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第五章 2年目前半
第269話 抵抗
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眩いばかりの光に包まれ、漆黒のオーラが弱まっている。この機会を逃すわけにはいかない。
サキは浄化のイメージをしっかりと浮かべて、伸ばした手から魔法を使う。
しかし、あれだけしっかり魔法の練習はしてきたというもの、目の前の呪具の力は相当のものだった。
「くっ……」
サキの表情が苦痛に歪む。単純にサキの力が負けてしまっているのだ。相殺せて浄化させようとした瞬間、相当の魔力を持っていかれてしまった。サキの足がふらついてしまう。
「しっかりするんだ」
「そうよ。アンマリアが力を使ってしまった以上、頼れるのはあなただけよ」
フィレン王子とエスカが駆け寄って、サキの体を支える。
「フィレン殿下、エスカ王女殿下……」
少し顔を青ざめさせながらも、二人の名前を呼ぶサキ。
「浄化に集中して。魔力は私たちが供給するわ」
いつものちょっとふざけたような様子はどこへやら。エスカは真面目な顔をしてサキへと声を掛ける。その言葉に、視線を目の前の宙に浮かぶテールへと向け直す。
エスカの属性は水と闇ではあるが、単純な魔力に属性はない。それをサキの魔力と混ぜ合わせて、サキの力として放出しているのだ。つまり、見かけ上はサキの力が大きく増しているのである。
二人の協力を得て、サキの浄化の力が増す。それでもさすがに強大なのか、テールの体を覆う漆黒のオーラは勢いが衰えない。胸から放たれる光も、その強さがほとんど変わらなかった。
このままでは、テールの命が危ないのは間違いなかった。だというのに、サキの浄化の力が負けている。打つ手はないのだろうか。
こんな状況だというのに、私は何もできない事が悔しい。なにせ、漆黒のオーラの動きを止めようとして光源を作り出すために魔力を使い果たしてしまったからだ。肩で息をしていて、しばらくは動けそうにない。
「私たちも手を貸しますわよ」
「はい、ラム様!」
その状況で動いたのはラムとモモだった。
「ミズーナ王女殿下は万一に備えて力を温存して下さいませ」
「分かりましたわ」
ラムの声に動きたい衝動をぐっと堪えるミズーナ王女。全員が力を使い果たしてしまえば、それは敗北を意味するからだ。
ラムとモモも、サキの肩に触れる。
「おいおい、一体何が起きてるってんだよ」
「まったくです。空が明るくなって魔物が消えたと思ったら、何の騒ぎなのですか」
タンとサクラの二人が現れた。さっきまで漆黒のオーラに向かって剣を振り回していたのだ。
「お二人とも、今はおとなしくしていて下さい。浄化を試みていますので」
「浄化?」
ミズーナ王女の言葉に、何を言っているのかまったく理解できないタンである。
「なるほど、あの赤い光の元を断とうとしているのですね」
それとは対照的に、サクラの方はすぐに状況を理解した。さすがただの脳筋とはわけが違った。
とにかく今の状況は、魔物の襲撃に備えながら、無事にサキが浄化できるように見守る事しかできない状況だった。
さすがに四人から魔力供給を受けた事で、徐々に赤い光を放つ呪具はその力を抑え込まれていく。光は徐々に弱くなっていくし、テールからあふれ出る漆黒のオーラも小さくなっていっていた。ただ、その中心に居るテールの状態は明らかに思わしくなかった。さっきまで荒れていた呼吸が静かになり始めていたのだ。これは魔力のほとんどを呪具に吸われてしまい、危険な状態にあると思われる。
急がなければならない状況には間違いないのだが、呪具も呪具でしつこかった。どこまでも浄化の力に抗ってくるのだ。まったく面倒な限りだった。
「しつこいわね、この呪具は……」
さすがにエスカが愚痴をこぼしていた。どこまでも浄化の魔法に抵抗してくるのだから、苛立って当然だろう。
「もうひと押しなんだ。みんな頑張ってくれ」
フィレン王子の檄が飛ぶ。
だけど、この状況にさすがに見てられなくなったのか、ミズーナ王女が動く。
「ここまで来たのならば、私も手を貸します。タンとサクラと申しましたね。少しの間、頼みます」
「はい!」
ミズーナ王女がどうにかしてサキの体に手を触れて魔力を流す。すると、浄化の力が一気に強まった。
これにはさすがの呪具も耐え切れず、カタカタと震え出した。
この瞬間、私は嫌な予感が走った。とっさに、呪具だけを包み込むように防護の魔法を放っていた。
結果から言うと、この予感は当たった。
浄化に最後の最後まで抵抗して、大爆発を起こしたのである。なんという執念なのだろうか。
しかし、その最後の抵抗も、私の咄嗟の行動で虚しく空振りに終わった。
ところが、これでまだ終わったわけではない。呪具から解放されたテールが、そのまま地面へと落ちていったのだ。このままでは地面との衝突は避けられない。
「任せておけ!」
それに対して動いたのはタンだった。素早く落下地点に移動して、テールの体を受け止めたのだった。
テールの無事な姿を見て安心した私たちだったが、肝心の呪具は粉々に砕け散ってしまっていた。
その後は魔物も現れる事もなかったのだが、何かと謎ばかりが残された事件となった。
とりあえず、夜中なので今は眠る事となった。詳しい調査は朝になってからという事である。
みんなが部屋に戻ったところで私は空に浮かんだ光の玉を消して、少しばかり魔力を回復させたのだった。
サキは浄化のイメージをしっかりと浮かべて、伸ばした手から魔法を使う。
しかし、あれだけしっかり魔法の練習はしてきたというもの、目の前の呪具の力は相当のものだった。
「くっ……」
サキの表情が苦痛に歪む。単純にサキの力が負けてしまっているのだ。相殺せて浄化させようとした瞬間、相当の魔力を持っていかれてしまった。サキの足がふらついてしまう。
「しっかりするんだ」
「そうよ。アンマリアが力を使ってしまった以上、頼れるのはあなただけよ」
フィレン王子とエスカが駆け寄って、サキの体を支える。
「フィレン殿下、エスカ王女殿下……」
少し顔を青ざめさせながらも、二人の名前を呼ぶサキ。
「浄化に集中して。魔力は私たちが供給するわ」
いつものちょっとふざけたような様子はどこへやら。エスカは真面目な顔をしてサキへと声を掛ける。その言葉に、視線を目の前の宙に浮かぶテールへと向け直す。
エスカの属性は水と闇ではあるが、単純な魔力に属性はない。それをサキの魔力と混ぜ合わせて、サキの力として放出しているのだ。つまり、見かけ上はサキの力が大きく増しているのである。
二人の協力を得て、サキの浄化の力が増す。それでもさすがに強大なのか、テールの体を覆う漆黒のオーラは勢いが衰えない。胸から放たれる光も、その強さがほとんど変わらなかった。
このままでは、テールの命が危ないのは間違いなかった。だというのに、サキの浄化の力が負けている。打つ手はないのだろうか。
こんな状況だというのに、私は何もできない事が悔しい。なにせ、漆黒のオーラの動きを止めようとして光源を作り出すために魔力を使い果たしてしまったからだ。肩で息をしていて、しばらくは動けそうにない。
「私たちも手を貸しますわよ」
「はい、ラム様!」
その状況で動いたのはラムとモモだった。
「ミズーナ王女殿下は万一に備えて力を温存して下さいませ」
「分かりましたわ」
ラムの声に動きたい衝動をぐっと堪えるミズーナ王女。全員が力を使い果たしてしまえば、それは敗北を意味するからだ。
ラムとモモも、サキの肩に触れる。
「おいおい、一体何が起きてるってんだよ」
「まったくです。空が明るくなって魔物が消えたと思ったら、何の騒ぎなのですか」
タンとサクラの二人が現れた。さっきまで漆黒のオーラに向かって剣を振り回していたのだ。
「お二人とも、今はおとなしくしていて下さい。浄化を試みていますので」
「浄化?」
ミズーナ王女の言葉に、何を言っているのかまったく理解できないタンである。
「なるほど、あの赤い光の元を断とうとしているのですね」
それとは対照的に、サクラの方はすぐに状況を理解した。さすがただの脳筋とはわけが違った。
とにかく今の状況は、魔物の襲撃に備えながら、無事にサキが浄化できるように見守る事しかできない状況だった。
さすがに四人から魔力供給を受けた事で、徐々に赤い光を放つ呪具はその力を抑え込まれていく。光は徐々に弱くなっていくし、テールからあふれ出る漆黒のオーラも小さくなっていっていた。ただ、その中心に居るテールの状態は明らかに思わしくなかった。さっきまで荒れていた呼吸が静かになり始めていたのだ。これは魔力のほとんどを呪具に吸われてしまい、危険な状態にあると思われる。
急がなければならない状況には間違いないのだが、呪具も呪具でしつこかった。どこまでも浄化の力に抗ってくるのだ。まったく面倒な限りだった。
「しつこいわね、この呪具は……」
さすがにエスカが愚痴をこぼしていた。どこまでも浄化の魔法に抵抗してくるのだから、苛立って当然だろう。
「もうひと押しなんだ。みんな頑張ってくれ」
フィレン王子の檄が飛ぶ。
だけど、この状況にさすがに見てられなくなったのか、ミズーナ王女が動く。
「ここまで来たのならば、私も手を貸します。タンとサクラと申しましたね。少しの間、頼みます」
「はい!」
ミズーナ王女がどうにかしてサキの体に手を触れて魔力を流す。すると、浄化の力が一気に強まった。
これにはさすがの呪具も耐え切れず、カタカタと震え出した。
この瞬間、私は嫌な予感が走った。とっさに、呪具だけを包み込むように防護の魔法を放っていた。
結果から言うと、この予感は当たった。
浄化に最後の最後まで抵抗して、大爆発を起こしたのである。なんという執念なのだろうか。
しかし、その最後の抵抗も、私の咄嗟の行動で虚しく空振りに終わった。
ところが、これでまだ終わったわけではない。呪具から解放されたテールが、そのまま地面へと落ちていったのだ。このままでは地面との衝突は避けられない。
「任せておけ!」
それに対して動いたのはタンだった。素早く落下地点に移動して、テールの体を受け止めたのだった。
テールの無事な姿を見て安心した私たちだったが、肝心の呪具は粉々に砕け散ってしまっていた。
その後は魔物も現れる事もなかったのだが、何かと謎ばかりが残された事件となった。
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