226 / 500
第五章 2年目前半
第226話 特訓あるのみ
しおりを挟む
王妃による王族に近しい者たちだけのお茶会は、最終的には和やかな雰囲気の中で終わる事ができた。その中で、エスカは王妃から城で過ごすように改めて諭されていたというのに、それを突っぱねて私の家で過ごすと言って聞かなかった。いくら王女だからといってもわがままが過ぎる。
いくらモモも慣れてきたとはいえ、あんたは王族なんだから、もうちょっと体裁とか考えてちょうだいよ。迷惑するのは私と家族なんだからね。
特定の貴族が他国の王族と親しくしていると、あらぬ噂を立てられてしまうものなのだ。貴族社会というのはそういうものなのよ。
だけど、もう今さら感が半端ないので、私も諦めている。父親ももう気にしていないみたいだし、もうこのままでいいわよね。将来的には私かサキが王妃になるわけだから、今から親交を築いているという風に押し通せるものね。はあ……。
さて、王都で起きた謎の痩せる呪いの事件の調査は、先日のお茶会で正式に国に任せる事になった。
あれから一週間経った今も、城の精鋭の魔法使いたちの手によって調査が進められている。調査の進行具合などは父親を通して私の耳にも入ってきている。それを聞く限りは、魔力の痕跡が複雑で追い切れないといった感じのようだった。現状では広く聞き込みを行っているという状況なのだそうだ。
さて、その同じ一週間の間だけど、私はサキの魔法の面倒を見ていた。そこにはモモも加わって、二人して悪戦苦闘中である。お茶会からまるっと一週間たった休みの日だというのに、サキは家まで押し掛けてきて私に教えもらおうとしていたのだ。
「はあ……。やっぱり難しいですね」
サキは相変わらず思うようにトレント木材の杖を変形できないでいた。
なんでも、武術型の講義棟にまで出向いて剣をじっくり見せてもらったのだとか。そこまでしたというのに、まったく成功しないのである。
「焦ってはいけませんよ、サキ様。焦りは余計に制御を乱します。一度そうなってしまいますと、なかなか失敗から抜け出せなくなってしまいます」
私はとにかくサキに落ち着くように言い聞かせる。ちなみにその目の前ではモモが同じように変形させる事に苦戦していた。エスカはうまくやっているだけに、ここにも転生者か否かという差が出ているのかも知れない。そう思うと、この世界の人物は想像力に乏しいのかも知れないわね。
「エスカ、やっぱりこれって……」
「ええ、転生者かどうか、それがはっきりに差として出ていますね」
こっそりエスカに確認してみたら、やはり同じような考えを持っていたようである。現実を見たらそう思っちゃうわよね。
「お姉様、一体どうしたらいいんですか~……」
私たちが話をしていると、モモが泣きそうな顔をしながら私に声を掛けてきた。
「やれやれ、仕方ありませんね。ちゃんと押しますから、見てて下さいね」
私はトレント木材の棒切れを取り出すと、二人の前にすっと差し出した。
「いいですか、とにかく頭に変形させるものを思い浮かべながら、この杖に魔力を通していくんです。モモも誕生日前倒しで杖をプレゼントしたんですからね、しっかりと使いこなせるようになって下さい」
「はい、お姉様」
しっかりと言い聞かせると、モモは真剣な表情で返事をしていた。気合いだけなら十分なんだけどね。この世界の住人たちはごく一部を除けば本当に要領が悪いというか何というか……。こういうのもこういう異世界転生ものの定番よね……。だけど、真剣な二人を前にため息を吐けるわけもなく、私は心の中で盛大にため息を吐いていた。一体、こういうため息を何回吐けばいいのかしらね。
そんなわけで、いろいろと難しいところもあるわけだけれど、モモとサキもこの日一日をかけて、ようやくなんとなくの要領を掴んできたようである。
さすがにまだ剣は無理ではあったものの、大きなペーパーナイフくらいになら変化できるようになってきていた。手紙ならそこそこの頻度で見る事があるから、手紙を開ける道具であるペーパーナイフはどうにか想像できたみたいだった。……ただ、大きさがかなり大きい。杖の元の大きさより小さくするのは無理なようだった。
「それだけできれば進展はあったという事で問題はありませんよ。慣れてくるとこういう連続変化もできるようになりますからね」
私はそう言いながら、棒切れを鞭にしたり、ハリセンにしたり、木剣にしたりと、トレント木材七変化を決めていた。この光景には、モモもサキも「おおっ!」と声を上げていた。
「さすがはお姉様ですわ!」
「むぅ、私も負けていられませんね」
それぞれに反応をする二人である。向上心がある事はいい事だ。
しかし、それもいつまでも続けているわけにはいかないわけで、すっかり辺りは夕暮れに包まれてきたために、この日はお開きとなってしまったのだった。
「それでは、私はサキ様を家まで送ってきますね」
「はい、お姉様。サキ様、また明日お会いしましょう」
モモはそう言って、エスカと一緒に屋敷の中へと入っていった。そして、私は瞬間移動魔法を使ってサキを家まで送り届けたのだった。
いくらモモも慣れてきたとはいえ、あんたは王族なんだから、もうちょっと体裁とか考えてちょうだいよ。迷惑するのは私と家族なんだからね。
特定の貴族が他国の王族と親しくしていると、あらぬ噂を立てられてしまうものなのだ。貴族社会というのはそういうものなのよ。
だけど、もう今さら感が半端ないので、私も諦めている。父親ももう気にしていないみたいだし、もうこのままでいいわよね。将来的には私かサキが王妃になるわけだから、今から親交を築いているという風に押し通せるものね。はあ……。
さて、王都で起きた謎の痩せる呪いの事件の調査は、先日のお茶会で正式に国に任せる事になった。
あれから一週間経った今も、城の精鋭の魔法使いたちの手によって調査が進められている。調査の進行具合などは父親を通して私の耳にも入ってきている。それを聞く限りは、魔力の痕跡が複雑で追い切れないといった感じのようだった。現状では広く聞き込みを行っているという状況なのだそうだ。
さて、その同じ一週間の間だけど、私はサキの魔法の面倒を見ていた。そこにはモモも加わって、二人して悪戦苦闘中である。お茶会からまるっと一週間たった休みの日だというのに、サキは家まで押し掛けてきて私に教えもらおうとしていたのだ。
「はあ……。やっぱり難しいですね」
サキは相変わらず思うようにトレント木材の杖を変形できないでいた。
なんでも、武術型の講義棟にまで出向いて剣をじっくり見せてもらったのだとか。そこまでしたというのに、まったく成功しないのである。
「焦ってはいけませんよ、サキ様。焦りは余計に制御を乱します。一度そうなってしまいますと、なかなか失敗から抜け出せなくなってしまいます」
私はとにかくサキに落ち着くように言い聞かせる。ちなみにその目の前ではモモが同じように変形させる事に苦戦していた。エスカはうまくやっているだけに、ここにも転生者か否かという差が出ているのかも知れない。そう思うと、この世界の人物は想像力に乏しいのかも知れないわね。
「エスカ、やっぱりこれって……」
「ええ、転生者かどうか、それがはっきりに差として出ていますね」
こっそりエスカに確認してみたら、やはり同じような考えを持っていたようである。現実を見たらそう思っちゃうわよね。
「お姉様、一体どうしたらいいんですか~……」
私たちが話をしていると、モモが泣きそうな顔をしながら私に声を掛けてきた。
「やれやれ、仕方ありませんね。ちゃんと押しますから、見てて下さいね」
私はトレント木材の棒切れを取り出すと、二人の前にすっと差し出した。
「いいですか、とにかく頭に変形させるものを思い浮かべながら、この杖に魔力を通していくんです。モモも誕生日前倒しで杖をプレゼントしたんですからね、しっかりと使いこなせるようになって下さい」
「はい、お姉様」
しっかりと言い聞かせると、モモは真剣な表情で返事をしていた。気合いだけなら十分なんだけどね。この世界の住人たちはごく一部を除けば本当に要領が悪いというか何というか……。こういうのもこういう異世界転生ものの定番よね……。だけど、真剣な二人を前にため息を吐けるわけもなく、私は心の中で盛大にため息を吐いていた。一体、こういうため息を何回吐けばいいのかしらね。
そんなわけで、いろいろと難しいところもあるわけだけれど、モモとサキもこの日一日をかけて、ようやくなんとなくの要領を掴んできたようである。
さすがにまだ剣は無理ではあったものの、大きなペーパーナイフくらいになら変化できるようになってきていた。手紙ならそこそこの頻度で見る事があるから、手紙を開ける道具であるペーパーナイフはどうにか想像できたみたいだった。……ただ、大きさがかなり大きい。杖の元の大きさより小さくするのは無理なようだった。
「それだけできれば進展はあったという事で問題はありませんよ。慣れてくるとこういう連続変化もできるようになりますからね」
私はそう言いながら、棒切れを鞭にしたり、ハリセンにしたり、木剣にしたりと、トレント木材七変化を決めていた。この光景には、モモもサキも「おおっ!」と声を上げていた。
「さすがはお姉様ですわ!」
「むぅ、私も負けていられませんね」
それぞれに反応をする二人である。向上心がある事はいい事だ。
しかし、それもいつまでも続けているわけにはいかないわけで、すっかり辺りは夕暮れに包まれてきたために、この日はお開きとなってしまったのだった。
「それでは、私はサキ様を家まで送ってきますね」
「はい、お姉様。サキ様、また明日お会いしましょう」
モモはそう言って、エスカと一緒に屋敷の中へと入っていった。そして、私は瞬間移動魔法を使ってサキを家まで送り届けたのだった。
7
あなたにおすすめの小説
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜
naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。
しかし、誰も予想していなかった事があった。
「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」
すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。
「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」
──と、思っていた時期がありましたわ。
orz
これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。
おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる