶやく。
「確か『強い感情を抱いて死んだ魂が、膨大な神気を媒介に時間を遡る現象』とされていたな」
お父様は静かに目を閉じ、天を仰いだまま言葉を発さなかった。
「お父様、信じてもらえないのは当然です。こんなおとぎ話のような話……」
「……いや、信じる。自分が不甲斐ないのだ。愛する娘をそんな状況で死なせてしまった自分に」
「……私もよ。私はその時、何をしていたのかしら」お母様も悔やむように首を振った。
「父様、母様。姉さまが体術を習いたいと言った日のことを覚えていますか?」光矢が口を開く。
「ええ、もちろん。覚えているわ。あの日の夕食から、すべてが変わったのよね」
「その日の朝だったのです。姉さまが時戻りしてきたのは」
「あの日に?!」
光矢は続ける。
「幼い頃から僕たちは毎日一緒に食事をしていました。でも、あの日の朝、姉さまは僕の姿を見るなり、抱きしめてきて子どものように泣くじゃくったのです『ごめんね』と何回も謝りながら。あまりに様子がおかしかったので、僕から問いただしました」
「……」両親は言葉を失う。
「すると姉さまは、『十六歳のとき僕と一緒に死に、今朝時戻りした』と告げたのです」
「光矢まで!? 一体何があったの?」
「……花蓮に嵌められたのです」
「花蓮ですって!!!」
私はうなずき、淡々と語る。
「十六歳のとき、上大位の家の婚約者候補に私の名が挙がりました。花蓮は候補にもなれず……それで、私を排除しようとしたのです。神気を封じる神具を置いた部屋に連れ込み、荒くれ者を雇って私を傷物にしようとしました。私が使えなくなれば、花蓮が水無瀬家の養女となり、上大位へ嫁げると」
「そんなことはあり得ない! 養女になど絶対にしないし、あのような娘が選ばれることもない」お父様は憤る。
「そこに光矢が助けに来てくれました。ですが、神気を封じられていたので……殺されてしまったのです。息を引き取る直前、光矢は神気を私に渡してくれました。そして、その死にざまを目の前にして……私は莫大な神気を暴発させ、時戻りが起こったのでしょう」
思い返すと胸が苦しくなる。両親は顔を歪め、深い衝撃に沈んでいた。
「……あの日の夕食のあと、あなたは私と蒼一さんの部屋に来てくれたわね」お母様が口を開く。「沼安姫花の策略で誤解していた私たちを正してくれた。もし誤解したままでいたら……あなたの言う未来が訪れていたのね」
「本当に申し訳ない。時戻りには『強い感情を抱いて死ぬ』ことが条件のひとつなのだろう。親である私たちが守れなかったばかりに……光矢まで死なせてしまった」
「僕はまったく覚えていません。でも、その状況なら同じことをしただろうなと思います」
「俺もだ……」叔父様は沈痛な面持ちで言う。「謝っても謝り足りない。あんな害にしかならない相手と契約結婚したばかりに、瑞葉と光矢の命まで失われていたとは……」
私は首を振る。
「私は時戻りして最初に思いました。花蓮を許さない、復讐してやると。けれど……お父様とお母様の誤解が解け、あの親子が辺境送りになったことで、未来は変わったのだと感じました。警戒は続けます。けれど私は復讐のためだけに生きるのではなく、神殿での活動を始め、もっと広い世界を見たいと思うようになったのです」
「……瑞葉」お母様が涙ぐむ。
「十六歳まで生きた経験があるので、勉強や礼儀作法などは一通り身についていました。ですから、私が天賦の才を持っているわけではありません。さらに、すべての出来事を記憶しているわけでもないのです。今日の皇女殿下の誘拐事件も、実際に起きてから思い出したほどです」
「そうだったの……それで救出に向かったのね」
「はい。以前の人生では皇女殿下は誘拐されて、戻られはしましたが、二度と表舞台には立たれませんでした」
光矢が一歩前に出る。
「……姉さま、僕のことも話すよ」
「うん。光矢が決めたことなら」
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