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第四章 学園編・1年後半
第178話 3回戦消化
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「さて、今度はタン様の試合ですわね。相手はシードされていた上級生で、ハシー・フォーク様という子爵令息らしいですわ」
私はエスカに説明をしている。エスカの方はサーロイン王国の貴族にはあまり興味が無いようである。
「エスカ王女殿下、そういえばアーサリー殿下はどちらに?」
よくよく思えばアーサリーが居ない事に今さらながらに気が付いた私は、エスカに状況を確認する。すると、
「アンマリアに負けたのがショックなのか、今日は城に引きこもってます。相手をさせられる騎士たちが可哀想だわ」
どうやら城から一歩も出ていないらしい。私に負けたのがそれほどショックだったようだ。変にプライドが高いところがあるので、まあ予想できた反応ではあった。
「実にもったいないですわね。レベルの高い戦いを目の前で見られるチャンスを、みすみす逃すだなんて」
「私も伝えたのですけれどね。……聞く耳を持たなかったわ」
さすがの思春期男子といった反応だった。
「お隣、よろしいですかな?」
その時、私たちに不意に声を掛けてくる男性が居た。私が見え上げて顔を確認すると、そこに居たのはサガリー・ハラミール騎士団長だった。
「これは騎士団長様。このような場所でお会いするとは光栄ですわ」
私は慌てて立ち上がって挨拶をする。
「堅苦しい挨拶は抜きで構わないよ、アンマリア嬢」
サガリーはそう言って、私を落ち着かせて座るように促しているようだ。それを察知して、私はおとなしく席に腰掛けた。
「サガリー騎士団長様、どうしてこちらに?」
「ミノレバー男爵家のご子息が参加されいると聞いて、見に来たのだよ。今日の午前中までは訓練に打ち込んでいたので来れなかったのだがね」
私の質問にすらすらと答えているサガリー騎士団長。体裁と整えたような言い方をしているが、単純にこういうわけだ。忘れていたのだ。
大体、最初の試合、特に今日の分からフィレン王子が出てくるのは分かっていたはずだ。そこに間に合っていないのだから、忘れていて慌てて来たという事に間違いないだろう。苦しい言い分けである。
「ふふっ、フィレン殿下も参加されておりますのに、ご失念でございますか?」
私はそう思ったので意地悪そうにツッコミを入れてみる。
「なっ、殿下もご参加でしたか?! これは痛恨の極み!」
サガリーは本気で悔しがっていた。ありゃ、これは本当に知らなかったっぽいようだ。なんでなのかしらね。
「くう……、でしたらなぜ殿下は私には教えて下さらなかったのだ。アンマリア嬢、後で教えて下され」
「え、ええ。わ、分かりましたわ」
あまりの圧に、私はそのように返事をしておいた。
さて、いよいよタンの試合が始まる。
「タンの相手であるハシー子爵令息だが、去年の剣術大会で上位4人に入った実力者だ。タンの実力は素晴らしいものがあるが、この剣術大会に出てくるものは、将来的に騎士団への入団を希望する者たち。一筋縄で勝てるような相手ではありません」
サガリーの説明を聞いて、私は負けた相手であるマークの事を思い出したのだが、そんなに思い出している猶予はなかった。なんでって、もう戦いが始まっているからよ。
ところがどっこい、タンの試合は実に一瞬で勝負がついた。
去年上位4人に入ったハシーが、あっという間に負けていたのである。
「なかなか鋭い一撃だな。本物の剣であったなら、真っ二つだったぞ」
そう、タンの剣がお腹に命中していたのだ。刃を潰した模擬剣だからこそ、相手は無事なのである。いやはや、夏の合宿の頃より腕を確実に上げてますわね。
勝ったタンは、会場の声援に簡単に手を振ってあっさりと退場していった。騎士団長には気が付いてないのかしらね。まあ、騎士団長もそんなに気にしている様子はないので、特に問題はないかしら。
そのタンと入れ替わるようにして、優勝候補の一人が闘技場に入ってきた。その人物はタンとグータッチをして爽やかに登場する。
サクラ・バッサーシ辺境伯令嬢である。
婚約者同士でグータッチとは、なかなかにやりますわね。
会場は、タンと時とは違い、一気に空気が重くなって静まり返る。サクラ・バッサーシの本気モードの空気に飲まれているのだ。
普段のサクラはご令嬢らしく優雅に振舞っているが、ひとたび戦闘モードに入れば、凛とした武人に早変わりするのだ。漫画なんかでよくある黒塗りの顔に鋭い目が片目だけ描かれている、まさにあんな感じの感覚になるのである。
この鬼のようなオーラを放たれたんじゃ、相手が可哀想というのがある。ちなみに相手は、1回戦で戦ったターレ・ヒデンの兄ミッソ・ヒデンである。
サクラのオーラに当てられたミッソは、もう膝が笑いまくっていて、立っているので精一杯といった感じである。
(ターレ、お前はよくこんな相手に戦えた。……俺には無理だ)
全身から冷や汗を流すミッソ。
「すまない、戦えそうにないので棄権する」
そして、あっさりと勝負を避けた。戦っていたとしても、一瞬で地べたに這わされるのが分かったからだろう。
「回避はいい判断ですな。あれでは勝負にならない」
「そうですわね。戦う前から完全に空気に飲まれていましたもの、仕方ありませんわ」
私とサガリーは、この判断を評価している。
一方のサクラは不戦勝になったせいか、ちょっと不機嫌そうな表情すら見せていた。そんな表情も、貴賓席に私の姿を見つけると、一気に笑顔になって手を振るくらいに吹き飛んでしまった。
その後も騎士団長が見守る中、残りの3回戦が消化され、学園祭の2日目は終わりを迎えたのだった。
私はエスカに説明をしている。エスカの方はサーロイン王国の貴族にはあまり興味が無いようである。
「エスカ王女殿下、そういえばアーサリー殿下はどちらに?」
よくよく思えばアーサリーが居ない事に今さらながらに気が付いた私は、エスカに状況を確認する。すると、
「アンマリアに負けたのがショックなのか、今日は城に引きこもってます。相手をさせられる騎士たちが可哀想だわ」
どうやら城から一歩も出ていないらしい。私に負けたのがそれほどショックだったようだ。変にプライドが高いところがあるので、まあ予想できた反応ではあった。
「実にもったいないですわね。レベルの高い戦いを目の前で見られるチャンスを、みすみす逃すだなんて」
「私も伝えたのですけれどね。……聞く耳を持たなかったわ」
さすがの思春期男子といった反応だった。
「お隣、よろしいですかな?」
その時、私たちに不意に声を掛けてくる男性が居た。私が見え上げて顔を確認すると、そこに居たのはサガリー・ハラミール騎士団長だった。
「これは騎士団長様。このような場所でお会いするとは光栄ですわ」
私は慌てて立ち上がって挨拶をする。
「堅苦しい挨拶は抜きで構わないよ、アンマリア嬢」
サガリーはそう言って、私を落ち着かせて座るように促しているようだ。それを察知して、私はおとなしく席に腰掛けた。
「サガリー騎士団長様、どうしてこちらに?」
「ミノレバー男爵家のご子息が参加されいると聞いて、見に来たのだよ。今日の午前中までは訓練に打ち込んでいたので来れなかったのだがね」
私の質問にすらすらと答えているサガリー騎士団長。体裁と整えたような言い方をしているが、単純にこういうわけだ。忘れていたのだ。
大体、最初の試合、特に今日の分からフィレン王子が出てくるのは分かっていたはずだ。そこに間に合っていないのだから、忘れていて慌てて来たという事に間違いないだろう。苦しい言い分けである。
「ふふっ、フィレン殿下も参加されておりますのに、ご失念でございますか?」
私はそう思ったので意地悪そうにツッコミを入れてみる。
「なっ、殿下もご参加でしたか?! これは痛恨の極み!」
サガリーは本気で悔しがっていた。ありゃ、これは本当に知らなかったっぽいようだ。なんでなのかしらね。
「くう……、でしたらなぜ殿下は私には教えて下さらなかったのだ。アンマリア嬢、後で教えて下され」
「え、ええ。わ、分かりましたわ」
あまりの圧に、私はそのように返事をしておいた。
さて、いよいよタンの試合が始まる。
「タンの相手であるハシー子爵令息だが、去年の剣術大会で上位4人に入った実力者だ。タンの実力は素晴らしいものがあるが、この剣術大会に出てくるものは、将来的に騎士団への入団を希望する者たち。一筋縄で勝てるような相手ではありません」
サガリーの説明を聞いて、私は負けた相手であるマークの事を思い出したのだが、そんなに思い出している猶予はなかった。なんでって、もう戦いが始まっているからよ。
ところがどっこい、タンの試合は実に一瞬で勝負がついた。
去年上位4人に入ったハシーが、あっという間に負けていたのである。
「なかなか鋭い一撃だな。本物の剣であったなら、真っ二つだったぞ」
そう、タンの剣がお腹に命中していたのだ。刃を潰した模擬剣だからこそ、相手は無事なのである。いやはや、夏の合宿の頃より腕を確実に上げてますわね。
勝ったタンは、会場の声援に簡単に手を振ってあっさりと退場していった。騎士団長には気が付いてないのかしらね。まあ、騎士団長もそんなに気にしている様子はないので、特に問題はないかしら。
そのタンと入れ替わるようにして、優勝候補の一人が闘技場に入ってきた。その人物はタンとグータッチをして爽やかに登場する。
サクラ・バッサーシ辺境伯令嬢である。
婚約者同士でグータッチとは、なかなかにやりますわね。
会場は、タンと時とは違い、一気に空気が重くなって静まり返る。サクラ・バッサーシの本気モードの空気に飲まれているのだ。
普段のサクラはご令嬢らしく優雅に振舞っているが、ひとたび戦闘モードに入れば、凛とした武人に早変わりするのだ。漫画なんかでよくある黒塗りの顔に鋭い目が片目だけ描かれている、まさにあんな感じの感覚になるのである。
この鬼のようなオーラを放たれたんじゃ、相手が可哀想というのがある。ちなみに相手は、1回戦で戦ったターレ・ヒデンの兄ミッソ・ヒデンである。
サクラのオーラに当てられたミッソは、もう膝が笑いまくっていて、立っているので精一杯といった感じである。
(ターレ、お前はよくこんな相手に戦えた。……俺には無理だ)
全身から冷や汗を流すミッソ。
「すまない、戦えそうにないので棄権する」
そして、あっさりと勝負を避けた。戦っていたとしても、一瞬で地べたに這わされるのが分かったからだろう。
「回避はいい判断ですな。あれでは勝負にならない」
「そうですわね。戦う前から完全に空気に飲まれていましたもの、仕方ありませんわ」
私とサガリーは、この判断を評価している。
一方のサクラは不戦勝になったせいか、ちょっと不機嫌そうな表情すら見せていた。そんな表情も、貴賓席に私の姿を見つけると、一気に笑顔になって手を振るくらいに吹き飛んでしまった。
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