九条Dの完パケ -傷だらけの天使たち-

麻美拓海

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act-23 思わぬ再会

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ユリアの家を出た3人は四ツ谷駅前にあるLという喫茶店に入った。通された席に腰を下ろした九条にハルが言った。

「九条さん。どうしたの?なんか変だよ」

相変わらず勘のいいやつだ。「え?何、どうしたの?」と鴨志田に問いかけられ、九条は話す決心がついた。
相手が相手だけに迷っていた‥が、黙っていても意味はない。

「実は俺、ユリアの写真の男知ってるんです」

予想外の言葉に鴨志田とハルが声を失う。しばしの間の後「どういうこと?」とハルが口を開いた。

「以前渋谷で、アスカが妙な男たちに囲まれてた時に見かけた奴だと思うんです」

そうなのだ。アスカから「助けて」のメールをもらい駆けつけた店で、佐伯と一緒にアスカの隣に座っていたドレッドヘアの男‥あいつに間違いない。

「やばそうな奴?」

鴨志田が聞いてきた。

「あの辺で幅をきかせている連中の1グループでしょう。ただ、リーダーの佐伯って男はバンドもやっている‥まあ一応話せる奴で、ユリアの元カレはその佐伯グループの一人のような感じでしたね」
「でもさ、その人だって判明しても何もできることないよね」

ハルの言葉はもっともだ。ただ記憶をたどると、九条はドレッドヘアの男に不思議と悪い印象が無い。九条にナイフを向けた佐伯はともかく、分かりやすい悪態をついていた鼻ピアスの男や、周りのその他大勢連中とはなんとなく違った雰囲気があった。そう言えばあの男の声に覚えがない。最後まで無言だったような気がする‥

「それとも九条さん、何か考えがあるの?」

黙っている九条にそうハルは言うが妙案があるわけではない。ただ、あの男がそんなに悪い奴ではないような気がするだけだ。少なくとも、ユリアを貶めるためにあんなことをするような男には思えない。そこが引っかかっていた。
だが、その読みが当たっていたとしてそれが何になる?胸の内では「深入りするな、お前の役割ではないぞ」の声が警笛を鳴らしている‥

「ねえ、九条さん」

ハルが九条の顔を覗き込んだ。

「その佐伯って人に会えないかな?」
「えっ?」
「で、ユリアさんの元カレと話がしてみたい」

おそらくハルにもその先の答えはないのだろう。だが、行動することで何か打開策を掴もうとしている‥ユリアのために。
「よせ!」という心の声に背いて九条は言った。

「いや、ハルが話すような連中じゃない。俺が行ってくる」

***********************************

ハル、そして「俺も行く」と言う鴨志田を説得し二人と別れた九条は、四谷駅から電車に乗り渋谷に向かっていた。

-俺に会いたくなったら、いつでもこの店に来いよ-

アスカを迎えに行った夜、九条に向かって佐伯はタメ口でそう強がった。が、九条は佐伯が嫌いではなかった。取材対象として面白い奴だと感じていたし、妙に人を惹きつける魅力を持った男だった。
時刻は18時。この時間に佐伯やあのドレッドヘアの男がいる確証はない。しかし、まずはとにかくあの店で奴らがくるのを待つ。今の九条にできることはそれだけだった。

雑居ビル。狭いエレベーターを4階で降りると、九条はためらわず店の扉を開けた。客はまばらだ。佐伯たちがいないことはすぐに分かった。九条はカウンターに腰掛けるとビールを注文した。返事もなく一瞥するかのような視線を向けてきたのは、先日いたあの無愛想なバーテンだ。考えてみれば、来るか来ないか分からない相手を待ち続けるのはかなりキツい。馴染みの店ならまだしも、このアウェイ感と居心地の悪さに先が思いやられた‥が、待ち人は思いがけず早く現れた。

「あれ?あんた、いつかのディレクターじゃね?」

九条が三杯目のビールを飲み干した時、店の扉を開けぞろぞろと入ってきた集団の一人が、カウンターに座る九条を見て声をかけてきた。視線を向けるとギターケースらしきものを持った佐伯が立っていた。

「何だよ、もしかして俺に会いたくなっちゃった?」

馴れ馴れしい口調で佐伯は九条の顔を覗き込むと「一人?寂しいじゃん。あっちで俺たちと飲もうよ」と言ってきた。

-いた!あいつだ。写メの男‥ユリアの元カレに間違いない-

佐伯の背後にいる三人の男の中、九条はドレッドヘアを確認すると「ああ。オマエを待ってたんだ」と答えた。佐伯は一瞬驚いた表情をしたが「嬉しいじゃん」と人懐っこい笑顔を九条に向け、バーテンに「人数分、ビール!」と叫びながら奥のボックス席に向かった。ドレッドヘアたちもその後に続く。

「思い出した!あんたの名前、まー君‥じゃなかった?」

染みだらけのソファに腰掛けると、バーテンからビールを受け取りながら佐伯はそう言った。

「オマエにそう呼ばれるのは耐えられそうもない」

九条はビールを掲げ「名刺渡したはずだぞ。九条だ」と言いながら佐伯とジョッキを合わせた。

「みんな、九条さんに乾杯だ」

佐伯の言葉に周りの連中のジョッキが一勢に差し出される。

「この前は悪かったな。水に流してくれ」

そう言いながらバツの悪そうな笑顔を向けるのは‥あの散々脅しをかけてきた鼻ピアスの男だ。丸テーブル、ソファーのボックス席。九条の両脇に佐伯と鼻ピアスが座り、その正面に初めて見る丸太のような腕をした男‥そしてその隣にあいつ、ドレッドヘアがいた。

「今日は最高に気分がいいんだ」

豪快にビールをあおると佐伯は九条にそう言った。

「何かいいことでもあったのか?」
「ライブさ。今、ガツンとかましてきた帰りよ」
「ほう、だいぶ盛り上がったようだな」
「ああ。対バンで俺たちがトップだったんだけど、マジ他のバンドの客取っちまったんじゃねーか、なぁ?」

佐伯がそう言うと、鼻ピアスと丸太腕が奇声をあげた。九条はその流れに乗ってこう切り出した。

「なるほど。ここにいるのは、オマエのバンドメンバーってわけだ。佐伯、ちゃんと紹介してくれよ」
「おーそうだな、悪かった。アンタの隣にいるこいつは‥」

佐伯はそう言いながら鼻ピアスを指差した。

「キーボードのコウヘイ。で、アンタの目の前にいるデカイ奴がドラムのユウジ。そして、その横が‥」

佐伯はドレッドヘアを指差しながら「ベースのキリトだ」と言った。

「よろしくです」

ドレッドヘア‥いや、キリトは外見からは想像できないような幼い声でそう言うと「そして、ボーカルでギターの佐伯さん」と続けた。それは媚を売る、という感じではなく、さりげなく佐伯‥バンドの顔を立てる配慮を感じるものだった。

「サンキュー、キリト。でも、もう俺はボーカルじゃないからな」
「でも、俺たちにとっては佐伯さんがボーカルですから」

キリトの言葉にコウヘイとユウジも頷く。が、九条にとってそんな話はどうでも良い。こいつ‥このキリトと話をつけなければならない。

「あ、九条さんよ。もう少ししたら、スゲー可愛い子が来るぜ。紹介するよ」

機嫌のいい佐伯に九条は生返事をしながら次の展開を思案していた。こいつらはまだシラフだ。その状態でとっとと決着をつけるべきか?それとも、もうちょっと付き合って奴らの酔いに便乗してタイミングを見て話を切り出すか‥

と、その時「遅れてごめんなさーい」と言う声が聞こえた。

「おう、待ってたぜ。今、スペシャルゲストと盛り上がってたんだ」
「えー、誰ですかぁ?」

その甘ったれた声に顔を向けた九条の目に、ショートカットで茶髪、いかにもロックバンドなファッションをした見知らぬ少女の姿が飛び込んできた。

「ああ、どうも‥」

そう言いかけた九条は言葉を失った。

「‥九条さん」
「ミ‥ミチル!?」
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