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act-22 ユリア
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翌日の午後。九条はハル、鴨志田と共に四ツ谷駅から麹町方面に向かって歩いていた。ユリアは退院して自宅のマンションに戻っていた。3人でユリアに会いに行く‥
“会えませんか?” というユリアからのメールに、ハルが “鴨さんと九条さんも一緒なら” と返信するとユリアは了承した。
そのマンションは、新宿通りから曲がりくねった路地を一本入った閑静な住宅街にあった。ハルが部屋番号を押すと、しばらくして「どうぞ」という声が聞こえた。
-同席しちゃって大丈夫か?-
その弱々しく掠れた声に一瞬九条は怯んだ。とても普通の状態とは思えない。カメラは持って来ている‥だが、おそらくまわすことはないだろう。では、何故ここにいるのか?俺はディレクターで、悩める少女たちの相談役ではない。
エレベーターで7階に上がる。1番端の部屋‥701号室。ハルが呼び鈴を鳴らした。施錠を外す音がして、少しだけ開いたドアからユリアの顔が見えた。部屋着に薄いカーディガン‥綺麗なお姉さんは、やつれ生気を失っていた。
***********************************
ユリアが紅茶を運んでくるまで、ダイニングテーブルの椅子に腰掛けた3人は無言だった。
「ありがとう。いい香り」
ハルの言葉に返事はない。鴨志田とハルが隣同士に座っているので、ユリアはその前に座る九条の隣に腰掛けた。覗きこむことにためらいがあり、ユリアの表情は見えない。視線の先の窓には枯れたハンキングバスケットの花が揺れていた。
「でも、まあ取り敢えず退院できて良かった」
鴨志田は場を取り繕うようにそう言うと「俺たちマジで心配してたんだよな」と、ハルの肩を人差し指で突いた。
と、突然ユリアは「ごめんなさい」と言って手で顔を覆った。鴨志田の人差し指が宙で固まっている。ハルが口を開いた。
「何があったの?ユリアさん」
しばらく顔を覆っていたユリアは、ゆっくり立ち上がるとキッチンに置いてあったスマホを手に戻ってきた。そして何やら操作するとハルと鴨志田の前にそのスマホを置いた。
「えっ!?」
声をあげたのは鴨志田だ。ハルはスマホの画面をじっと見つめている。九条はそんな二人の表情を見て、そしてスマホの画面を覗き込みハッとした‥
若い男とユリアが写っていた。自撮りなのか、男の左腕が画面の外に伸び右腕はユリアの肩を抱いている。そして、二人とも裸体だった。ユリアは胸を手で隠しているが、背景に写った鏡とベッドの大げさな装飾から明らかにその手のホテルだと分かる。思わす九条は、隣のユリアを見た。俯いた顔は羞恥心なのか紅潮し真っ赤だった‥
「この人は?」
ハルの質問にユリアは俯いたまま「元カレなの」と答え、気を落ち着けるためか紅茶を一口飲んだ。
「その写メは付き合ってた時、去年撮った写真で‥それが会社の共有メールに送られてきて」
「そいつがやったのか?」
語気を荒げた鴨志田に、ユリアは「彼しか考えられない」と弱々しく答え話を続けた。
「私、会社にすごく仲のいい結衣って子がいるんだけど、その子が気づいて私に連絡くれたの。すぐメールは削除したんだけど‥」
ユリアの言葉はそこで一度途切れ、そして絞り出すような声で「いろんな人に見られちゃったと思う」と言った。
***********************************
ぽかんと浮かぶ白い雲の下、九条と鴨志田はベランダで煙草を吹かしていた。遠目には皇居が見え、振り向くとガラス越しにユリアを慰めるハルの姿が見える。
「ひどい野郎だな」
鴨志田が九条を覗き込む。九条は無言だ。何か妙な感じがする‥何かが引っかかっていた。
「どうした?九条ちゃん」
鴨志田の言葉に「いえ、別に」と生返事をしつつ、心の奥に生じた違和感の正体を探っていた。
煙草を吸い終わった二人が部屋に戻ると、ユリアに話すハルの言葉が聞こえた。
「気持ちは分かる」
「‥」
「でも、死ぬことを選ぶのは違うと思う」
「‥」
ハルも言葉を探り慎重に話しているようだ。
「いっこ、聞きたいことがある」
「えっ?」
「なんで、鴨志田さんに連絡したの?」
「‥」
「迷ってたんでしょ?」
「‥」
「もしかして、止めてほしかったんじゃないの?」
「‥そうかも」
「ずるいよ、それ」
「えっ?」
「確かにユリアさんの状況は辛いと思う。でも、それはやっぱりユリアさんの問題。もし誰かに頼りたいんだったら、もっとちゃんと頼るべきだと思う。電話で鴨さんにさよならとか言うの自分勝手だよ」
ハルの言っていることはもっともだ。九条はそう思いながら‥でも、この状況のユリアには厳しすぎる言葉だと感じていた。鴨志田が割って入る。
「まあ、俺もびっくりしたけど‥あの時、俺を頼って連絡をくれたからさ、こうしてまた話ができるわけだし」
「でもね、ユリアさん」
ハルは鴨志田の言葉をスルーして続ける。
「私、人間ってやっぱり最後は一人だと思う。自分だけだと思う。自分の力でしか生きていけないと思ってる。けど‥」
ハルはそこで言葉を区切ると、ユリアに顔を近づけた。
「けど、人は弱いから。誰かに‥何かに頼ったりするのは全然いいと思う。私も、私を見つけてくれた鴨さんを頼った。鴨さんやみんなの力が無ければ全然だめだと思う。でも、頼った責任は絶対あると思うから、そこは守ってるつもり。頼った人たちを最後まで裏切らない。そうじゃないと、その人たちまで辛い想いをすると思う」
九条は先日改札口で涙したハルを思い出した。
-そうか‥あの時の涙はそういうことなのか-
ハルの周りに集まって来るファンの子たちは、皆それぞれに問題を抱えている。が、ハルの歌に何かを感じ前向きな‥生きる意味を模索している。そんなハルの歌を慕うファンの中の一人が、自ら死を選んでしまった‥ハルは、自分の歌の無力さを叩きつけられた感じがしたのだろう。
-ハルだって弱いんだ‥-
九条はハルの横顔を見ながらそんなことを思い、そしてふとテーブルの上に置かれたユリアのスマホ画面が視界に入った時、頭の中で何かが弾けた。ずっとまとわりついていた違和感‥その正体が分かったからだ。
-俺は、この男を知っている!-
“会えませんか?” というユリアからのメールに、ハルが “鴨さんと九条さんも一緒なら” と返信するとユリアは了承した。
そのマンションは、新宿通りから曲がりくねった路地を一本入った閑静な住宅街にあった。ハルが部屋番号を押すと、しばらくして「どうぞ」という声が聞こえた。
-同席しちゃって大丈夫か?-
その弱々しく掠れた声に一瞬九条は怯んだ。とても普通の状態とは思えない。カメラは持って来ている‥だが、おそらくまわすことはないだろう。では、何故ここにいるのか?俺はディレクターで、悩める少女たちの相談役ではない。
エレベーターで7階に上がる。1番端の部屋‥701号室。ハルが呼び鈴を鳴らした。施錠を外す音がして、少しだけ開いたドアからユリアの顔が見えた。部屋着に薄いカーディガン‥綺麗なお姉さんは、やつれ生気を失っていた。
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ユリアが紅茶を運んでくるまで、ダイニングテーブルの椅子に腰掛けた3人は無言だった。
「ありがとう。いい香り」
ハルの言葉に返事はない。鴨志田とハルが隣同士に座っているので、ユリアはその前に座る九条の隣に腰掛けた。覗きこむことにためらいがあり、ユリアの表情は見えない。視線の先の窓には枯れたハンキングバスケットの花が揺れていた。
「でも、まあ取り敢えず退院できて良かった」
鴨志田は場を取り繕うようにそう言うと「俺たちマジで心配してたんだよな」と、ハルの肩を人差し指で突いた。
と、突然ユリアは「ごめんなさい」と言って手で顔を覆った。鴨志田の人差し指が宙で固まっている。ハルが口を開いた。
「何があったの?ユリアさん」
しばらく顔を覆っていたユリアは、ゆっくり立ち上がるとキッチンに置いてあったスマホを手に戻ってきた。そして何やら操作するとハルと鴨志田の前にそのスマホを置いた。
「えっ!?」
声をあげたのは鴨志田だ。ハルはスマホの画面をじっと見つめている。九条はそんな二人の表情を見て、そしてスマホの画面を覗き込みハッとした‥
若い男とユリアが写っていた。自撮りなのか、男の左腕が画面の外に伸び右腕はユリアの肩を抱いている。そして、二人とも裸体だった。ユリアは胸を手で隠しているが、背景に写った鏡とベッドの大げさな装飾から明らかにその手のホテルだと分かる。思わす九条は、隣のユリアを見た。俯いた顔は羞恥心なのか紅潮し真っ赤だった‥
「この人は?」
ハルの質問にユリアは俯いたまま「元カレなの」と答え、気を落ち着けるためか紅茶を一口飲んだ。
「その写メは付き合ってた時、去年撮った写真で‥それが会社の共有メールに送られてきて」
「そいつがやったのか?」
語気を荒げた鴨志田に、ユリアは「彼しか考えられない」と弱々しく答え話を続けた。
「私、会社にすごく仲のいい結衣って子がいるんだけど、その子が気づいて私に連絡くれたの。すぐメールは削除したんだけど‥」
ユリアの言葉はそこで一度途切れ、そして絞り出すような声で「いろんな人に見られちゃったと思う」と言った。
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ぽかんと浮かぶ白い雲の下、九条と鴨志田はベランダで煙草を吹かしていた。遠目には皇居が見え、振り向くとガラス越しにユリアを慰めるハルの姿が見える。
「ひどい野郎だな」
鴨志田が九条を覗き込む。九条は無言だ。何か妙な感じがする‥何かが引っかかっていた。
「どうした?九条ちゃん」
鴨志田の言葉に「いえ、別に」と生返事をしつつ、心の奥に生じた違和感の正体を探っていた。
煙草を吸い終わった二人が部屋に戻ると、ユリアに話すハルの言葉が聞こえた。
「気持ちは分かる」
「‥」
「でも、死ぬことを選ぶのは違うと思う」
「‥」
ハルも言葉を探り慎重に話しているようだ。
「いっこ、聞きたいことがある」
「えっ?」
「なんで、鴨志田さんに連絡したの?」
「‥」
「迷ってたんでしょ?」
「‥」
「もしかして、止めてほしかったんじゃないの?」
「‥そうかも」
「ずるいよ、それ」
「えっ?」
「確かにユリアさんの状況は辛いと思う。でも、それはやっぱりユリアさんの問題。もし誰かに頼りたいんだったら、もっとちゃんと頼るべきだと思う。電話で鴨さんにさよならとか言うの自分勝手だよ」
ハルの言っていることはもっともだ。九条はそう思いながら‥でも、この状況のユリアには厳しすぎる言葉だと感じていた。鴨志田が割って入る。
「まあ、俺もびっくりしたけど‥あの時、俺を頼って連絡をくれたからさ、こうしてまた話ができるわけだし」
「でもね、ユリアさん」
ハルは鴨志田の言葉をスルーして続ける。
「私、人間ってやっぱり最後は一人だと思う。自分だけだと思う。自分の力でしか生きていけないと思ってる。けど‥」
ハルはそこで言葉を区切ると、ユリアに顔を近づけた。
「けど、人は弱いから。誰かに‥何かに頼ったりするのは全然いいと思う。私も、私を見つけてくれた鴨さんを頼った。鴨さんやみんなの力が無ければ全然だめだと思う。でも、頼った責任は絶対あると思うから、そこは守ってるつもり。頼った人たちを最後まで裏切らない。そうじゃないと、その人たちまで辛い想いをすると思う」
九条は先日改札口で涙したハルを思い出した。
-そうか‥あの時の涙はそういうことなのか-
ハルの周りに集まって来るファンの子たちは、皆それぞれに問題を抱えている。が、ハルの歌に何かを感じ前向きな‥生きる意味を模索している。そんなハルの歌を慕うファンの中の一人が、自ら死を選んでしまった‥ハルは、自分の歌の無力さを叩きつけられた感じがしたのだろう。
-ハルだって弱いんだ‥-
九条はハルの横顔を見ながらそんなことを思い、そしてふとテーブルの上に置かれたユリアのスマホ画面が視界に入った時、頭の中で何かが弾けた。ずっとまとわりついていた違和感‥その正体が分かったからだ。
-俺は、この男を知っている!-
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