31 / 96
30 光矢の秘密
しおりを挟む
光矢が一歩前に出る。
「……姉さま、僕のことも話すよ」
「うん。光矢が決めたことなら」
光矢は告げる。
「僕は幼いころから、邪な心を持つ人には黒いもやが見えるのです。そして嘘をつくと、黒い息となって吐かれるのが見えます」
「そんな力が……!」
「ちなみに、沼安親子は真っ黒いモヤが常に出ており、口から出す言葉も真っ黒でした」
「私は光矢が三歳のときこの力に気づいたのですが、その時はこの力を利用されるのではないかと思って誰にも言わないようにと口止めしていました」
「……そうだったのね」お母様は悲しげに目を伏せた。
「禍憑が蔓延ったとき、姉さまに天璽家の周囲の様子を問われ、皇女殿下の侍女や周辺が黒く見えると答えました。そこで姉さまは誘拐事件を思い出したのです」
「なるほど……だが、天璽家からの呼び出しでは詳しく問われるだろう。すべて正直に話す必要はない。『皇女殿下の周囲に違和感を覚えたので後を追った』とだけ答えなさい」
「わかりました。今まで隠していて申し訳ありません」
「気にしなくていいのよ。むしろ私たちが至らなかったのだから。これからは、家族として信じ合い、支え合っていけるよう努力していきましょう」
「「はい!」」
「……そういえば、他に思い出したことがあります。佳乃のことです」
「佳乃が?どうしたの?」
「私が十三歳のころ、急に結婚が決まり退職しました。でも相手は働かず暴力を振るう最低な男だったと後から知りました。確か名字は今井だったと思います。私は佳乃の幸せを願って送り出しましたが、心の底から後悔したのです。そして、佳乃の後任として奥村チエという侍女が入りました。彼女は一見すると明るい性格で、誰とでも気さくに話していましたが、その口から出てくるのは人の悪口ばかり。妬みや嫉みを隠そうともしない性格で、傍にいるだけで不快で仕方ありませんでした。けれど私に対しては決して表立って悪く言うこともなく、与えられた仕事もきっちりこなすため、交代を願い出ることはできませんでした。神気の使えない部屋に案内したのも、彼女です。花蓮の息がかかっていたのかもしれません」
「……わかった。今井という者については、こちらで調べておこう。佳乃の縁談が持ち上がることがあれば、必ず事前に我らの手で調査する。そして奥村チエという者についても、決して我が家に関わらせぬよう手を打つ」
「佳乃の実家にも手が回っていた可能性があるわ」
「遠縁だが分家筋だ。何かあればすぐ知らせるよう強く言っておこう」
「ありがとうございます。佳乃の幸せが一番ですが……可能なら長く一緒にいたいです」
「任せておきなさい。……瑞葉も光矢も、これからは何かあったら遠慮なく頼るのだぞ」
「はい、お父様」
「さあ、もう遅い。ここから先は大人の話になる。二人は部屋で休みなさい」
こうして私と光矢の告白は無事に受け入れられ、心に抱えていた重荷をようやく下ろすことができた。
すでに夜も更け、六歳の光矢にはとうに眠る時間を過ぎている。早く部屋へと促そうとしたとき、光矢が真剣な顔で口を開いた。
「姉さま……父様と母様、それに叔父様に伝えられて、本当によかったね。まだ運命から確実に逃れられた保証はないから、大人の協力は絶対に必要だよ」
私は小さくうなずいた。
「そうね。光矢が一緒に話してくれたから、心強かったわ」
光矢は少しはにかみながらも続ける。
「僕、これからも姉さまを守るから。だから……一人で抱え込まないでね」
その言葉に胸が温かくなり、私はそっと光矢の頭を撫でた。
「ありがとう、光矢。私もあなたを守るわ。だから、今夜はもう休みましょう」
「うん……おやすみ、姉さま」
光矢は名残惜しそうにしながらも、ようやく部屋へと向かっていった。
「……姉さま、僕のことも話すよ」
「うん。光矢が決めたことなら」
光矢は告げる。
「僕は幼いころから、邪な心を持つ人には黒いもやが見えるのです。そして嘘をつくと、黒い息となって吐かれるのが見えます」
「そんな力が……!」
「ちなみに、沼安親子は真っ黒いモヤが常に出ており、口から出す言葉も真っ黒でした」
「私は光矢が三歳のときこの力に気づいたのですが、その時はこの力を利用されるのではないかと思って誰にも言わないようにと口止めしていました」
「……そうだったのね」お母様は悲しげに目を伏せた。
「禍憑が蔓延ったとき、姉さまに天璽家の周囲の様子を問われ、皇女殿下の侍女や周辺が黒く見えると答えました。そこで姉さまは誘拐事件を思い出したのです」
「なるほど……だが、天璽家からの呼び出しでは詳しく問われるだろう。すべて正直に話す必要はない。『皇女殿下の周囲に違和感を覚えたので後を追った』とだけ答えなさい」
「わかりました。今まで隠していて申し訳ありません」
「気にしなくていいのよ。むしろ私たちが至らなかったのだから。これからは、家族として信じ合い、支え合っていけるよう努力していきましょう」
「「はい!」」
「……そういえば、他に思い出したことがあります。佳乃のことです」
「佳乃が?どうしたの?」
「私が十三歳のころ、急に結婚が決まり退職しました。でも相手は働かず暴力を振るう最低な男だったと後から知りました。確か名字は今井だったと思います。私は佳乃の幸せを願って送り出しましたが、心の底から後悔したのです。そして、佳乃の後任として奥村チエという侍女が入りました。彼女は一見すると明るい性格で、誰とでも気さくに話していましたが、その口から出てくるのは人の悪口ばかり。妬みや嫉みを隠そうともしない性格で、傍にいるだけで不快で仕方ありませんでした。けれど私に対しては決して表立って悪く言うこともなく、与えられた仕事もきっちりこなすため、交代を願い出ることはできませんでした。神気の使えない部屋に案内したのも、彼女です。花蓮の息がかかっていたのかもしれません」
「……わかった。今井という者については、こちらで調べておこう。佳乃の縁談が持ち上がることがあれば、必ず事前に我らの手で調査する。そして奥村チエという者についても、決して我が家に関わらせぬよう手を打つ」
「佳乃の実家にも手が回っていた可能性があるわ」
「遠縁だが分家筋だ。何かあればすぐ知らせるよう強く言っておこう」
「ありがとうございます。佳乃の幸せが一番ですが……可能なら長く一緒にいたいです」
「任せておきなさい。……瑞葉も光矢も、これからは何かあったら遠慮なく頼るのだぞ」
「はい、お父様」
「さあ、もう遅い。ここから先は大人の話になる。二人は部屋で休みなさい」
こうして私と光矢の告白は無事に受け入れられ、心に抱えていた重荷をようやく下ろすことができた。
すでに夜も更け、六歳の光矢にはとうに眠る時間を過ぎている。早く部屋へと促そうとしたとき、光矢が真剣な顔で口を開いた。
「姉さま……父様と母様、それに叔父様に伝えられて、本当によかったね。まだ運命から確実に逃れられた保証はないから、大人の協力は絶対に必要だよ」
私は小さくうなずいた。
「そうね。光矢が一緒に話してくれたから、心強かったわ」
光矢は少しはにかみながらも続ける。
「僕、これからも姉さまを守るから。だから……一人で抱え込まないでね」
その言葉に胸が温かくなり、私はそっと光矢の頭を撫でた。
「ありがとう、光矢。私もあなたを守るわ。だから、今夜はもう休みましょう」
「うん……おやすみ、姉さま」
光矢は名残惜しそうにしながらも、ようやく部屋へと向かっていった。
1
あなたにおすすめの小説
白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
商人であった父が、お金で貴族の身分を手に入れた。私というコマを、貴族と結婚させることによって。
でもそれは酷い結婚生活の始まりでしかなかった。悪態をつく姑。私を妻と扱わない夫。夫には離れに囲った愛人がおり、その愛人を溺愛していたため、私たちは白い結婚だった。
結婚して三年。私は流行り病である『バラ病』にかかってしまう。治療費は金貨たった一枚。しかし夫も父も私のためにお金を出すことはなかった。その価値すら、もう私にはないというように。分かっていたはずの現実が、雨と共に冷たく突き刺さる。すべてを悲観した私は橋から身を投げたが、気づくと結婚する前に戻っていた。
健康な体。そして同じ病で死んでしまった仲間もいる。一度死んだ私は、すべてを彼らから取り戻すために動き出すことを決めた。もう二度と、私の人生を他の人間になど奪われないために。
父の元を離れ計画を実行するために再び仮初の結婚を行うと、なぜか彼の愛人に接近されたり、前の人生で関わってこなかった人たちが私の周りに集まり出す。
白い結婚も毒でしかない父も、全て切り捨てた先にあるものは――
復讐は、冷やして食すのが一番美味い
Yuito_Maru
ファンタジー
3度目の人生を生きるピオニー・レノドン。
1度目の人生は、愛した幼馴染と家族に裏切られ、無垢で無力のまま命を落とした。
2度目は、剣を磨き、王太子の婚約者となるも、1度目より惨めに死んでいった。
3度目は、微笑の裏で傭兵団を率い、冷たく復讐の刃を研ぐ。
狙うは、レノドン伯爵家、そして王家や腐った貴族たち。
「復讐とは、怒りを凍らせて成就する歪んだ喜びだ」――ピオニーは今、その意味を体現する。
-----
外部サイトでも掲載を行っております
【第2部開始】ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜
月森かれん
ファンタジー
中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。
戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。
暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。
疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。
なんと、ぬいぐるみが喋っていた。
しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。
天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。
※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。
私の風呂敷は青いあいつのよりもちょっとだけいい
しろこねこ
ファンタジー
前世を思い出した15歳のリリィが風呂敷を発見する。その風呂敷は前世の記憶にある青いロボットのもつホニャララ風呂敷のようで、それよりもちょっとだけ高性能なやつだった。風呂敷を手にしたリリィが自由を手にする。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
華都のローズマリー
みるくてぃー
ファンタジー
ひょんな事から前世の記憶が蘇った私、アリス・デュランタン。意地悪な義兄に『超』貧乏騎士爵家を追い出され、無一文の状態で妹と一緒に王都へ向かうが、そこは若い女性には厳しすぎる世界。一時は妹の為に身売りの覚悟をするも、気づけば何故か王都で人気のスィーツショップを経営することに。えっ、私この世界のお金の単位って全然わからないんですけど!?これは初めて見たお金が金貨の山だったという金銭感覚ゼロ、ハチャメチャ少女のラブ?コメディな物語。
新たなお仕事シリーズ第一弾、不定期掲載にて始めます!
モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる