伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
421 / 500
第八章 3年生後半

第421話 エンディングを迎えて

しおりを挟む
 それはまるで夢のような時間だった。
 第一王子フィレン・サーロインの正式な婚約者となって向かえた、乙女ゲームの正ヒロインのエンディング。
 そのダンスが終わると、ふとこれまでの事が頭の中にいろいろと浮かんできた。
 乙女ゲームのヒロインとして転生して、約8年間という時間を過ごしてきた。
 体重120kgというゲーム通りのスタートを食らい、学園に入学すれば様々なトラブルに見舞われる日々。
 何度もあふれかえる魔物たち。出所不明の呪い。はては隣国に眠る魔王。
 正直に言うけれど、よく私たち生きてるわね。
 特にこの間の夏休みの魔王戦。エスカの暴走のおかげでどっちらけのうちに幕を閉じたけど、あれ、本気で戦っていたらどうなっていたのかしら……。思い出しただけで怖くなるわね。
 ゲームを上回るイベントの数々をこなしてきて、ようやく私は今、第一王子の婚約者としてここに立っているのね。
 ダンスを終えたフィレン王子が私に優しい微笑みを向ける。
 その顔を見ていると、私の感情があふれ出してくる。
「うっうっ……、うわぁぁ~っ!!」
 大声で泣き出した私の姿に、会場中の人たちが驚いている。
 ただ、その気持ちがよく分かるフィレン王子は、泣きじゃくる私に胸を貸していた。私は婚約者の中で延々と泣き続けていた。
「すまないね。アンマリアは感動で感極まってしまったみたいだ。ちょっと休ませてくるから、みんなはパーティーを楽しんでいてくれ」
 おいおいと泣き続ける私に寄り添いながら、フィレン王子は落ち着いて対処していた。さすがは未来の国王といった感じだった。
 結局、私はこのままフィレン王子に付き添われてパーティー会場を抜けたのだった。

 フィレン王子は私の泣いている姿をあまり人目にさらすまいと、パーティー会場の2つ隣の部屋へと移動する。隣ではなくもうひとつ隣にしたのは、私の声がパーティー会場に届かないようにするための配慮からだろう。さすが攻略難易度最高の攻略対象といったところだ。イケメンが過ぎる。
「アンマリアはしばらくここで休んでいてくれ。ちょっとメイドに飲み物を持ってこさせるよ」
「……はい」
 泣きながらもなんとか返事をする私。
 部屋の扉を開けて、外の使用人と話をするフィレン王子。その姿に、私はついほっとしてしまう。
(やれやれ、自分としてもちょっとガラでもありませんでしたね……)
 フィレン王子の落ち着いた行動のおかげで、私もどうにか冷静さを取り戻して気持ちが落ち着き始めた。
 私は目に入ったソファーに腰を掛けて、そのままこてんともたれ掛かっていた。
「やあ、お待たせしたね、アンマリア」
 飲み物を受け取ったフィレン王子が戻ってくる。声に反応した私は、無意識に鑑定魔法を発動させていた。
 こういうお祭りの時は警戒をするに越した事はない。今までいろんな出来事を乗り越えてきた私の無意識の行動だった。
(うん、問題なし……ね)
 ふうっとひと息ついてフィレン王子が持ってきた果汁を口に含む私。その姿を見ながら、フィレン王子は優しく微笑みかけてくる。
「本当に今まで大変だったね、アンマリア。こうして私たちが無事に卒業できたのも、君たちが頑張ってくれたおかげだよ」
 ここにきて優しく労われた私は、思わず驚いてフィレン王子の顔をじっと見てしまう。
「どうしたんだい、アンマリア。私の顔に何かついているかな?」
 あまりにも私が凝視するものだから、おかしそうにフィレン王子が噴き出していた。
「あ、いえ……。あまり殿方の顔を凝視するものではございませんでしたね。失礼致しました」
 私は顔を赤くしてフィレン王子に謝罪する。
 すると、フィレン王子は笑いながら私に問い質してくる。
「ちなみに、理由を聞いてもいいかな?」
「えっ、あの……」
 詳しく事情を聞かれて、思わず言い淀んでしまう。
 すっかり泣き止んだ私は、目を赤く腫れさせたままあちこち視線を泳がせている。
「あの、いえ……。本当に私が殿下の婚約者でよかったのかなと、今さらながらに怖くなったと申しましょうか、なんといいましょうか……」
 一生懸命弁解しようにも、しどろもどろに視線が泳ぐという不審極まりない態度になってしまう。
 そんな怪しい態度の私を見て、フィレン王子は再び笑い始めていた。
「で、殿下?!」
 あまりの大笑いっぷりに、思いっきり面食らってしまう私。
「今さら何を言っているんだよ、アンマリア。私は君だからいいんじゃないか。あの時、先にリブロが選んでなくても、私はアンマリアを選んでいたよ」
「ふぃ、フィレン殿下?!」
 歯の浮くようなフィレン王子の言葉に、私は驚くばかりである。
 そして、フィレン王子は私の前に跪き、左手を自分の胸に当て、右手を差し出して改めてこう言ってきた。
「アンマリア・ファッティ伯爵令嬢、私の伴侶として、ともにこの国を支えてほしい」
 王子という立場がゆえに、ずいぶんと規模の大きなプロボーズだった。
 私は驚きのあまりしばらく反応できなかったものの、顔を真っ赤にしながらこくりと頷いてその手を取ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...