九条Dの完パケ -傷だらけの天使たち-

麻美拓海

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act-24 ミチルの変貌

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「ちょっと待ってくれ。アンタ、ミチルと知り合いなのか?」

佐伯の言葉は聞こえている‥が、九条は返答出来ずにいた。状況が把握できない。何故ここにミチルが?

「まあ、ミチル。とりあえず座れよ」

九条同様、言葉を失っていたミチルは佐伯に促されキリトの隣に腰を下ろした。

「いつものやつでいいか?」

ミチルが頷くと、佐伯はカウンターに向かって「トマトジュース」と叫んだ。
思いもよらぬミチルとの再会、それ自体が驚きだ。もちろん、まるで変わってしまった髪型やファッションにも驚いた。が、それよりその直前に聞いた「えー、誰ですかぁ?」の声が九条を困惑させていた。ミチルは‥今、店を出て外に行けば通りをいくらでも飛び交っている‥そんな甘ったるい言葉を発するヤツではない。少なくともそんなミチルを九条は知らない。

「よっしゃ。もう一度乾杯だ」

バーテンからトマトジュースを受け取ると、それをミチルに手渡し佐伯はそう言った。皆が杯を上げる動作につられ九条とミチルがグラスを合わせると、コウヘイが「ミチル、この人とどんな関係なんだ?」と直球の質問を浴びせかけた。ミチルが返答に窮していると、佐伯が口を挟んだ。

「俺、何となく読めたぜ」

ミチルに向けられていた全員の視線が佐伯に行く。

「あのハルって歌手の関係じゃねーの?九条さん、あの子の番組作るんで取材してるって言ってたじゃん?アンタみたいなおっさんが、この間の‥アスカだっけ?とか、ミチルのような若い奴らと知り合うのってそれ以外考えられない」

-こいつ、鋭いな-

佐伯は続けて「あっ、援交って線もあるか」と笑った。

「佐伯さん、アスカちゃん知ってるの?」

ミチルの問いかけに、佐伯は先日の件をかいつまんで話した。ミチルはチラッと九条の顔を見て‥そしてこう言った。

「佐伯さんの言うとおり、ハルちゃんの取材で九条さんと会ったの。私、ずっとハルちゃんの追っかけやってたから」

佐伯の「ほらな」に続き、コウヘイの一言はあまりに唐突だった。

「ハルって言えばキリト、オマエの元カノその子のファンじゃなかった?」

九条は思わずキリトを見る。

「コウヘイさん、もうあの子の話は無しで」
「オマエ、フラれたんだっけ?」
「勘弁してくださいよ」

二人のやりとりに佐伯が口を挟む。

「ちょっと待て。そんな話、聞いてないぞ」

九条は頭をフル回転させ、状況の把握と取るべき言動を整理していた。あくまでこの店に来た目的はユリアの一件だ。今、まさにその話が目の前にぶら下がっている。が、まずは佐伯グループとミチルの関係だ。

「で、佐伯。オマエ達とミチルはどんな関係なんだ?」

九条の言葉に佐伯がニヤリと笑う。視界の片隅でミチルが顔を伏せた。

「知り合いも何も、ミチルは俺たちのバンドのボーカルさ」

ミチルが佐伯のバンドのボーカル‥? どういうことだ?
佐伯の言葉の意味が理解出来ず、思わず九条はミチルを見た。その瞬間、ミチルは立ち上がり「佐伯さん、ゴメン。後でメールする」と言うと踵を返し店の出口へと向かった。

「なんだ?どうしたミチル」

驚く佐伯に九条は顔を近づけ言った。

「必ず戻るから任せてくれ」
「はぁ?」
「俺を信用しろ」

佐伯の返事は聞かず九条は席を立つと、ミチルの後を追った。
店のドアを開け外に出ると、エレベーターの表示が2Fを示している‥九条は舌打ちをすると階段を駆け下りた。息切れしながら一階に着くと、表通りを見回す。店に来た時間と違い、センター街は人で溢れかえっていた。九条はその喧騒の中、駅に向かう人混みに見え隠れするミチルの背中を見つけた。

「ミチル!」

その声に不審な視線が向けられるが、九条は構わず彼女の名を呼びながら走った。小さな背中が立ち止まり振り返る。

「九条さん」

呟くようなその声は、九条が知っているあの弱々しいミチルだった。





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