伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
397 / 500
第八章 3年生後半

第397話 剣術大会(3年目)開始

しおりを挟む
 あっという間に学園祭の日を迎える。
 よくある令嬢ものみたいに意地悪をしてくるような悪役令嬢が居ない世界って珍しいわよね。まぁ、その悪役令嬢たちとは既に仲良くなってるし、王子の婚約者に手を出すような常識外れは居ないのも大きいわ。
「さて、準備はいいのかしら、アンマリア」
「ええ、準備万端ですよ」
 剣術大会の控室に、どういうわけかエスカがやって来ていた。
「それにしても、どうしてエスカがここに居るのかしらね」
 当然ながら、私は理由が気になって仕方なかった。すると、エスカは頬を膨らませていた。
「ミズーナから邪魔だからアンマリアの応援でも行ってきなさいって言われたのよ。まったく失礼しちゃうわ」
「あはは」
 どうやらミズーナ王女から厄介払いされたらしい。まぁ気持ちは分からなくはないわね。
 人の事は言えないんだけど、思いつきでいろいろ引っ掻き回してくれそうだもの。ミズーナ王女はどっちかいうと堅実派だから、エスカの掻き乱しに対応ができないのでしょうね。
「不機嫌なのはよろしくはないけれど、なに、私がスカッとさせてあげるから」
 人差し指を立てて、ウィンクしながらエスカに言う私。すると、エスカは呆れたように私を見ている。
「本気で優勝とか狙ってるわけ?」
 どうやら私の自信たっぷりの言葉に、優勝狙いだと思ったらしい。
 サクラにタン、フィレン王子だって参加しているんだから、さすがに優勝は厳しいでしょうね。でも、参加する上で狙わない理由ってあるのかしらね。
 まあ、剣術大会である以上、魔法の一切が使えない。つまり、身体強化だってできないわけだ。
 でも、それを承知の上で今日まで鍛錬をしてきたんだもの。簡単に負けるつもりはないわよ。
 エスカと話をしながら出番を待っていると、いよいよ私の出番が来たようだ。運営の学生が呼びにきたわ。
「それじゃ、私は行ってくるから観客席で見守っていてよ」
「ええ、負けるんじゃないわよ」
 返事代わりに、私は拳をエスカとぶつけ合う。そして、会場へと向かった。

 剣術大会の試合は既に始まっている。私が来た時には目の前ではタンの戦いが繰り広げられていた。
(まあ、タン様ってば圧倒的ですね)
 対戦相手が可哀想になるくらいに、タンは剣の打ち込みをしていた。相手は恐らく1年生だろうけれど、さすがにやり過ぎじゃないだろうか。
「手加減をしているが、こうも防戦一方とはな。鍛え方が足りない、出直してこい!」
「ぐはっ」
 剣の柄で一撃を入れられて、対戦相手が沈んでいた。
 様子から察するに、遊んでいたわけではなく稽古をつけている感じのようだ。遊び過ぎかしらね。
「勝者、タン・ミノレバー!」
 勝ち名乗りを受けるタンではあるが、さも当然といわんばかりに無表情のまま模擬剣を腰に差していた。
「おっ」
 顔を上げたタンとつい目が合ってしまった。
「次の試合はアンマリア嬢ですか。これは3回戦が楽しみですね」
 いろいろあったせいで対戦表を確認してなかったけれど、どうやら次の次で私とぶつかることになるらしい。いや、私が勝ち上がる前提で話をしてるわよ、この脳筋。
「それはどうも。では、私はその楽しみに応えないといけませんね」
「ええ、ぜひともまた手合わせを」
 言葉を交わしたタンは、そのまま会場から去っていった。
 私は剣術大会の結界の中に入っていく。ただ、その姿を見ていた会場からはどよめきの声が上がっていた。
(まあ、それは驚くでしょうね)
 私は不敵に笑う。
 それもそうでしょう。私の服装は女子の制服そのものだったのだ。スカートは長めにしてあるし、中にはドロワーも穿いているので、何も問題はないわ。
 ちなみにだけど、この格好は1年生の時からだったんだけど。なんでこんなに驚かれるのかしらね。
 心の中で首を傾げる私だったけれど、とにかく今は1回戦だわ。
「ひっ、こんな人を相手に戦うなんてできない……」
 対戦相手は一般の男子学生のようだった。それにしてもびびりすぎでしょうに……。地味にショックだわ。
 とりあえず、どういう意図で喋ったのかは問い詰めないであげましょう。
「始め!」
 私たちが向かい合うと、試合開始の合図がかかる。
「そんな及び腰では、警備は務まりません。出直してらっしゃい」
 私はそう言い放つと、遠慮せずに男子学生に斬りかかる。
 あっという間に男子学生の背後まで移動する私。そして、持っていた剣を一振りすると、男子学生はそのまま倒れ込んでしまったのだった。
「勝者、アンマリア・ファッティ!」
 私の勝ち名乗りが上がると、会場からは割れんばかりの歓声が上がる。
 しかし、私としては消化不良なのよね。サクラやタンを相手に訓練を積んできたから、これだけ一方的だと本当に拍子抜けが過ぎるわ。
 でも、改めてこれだけ自分が動けることが確認できたのは大きいわね。
 さすがに優勝とまではいかないだろうけれど、上位は狙ってみせるわ。
 そのための最初の障害は、3回戦で当たることになるタン・ミノレバー。必ずその壁、乗り越えてやりましょう。
 私は心に強く誓ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...