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師匠と死神と最強と
第5話 あの酒は腐っておったな
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「なぁ、じいさん」話を聞いていた店員が、「大戦の死神、ってなんだ?」
「大戦の死神とは、かつての戦争で大暴れした魔物の名称だ」老人は語りはじめる。どうやら何か喋りたいタイプの人間らしい。「魔族の拠点となった城……その入口に陣取った魔物だ。無数の屍を積み上げ、ついた異名が死神」
「ふぅん……」店員はグラスを洗いながら、「そんなバケモノなら、もっと有名でもおかしくないけどな」
「死神の名そのものは、そこそこ有名だとは思うが……まぁ、たしかに物足りない知名度だな。しかし、ほぼ未確認生命体だからな。架空の存在とするものもいる」
「未確認生命体?」
「ああ。その場所に死体が積み上げられているのは確認されている。しかし……その死神の姿を見たものは今、勇者グランをおいて他にいない」
「勇者グランって言えば……10年前に魔王を討伐して、戦争を終わらせた英雄だよな」
「ああ。しかし、そのグランが死神については語ろうとしない。そのことからも、人間たちの恐怖によって生み出された架空の生き物である可能性が囁かれている」
ふぅん、と店員は言う。興味があるのか、客に適当に話を合わせているのかはわからない。
「未確認なのは……そいつに向き合ったやつは例外なく殺されてたって事か?」
「その通り。死神の姿を確認して、生き残ったのはグランのみ。しかしそのグランが死神について語りたがらない。だから、死神の正体を知るものはこの世にグランしかおらん」
「ふむ……死体の山だけが確認されてたってことか。そんで、その場所には死神がいるんじゃないかって噂になったわけだ」
「ああ」老人は酒を一杯飲んで、「死神の居場所は魔族の総本山。その場所にたどり着いた時点で、その人間は最高クラスの武勇を備えている」
「……だったら」店員はエトワールを見て、「こいつの両親は英雄だったわけだ」
「だろうな。今で言えば、ディビジョンA以上は確定的だろう」
「ディビジョンか……戦争が終結してからできた、強さの指標だよな」
「本人の強さが大きく関係しているのはたしかだがな……強さのみでランクは決まらん。統率力やカリスマ性……いろいろと総合してランク付けされる」
「なるほどねぇ……」
会話を続けようとした店員が、他の客に呼ばれる。店員はエトワールたちに軽く頭を下げて、他の客の対応に回った。
エトワールはオレンジジュースに口をつけて、
「物知りのおじいさん。少し質問があります」
「なんじゃ?」
「メル・キュールって言う人について、なにか知っていますか?」
「メル・キュール……ふむ。少し前にこの町に現れた女侍か……奴がどうした?」
「会ってみようと思うんですけど……どんな人なのかなって」
「ふむ……腕が立つのは確かなようだが……どうにも情報が少ない。どうやらかなり人付き合いが苦手みたいじゃな」
人付き合いが苦手。その情報はエトワールのイメージとも一致する。たしかにメル・キュールはエトワールを助けてくれたが、結局まともなコミュニケーションは取れなかった気がする。
「はっきり言って、避けられておるよ。あの姿も手伝って、お主のように彼女に近寄ろうとする人間は少ない」
「あの姿……」
左腕がなく、右足は簡素な義足。
「戦争で失ったのだろう」老人は酒を飲み干して、「あの実力、年齢、雰囲気……戦争を経験した人間であることは間違いない」
戦争で失ったものがあるというのは、エトワールと共通しているところだ。なんだかエトワールは勝手に、メル・キュールという人物に親近感を抱いていた。彼女の身体が戦争で失われたのか、まだ確定はしていないけれど。
エトワールは聞く。
「メル・キュールさんと会ったことがあるんですか?」
「何度かある。こないだ酒を差し入れてやった。やってから気づいたが、あの酒は腐っておったな」
エトワールは顔を歪めて、
「それは……」
「美味しそうに飲んどったな。ありゃ相当なバカ舌じゃ。良い酒を持っていくのはもったいない」
「……大丈夫だったんですか?」
「バカ舌とついでに、鉄の胃袋も持っているようじゃ。あの様子じゃ毒を直接食ってもケロッとしているだろうな」
なんだかエトワールのイメージとは違った。かなり繊細そうな雰囲気を持っていたが、胃袋は鉄でできているらしい。そしてバカ舌らしい。さらに腐った酒をもらっていたらしい。もはや嫌がらせだった。
「メル・キュールのところに行くのか?」
「はい。そのつもりです」
「ならばこれを持っていけ」老人は店の酒瓶を1つ購入して、「前回の酒が腐っていたお詫びだと伝えてくれ」
「……」
「そんな顔をするな。今回は腐っとらん」お店の並んでいた以上そうだろうけれど。「酒は好きなようだからな……持っていけば喜ぶだろう」
そんなこんなで、エトワールはお酒を手に入れた。手土産としては悪くないかもしれない、とエトワールは思った。
相手の機嫌が良くなれば、自分のお願いも通りやすくなるかもしれない。
「大戦の死神とは、かつての戦争で大暴れした魔物の名称だ」老人は語りはじめる。どうやら何か喋りたいタイプの人間らしい。「魔族の拠点となった城……その入口に陣取った魔物だ。無数の屍を積み上げ、ついた異名が死神」
「ふぅん……」店員はグラスを洗いながら、「そんなバケモノなら、もっと有名でもおかしくないけどな」
「死神の名そのものは、そこそこ有名だとは思うが……まぁ、たしかに物足りない知名度だな。しかし、ほぼ未確認生命体だからな。架空の存在とするものもいる」
「未確認生命体?」
「ああ。その場所に死体が積み上げられているのは確認されている。しかし……その死神の姿を見たものは今、勇者グランをおいて他にいない」
「勇者グランって言えば……10年前に魔王を討伐して、戦争を終わらせた英雄だよな」
「ああ。しかし、そのグランが死神については語ろうとしない。そのことからも、人間たちの恐怖によって生み出された架空の生き物である可能性が囁かれている」
ふぅん、と店員は言う。興味があるのか、客に適当に話を合わせているのかはわからない。
「未確認なのは……そいつに向き合ったやつは例外なく殺されてたって事か?」
「その通り。死神の姿を確認して、生き残ったのはグランのみ。しかしそのグランが死神について語りたがらない。だから、死神の正体を知るものはこの世にグランしかおらん」
「ふむ……死体の山だけが確認されてたってことか。そんで、その場所には死神がいるんじゃないかって噂になったわけだ」
「ああ」老人は酒を一杯飲んで、「死神の居場所は魔族の総本山。その場所にたどり着いた時点で、その人間は最高クラスの武勇を備えている」
「……だったら」店員はエトワールを見て、「こいつの両親は英雄だったわけだ」
「だろうな。今で言えば、ディビジョンA以上は確定的だろう」
「ディビジョンか……戦争が終結してからできた、強さの指標だよな」
「本人の強さが大きく関係しているのはたしかだがな……強さのみでランクは決まらん。統率力やカリスマ性……いろいろと総合してランク付けされる」
「なるほどねぇ……」
会話を続けようとした店員が、他の客に呼ばれる。店員はエトワールたちに軽く頭を下げて、他の客の対応に回った。
エトワールはオレンジジュースに口をつけて、
「物知りのおじいさん。少し質問があります」
「なんじゃ?」
「メル・キュールって言う人について、なにか知っていますか?」
「メル・キュール……ふむ。少し前にこの町に現れた女侍か……奴がどうした?」
「会ってみようと思うんですけど……どんな人なのかなって」
「ふむ……腕が立つのは確かなようだが……どうにも情報が少ない。どうやらかなり人付き合いが苦手みたいじゃな」
人付き合いが苦手。その情報はエトワールのイメージとも一致する。たしかにメル・キュールはエトワールを助けてくれたが、結局まともなコミュニケーションは取れなかった気がする。
「はっきり言って、避けられておるよ。あの姿も手伝って、お主のように彼女に近寄ろうとする人間は少ない」
「あの姿……」
左腕がなく、右足は簡素な義足。
「戦争で失ったのだろう」老人は酒を飲み干して、「あの実力、年齢、雰囲気……戦争を経験した人間であることは間違いない」
戦争で失ったものがあるというのは、エトワールと共通しているところだ。なんだかエトワールは勝手に、メル・キュールという人物に親近感を抱いていた。彼女の身体が戦争で失われたのか、まだ確定はしていないけれど。
エトワールは聞く。
「メル・キュールさんと会ったことがあるんですか?」
「何度かある。こないだ酒を差し入れてやった。やってから気づいたが、あの酒は腐っておったな」
エトワールは顔を歪めて、
「それは……」
「美味しそうに飲んどったな。ありゃ相当なバカ舌じゃ。良い酒を持っていくのはもったいない」
「……大丈夫だったんですか?」
「バカ舌とついでに、鉄の胃袋も持っているようじゃ。あの様子じゃ毒を直接食ってもケロッとしているだろうな」
なんだかエトワールのイメージとは違った。かなり繊細そうな雰囲気を持っていたが、胃袋は鉄でできているらしい。そしてバカ舌らしい。さらに腐った酒をもらっていたらしい。もはや嫌がらせだった。
「メル・キュールのところに行くのか?」
「はい。そのつもりです」
「ならばこれを持っていけ」老人は店の酒瓶を1つ購入して、「前回の酒が腐っていたお詫びだと伝えてくれ」
「……」
「そんな顔をするな。今回は腐っとらん」お店の並んでいた以上そうだろうけれど。「酒は好きなようだからな……持っていけば喜ぶだろう」
そんなこんなで、エトワールはお酒を手に入れた。手土産としては悪くないかもしれない、とエトワールは思った。
相手の機嫌が良くなれば、自分のお願いも通りやすくなるかもしれない。
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