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第九章 拡張版ミズーナ編
第467話 タミールの初戦
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ミズーナ王女の双子の兄であるレッタス王子は、控室で緊張していた。
去年まではいろいろと陰に隠れて目立たなかっただけに、今年の注目度はかなり高いのである。
「やあ、レッタス殿下。ずいぶんと緊張しているみたいですね」
「ああ、リブロ殿下。ええ、その通りなんですよ」
そこにリブロ王子が現れる。
「去年はリブロ殿下の兄君であるフィレン殿下、その婚約者アンマリア、それに騎士の父親を持つダン、その婚約者でバッサーシ辺境伯家のサクラ、それとエスカ王女の兄君のアーサリー殿下など、目立つ顔がたくさん居ましたからね」
「そうですね。兄上たちは目立ちすぎました」
レッタスの言い分に、リブロ王子はついつい笑ってしまう。
そこに、最初に試合を迎えるタミールが顔を出す。
「それを言ったら、僕だってアンマリア姉さんのいとこだからって、変に注目を集めてるんですよ? いとこの頑張りで、ハードルが上がって困ってますよ。去年なんて見向きもされなかったのに……」
話を聞いていたらしく、いろいろと文句を言っている。少し青ざめた表情に、リブロ王子とレッタス王子は、ついつい笑ってしまっていた。
「頑張ってくれとしか言いようがないかな。私たちだって王子という立場がある以上、情けない試合をするわけにはいかない。最善を尽くす限りだよ」
レッタス王子は真面目にタミールに言葉を返していた。
そんな中、先陣となるタミールが呼ばれる。
「おや、タミール。もう出番のようだね。頑張ってきておくれよ」
「うう、頑張ります」
縮こまった様子で出ていくタミール。
「大丈夫ですよ。普段ボクたちと打ち合っているのですから、自信を持って下さい」
「は、はい」
リブロ王子に声を掛けられながらも、不安そうに出ていくタミールなのであった。その様子に、ついつい心配してしまうリブロ王子とレッタス王子だった。
剣術大会の会場に姿を見せるタミール。会場の熱気に、思わず気圧されそうになる。
(うう、胃が痛くなる……)
去年までは魔力循環不全の治療のために参加できなかったこともあって、地味に初参加である。
ふと見上げた視線の先には、貴賓室に座るいとこのアンマリアの姿があった。タミールと目が合ったアンマリアは、笑顔で手を振っている。
自分に期待を寄せているのかと感じたタミールは、プレッシャーを感じながらも模擬剣を持つ手に力こめる。
目の前に対戦相手が現れる。
「おやおや、弱そうな初参加の学生か。これは楽に勝てそうだな」
ずいぶんな物言いである。
「騎士を親に持っているからな。お前みたいなのはとっとと倒して、勝ち進まなきゃいけないんだ。悪く思わないでくれよ」
相手は勝つ気満々で剣を構えている。
だが、負けるつもりがないというのなら、タミールもそうだ。なにせ、いとこのアンマリアは王子と婚約者の関係にあるのだから。恥をかかせるわけにはいかないというわけである。
「僕だって負けるわけにはいきません。アンマリア姉さんのためにも」
タミールは剣を握りしめながら、自分を奮い立たせるように呟いている。
「では、そろそろ試合を始める。準備はいいか?」
審判役の教官が声を掛けると、タミールと対戦相手は同時に頷く。
「始め!」
審判が頷くと同時に試合開始の合図をする。
「さっさと沈めてやるよ。あとは黙って見学していな!」
対戦相手の学生が突っ込んでくる。振りかぶって狙いを定めてくる相手だが、タミールは意外と落ち着いていた。
アンマリアの見ている前で情けない試合はできない。その気持ちがタミールを落ち着かせているのである。
斜めに斬りつける相手の動きを見極め、軽く横に動いて攻撃を躱すタミール。相手が隙だらけになったところに剣を振り下ろす。
相手は気負い過ぎて大振りにしてしまったのが原因か、すぐにタミールの攻撃に対処できず、もろに一撃を食らってしまった。
「ぐはっ」
相手は痛みのあまりに声が出てしまう。
「勝者、タミール・ファッティ!」
カウンター一撃で決めてしまうタミール。あっさりと決着してしまって、剣を構えたまま呆然としていた。
負けを宣言された対戦相手は釈然としないのか、痛みに耐えながら起き上がりざまにタミールに攻撃を仕掛けてくる。
「くっ」
タミールはすぐに反応して剣で攻撃を防ぐ。それと同時に審判役の教官が割り込んで学生を取り押さえる。
「決着はついた。これ以上やるというのなら、学園をして処分を考えなければなくなるぞ」
「ぐ……ぬ……」
教官にこういわれれば、学生は観念するしかなかった。
そして、すぐにタミールを見てこう言い放つ。
「今回のことは認めない。いずれ再戦を申し込むからな」
ずかずかと歩いて退場する対戦相手。タミールは黙ってその姿を見送ることしかできなかった。
「さすがタミール。冷静に対処できていましたよ」
「そうですね。私たちも稽古をつけてあげたかいがあるというものですよ」
タミールの勝利に、アンマリアはにこにことした笑顔を見せている。
「さて、もう少ししたらリブロ殿下の出番ですね」
「ああ、リブロもきっと大丈夫でしょう。剣技は私にも負けていませんからね」
フィレンは真剣な表情で会場を眺めている。
今年の剣術大会は始まったばかり。参加者たちがどんな戦いを見せてくれるのか、アンマリアとフィレン王子は会場に熱い視線を送っていた。
去年まではいろいろと陰に隠れて目立たなかっただけに、今年の注目度はかなり高いのである。
「やあ、レッタス殿下。ずいぶんと緊張しているみたいですね」
「ああ、リブロ殿下。ええ、その通りなんですよ」
そこにリブロ王子が現れる。
「去年はリブロ殿下の兄君であるフィレン殿下、その婚約者アンマリア、それに騎士の父親を持つダン、その婚約者でバッサーシ辺境伯家のサクラ、それとエスカ王女の兄君のアーサリー殿下など、目立つ顔がたくさん居ましたからね」
「そうですね。兄上たちは目立ちすぎました」
レッタスの言い分に、リブロ王子はついつい笑ってしまう。
そこに、最初に試合を迎えるタミールが顔を出す。
「それを言ったら、僕だってアンマリア姉さんのいとこだからって、変に注目を集めてるんですよ? いとこの頑張りで、ハードルが上がって困ってますよ。去年なんて見向きもされなかったのに……」
話を聞いていたらしく、いろいろと文句を言っている。少し青ざめた表情に、リブロ王子とレッタス王子は、ついつい笑ってしまっていた。
「頑張ってくれとしか言いようがないかな。私たちだって王子という立場がある以上、情けない試合をするわけにはいかない。最善を尽くす限りだよ」
レッタス王子は真面目にタミールに言葉を返していた。
そんな中、先陣となるタミールが呼ばれる。
「おや、タミール。もう出番のようだね。頑張ってきておくれよ」
「うう、頑張ります」
縮こまった様子で出ていくタミール。
「大丈夫ですよ。普段ボクたちと打ち合っているのですから、自信を持って下さい」
「は、はい」
リブロ王子に声を掛けられながらも、不安そうに出ていくタミールなのであった。その様子に、ついつい心配してしまうリブロ王子とレッタス王子だった。
剣術大会の会場に姿を見せるタミール。会場の熱気に、思わず気圧されそうになる。
(うう、胃が痛くなる……)
去年までは魔力循環不全の治療のために参加できなかったこともあって、地味に初参加である。
ふと見上げた視線の先には、貴賓室に座るいとこのアンマリアの姿があった。タミールと目が合ったアンマリアは、笑顔で手を振っている。
自分に期待を寄せているのかと感じたタミールは、プレッシャーを感じながらも模擬剣を持つ手に力こめる。
目の前に対戦相手が現れる。
「おやおや、弱そうな初参加の学生か。これは楽に勝てそうだな」
ずいぶんな物言いである。
「騎士を親に持っているからな。お前みたいなのはとっとと倒して、勝ち進まなきゃいけないんだ。悪く思わないでくれよ」
相手は勝つ気満々で剣を構えている。
だが、負けるつもりがないというのなら、タミールもそうだ。なにせ、いとこのアンマリアは王子と婚約者の関係にあるのだから。恥をかかせるわけにはいかないというわけである。
「僕だって負けるわけにはいきません。アンマリア姉さんのためにも」
タミールは剣を握りしめながら、自分を奮い立たせるように呟いている。
「では、そろそろ試合を始める。準備はいいか?」
審判役の教官が声を掛けると、タミールと対戦相手は同時に頷く。
「始め!」
審判が頷くと同時に試合開始の合図をする。
「さっさと沈めてやるよ。あとは黙って見学していな!」
対戦相手の学生が突っ込んでくる。振りかぶって狙いを定めてくる相手だが、タミールは意外と落ち着いていた。
アンマリアの見ている前で情けない試合はできない。その気持ちがタミールを落ち着かせているのである。
斜めに斬りつける相手の動きを見極め、軽く横に動いて攻撃を躱すタミール。相手が隙だらけになったところに剣を振り下ろす。
相手は気負い過ぎて大振りにしてしまったのが原因か、すぐにタミールの攻撃に対処できず、もろに一撃を食らってしまった。
「ぐはっ」
相手は痛みのあまりに声が出てしまう。
「勝者、タミール・ファッティ!」
カウンター一撃で決めてしまうタミール。あっさりと決着してしまって、剣を構えたまま呆然としていた。
負けを宣言された対戦相手は釈然としないのか、痛みに耐えながら起き上がりざまにタミールに攻撃を仕掛けてくる。
「くっ」
タミールはすぐに反応して剣で攻撃を防ぐ。それと同時に審判役の教官が割り込んで学生を取り押さえる。
「決着はついた。これ以上やるというのなら、学園をして処分を考えなければなくなるぞ」
「ぐ……ぬ……」
教官にこういわれれば、学生は観念するしかなかった。
そして、すぐにタミールを見てこう言い放つ。
「今回のことは認めない。いずれ再戦を申し込むからな」
ずかずかと歩いて退場する対戦相手。タミールは黙ってその姿を見送ることしかできなかった。
「さすがタミール。冷静に対処できていましたよ」
「そうですね。私たちも稽古をつけてあげたかいがあるというものですよ」
タミールの勝利に、アンマリアはにこにことした笑顔を見せている。
「さて、もう少ししたらリブロ殿下の出番ですね」
「ああ、リブロもきっと大丈夫でしょう。剣技は私にも負けていませんからね」
フィレンは真剣な表情で会場を眺めている。
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