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第九章 拡張版ミズーナ編
第488話 的を射抜く魔法型試験
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一方の魔法型の実技試験の会場。
魔法型の学生たちが集まる前に、フィレン王子の婚約者であるアンマリアがででんと立ちふさがっている。その風格はまるでラスボスのようである。
アンマリアの放つ雰囲気に、ミズーナ王女をはじめ学生たちは飲まれかかっている。ただエスカだけは平常運転だった。
「エスカ、よくあのアンマリアを前に平気ね」
「平気というか、びびっても仕方ないだけよ。座学でボロボロだったうっ憤を早く晴らしたいの」
「あ、そう……」
エスカが平気な理由を聞いて、ミズーナ王女も一気に冷静になった。
「まぁそうね。これで学園も卒業を迎えるんだものね」
ミズーナも開き直っていつもの調子が戻ってきたようだ。二人の様子を見ているアンマリアも、安心したかのように笑っていた。
さて、いよいよ魔法の実技試験が始まるとあって、アンマリアが手を叩いて全員を自分に注目させる。
さすがに王太子となったフィレン王子の婚約者であるアンマリアを無視できるわけもなく、アンマリアの合図で一斉に視線がアンマリアに集まった。
「今回の皆さんの実技試験の試験官を務めますアンマリア・ファッティでございます。みなさんが挑んで頂くのはこちらです、ご注目下さい」
アンマリアの言葉で、学生たちの視線が一気にアンマリアの後ろに向く。そこには最初からずっともやがかかった光景があった。
ところが、アンマリアがちょっと指をくるりと回すと、かかっていたもやが徐々に晴れていく。そして、そこに今回の魔法の実技試験の装置が姿を見せたのだ。
「難易度は去年のものとあまり変わらないですから安心して下さい」
にこりと微笑むアンマリア。
だが、笑顔のアンマリアとは対照的に、学生たちは恐怖に打ち震えている。
こう着状態が続いていたのだが、この事態を打ち破ったのはエスカだった。
「よし、だったら私が試してやるわ」
「あら、エスカ王女殿下。とても自信がおありのようですね」
手を挙げて叫んだエスカに、アンマリアが不敵な笑みを向けている。しかし、エスカだって負けていない。アンマリアに対して自信たっぷりな笑顔を返す。
「20ある的を全部撃ち落とせばいいんですよね?」
「ええ、いつも通りです」
エスカの質問にこくりと頷くアンマリアである。
アンマリアの話を聞いて「よし」と気合いを入れるエスカ。じっと的を見据えると、いつでも来いといった感じで構えている。
エスカの準備が整ったところで、アンマリアが魔力を込めて装置を動かし始める。
さっきまで自信たっぷりにしていたエスカだが、その装置の挙動を見て思わずアンマリアへと鋭い視線を向けていた。
「ちょっと、どこが去年とあまり変わらない、よ」
エスカが文句を言うのも無理はない。明らかに動きがおかしかったからだ。
「的は1つにつき2発まで。失敗すると的は奥に倒れて壊せなくなるから要注意。さあ、頑張ってちょうだい、エスカ王女殿下」
にこりと微笑んで煽るアンマリア。
「やってやろうじゃないのよ。本当に私にだけは当たりが強いんだから」
エスカももはやヤケである。
魔法試験を行う立ち位置へと立つエスカ。それと同時に合図が出される。
試験が始まると、エスカはじっと装置を睨み付ける。アンマリアが施した少々意地の悪い試験装置を腹立たしく思いながらも、赤点を回避するために的へと意識を集中させる。
「ねえ、重力で潰しちゃっていいかしら」
「ダメよ。一個ずつちゃんと狙って下さい」
「ちぇ……」
面倒に思ったエスカの言い分を秒でねじ伏せるアンマリアである。仕方ないので重力魔法を使うのを諦めて、他の闇魔法と水魔法でちまちま的を射抜くことになったエスカである。
結果、エスカは20個中17個の的を射抜いていた。初見にしてはずいぶんとやってくれたようだった。
「ど、どうよ。見たかしら、アンマリア」
ドヤ顔を見せるエスカだが、アンマリアは満足そうな笑顔を見せただけだった。
「お疲れ様です、エスカ王女殿下。あとは試験の結果発表をお待ち下さいね」
「わ、分かったわよ」
アンマリアの淡白な反応に不満げではあるものの、いつまでも居座っていては試験の邪魔になるので、エスカはさっさと待機場所へと戻っていった。
ぶっすーと不機嫌な表情を浮かべるエスカだが、さすがのミズーナ王女も慰めることはできなかった。他の学生たちが動かなかったからだ。
そのために次はミズーナ王女が動き、実技試験に臨む。結果としてはエスカを上回る18個の的を射抜いていた。さすがは全属性を操る拡張版のヒロインである。
二人が好成績を収めたことで、ようやく他の学生たちも動く。王女二人が率先して動いたことで、引っ張り出されるような形ではあるもの、無事に魔法の実技試験を終えることができたのだった。
「はい、みなさんお疲れ様でした。明日には試験の成績が出ますので、楽しみにしていて下さいね」
にっこりと微笑むアンマリアに対して、ミズーナ王女以外は芳しくない反応を見せていた。
なんだかんだとあったものの、無事に最後の期末試験を終えたミズーナ王女たち。はたして無事に卒業はできるのか。結果は翌日に持ち越しになったのであった。
魔法型の学生たちが集まる前に、フィレン王子の婚約者であるアンマリアがででんと立ちふさがっている。その風格はまるでラスボスのようである。
アンマリアの放つ雰囲気に、ミズーナ王女をはじめ学生たちは飲まれかかっている。ただエスカだけは平常運転だった。
「エスカ、よくあのアンマリアを前に平気ね」
「平気というか、びびっても仕方ないだけよ。座学でボロボロだったうっ憤を早く晴らしたいの」
「あ、そう……」
エスカが平気な理由を聞いて、ミズーナ王女も一気に冷静になった。
「まぁそうね。これで学園も卒業を迎えるんだものね」
ミズーナも開き直っていつもの調子が戻ってきたようだ。二人の様子を見ているアンマリアも、安心したかのように笑っていた。
さて、いよいよ魔法の実技試験が始まるとあって、アンマリアが手を叩いて全員を自分に注目させる。
さすがに王太子となったフィレン王子の婚約者であるアンマリアを無視できるわけもなく、アンマリアの合図で一斉に視線がアンマリアに集まった。
「今回の皆さんの実技試験の試験官を務めますアンマリア・ファッティでございます。みなさんが挑んで頂くのはこちらです、ご注目下さい」
アンマリアの言葉で、学生たちの視線が一気にアンマリアの後ろに向く。そこには最初からずっともやがかかった光景があった。
ところが、アンマリアがちょっと指をくるりと回すと、かかっていたもやが徐々に晴れていく。そして、そこに今回の魔法の実技試験の装置が姿を見せたのだ。
「難易度は去年のものとあまり変わらないですから安心して下さい」
にこりと微笑むアンマリア。
だが、笑顔のアンマリアとは対照的に、学生たちは恐怖に打ち震えている。
こう着状態が続いていたのだが、この事態を打ち破ったのはエスカだった。
「よし、だったら私が試してやるわ」
「あら、エスカ王女殿下。とても自信がおありのようですね」
手を挙げて叫んだエスカに、アンマリアが不敵な笑みを向けている。しかし、エスカだって負けていない。アンマリアに対して自信たっぷりな笑顔を返す。
「20ある的を全部撃ち落とせばいいんですよね?」
「ええ、いつも通りです」
エスカの質問にこくりと頷くアンマリアである。
アンマリアの話を聞いて「よし」と気合いを入れるエスカ。じっと的を見据えると、いつでも来いといった感じで構えている。
エスカの準備が整ったところで、アンマリアが魔力を込めて装置を動かし始める。
さっきまで自信たっぷりにしていたエスカだが、その装置の挙動を見て思わずアンマリアへと鋭い視線を向けていた。
「ちょっと、どこが去年とあまり変わらない、よ」
エスカが文句を言うのも無理はない。明らかに動きがおかしかったからだ。
「的は1つにつき2発まで。失敗すると的は奥に倒れて壊せなくなるから要注意。さあ、頑張ってちょうだい、エスカ王女殿下」
にこりと微笑んで煽るアンマリア。
「やってやろうじゃないのよ。本当に私にだけは当たりが強いんだから」
エスカももはやヤケである。
魔法試験を行う立ち位置へと立つエスカ。それと同時に合図が出される。
試験が始まると、エスカはじっと装置を睨み付ける。アンマリアが施した少々意地の悪い試験装置を腹立たしく思いながらも、赤点を回避するために的へと意識を集中させる。
「ねえ、重力で潰しちゃっていいかしら」
「ダメよ。一個ずつちゃんと狙って下さい」
「ちぇ……」
面倒に思ったエスカの言い分を秒でねじ伏せるアンマリアである。仕方ないので重力魔法を使うのを諦めて、他の闇魔法と水魔法でちまちま的を射抜くことになったエスカである。
結果、エスカは20個中17個の的を射抜いていた。初見にしてはずいぶんとやってくれたようだった。
「ど、どうよ。見たかしら、アンマリア」
ドヤ顔を見せるエスカだが、アンマリアは満足そうな笑顔を見せただけだった。
「お疲れ様です、エスカ王女殿下。あとは試験の結果発表をお待ち下さいね」
「わ、分かったわよ」
アンマリアの淡白な反応に不満げではあるものの、いつまでも居座っていては試験の邪魔になるので、エスカはさっさと待機場所へと戻っていった。
ぶっすーと不機嫌な表情を浮かべるエスカだが、さすがのミズーナ王女も慰めることはできなかった。他の学生たちが動かなかったからだ。
そのために次はミズーナ王女が動き、実技試験に臨む。結果としてはエスカを上回る18個の的を射抜いていた。さすがは全属性を操る拡張版のヒロインである。
二人が好成績を収めたことで、ようやく他の学生たちも動く。王女二人が率先して動いたことで、引っ張り出されるような形ではあるもの、無事に魔法の実技試験を終えることができたのだった。
「はい、みなさんお疲れ様でした。明日には試験の成績が出ますので、楽しみにしていて下さいね」
にっこりと微笑むアンマリアに対して、ミズーナ王女以外は芳しくない反応を見せていた。
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