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第五章 2年目前半
第280話 痩せた男
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テールをうちで預かる事が決まったその日から、ロートント男爵の周りの調査が始まった。
その週の終わりはリブロ王子の誕生日パーティーが普通に行われたのだが、テールは身の危険があるとして、私の家で待機となっていた。テールも王国の民である以上参加したがるかと思ったけれど、自分の置かれた立場をしっかり理解しているのか留守番という指示をあっさり受け入れていた。
これだけ素直な子を目的のために利用して亡き者にしようとは、まったく許せないわね、ロートント男爵。
怒りを覚えながらリブロ王子の誕生日パーティーへと向かう私。同じ馬車に乗るモモとエスカが引いている。
「アンマリア、ちょっとは抑えなさいよ。怖いわよ」
「えっ、そんなに怖い顔してました?」
「してましたよ、お姉様」
モモにまで言われてショックを受ける私。思わず自分の頬をむにむにと揉み解していた。うう、恥ずかしいわね。
とまあこんな感じに和んだ空気の中、私たちはパーティー会場となるお城に無事に着いたのだった。
パーティー会場にはすでに多くの人が集まっていた。リブロ王子も今年で13歳だ。去年の段階では魔力循環不全でかなりつらそうにしていたリブロ王子も、必死のリハビリで学園に入るまでには回復し、今ではすっかり普通に行動できるようになっていた。
それにしても、さすがに兄弟とあってかフィレン王子と雰囲気がどことなく似ているわよね。ゲームだと差別化のためかだいぶ違う感じになってたのに、これがゲームと現実の違いというものかしらね。
とりあえず、私とモモはエスカとは別れる。エスカは王族だから、そっちの方での参加になるからね、これは仕方がない。
父親が国の大臣を務めているとあって、今回もやっぱり私たちはいろんな貴族から挨拶をされる。大体は便宜を図ってくれという類の話なんだけどね。そういう事業の類は、確かに父親の管轄ではあるんだけどね。
必死に食い下がってくる貴族相手でも、父親はにこやかにやり過ごしている。さすがは長らくこの職に就いているだけの事はあるわね。これくらい飄々と対応できるようにはなりたいわね。
そんな中、突如として場の空気が変わったような感じを受ける。
思わず視線を向けてしまう私。そこに居たのは、頬のこけ落ちた細身の男性だった。
私は話をしている父親の袖を引っ張って注意を引く。
「どうしたんだい、マリー」
「お父様、あの男性の事はご存じで?」
「うん?」
父親が私の行動に反応して視線を向ける。父親はその男を視界に入れて、露骨に嫌な顔をしていた。その顔を見た私は、ああやっぱりかと思った。
「あれが例の男爵だ。ピゲル・ロートント男爵、テール嬢の父親だよ。そして、私の部下でもある」
豚のような名前を持つくせに、激痩せという真反対の特徴を持った男である。その不気味な風貌に、私も思わず顔をしかめてしまう。
「以前はそうでもなかったんだがな。よく一緒に話をしたものだが、数年前から少しずつ付き合いが悪くなっていったな」
顎を触りながら、父親は首を傾げながら私に話してくれている。
屋敷では見た事がないものの、父親とはそれなりに交流がある事に驚いた。まさかの部下だなんてね。
それにしても、付き合いが悪くなっただけで、父親がそこまで嫌な顔をするというのがちょっと信じられなかった。とはいっても、先日分かった魔道具の一件があるから仕方ないのかも知れないけど、転生を知ってから今まで、父親のこんな顔は見た事がないんだもの。本当に珍しいとしか言いようがない。
でも、今日はめでたいリブロ王子の誕生日パーティーの席だ。私はどうにか父親の機嫌を直そうと試みる。しかし、うまく取り繕う事ができずに、父親の表情は険しいままだった。
さらに挑戦しようとしたその時だった。音楽がぴたりとやみ、王族たちがパーティー会場へと姿を現した。
一応会場内にはフィレン王子の時と同じように防護魔法やら浄化魔法やらを展開してあるので、万が一は考えられないはず。
それにしても、こういうイベントがある度にこういう事しなきゃいけないっていうのは、正直言って負担が大きすぎる。こっちから打って出て叩き潰したいけれど、相手の姿が見えないから下手に動けないのよね。まったく、地味にストレスが過ぎるわ。
前世もそれなりにストレスの多い生活をしてきたけど、なんで転生してまでストレスを溜めまくらなきゃいけないのかしらね。この理不尽さに、私はイライラを募らせていた。
本当に腹わたが煮えくり返る気持ちを抑えながら、私は王族たちを拍手で出迎えた。馬車の中での一件があるだけに、表情に出てないといいんだけど。
私は何度となく深呼吸をしながら、どうにか気持ちを落ち着けようとする。
トラブル続きの異世界転生ものはよく読んできたけれど、まさか自分の身にそんな事が起きるなんて思ってみないものね。せいぜいゲーム中のイベントくらいだと思っていたのに、甘く見過ぎたわ。
私の警戒心が強まる中、リブロ王子の13歳の誕生日パーティーが幕を開けた。
何も起きませんように!
とにかく私は、強く心の中で願ったのだった。
その週の終わりはリブロ王子の誕生日パーティーが普通に行われたのだが、テールは身の危険があるとして、私の家で待機となっていた。テールも王国の民である以上参加したがるかと思ったけれど、自分の置かれた立場をしっかり理解しているのか留守番という指示をあっさり受け入れていた。
これだけ素直な子を目的のために利用して亡き者にしようとは、まったく許せないわね、ロートント男爵。
怒りを覚えながらリブロ王子の誕生日パーティーへと向かう私。同じ馬車に乗るモモとエスカが引いている。
「アンマリア、ちょっとは抑えなさいよ。怖いわよ」
「えっ、そんなに怖い顔してました?」
「してましたよ、お姉様」
モモにまで言われてショックを受ける私。思わず自分の頬をむにむにと揉み解していた。うう、恥ずかしいわね。
とまあこんな感じに和んだ空気の中、私たちはパーティー会場となるお城に無事に着いたのだった。
パーティー会場にはすでに多くの人が集まっていた。リブロ王子も今年で13歳だ。去年の段階では魔力循環不全でかなりつらそうにしていたリブロ王子も、必死のリハビリで学園に入るまでには回復し、今ではすっかり普通に行動できるようになっていた。
それにしても、さすがに兄弟とあってかフィレン王子と雰囲気がどことなく似ているわよね。ゲームだと差別化のためかだいぶ違う感じになってたのに、これがゲームと現実の違いというものかしらね。
とりあえず、私とモモはエスカとは別れる。エスカは王族だから、そっちの方での参加になるからね、これは仕方がない。
父親が国の大臣を務めているとあって、今回もやっぱり私たちはいろんな貴族から挨拶をされる。大体は便宜を図ってくれという類の話なんだけどね。そういう事業の類は、確かに父親の管轄ではあるんだけどね。
必死に食い下がってくる貴族相手でも、父親はにこやかにやり過ごしている。さすがは長らくこの職に就いているだけの事はあるわね。これくらい飄々と対応できるようにはなりたいわね。
そんな中、突如として場の空気が変わったような感じを受ける。
思わず視線を向けてしまう私。そこに居たのは、頬のこけ落ちた細身の男性だった。
私は話をしている父親の袖を引っ張って注意を引く。
「どうしたんだい、マリー」
「お父様、あの男性の事はご存じで?」
「うん?」
父親が私の行動に反応して視線を向ける。父親はその男を視界に入れて、露骨に嫌な顔をしていた。その顔を見た私は、ああやっぱりかと思った。
「あれが例の男爵だ。ピゲル・ロートント男爵、テール嬢の父親だよ。そして、私の部下でもある」
豚のような名前を持つくせに、激痩せという真反対の特徴を持った男である。その不気味な風貌に、私も思わず顔をしかめてしまう。
「以前はそうでもなかったんだがな。よく一緒に話をしたものだが、数年前から少しずつ付き合いが悪くなっていったな」
顎を触りながら、父親は首を傾げながら私に話してくれている。
屋敷では見た事がないものの、父親とはそれなりに交流がある事に驚いた。まさかの部下だなんてね。
それにしても、付き合いが悪くなっただけで、父親がそこまで嫌な顔をするというのがちょっと信じられなかった。とはいっても、先日分かった魔道具の一件があるから仕方ないのかも知れないけど、転生を知ってから今まで、父親のこんな顔は見た事がないんだもの。本当に珍しいとしか言いようがない。
でも、今日はめでたいリブロ王子の誕生日パーティーの席だ。私はどうにか父親の機嫌を直そうと試みる。しかし、うまく取り繕う事ができずに、父親の表情は険しいままだった。
さらに挑戦しようとしたその時だった。音楽がぴたりとやみ、王族たちがパーティー会場へと姿を現した。
一応会場内にはフィレン王子の時と同じように防護魔法やら浄化魔法やらを展開してあるので、万が一は考えられないはず。
それにしても、こういうイベントがある度にこういう事しなきゃいけないっていうのは、正直言って負担が大きすぎる。こっちから打って出て叩き潰したいけれど、相手の姿が見えないから下手に動けないのよね。まったく、地味にストレスが過ぎるわ。
前世もそれなりにストレスの多い生活をしてきたけど、なんで転生してまでストレスを溜めまくらなきゃいけないのかしらね。この理不尽さに、私はイライラを募らせていた。
本当に腹わたが煮えくり返る気持ちを抑えながら、私は王族たちを拍手で出迎えた。馬車の中での一件があるだけに、表情に出てないといいんだけど。
私は何度となく深呼吸をしながら、どうにか気持ちを落ち着けようとする。
トラブル続きの異世界転生ものはよく読んできたけれど、まさか自分の身にそんな事が起きるなんて思ってみないものね。せいぜいゲーム中のイベントくらいだと思っていたのに、甘く見過ぎたわ。
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とにかく私は、強く心の中で願ったのだった。
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