328 / 500
第七章 3年目前半
第328話 3年目スタート
しおりを挟む
いよいよ年が明ける。
乙女ゲーム最後の3年目がスタートした。
季節的には春になったものの、年末に降った雪が積もっていてまだまだ寒い日が続く。外に出てみれば吐く息が白くなっている。
「さて、ついに3年目が始まっちゃったわね……。結局不安要素が消え切らなかったから、ゲームとは関係なところで気を揉んじゃうわね」
外の空気を吸いながら庭を散歩していると、隣を歩くエスカが寒そうに震えていた。
「まったく……。去年も思ったけど、サーロインの土地って寒いわね。ミール王国は暖かいから、慣れないわ」
かなり着込んでいるというのに、この言い分である。よっぽど寒くてたまらないのだろう。
地理的に見てみても、ミール王国はかなり南に位置している。とはいっても、ミール王国の王都シャオンから、サーロイン王国の王都トーミまでの距離なんて、馬車で10日も程度の距離なので、気候的にそう変わるものかと思う。
そうは思ったものの、地球も南北移動ならそれなりに気候が変わったなと思ったので、私は言おうとした言葉をそのまま飲み込んだ。
「そういえば、モモたちは居ないわけ?」
「居るわよ。テールとタミールの相手をしているから、外に出てきていないだけでね」
「なによ。それってまるで私と話があるみたいな感じじゃないの」
「まあね」
ギロリと睨んでくるエスカの言葉を肯定すると、エスカはそのまま固まってしまった。
私はエスカの肩をポンと叩くと、そのまま雪化粧をした四阿へと連れて行く。そこに到着すると、魔法で雪を払った上で防護魔法をかけて、外部と遮断した。
「これで少しは寒さも和らぐでしょう」
私がエスカを見て微笑むと、
「ま、まあ、少しはね……」
どこかバツが悪そうな反応をしながら、エスカはおとなしく四阿の椅子に腰を掛けていた。
「それにしても、こんな場所に呼び出して、一体どうするのよ。ここは周りからよく見えるわよ?」
エスカが至極当然な事を言ってくる。だけど、私はそれにはまったく動揺しなかった。
「周りから見えるという事は、こちらからもよく見えるという事。そのために一番開けた場所の四阿を選んだんですもの」
「はあ?」
私の意図するところがよく分からないと言わんばかりに、エスカが表情を歪ませる。
(あなた王女よね?)
エスカの反応に、私は思わず真顔になってしまった。
するとエスカが今度は睨んできたので、私は咳払いひとつをして、気を取り直した。
「ベジタリウス王国の諜報部隊の事も問題だけど、とりあえずここで話をするのは、伯母さまと話をしていたハーブやアロマの件ね」
「ああ、その話ね?」
私が話を切り出すと、エスカはちょっと納得したような表情をしていた。
「あっちの話だったら、城の方に飛んでミズーナ王女も巻き込んだわ。でも、今回はこっちの話題だからここで話をしているのよ」
「なるほど、ここなら庭が見えるものね」
とりあえず私の意図をしっかりと理解してくれたので、私は話を続ける。
「ハーブとアロマをこちらの世界で定着させるのは大変じゃないかしらね」
「それは思うわよ、知識がないんだもの。でも、せっかく植物があるのに使わない手はないでしょう?」
「そりゃねぇ……」
私の指摘にも、エスカは強気である。逆に私が黙らされてしまった。
「アンマリアのおば様とは約束をさせて頂きましたからね。近日中には訪問させてもらうわよ」
「それはいいけど、一人で行こうなんてしないでよ?」
「まぁね、王女だから護衛くらいはつけるわよ」
強引に話を進めるエスカ。私が懸念を伝えると、私の肩に手を置いてにこりと微笑んでいる。
「護衛は頼むわよ?」
「えええ……」
やっぱりそうなるかと、私は露骨に嫌な顔をする。
「火の魔法が使えるモモと、もう一人くらいは連れて行きたいわね。アンマリアが居るんだから、四人で行く事ができるからね」
頬に人差し指を当てながら、見上げるような感じで考え込むエスカ。
「それだったら、サクラ様でも連れて行きましょうか。脳筋なバッサーシ辺境伯家の令嬢ですから、護衛には適していると思うわ」
「いいわね。そっちの説得は頼めるかしら」
「……やりますよーだ」
場所はこちらが誘導したのに、話は完全にエスカのペースだった。
話がまとまった事で、私たちはそれぞれに動く事になった。エスカがモモに、私がサクラに話をして、その後に手土産を持って城に居るミズーナ王女に面会をした。
「まあ、アンマリアのご両親の実家に行きますのね」
「ええ、エスカってばアロマを作るんだって意気込んでますから」
「アロマは、私もお世話になりましたね。両親からやっと解放された後もストレスが酷かったですから、よく使いましたよ」
アロマの話に、思いの外ミズーナ王女も食いついてきた。聞いてもいないのに昔語りをされたけど、ミズーナ王女もアロマのお世話にはなっていた様子。なるほど食いつくわけだ。
「こちらの事はお任せ下さい。情報はないとはいえど、今の平和な関係を壊されたくはありませんからね」
ミズーナ王女は微笑みを浮かべていた。エスカと比べれば、なんとも信用のできる微笑みである。
とりあえず転生者の間での話はついたので、エスカがミズーナ王女に手土産であるアロマキャンドルを渡して城を去ったのだった。
乙女ゲーム最後の3年目がスタートした。
季節的には春になったものの、年末に降った雪が積もっていてまだまだ寒い日が続く。外に出てみれば吐く息が白くなっている。
「さて、ついに3年目が始まっちゃったわね……。結局不安要素が消え切らなかったから、ゲームとは関係なところで気を揉んじゃうわね」
外の空気を吸いながら庭を散歩していると、隣を歩くエスカが寒そうに震えていた。
「まったく……。去年も思ったけど、サーロインの土地って寒いわね。ミール王国は暖かいから、慣れないわ」
かなり着込んでいるというのに、この言い分である。よっぽど寒くてたまらないのだろう。
地理的に見てみても、ミール王国はかなり南に位置している。とはいっても、ミール王国の王都シャオンから、サーロイン王国の王都トーミまでの距離なんて、馬車で10日も程度の距離なので、気候的にそう変わるものかと思う。
そうは思ったものの、地球も南北移動ならそれなりに気候が変わったなと思ったので、私は言おうとした言葉をそのまま飲み込んだ。
「そういえば、モモたちは居ないわけ?」
「居るわよ。テールとタミールの相手をしているから、外に出てきていないだけでね」
「なによ。それってまるで私と話があるみたいな感じじゃないの」
「まあね」
ギロリと睨んでくるエスカの言葉を肯定すると、エスカはそのまま固まってしまった。
私はエスカの肩をポンと叩くと、そのまま雪化粧をした四阿へと連れて行く。そこに到着すると、魔法で雪を払った上で防護魔法をかけて、外部と遮断した。
「これで少しは寒さも和らぐでしょう」
私がエスカを見て微笑むと、
「ま、まあ、少しはね……」
どこかバツが悪そうな反応をしながら、エスカはおとなしく四阿の椅子に腰を掛けていた。
「それにしても、こんな場所に呼び出して、一体どうするのよ。ここは周りからよく見えるわよ?」
エスカが至極当然な事を言ってくる。だけど、私はそれにはまったく動揺しなかった。
「周りから見えるという事は、こちらからもよく見えるという事。そのために一番開けた場所の四阿を選んだんですもの」
「はあ?」
私の意図するところがよく分からないと言わんばかりに、エスカが表情を歪ませる。
(あなた王女よね?)
エスカの反応に、私は思わず真顔になってしまった。
するとエスカが今度は睨んできたので、私は咳払いひとつをして、気を取り直した。
「ベジタリウス王国の諜報部隊の事も問題だけど、とりあえずここで話をするのは、伯母さまと話をしていたハーブやアロマの件ね」
「ああ、その話ね?」
私が話を切り出すと、エスカはちょっと納得したような表情をしていた。
「あっちの話だったら、城の方に飛んでミズーナ王女も巻き込んだわ。でも、今回はこっちの話題だからここで話をしているのよ」
「なるほど、ここなら庭が見えるものね」
とりあえず私の意図をしっかりと理解してくれたので、私は話を続ける。
「ハーブとアロマをこちらの世界で定着させるのは大変じゃないかしらね」
「それは思うわよ、知識がないんだもの。でも、せっかく植物があるのに使わない手はないでしょう?」
「そりゃねぇ……」
私の指摘にも、エスカは強気である。逆に私が黙らされてしまった。
「アンマリアのおば様とは約束をさせて頂きましたからね。近日中には訪問させてもらうわよ」
「それはいいけど、一人で行こうなんてしないでよ?」
「まぁね、王女だから護衛くらいはつけるわよ」
強引に話を進めるエスカ。私が懸念を伝えると、私の肩に手を置いてにこりと微笑んでいる。
「護衛は頼むわよ?」
「えええ……」
やっぱりそうなるかと、私は露骨に嫌な顔をする。
「火の魔法が使えるモモと、もう一人くらいは連れて行きたいわね。アンマリアが居るんだから、四人で行く事ができるからね」
頬に人差し指を当てながら、見上げるような感じで考え込むエスカ。
「それだったら、サクラ様でも連れて行きましょうか。脳筋なバッサーシ辺境伯家の令嬢ですから、護衛には適していると思うわ」
「いいわね。そっちの説得は頼めるかしら」
「……やりますよーだ」
場所はこちらが誘導したのに、話は完全にエスカのペースだった。
話がまとまった事で、私たちはそれぞれに動く事になった。エスカがモモに、私がサクラに話をして、その後に手土産を持って城に居るミズーナ王女に面会をした。
「まあ、アンマリアのご両親の実家に行きますのね」
「ええ、エスカってばアロマを作るんだって意気込んでますから」
「アロマは、私もお世話になりましたね。両親からやっと解放された後もストレスが酷かったですから、よく使いましたよ」
アロマの話に、思いの外ミズーナ王女も食いついてきた。聞いてもいないのに昔語りをされたけど、ミズーナ王女もアロマのお世話にはなっていた様子。なるほど食いつくわけだ。
「こちらの事はお任せ下さい。情報はないとはいえど、今の平和な関係を壊されたくはありませんからね」
ミズーナ王女は微笑みを浮かべていた。エスカと比べれば、なんとも信用のできる微笑みである。
とりあえず転生者の間での話はついたので、エスカがミズーナ王女に手土産であるアロマキャンドルを渡して城を去ったのだった。
20
あなたにおすすめの小説
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜
naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。
しかし、誰も予想していなかった事があった。
「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」
すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。
「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」
──と、思っていた時期がありましたわ。
orz
これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。
おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる