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act-5 ミチルの闇
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レースのカーテンから遮光になった初夏の日差しが差し込んでいる。九条はカメラを手にソファーに腰掛け、そのすぐ目の前のベッドにミチルは座っている。
「まず、ミチルちゃんの話を聞くよ。カメラは回さない」
九条はそう切り出した。これは考えに考えた話の運びだ。ミチルは九条を頼って、ハルにも鴨志田にも内緒で連絡してきた。何か聞いて欲しいことがある‥そしてそれは、おそらくかなりプライベートで深刻なことだ。ここは仕事抜きで真摯に応じてあげたい‥
半分は本当にそう思っていた。が、半分は詭弁だった。
所詮テレビの世界だ。あまりに個人的なことや、救われない闇は放送できない。視聴者が求めるのは後味の悪い真実ではなく『人生捨てたもんじゃない』的な薄っぺらい明日への希望だ。テレビとはそういうものだ。ミチルにどれだけ深い問題があろうが、その闇を九条が掘り下げ白日の元に晒す努力をテレビ局も視聴者も望んではいない。
-まず、ミチルちゃんの話を聞くよ-
優しさを装った九条の言葉は、結果として無駄な努力を回避したに過ぎない。
ミチルは黙って目を伏せている。九条は、先日ファストフードで仕入れた情報を投げてみた。
「この前エマちゃんやユリアさんと話す機会があったんだけど、ご両親が離婚するかもってミチルが言ってたって‥やっぱりそのことかな?」
ミチルが顔を上げた。
「それは辛いよね。でも親にも親の生き方があるし、ミチルちゃんの気持ちはわかるけど‥」
「違います」
型通りの言葉を並べ始めた九条をミチルは遮った。
「離婚はするみたいです。でも、そういうのって仕方ないと思うし、もしかするとそんなに特別なことじゃないかもって思います」
「‥」
「あっ、でもウチはちょっと特別なとこもあるかも」
九条はミチルの言葉を待つ。
「お父さんとお母さん、どっちが私を引き取るかで揉めてるんじゃなくて、どっちも引き取りたくないって揉めてるんですよ。酷い話だと思いません?」
普通であれば「思い過ごしじゃないの?」的な言葉の出番だ。が、九条は先ほど母親を見てしまった。五日も家に帰らない娘‥キャリーバックを引きずった生気の無い娘に、満面の笑みを向ける母親の凄みを。九条の脳裏に、まだ見ぬ父親の真っ黒なシルエットがむくむくと広がっていった。
「じゃあ、僕に相談したいことって?」
「九条さん。私、何ができると思いますか?」
「えっ?」
「私、ずっと考えてるんです。私にしか出来ないこと‥家を出て一人になって、ずっと考えてるんですけど分からないんです。でも、私にしか出来ないこと、あるかもって」
まっすぐなミチルの視線に九条は圧倒された。親の離婚、そんな有り体な悩みなんかではなかった。想像を絶する家庭環境の中で、この子は必死に未来の自分を探していたのだ‥
九条は母親が淹れた珈琲を一口飲んで言った。
「その答えを、僕はミチルちゃんをもう少し知りながら考えていこうと思う」
ミチルが小首を傾げる。
「僕からもいろいろ聞きたいことがある」
「カメラ‥まわすんですね?」
「いいかな?」
ミチルが頷くのを見て、九条は手にしていたカメラを三脚に据えた。久しぶりに味わう高揚に少し手が震えた。
「まず、ミチルちゃんの話を聞くよ。カメラは回さない」
九条はそう切り出した。これは考えに考えた話の運びだ。ミチルは九条を頼って、ハルにも鴨志田にも内緒で連絡してきた。何か聞いて欲しいことがある‥そしてそれは、おそらくかなりプライベートで深刻なことだ。ここは仕事抜きで真摯に応じてあげたい‥
半分は本当にそう思っていた。が、半分は詭弁だった。
所詮テレビの世界だ。あまりに個人的なことや、救われない闇は放送できない。視聴者が求めるのは後味の悪い真実ではなく『人生捨てたもんじゃない』的な薄っぺらい明日への希望だ。テレビとはそういうものだ。ミチルにどれだけ深い問題があろうが、その闇を九条が掘り下げ白日の元に晒す努力をテレビ局も視聴者も望んではいない。
-まず、ミチルちゃんの話を聞くよ-
優しさを装った九条の言葉は、結果として無駄な努力を回避したに過ぎない。
ミチルは黙って目を伏せている。九条は、先日ファストフードで仕入れた情報を投げてみた。
「この前エマちゃんやユリアさんと話す機会があったんだけど、ご両親が離婚するかもってミチルが言ってたって‥やっぱりそのことかな?」
ミチルが顔を上げた。
「それは辛いよね。でも親にも親の生き方があるし、ミチルちゃんの気持ちはわかるけど‥」
「違います」
型通りの言葉を並べ始めた九条をミチルは遮った。
「離婚はするみたいです。でも、そういうのって仕方ないと思うし、もしかするとそんなに特別なことじゃないかもって思います」
「‥」
「あっ、でもウチはちょっと特別なとこもあるかも」
九条はミチルの言葉を待つ。
「お父さんとお母さん、どっちが私を引き取るかで揉めてるんじゃなくて、どっちも引き取りたくないって揉めてるんですよ。酷い話だと思いません?」
普通であれば「思い過ごしじゃないの?」的な言葉の出番だ。が、九条は先ほど母親を見てしまった。五日も家に帰らない娘‥キャリーバックを引きずった生気の無い娘に、満面の笑みを向ける母親の凄みを。九条の脳裏に、まだ見ぬ父親の真っ黒なシルエットがむくむくと広がっていった。
「じゃあ、僕に相談したいことって?」
「九条さん。私、何ができると思いますか?」
「えっ?」
「私、ずっと考えてるんです。私にしか出来ないこと‥家を出て一人になって、ずっと考えてるんですけど分からないんです。でも、私にしか出来ないこと、あるかもって」
まっすぐなミチルの視線に九条は圧倒された。親の離婚、そんな有り体な悩みなんかではなかった。想像を絶する家庭環境の中で、この子は必死に未来の自分を探していたのだ‥
九条は母親が淹れた珈琲を一口飲んで言った。
「その答えを、僕はミチルちゃんをもう少し知りながら考えていこうと思う」
ミチルが小首を傾げる。
「僕からもいろいろ聞きたいことがある」
「カメラ‥まわすんですね?」
「いいかな?」
ミチルが頷くのを見て、九条は手にしていたカメラを三脚に据えた。久しぶりに味わう高揚に少し手が震えた。
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