伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
434 / 500
第九章 拡張版ミズーナ編

第434話 回収完了

しおりを挟む
 ベジタリウスの諜報部のうち、イスンセたちの舞台がサーロイン王国内で拠点として使っていた廃屋。
 そこの地下にはいつ作られたかも分からない秘密の空間が存在していた。
 その中はおぞましいまでの瘴気で埋め尽くされており、さすがのメチルでもかなり厳しい状況だった。
「なんて瘴気なのかしら……」
 頭の上のアルーも思わず震えてしまっている。そのくらいに強烈な瘴気なのだ。
「くそっ、テトロの影響で耐性があるとはいっても、さすがにこいつはきついぜ」
 イスンセも歯を食いしばるくらいである。
 聖女という肩書があるせいか、魔族であるメチルも冷や汗がすごい。それにしても、これだけの瘴気がこもっているとは、どのくらいの呪具があるのだろうか。
 イスンセとメチル、それとアルーは警戒を強めながら隠し通路を進んでいく。
 通路は狭く、とても薄暗い。しっかりと入口の閉ざされた地下空間がゆえに、生物らしい生物のいる気配はなかった。

 どれほど歩いただろうか。
 ようやく広い部屋に突き当たる。
 だが、そこも真っ暗で何も見えない。メチルの灯す光がなければ、足元の状態すら分からないくらいだった。
「よくこんなところへ俺はしょっちゅう来れたもんだな……」
 その光景に、イスンセは思わず身を震わせる。
 イスンセですらこうなのだ。当然ながら、聖女の肩書のあるメチルとアルーの表情は恐怖に満ちていた。
「なんて瘴気なのですか。押し潰されてしまいそうだわ」
「あいつ、よくもまあこんなものを隠し通せたものね」
 眉間にしわを寄せるメチルとアルーだが、その状態を引き起こす感情はまったく別々のものだった。
 三人揃ってこんな反応をするのも無理もない。
 通路を通ってやって来た小部屋の中には、かなりの数の呪具が置かれていたからだ。
 アクセサリーの類から装備品まで、その形状は様々であり、パッと見ただけでも30個以上は置かれていた。
「さすがに、この数を一気に浄化というのは無理ですね。1個か2個ずつ、持ち出して浄化しないと……」
 険しい表情をするメチル。浄化の使える魔族とはいえ、その能力の限界をはるかに超える呪具を前に弱気にならざるを得なかった。
「そうね。だから、ここを厳重に封印した上で、こまめに浄化を行うしかないわ」
「ちっ、実にめんどくせえな。その度に俺はここに来なきゃいけないってことか」
「そういうことになるわね」
 ぼりぼりと頭を掻くイスンセ。
 ところが、その時だった。
「ぐぅ……」
 イスンセが苦しみ出して座り込んでしまった。
「ちょっと、どうなさったのですか」
 メチルが叫ぶが、それと同時に重苦しい魔力を感じた。
「これは……魔王様?!」
 メチルが叫んだ次の瞬間、空間が歪んで魔法が姿を見せる。
 苦しいながらも、メチルは魔王に向けて跪いていた。魔王の四天王時代の癖がしっかり染みついてしまっているのである。
「よく見つけてくれたな……」
 喋るだけで重圧がのしかかる。これが魔王というものである。
 すっかり精霊として性格の軽くなったアルーも、この時ばかりは歯を食いしばってメチルの頭の上でじっとしていた。
 魔王はメチルたちに視線を向けると、すぐに魔道具の方へと顔を向ける。
「預けてはおいたが、隠せとは言っておらぬからな。我の持ち物ゆえに、これは回収させてもらう」
 魔王がひと言呟くと、その手をぐっと前へと突き出している。
「何をなさるおつもりですか、魔王様」
 メチルがあえて問い掛ける。
「なに、本来の持ち主のところへ返るだけよ。それに、我の手元にあれば他人に影響を及ぼす事はないからな」
 魔王は説明を終えると「ぬん!」と力を入れていた。
 すると驚いたことに、魔王の羽織っているマントへと呪具たちが吸い込まれていくではないか。
 その光景にメチルたちは、ただただ驚く事しかできなかった。
「この呪具どもはな、元々は我のコレクションだったのだ。自分なら有効活用できるとほざいておったから貸し与えてやったというのに、まったく飛んだ無能だったな」
「そ、そうなのですね」
 呆然と視線を向けていたメチルたちに、わざわざ魔王は説明をしていた。
「コール子爵邸の地下にあった呪具たちも、一応我の魔力で抑え込んである。そうしておかねば、あの辺り一帯は今頃魔物であふれかえっておるだろうからな」
「えええっ?!」
 魔王が驚愕の事実をサラッと白状するものだから、メチルとアルーは大声で驚いていた。
「魔物というのは魔力を得た動物だからな。必ずしも我の支配下に入るとは限らんし、面倒事は少ない方がいいというものだ」
 そう吐き捨てた魔王はくるりと振り返って立ち去ろうとする。
「あの……」
「なんだ」
「呪具の処理をして頂き、ありがとうございました」
「礼など要らぬ。自分の探し物を回収しに来ただけなのだからな」
 魔王はそう言い残すと、その場から姿を消したのだった。
 するとその場にあった重苦しいまでの瘴気と魔力はすっかり消え去り、メチルとイスンセはようやく圧力から解放されてその場に座り込んだのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...