九条Dの完パケ -傷だらけの天使たち-

麻美拓海

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act-19 飛鳥でのインタビュー

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南北線から東西線と乗り継ぎ、九条は高田馬場に着いた。約束の17時には若干の余裕がある。早稲田通りをゆっくり歩きながら、ユリアからアスカに頭を切り替えた。
携帯に着信があった。アスカだ。

「まー君、今どこ?」
「そっちに向かって歩いてる。あと5分くらいで着くぞ」
「そう‥」
「ん?何か不都合でも?」
「ううん。お店で取材したいって言ってたでしょ?」
「ああ」
「お母さんがね、仕込みやりたいんだけど店に居て大丈夫かって?」

これは九条の読み通りの展開だ。だから店の開店直前の時間を狙った。アスカのインタビューだけでなく店自体の取材、そして出来れば母親のインタビューも撮りたい‥

「もちろん」
「良かったー。じゃ、待ってるね」

無邪気なアスカの言葉。年端もいかない子供を相手に、大人の計算で自分は何をやっているのか?そんな疑問がふと頭をかすめる。弱気になるのは、先ほど見たハルの涙のせいかもしれない。

路地を曲がると『飛鳥』の提灯が見えた。まだ灯りは点いていない。暖簾をくぐると母親に迎い入れられた。

「いらっしゃい、九条さん」
「昨夜は酔っ払っちゃって、すみませんでした」
「何言ってるの。ここは酔っ払う所よ」

まん丸の目が優しく笑う。奥の部屋からアスカが出て来た。

「緊張するんだけど」

九条はカメラを取り出しながら「いつも通りでいいんだよ」と言ってカウンターの一番端っこにアスカを座らせ、その二つ隣の席からカメラを構えた。

<アスカのインタビュー>

「以前インタビューした時、アスカはハルのルックスに惹かれたって言ってたよね?」
「うん」
「ハルの音楽はどうなの?」
「もちろん好き」
「どんなところが好きなの?」
「うまく言えないけど‥なんか勇気が出る」
「なんでかな?」
「たぶん、ハルちゃん自身本当は弱い人なんだと思う。でも、それでも頑張って強く生きていくんだっていう想いが曲からすごく伝わってくる」
「うん」
「だから、自分も強く生きていこうって思えるのかも」
「アスカちゃんも弱い人なの?」
「弱いよ。すごく弱い」
「どうして?」
「‥」

考え込むアスカ‥九条はチラリと母親を盗み見る。仕込みに余念がないが、会話は聞こえているはずだ。包丁の音がトントンと小さく響いている。

「私、高校やめちゃったんだ。でも、イジメにあってたとかそういうのじゃないよ。友達もたくさんいたし。でもほら、前に言ったけど私ちょっと人と違うでしょ?」
「女の子の格好をしてるとか?」
「うん。格好だけじゃなくて‥女の子でいたいの。って、ホントは男だからキモいよね」
「いや。個性だと思えば‥」
「でも世間はそう思わない。ハルちゃんのとこにいるみんなだけなの。そういうの全然気にしないで受け入れてくれたのは」
「学校へは?」
「女の子で行けるわけないでしょ。男子してたよ」
「アスカちゃんのそういうこと、知ってる友達は?」
「いない‥誰にも言えなかった」

ここで九条は賭けに出た。

「お家の人には?」
「パパは死んじゃっていないんだけど、お母さんには言った」

包丁の音が止んだ。九条は意を決して母親に向かって聞いた。

「お母さんはちょっと驚いたのでは?」
「ちょっとじゃないわよ」
「すいません‥ですよね」

答えてくれた。ここしかない。この流れで行けるかどうかだ。九条は母親にカメラを向けた。

「どう思われました?」

母親は一瞬カメラに怯んだが、言葉を続けた。

「いろいろあったのでね。親としてこの子に偉そうなこと言えないし‥でも、他人がどう思おうと、まずはアスカが毎日明るく生きていてくれたらそれでいいと思うの。将来がどうなるかなんて、誰にも分からないし」
「そうですね」
「私も古い人間だから、なんで我が子がこんな‥って思いますよ。でも、アスカはもっとねじれ曲がって、私の手に負えないような子になってもおかしくないことがあったのでね。詳しくは話せないけど‥だから、人様がなんて言おうが私はこの子の味方」

フレームの外から「お母さん、ありがとう」というアスカの声がした。九条がカメラを向けると「聞いた?今の言葉」と、本当に嬉しそうな笑顔が映った。九条はファインダーから目を外し、「ありがとうございます。すみません、急にカメラ向けちゃって」と母親に向かって言った。

「いえいえ、ごめんなさい。ベラベラ喋っちゃって」

母親の言葉が終わらないうちに、入り口のドアが開き剣崎が店に入ってきた。

「おや。お取り込み中かい?」

母親の「いらっしゃい」に続けて九条が言う。

「剣崎さん、昨日の続きいきますか?」

剣崎は九条の肩をポンと叩いて言った。

「あんた、気に入った。ママ、ビールとグラス2つ!」
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