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第三章 学園編
第115話 人って噂好きなんですよ
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翌日、国王と王妃に挨拶をして、エスカはミール王国へと帰還する事になった。
朝は学園へ向かう私やモモとは違う馬車に乗り込んでいた。父親が仕事に向かう馬車に同乗しているのである。方向が同じならば便乗してしまえという事のようだ。
ここ数日間、私と同行して少しはマシになったと思いたいエスカだけれども、正直、昨夜の様子を見ている限りは変化が見られたものではなかった。それに加えて、夏の時期にあるリブロ王子の誕生日に合わせてまた来るつもりでいるらしい。一国の姫が他国の王子の誕生日だからといってホイホイと出掛けていくのもなんだろうかと思う。まあ、両国の友好のためといえば言い訳は立つのだろう。
あっ、そういえば、エスカの誕生日を聞き忘れたわね。一体いつなのかしら。
私はそんな事を思いつつ、父親たちの乗った馬車と別れて学園へ向かったのだった。
学園に着いた私たちは、馬車を降りて歩き始める。すると、何やらこっちを見て噂をしている生徒たちの姿が見えた。どう考えても昨日の誕生パーティーが原因だった。
(まったく、国王がとんでもない事をさらっと言ってのけたから、もう学園中の噂になってるじゃないのよ!)
それにしても、人を見ながらこそこそと話をされるのは本当に頭に来る。そのせいで私は、額に青筋を浮かべてしまっている。まったく、余計な事をしてくれたと思っている。
「はあー……、誰が治したかなんて伏せてくれればよかったのに。なまじ婚約者になっているからって、実名出していいと思ってるのかしら……」
「お姉様、声に出てますよ」
モモにツッコミを入れられて、私はハッとした。国王の悪口なんて言ってしまえば、不敬に問われても文句は言えない。私は慌てて周りを確認する。しかし、どうやら私の呟きを聞いていたのはモモだけだったようだので、私はつい安心して胸を撫で下ろしていた。
「おはようございます、アンマリア様」
安心したのも束の間、後ろから突然声を掛けられて、私はつい奇声を上げてしまった。
「あっ、驚かせて申し訳ございません、アンマリア様……」
振り返った場所に立っていたのはサキだった。私が奇声を上げた事に驚いたサキは、今にも泣きそうな顔をして私を見ていた。
「お、おはようございます、サキ様。これは大変失礼致しましたわ。ちょっと考え事をしていたので、つい大げさに驚いてしまいましたの」
これ以上サキを泣かせないように宥めるために、挨拶を返した私は一生懸命取り繕っていた。
(これも全部あの国王のせいですわ!)
宥めながらも私はここの中でそう叫んでおいた。半分八つ当たりである。
「やあ、アンマリア。昨夜はよく眠れたかい?」
落ち着いたと思ったら、今度はフィレン王子が現れる。王子とその婚約者が揃った事で、また周りが騒ぎ始めてしまった。本当に忙しい連中だわね。
「フィレン殿下。おかげさまで落ち着いて夜は眠れましたわ」
「そうかい。すまなかったね、父上がまさか全部話してしまうとは思わなかったよ」
「ええ、まったくですわよ!」
すまなさそうに話し掛けてくるフィレン王子に、私はたくさんの青筋を浮かべてフィレン王子に刺々しく返した。いや、フィレン王子に当たっても仕方ないんだけれどね。ふつふつと思い出していたら怒りが収まらないというか何というか……。
「まったく、私の方からも父上には苦言を申しておいたよ。せめてリブロの誕生日にリブロの口から言わせればよかったのに……。本当に申し訳ない」
フィレン王子が頭を下げている。いや、ここ周りの目があるんですけれど?! やめて下さい、王子。嫉妬で死んでしまいます!
「か、顔を上げて下さい、フィレン殿下。ここは学園内の往来です。そんな事をされては、王子に頭を下げさせた女って事でまた変な噂が立ってしまいます!」
もう私も何を言っているのか分からない。そのくらいの事態に私は混乱を極めていた。
すると、予鈴を報せる鐘の音が鳴り響く。私はこれ幸いにと、モモの手を引く。
「フィレン殿下、お気持ちは確かに受け取りましたわ。でも、早く行かないと授業に遅れてしまいますので、ここでごきげんよう!」
まだまだ100kgを超える体格の私だけれども、軽やかにモモの手を引きながら校舎の中へと駆け込んでいった。
「あ、フィレン殿下。私もこれで失礼致します」
「ああ、そうだね。騒がしくさせてしまってすまなかった」
サキもフィレン王子に頭を下げると、
「待って下さい、アンマリア様ーっ!」
私の後を追って走り出したのだった。
「やれやれ、これじゃアンマリアのご機嫌を直すのは苦労するよ。父上は本当に余計な事をしてくれたものだな」
私たちの後ろ姿を見送ったフィレン王子は、頭をぐしゃっと掻き上げると自分の教室の方へ向かって歩き始めた。
その後の私だけれども、散々クラスメイトたちから根掘り葉掘り聞かれまくって、ものすごく意気消沈してしまっていた。それでも質問攻撃が止まらないので、いよいよ公爵令嬢のラムまでもがやって来て擁護に回ってくれた。
こうして、学園の授業が終わる頃には、私はすっかりくたくたに疲れ切ってしまっていたのだった。……エスカの相手よりきついわよ。
朝は学園へ向かう私やモモとは違う馬車に乗り込んでいた。父親が仕事に向かう馬車に同乗しているのである。方向が同じならば便乗してしまえという事のようだ。
ここ数日間、私と同行して少しはマシになったと思いたいエスカだけれども、正直、昨夜の様子を見ている限りは変化が見られたものではなかった。それに加えて、夏の時期にあるリブロ王子の誕生日に合わせてまた来るつもりでいるらしい。一国の姫が他国の王子の誕生日だからといってホイホイと出掛けていくのもなんだろうかと思う。まあ、両国の友好のためといえば言い訳は立つのだろう。
あっ、そういえば、エスカの誕生日を聞き忘れたわね。一体いつなのかしら。
私はそんな事を思いつつ、父親たちの乗った馬車と別れて学園へ向かったのだった。
学園に着いた私たちは、馬車を降りて歩き始める。すると、何やらこっちを見て噂をしている生徒たちの姿が見えた。どう考えても昨日の誕生パーティーが原因だった。
(まったく、国王がとんでもない事をさらっと言ってのけたから、もう学園中の噂になってるじゃないのよ!)
それにしても、人を見ながらこそこそと話をされるのは本当に頭に来る。そのせいで私は、額に青筋を浮かべてしまっている。まったく、余計な事をしてくれたと思っている。
「はあー……、誰が治したかなんて伏せてくれればよかったのに。なまじ婚約者になっているからって、実名出していいと思ってるのかしら……」
「お姉様、声に出てますよ」
モモにツッコミを入れられて、私はハッとした。国王の悪口なんて言ってしまえば、不敬に問われても文句は言えない。私は慌てて周りを確認する。しかし、どうやら私の呟きを聞いていたのはモモだけだったようだので、私はつい安心して胸を撫で下ろしていた。
「おはようございます、アンマリア様」
安心したのも束の間、後ろから突然声を掛けられて、私はつい奇声を上げてしまった。
「あっ、驚かせて申し訳ございません、アンマリア様……」
振り返った場所に立っていたのはサキだった。私が奇声を上げた事に驚いたサキは、今にも泣きそうな顔をして私を見ていた。
「お、おはようございます、サキ様。これは大変失礼致しましたわ。ちょっと考え事をしていたので、つい大げさに驚いてしまいましたの」
これ以上サキを泣かせないように宥めるために、挨拶を返した私は一生懸命取り繕っていた。
(これも全部あの国王のせいですわ!)
宥めながらも私はここの中でそう叫んでおいた。半分八つ当たりである。
「やあ、アンマリア。昨夜はよく眠れたかい?」
落ち着いたと思ったら、今度はフィレン王子が現れる。王子とその婚約者が揃った事で、また周りが騒ぎ始めてしまった。本当に忙しい連中だわね。
「フィレン殿下。おかげさまで落ち着いて夜は眠れましたわ」
「そうかい。すまなかったね、父上がまさか全部話してしまうとは思わなかったよ」
「ええ、まったくですわよ!」
すまなさそうに話し掛けてくるフィレン王子に、私はたくさんの青筋を浮かべてフィレン王子に刺々しく返した。いや、フィレン王子に当たっても仕方ないんだけれどね。ふつふつと思い出していたら怒りが収まらないというか何というか……。
「まったく、私の方からも父上には苦言を申しておいたよ。せめてリブロの誕生日にリブロの口から言わせればよかったのに……。本当に申し訳ない」
フィレン王子が頭を下げている。いや、ここ周りの目があるんですけれど?! やめて下さい、王子。嫉妬で死んでしまいます!
「か、顔を上げて下さい、フィレン殿下。ここは学園内の往来です。そんな事をされては、王子に頭を下げさせた女って事でまた変な噂が立ってしまいます!」
もう私も何を言っているのか分からない。そのくらいの事態に私は混乱を極めていた。
すると、予鈴を報せる鐘の音が鳴り響く。私はこれ幸いにと、モモの手を引く。
「フィレン殿下、お気持ちは確かに受け取りましたわ。でも、早く行かないと授業に遅れてしまいますので、ここでごきげんよう!」
まだまだ100kgを超える体格の私だけれども、軽やかにモモの手を引きながら校舎の中へと駆け込んでいった。
「あ、フィレン殿下。私もこれで失礼致します」
「ああ、そうだね。騒がしくさせてしまってすまなかった」
サキもフィレン王子に頭を下げると、
「待って下さい、アンマリア様ーっ!」
私の後を追って走り出したのだった。
「やれやれ、これじゃアンマリアのご機嫌を直すのは苦労するよ。父上は本当に余計な事をしてくれたものだな」
私たちの後ろ姿を見送ったフィレン王子は、頭をぐしゃっと掻き上げると自分の教室の方へ向かって歩き始めた。
その後の私だけれども、散々クラスメイトたちから根掘り葉掘り聞かれまくって、ものすごく意気消沈してしまっていた。それでも質問攻撃が止まらないので、いよいよ公爵令嬢のラムまでもがやって来て擁護に回ってくれた。
こうして、学園の授業が終わる頃には、私はすっかりくたくたに疲れ切ってしまっていたのだった。……エスカの相手よりきついわよ。
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