伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

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第三章 学園編

第85話 転がっているのは問題ばかり

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 翌日の事、学園で過ごしていると、昼休みに面会があると言って応接室に呼び出された私。何事かと思って向かうと、そこに居たのはボンジール商会のギーモだった。その顔を見ると、何やら深刻そうに見える。何があったのやら……。
 事情を聴いてみれば、車椅子用の魔石の作り方がよく分からないという事らしい。まあ、前世知識を持ち合わせているのは、現状では私と隣国のエスカの二人だけですものね。動作が理解できても、それを魔法として魔石に覚え込ませる事は難しいのだ。そのためには車椅子の動きを完全に理解し、その属性を持つ魔法使い全員で一斉に魔法を込めなければならないという制約があるためだ。結局、私以外では現状再現不可能というわけである。なってこったい。
 結局、暖房とコンロと照明の魔石以外は、私以外では作れる人を育てるところから始めないといけないらしい。魔石ペンは母親がようやくまともに作れるようになったんだけれどね。まぁ実に便利なものも最初は面倒なものなのだわよ。
(うーん、結局のところ風魔法で全部どうにかなるんだけれどね。こればっかりはちゃんと仕組みを教え込まないと無理かぁ……)
 そんなわけで、当面の間は魔石は全部私が用意する事にした。とりあえず作成するのは100個かしらね。それくらいあれば、しばらくはもつでしょう。足の悪い人なんて知れてるでしょうしね。あと立ち上がっている時用に松葉杖のようなものも作っておきましょうか。うん、そうしましょう。
 話がまとまり、ギーモは魔石100個をファッティ家まで届ける事になった。私は学生だから、午後の授業はちゃんと受けるわよ。あの時はリブロ王子の事があったから、仕方なくさぼったのよ。
 そんな話があったせいで、私はお昼を食い損ねてしまった。ギーモったらしつこかったわね。
「そういえば、隣国のアーサリー殿下ってばどうしてるのかしらね。最近、見た覚えがないんだけど……」
 あれだけ意気込んでやって来たアーサリー王子だけど、最初の方にちょくちょく見た以降は、ほぼ見かけないのだ。そこで、同じ武術系に進んだサクラを捕まえて話を聞く事にした。
「アーサリー殿下でしたら、普通に授業に出てますよ」
 サクラからの返答では、普通に学校生活を送っているらしい。
「フィレン殿下をかなりライバル視しているようで、もの凄く気合いが入っているようですけれど、侍従の方が厳しい方のようでして、授業以外の行動はほぼ彼の監視下にあるようです」
 なんともまぁ、行動を完全にコントロールされているらしい。城でも会わなかったのはそのせいなのかしらね。
「クラス分けの際にあれだけ騒いだ事が原因でしょうね。アンマリア様に窘められた後、侍従の方にもこってり絞られていたようですから」
「あははは……、自業自得ってやつかしらね」
 私は顔を引きつらせて笑っていた。ざまあ見ろと言いたいけれど、エスカの兄って事もあってちょっと複雑だった。ま、おとなしくしてくれてるんだったら別にいいんだけどね。
「サクラ様、教えてくれてありがとう」
「いえ、アンマリア様が望まれるのでしたら」
「ストップ、それ以上言わないで!」
 サクラが口にしようとした言葉を、私は思い切り遮る。
「確かに私は王子たちの婚約者よ。でも、今はまだただの伯爵令嬢。サクラ様の方がまだ身分的には上ですから、私のためとか言わないで下さい。状況を教えてくれるだけで、それだけで十分ですから、ね?」
 私はまだまだまん丸としている顔でにこりと微笑む。正直、今の顔がどんだけ不細工なのかは分からない。でも、それでも精一杯安心させようと笑った。サクラは無表情で私の顔を見ている。
「分かりました。ですが、あまりにも目に余る場合には……」
「だからやめてって! ミール王国との国際問題にするつもり?!」
 サクラがどこか脳筋的に話し続けるものだから、私はとにかく全力で止めた。頼むから人の気持ちを汲んでちょうだいよ……。サクラから慕われているのはいいんだけど、なんでここまで短絡的な考え方になってしまっているのかしら。以前はもっとこう柔軟だったはずなのに、どうして……。
 どうしてもアーサリーを処そうとするサクラを必死に説得して、私は疲れ果てた状態で帰宅する。
 家に戻って館に足を踏み入れると、母親とばったり出くわした。
「あら、アンマリア。ボンジール商会から荷物を預かっているわよ」
「本当ですか、お母様」
 どうやら昼休みに呼び出された際に頼んでおいた魔石が届いているようである。
「ええ、使用人に部屋まで運ばせておいたから、確認するといいわ」
「あ、ありがとうございます」
 母親の言葉に私はお礼を言っておく。
 お昼は食いっぱぐれ、精神的にも疲れた体に鞭打ち、私は自室へと向かう。そこには確かに、魔石が大量に入った木箱が置かれていた。
「さて、お腹空いてる上に疲れたけれど、ちゃちゃっとやっちゃいますかね」
 スーラに紅茶とお菓子を用意させた私は、ボンジール商会から運ばれてきた100個の魔石にひとつひとつ車椅子用の魔法を込めていったのだった。
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