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第九章 拡張版ミズーナ編
第490話 ファッティ家は大騒ぎ
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卒業も差し迫ってきた今日この頃。アンマリアの実家であるファッティ伯爵邸でも動きがあった。
「モモ、正式な婚約が決まったぞ」
ゼニークが満面の笑みでモモに話し掛けていた。
「まあ、どちらの殿方となのかしら」
フトラシアが興味深そうに扇を構えている。
だが、当のモモはあんまり興味があるようではなかった。アンマリアが城に行ってからというもの、少し落ち込んでいたからだ。そのくらいには、モモにとってアンマリアという存在は大きかったのである。
そのモモに構わず、ゼニークが話を続ける。
「今の宰相であるバラクーダ・ブロックの息子であるタカー・ブロックだ。タカーは将来的には宰相の座を継げるくらいの能力があるから、結婚すればもしかすると王妃となったアンマリアのそばにいられるかもしれないぞ」
ゼニークがこういえば、モモの耳がぴくりと動いていた。アンマリアの単語が出た瞬間にこれである。さすがは義理とはいえど父親。モモの扱いは慣れたもののようだった。
「いいなぁ、僕はどうせ領地に戻って独り身なんでしょうね」
ちょっと拗ねたように話すタミールである。
「まぁそういうな。私の方でも探してみたんだが、いい相手が見つからなかったのは事実だが、私の縁者だから近いうちにいい相手が見つかると思うぞ」
どうにかして慰めようとするゼニークだが、タミールはふて腐れてあまり話を聞くような状態にはなかった。
とはいえ、貴族社会では結婚というのは大きなステータスであるには違いない。それゆえに、タミールはちょっと落ち込んだ様子を見せているのである。
タミールはそもそも魔力循環不全によって学園生活で出遅れてしまった。たった半年とはいえどもその遅れはかなり大きく、交友関係もそれほどは築けなかったようだった。
ただ、いとこのアンマリアがいたおかげで、王族とのつながりを持っている。それは大きかったと見ていいだろう。それでも、婚約者の話となると別問題だったようだ。
結局、令嬢たちとの交流もろくにないまま、この卒業の時期を迎えてしまった。卒業後はファッティ伯爵領に戻って、デバラの跡を継ぐ予定になっている。でも、そうなるとやはり跡継ぎが必要になるので、婚約者は必須というわけだった。
「まあ、まだ15歳だ。20歳までに婚約者を見つけて結婚出来れば問題ない。兄上とはこまめに連絡を取っていい人を見つけてあげようじゃないか」
「うーん、万一の場合はそれでお願いします」
にこやかに話すゼニークに若干引いた感じで反応するタミールである。
「卒業したらタミールはファッティ領に帰りますし、私まで結婚するとなるとお父様もお母様も寂しくありませんか?」
話をしていると、モモがゼニークとフトラシアに問い掛けている。
「なに、問題はないさ。私たちはずっと王都に居るし、その気になればいつでも会えるだろう。そばにいるだけが親子というものでもないだろう?」
ゼニークがなんともかっこいいことを言っている。
自分を引き取ってくれた両親を気遣ったモモだったが、その言葉にかえって自分の方が安心させられてしまった。
そういったこともあって、その日は今後についていろいろと家族で話し合ったファッティ家だったのだ。
数日後、ファッティ家とブロック家の間でモモとタカーの正式な婚約が交わされる。今まではほぼ口約束だったので、これでようやく効力を発揮する状態となったのだ。
「よろしくお願い致します、タカー様」
「こちらこそよろしく頼みます、モモ嬢」
当たり障りのない挨拶を交わすモモとタカーだが、あまりまんざらでもないといった雰囲気が漂っている。その二人の様子に、双方の両親はにこやかな笑顔を送っている。
こうしてモモとタカーの婚約が決まると、当人たちそっちのけで結婚式の日取りを決めようとする両親たち。
気の急く両親たちの姿に、モモとタカーは思わず顔を見合ってしまう。
「父上、母上、私はそこまで派手な式は望んでおりません。せめて身内だけの小規模なものでお願い致します」
タカーがこういうものの、宰相はまったく聞く耳を持っていない。
「ええい、この国の宰相たる私の息子の結婚式だぞ。盛大に行わなくてどうするというのだ」
この宰相、かなり暴走している。
「まったくですね。会場はどこに致しましょうか」
「私の屋敷を使うとよいぞ。侯爵家だからな、広さならば王城に次ぐ規模があると自負しておるぞ」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ出す父親たちである。そこに母親たちが面白がって乗っかるものだから、それはもう収拾のつかない状態になってきていた。
結局、当人たちをそっちのけで話が進み、あれよあれよという間に結婚式の日取りまでが決まってしまっていた。気が早すぎる。
「よし、日取りが決まれば早速寸法を取るぞ。気合いの入った衣装にせねばな」
「まったくですな。宰相と大臣の子ども同士の結婚ですからな。見せつけてやらねばなりません」
こうした話し合いは、結局モモとタカーを完全に無視したまま夜まで続いたのだった。
「モモ、正式な婚約が決まったぞ」
ゼニークが満面の笑みでモモに話し掛けていた。
「まあ、どちらの殿方となのかしら」
フトラシアが興味深そうに扇を構えている。
だが、当のモモはあんまり興味があるようではなかった。アンマリアが城に行ってからというもの、少し落ち込んでいたからだ。そのくらいには、モモにとってアンマリアという存在は大きかったのである。
そのモモに構わず、ゼニークが話を続ける。
「今の宰相であるバラクーダ・ブロックの息子であるタカー・ブロックだ。タカーは将来的には宰相の座を継げるくらいの能力があるから、結婚すればもしかすると王妃となったアンマリアのそばにいられるかもしれないぞ」
ゼニークがこういえば、モモの耳がぴくりと動いていた。アンマリアの単語が出た瞬間にこれである。さすがは義理とはいえど父親。モモの扱いは慣れたもののようだった。
「いいなぁ、僕はどうせ領地に戻って独り身なんでしょうね」
ちょっと拗ねたように話すタミールである。
「まぁそういうな。私の方でも探してみたんだが、いい相手が見つからなかったのは事実だが、私の縁者だから近いうちにいい相手が見つかると思うぞ」
どうにかして慰めようとするゼニークだが、タミールはふて腐れてあまり話を聞くような状態にはなかった。
とはいえ、貴族社会では結婚というのは大きなステータスであるには違いない。それゆえに、タミールはちょっと落ち込んだ様子を見せているのである。
タミールはそもそも魔力循環不全によって学園生活で出遅れてしまった。たった半年とはいえどもその遅れはかなり大きく、交友関係もそれほどは築けなかったようだった。
ただ、いとこのアンマリアがいたおかげで、王族とのつながりを持っている。それは大きかったと見ていいだろう。それでも、婚約者の話となると別問題だったようだ。
結局、令嬢たちとの交流もろくにないまま、この卒業の時期を迎えてしまった。卒業後はファッティ伯爵領に戻って、デバラの跡を継ぐ予定になっている。でも、そうなるとやはり跡継ぎが必要になるので、婚約者は必須というわけだった。
「まあ、まだ15歳だ。20歳までに婚約者を見つけて結婚出来れば問題ない。兄上とはこまめに連絡を取っていい人を見つけてあげようじゃないか」
「うーん、万一の場合はそれでお願いします」
にこやかに話すゼニークに若干引いた感じで反応するタミールである。
「卒業したらタミールはファッティ領に帰りますし、私まで結婚するとなるとお父様もお母様も寂しくありませんか?」
話をしていると、モモがゼニークとフトラシアに問い掛けている。
「なに、問題はないさ。私たちはずっと王都に居るし、その気になればいつでも会えるだろう。そばにいるだけが親子というものでもないだろう?」
ゼニークがなんともかっこいいことを言っている。
自分を引き取ってくれた両親を気遣ったモモだったが、その言葉にかえって自分の方が安心させられてしまった。
そういったこともあって、その日は今後についていろいろと家族で話し合ったファッティ家だったのだ。
数日後、ファッティ家とブロック家の間でモモとタカーの正式な婚約が交わされる。今まではほぼ口約束だったので、これでようやく効力を発揮する状態となったのだ。
「よろしくお願い致します、タカー様」
「こちらこそよろしく頼みます、モモ嬢」
当たり障りのない挨拶を交わすモモとタカーだが、あまりまんざらでもないといった雰囲気が漂っている。その二人の様子に、双方の両親はにこやかな笑顔を送っている。
こうしてモモとタカーの婚約が決まると、当人たちそっちのけで結婚式の日取りを決めようとする両親たち。
気の急く両親たちの姿に、モモとタカーは思わず顔を見合ってしまう。
「父上、母上、私はそこまで派手な式は望んでおりません。せめて身内だけの小規模なものでお願い致します」
タカーがこういうものの、宰相はまったく聞く耳を持っていない。
「ええい、この国の宰相たる私の息子の結婚式だぞ。盛大に行わなくてどうするというのだ」
この宰相、かなり暴走している。
「まったくですね。会場はどこに致しましょうか」
「私の屋敷を使うとよいぞ。侯爵家だからな、広さならば王城に次ぐ規模があると自負しておるぞ」
ぎゃーぎゃーと騒ぎ出す父親たちである。そこに母親たちが面白がって乗っかるものだから、それはもう収拾のつかない状態になってきていた。
結局、当人たちをそっちのけで話が進み、あれよあれよという間に結婚式の日取りまでが決まってしまっていた。気が早すぎる。
「よし、日取りが決まれば早速寸法を取るぞ。気合いの入った衣装にせねばな」
「まったくですな。宰相と大臣の子ども同士の結婚ですからな。見せつけてやらねばなりません」
こうした話し合いは、結局モモとタカーを完全に無視したまま夜まで続いたのだった。
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