355 / 500
第七章 3年目前半
第355話 華やかな会場で
しおりを挟む
まだパーティーが始まるまでには時間がある。私はできる限りの柑橘魔石を王都中に仕掛けていく。正直作るので精一杯だったので、効果のほどは疑念しかない。それでも、これで王都の平和が守れるのであるならば、ならない手はないというものよ。
(まったく、この短期間でこれだけの柑橘の香りを閉じ込めた魔石を作れるとはね。エスカったら頑張りすぎなのよね)
たくさんの柑橘魔石を取り扱ったせいで、私の全身もすっかり柑橘の香りに包まれてしまっていた。
でも、そんな状態になりながらでも柑橘魔石を仕掛けたんだから、なんとしてでも魔族の企みは潰させてもらうわよ。
時間いっぱいまで魔石を仕掛けて回った私は、短距離転移を繰り返して城へと戻っていったのだった。
「お姉様、ものすごくオランとレモネの香りがしますよ」
パーティー会場に現れた私は、モモからいきなりそんな事を言われてしまう。
本当はきれいさっぱりに落としたかったのだけど、パーティーが始まってしまうのでそんな時間が確保できなかったのよ。
そんなわけで、私は柑橘の香りを強烈に漂わせながら会場入りをせざるを得なかったのである。
「うーん、こんなに香りを漂わせてると目立って仕方ないわ」
「素敵ですよ、アンマリア様」
首を捻る私に対して、テールが手を合わせながら褒めてくれる。
しかし、これに対して私はすごく複雑だった。なにせ柑橘の香りが強烈すぎるのだから。それが証拠に、私の両親もどう反応していいのか困っている。
(はあ、とりあえず魔族に対して柑橘の香りが特効らしいですから、このまま我慢しますか……)
いろいろ考えたものの、私は結局この状況を受け入れる事にしたのだった。街を柑橘まみれにしてきた罰かしらね……。
ため息をごまかすように、私は近くのテーブルにあった料理を口へと放り込んだのだった。
やがて音楽が止まる。
宰相であるバラクーダ・ブロックが出てきたのだ。つまり、これから王族たちが会場に姿を見せるというわけである。
先程まで談笑していた貴族たちも、全員が黙って会場の正面を見つめている。
「ようこそ、みなさまお集まりいただきました。これより、国王陛下並びに王族の登場でございます」
宰相が挨拶をすると、壇上に次々と王族たちが姿を現す。その中には他国の王子王女に来賓のベジタリウス王妃も混ざっていた。
そして、その登場の最後は、今日のパーティーの主役であるフィレン王子だった。
さすがに今回の主役であるフィレン王子が現れると、会場からはものすごい拍手が起きていた。なんだかんだ言ってもフィレン王子はかなり人気があるのである。第一王子なので、次期国王の有力候補なのだから仕方ないわね。
会場のあちこちから黄色い声も聞こえてくる。おそらくは学園に通う貴族の令嬢たちだろう。確認しておくけれど、フィレン殿下は私やサキの婚約者だからね。
そうは思いつつも、場の空気を考えて口には出さない私である。
そんな様子を気にする事なく、フィレン王子が一歩前へと歩を進める。
「みなさん、本日は私の15歳の誕生日を祝う席にお集まりいただき、誠にありがとうございます。これからもサーロイン王国のために、並びに周辺諸国との良き関係のためにともに力を合わせて参りましょう」
フィレン王子の声に、会場に集まった貴族たちからは大きな声が上がる。
まあこの場で反発する貴族は居ないでしょうね。なにせミール王国とベジタリウス王国の王子王女が居るし、それだけならまだしもベジタリウス王妃まで居るんだもの。下手な声を上げれば宣戦布告になって、周りの貴族から袋叩きだろう。誰だって空気は読むものである。
「私の誕生日を祝うという名目ではありますが、どうぞみなさん、心行くまでごゆるりとお楽しみ下さい」
フィレン王子がグラスを持った右手を掲げると、会場の貴族たちも同じように右手を掲げている。
「乾杯」
フィレン王子の声に、貴族たちも続く。
こうして、フィレン王子の誕生日を祝うパーティーが始まったのである。
楽団の奏でる優雅な調べに乗せて、会場の中は実に和やかな雰囲気に包まれる。
そんな中、私たちファッティ家はサキのテトリバー男爵家に声を掛けて、一緒にフィレン王子へと近付いていく。婚約者特権よ。
「お誕生日おめでとうございます、殿下」
「ありがとう、アンマリア、サキ。君たちみたいな婚約者が居て、私は本当に幸せものだな。そう思わないかい、リブロ」
「ええ、その通りでございます、兄上」
フィレンに問い掛けられたリブロ王子も、実に穏やかな表情で肯定していた。
「そうだ、アンマリア、サキ。私たちと一緒に踊ってくれるかい?」
「えっ、今からですか?」
体中から柑橘の香りを漂わせている私は、つい驚いてしまった。この状態で大丈夫なのかと。
「その香りを気にしているのかい? むしろいいんじゃないのかな。これが私たちの幸せの香りだとでも言って、みんなにおすそ分けをしようじゃないか」
フィレン王子が笑いながらそんな冗談めいた事を言っている。これには私は困惑するし、リブロやサキは必死に笑いを堪えていた。
だけど、さすがに王子からの申し出を断れる事もなく、私たちは一緒に踊りを披露する事になったのだった。
そして、私たちに気が付いた貴族たちが場所を空けると、私たちはそこへと歩み出していく。
その時だった。突然、会場の窓ガラスが割れたのだった。
(まったく、この短期間でこれだけの柑橘の香りを閉じ込めた魔石を作れるとはね。エスカったら頑張りすぎなのよね)
たくさんの柑橘魔石を取り扱ったせいで、私の全身もすっかり柑橘の香りに包まれてしまっていた。
でも、そんな状態になりながらでも柑橘魔石を仕掛けたんだから、なんとしてでも魔族の企みは潰させてもらうわよ。
時間いっぱいまで魔石を仕掛けて回った私は、短距離転移を繰り返して城へと戻っていったのだった。
「お姉様、ものすごくオランとレモネの香りがしますよ」
パーティー会場に現れた私は、モモからいきなりそんな事を言われてしまう。
本当はきれいさっぱりに落としたかったのだけど、パーティーが始まってしまうのでそんな時間が確保できなかったのよ。
そんなわけで、私は柑橘の香りを強烈に漂わせながら会場入りをせざるを得なかったのである。
「うーん、こんなに香りを漂わせてると目立って仕方ないわ」
「素敵ですよ、アンマリア様」
首を捻る私に対して、テールが手を合わせながら褒めてくれる。
しかし、これに対して私はすごく複雑だった。なにせ柑橘の香りが強烈すぎるのだから。それが証拠に、私の両親もどう反応していいのか困っている。
(はあ、とりあえず魔族に対して柑橘の香りが特効らしいですから、このまま我慢しますか……)
いろいろ考えたものの、私は結局この状況を受け入れる事にしたのだった。街を柑橘まみれにしてきた罰かしらね……。
ため息をごまかすように、私は近くのテーブルにあった料理を口へと放り込んだのだった。
やがて音楽が止まる。
宰相であるバラクーダ・ブロックが出てきたのだ。つまり、これから王族たちが会場に姿を見せるというわけである。
先程まで談笑していた貴族たちも、全員が黙って会場の正面を見つめている。
「ようこそ、みなさまお集まりいただきました。これより、国王陛下並びに王族の登場でございます」
宰相が挨拶をすると、壇上に次々と王族たちが姿を現す。その中には他国の王子王女に来賓のベジタリウス王妃も混ざっていた。
そして、その登場の最後は、今日のパーティーの主役であるフィレン王子だった。
さすがに今回の主役であるフィレン王子が現れると、会場からはものすごい拍手が起きていた。なんだかんだ言ってもフィレン王子はかなり人気があるのである。第一王子なので、次期国王の有力候補なのだから仕方ないわね。
会場のあちこちから黄色い声も聞こえてくる。おそらくは学園に通う貴族の令嬢たちだろう。確認しておくけれど、フィレン殿下は私やサキの婚約者だからね。
そうは思いつつも、場の空気を考えて口には出さない私である。
そんな様子を気にする事なく、フィレン王子が一歩前へと歩を進める。
「みなさん、本日は私の15歳の誕生日を祝う席にお集まりいただき、誠にありがとうございます。これからもサーロイン王国のために、並びに周辺諸国との良き関係のためにともに力を合わせて参りましょう」
フィレン王子の声に、会場に集まった貴族たちからは大きな声が上がる。
まあこの場で反発する貴族は居ないでしょうね。なにせミール王国とベジタリウス王国の王子王女が居るし、それだけならまだしもベジタリウス王妃まで居るんだもの。下手な声を上げれば宣戦布告になって、周りの貴族から袋叩きだろう。誰だって空気は読むものである。
「私の誕生日を祝うという名目ではありますが、どうぞみなさん、心行くまでごゆるりとお楽しみ下さい」
フィレン王子がグラスを持った右手を掲げると、会場の貴族たちも同じように右手を掲げている。
「乾杯」
フィレン王子の声に、貴族たちも続く。
こうして、フィレン王子の誕生日を祝うパーティーが始まったのである。
楽団の奏でる優雅な調べに乗せて、会場の中は実に和やかな雰囲気に包まれる。
そんな中、私たちファッティ家はサキのテトリバー男爵家に声を掛けて、一緒にフィレン王子へと近付いていく。婚約者特権よ。
「お誕生日おめでとうございます、殿下」
「ありがとう、アンマリア、サキ。君たちみたいな婚約者が居て、私は本当に幸せものだな。そう思わないかい、リブロ」
「ええ、その通りでございます、兄上」
フィレンに問い掛けられたリブロ王子も、実に穏やかな表情で肯定していた。
「そうだ、アンマリア、サキ。私たちと一緒に踊ってくれるかい?」
「えっ、今からですか?」
体中から柑橘の香りを漂わせている私は、つい驚いてしまった。この状態で大丈夫なのかと。
「その香りを気にしているのかい? むしろいいんじゃないのかな。これが私たちの幸せの香りだとでも言って、みんなにおすそ分けをしようじゃないか」
フィレン王子が笑いながらそんな冗談めいた事を言っている。これには私は困惑するし、リブロやサキは必死に笑いを堪えていた。
だけど、さすがに王子からの申し出を断れる事もなく、私たちは一緒に踊りを披露する事になったのだった。
そして、私たちに気が付いた貴族たちが場所を空けると、私たちはそこへと歩み出していく。
その時だった。突然、会場の窓ガラスが割れたのだった。
16
あなたにおすすめの小説
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜
naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。
しかし、誰も予想していなかった事があった。
「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」
すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。
「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」
──と、思っていた時期がありましたわ。
orz
これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。
おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる