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第六章 2年目後半
第319話 平和な帰省
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翌日の朝、ゼニークたちは目を覚ます。
「ふむ、いい朝だな」
「自分の領地というのもあるが、たまには地面で寝るのも悪くはないな」
ゼニークもデバラも、目覚めはすっきりだったようだ。
「朝食の用意はできております。顔を洗うための水もご用意させて頂いておりますので、どうぞご利用下さいませ」
「それはすまないな」
村長の言葉に、ゼニークは言葉を返していた。
いつもと変わらない気持ちいい朝である。目を覚ました兄弟は、寝床で背伸びをすると起き上がって顔を洗いに行ったのだった。
「今年も柑橘の収穫は確保できそうか?」
「ええ、今年も例年並みの収穫が確保できます。お納めする分には影響はございません」
「そうか」
朝食を食べながら村長と改めて話をするデバラである。
これまで領地にノータッチだったゼニークには、いまいち分からない話である。
「ここの特産は、このオランとレモネをはじめとした柑橘類だ。王都でもお菓子や飲み物として重宝されている極上品だぞ?」
「なんと。マリーも気に入っていてよく購入しているのだが、産地は私のところだったのか」
驚愕の事実に、ゼニークは驚きを隠せなかった。娘が気に入っている食べ物が、まさかファッティ伯爵領産だとは思ってもみなかったのだ。そのくらいに、ゼニークは領地経営から離れていたのである。
「まったく……、そんなだと困るぞ。私はあくまでも代理で、ここの領主はお前なんだからな、ゼニーク」
「……まったくもって言い返せないな。兄上には敵わないな」
なんとも仲の良いこの兄弟である。長く離れて暮らしているというのに、わだかまりがこれっぽっちもないのである。
微笑ましい領主兄弟の会話に、村長もつい笑顔になってしまう。
実に和やかな食事を終えて、ゼニークとデバラの兄弟は次の視察地へと移動する事となったのだった。
次の場所に向けて移動していく領主たちの馬車を眺めるひとつの影があった。
「なぜだ……。なぜあいつらは無事なんだ?」
村の近くの木の上で悔しそうに歯を食いしばっている。
「昨夜、村に向けて影を放ったというのに、何が起きたというんだ?」
ゼニークやデバラのみに限らず、村の中がまったくもって平和という状況が信じられないといった表情の影である。
「くそう、何が何だか分からないが、作戦の練り直しだな……」
そう捨て台詞を吐くと、影は木の上から姿を消したのだった。
―――
父親たちが無事に領地視察をしている頃、私たちは領主邸でのんびり過ごしていた。
ハーブとアロマの事でいろいろと伯母から質問攻めを受けたものの、今は冬休みの真っ只中なのでゆっくりさせてもらっているのである。
いろいろ話を聞いた伯母は材料となる植物をメモに取って、それを領地の産物と照らし合わせる作業をしている。さすがは父親の兄のお嫁さんである。領地のプラスになりそうな事なら、なんだって手を出そうとするその意欲。少しは見習った方がいいかしらね。
「エスカ王女殿下って、いろいろと知っていらっしゃるのですね」
「まあ、王女ですからね」
モモの言葉にドヤ顔で威張るエスカ。いや、王女だと逆に知らないでしょうと突っ込みたくなる気持ちを、私は必死に抑える。
エスカ相手とはいえ、モモが必死に勉強しようとする姿を邪魔するのはよくないもの。義理とはいえ姉なんだから、妹の成長を素直に喜ばなくちゃね。
私はエスカとモモの様子を見守りながら、いろいろと紙に書き留めていっている。
「そういえば、アンマリア?」
「何でしょうか、エスカ王女」
モモが居るので、「王女」とだけつけておく私。
「一体何をしているのかしら」
どうやら、私が一生懸命に紙に何かを書き込んでいる姿が気になったようだった。隠す事じゃないし、私は素直に答える事にする。
「いろいろとまとめているんですよ。ハーブにアロマの事もですけれど、ベジタリウス王国の結界に使えそうな魔石の事とか、本当に今までの事すべてって感じですね」
「ああ、そういえばベジタリウス王国に張ってきた結界も、そろそろ効果が厳しくなるんでしたっけ」
私の話を聞いて、エスカはすぐに分かってくれた。
そう、ベジタリウス王国の結界にはクラーケンの魔石を使っているのだけれど、魔石の魔力がいつ切れるか分からない。なので、次の魔石を用意しようと思うのだけど、その候補がなんとも絞り切れないのだった。
「いつまで続くかも分かりませんからね。できる限り交換間隔を広げたいので、強力な魔物の魔石がいいのですけれど……」
「それだったら、ミズーナに確認してみたらいいんじゃないかしらね。あの調子ならもう1個2個は持ってそうな感じがするわ」
「そっか。とりあえずそうしてみましょうかね」
エスカの言葉に納得して、私は筆を置いた。
「さてと、モモ。エスカ王女から聞いた話をどのくらい理解したのか、試してみましょうか」
「ふふふっ、いいですよ。ちゃんと答えてみせますからね、お姉様」
ファッティ伯爵邸に居る間、私たちは実に楽しく過ごしたのだった。
「ふむ、いい朝だな」
「自分の領地というのもあるが、たまには地面で寝るのも悪くはないな」
ゼニークもデバラも、目覚めはすっきりだったようだ。
「朝食の用意はできております。顔を洗うための水もご用意させて頂いておりますので、どうぞご利用下さいませ」
「それはすまないな」
村長の言葉に、ゼニークは言葉を返していた。
いつもと変わらない気持ちいい朝である。目を覚ました兄弟は、寝床で背伸びをすると起き上がって顔を洗いに行ったのだった。
「今年も柑橘の収穫は確保できそうか?」
「ええ、今年も例年並みの収穫が確保できます。お納めする分には影響はございません」
「そうか」
朝食を食べながら村長と改めて話をするデバラである。
これまで領地にノータッチだったゼニークには、いまいち分からない話である。
「ここの特産は、このオランとレモネをはじめとした柑橘類だ。王都でもお菓子や飲み物として重宝されている極上品だぞ?」
「なんと。マリーも気に入っていてよく購入しているのだが、産地は私のところだったのか」
驚愕の事実に、ゼニークは驚きを隠せなかった。娘が気に入っている食べ物が、まさかファッティ伯爵領産だとは思ってもみなかったのだ。そのくらいに、ゼニークは領地経営から離れていたのである。
「まったく……、そんなだと困るぞ。私はあくまでも代理で、ここの領主はお前なんだからな、ゼニーク」
「……まったくもって言い返せないな。兄上には敵わないな」
なんとも仲の良いこの兄弟である。長く離れて暮らしているというのに、わだかまりがこれっぽっちもないのである。
微笑ましい領主兄弟の会話に、村長もつい笑顔になってしまう。
実に和やかな食事を終えて、ゼニークとデバラの兄弟は次の視察地へと移動する事となったのだった。
次の場所に向けて移動していく領主たちの馬車を眺めるひとつの影があった。
「なぜだ……。なぜあいつらは無事なんだ?」
村の近くの木の上で悔しそうに歯を食いしばっている。
「昨夜、村に向けて影を放ったというのに、何が起きたというんだ?」
ゼニークやデバラのみに限らず、村の中がまったくもって平和という状況が信じられないといった表情の影である。
「くそう、何が何だか分からないが、作戦の練り直しだな……」
そう捨て台詞を吐くと、影は木の上から姿を消したのだった。
―――
父親たちが無事に領地視察をしている頃、私たちは領主邸でのんびり過ごしていた。
ハーブとアロマの事でいろいろと伯母から質問攻めを受けたものの、今は冬休みの真っ只中なのでゆっくりさせてもらっているのである。
いろいろ話を聞いた伯母は材料となる植物をメモに取って、それを領地の産物と照らし合わせる作業をしている。さすがは父親の兄のお嫁さんである。領地のプラスになりそうな事なら、なんだって手を出そうとするその意欲。少しは見習った方がいいかしらね。
「エスカ王女殿下って、いろいろと知っていらっしゃるのですね」
「まあ、王女ですからね」
モモの言葉にドヤ顔で威張るエスカ。いや、王女だと逆に知らないでしょうと突っ込みたくなる気持ちを、私は必死に抑える。
エスカ相手とはいえ、モモが必死に勉強しようとする姿を邪魔するのはよくないもの。義理とはいえ姉なんだから、妹の成長を素直に喜ばなくちゃね。
私はエスカとモモの様子を見守りながら、いろいろと紙に書き留めていっている。
「そういえば、アンマリア?」
「何でしょうか、エスカ王女」
モモが居るので、「王女」とだけつけておく私。
「一体何をしているのかしら」
どうやら、私が一生懸命に紙に何かを書き込んでいる姿が気になったようだった。隠す事じゃないし、私は素直に答える事にする。
「いろいろとまとめているんですよ。ハーブにアロマの事もですけれど、ベジタリウス王国の結界に使えそうな魔石の事とか、本当に今までの事すべてって感じですね」
「ああ、そういえばベジタリウス王国に張ってきた結界も、そろそろ効果が厳しくなるんでしたっけ」
私の話を聞いて、エスカはすぐに分かってくれた。
そう、ベジタリウス王国の結界にはクラーケンの魔石を使っているのだけれど、魔石の魔力がいつ切れるか分からない。なので、次の魔石を用意しようと思うのだけど、その候補がなんとも絞り切れないのだった。
「いつまで続くかも分かりませんからね。できる限り交換間隔を広げたいので、強力な魔物の魔石がいいのですけれど……」
「それだったら、ミズーナに確認してみたらいいんじゃないかしらね。あの調子ならもう1個2個は持ってそうな感じがするわ」
「そっか。とりあえずそうしてみましょうかね」
エスカの言葉に納得して、私は筆を置いた。
「さてと、モモ。エスカ王女から聞いた話をどのくらい理解したのか、試してみましょうか」
「ふふふっ、いいですよ。ちゃんと答えてみせますからね、お姉様」
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