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第50話 調査の合間に
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アーツたちが休んでいる間も、好奇心の強いニックはパネルをいじり続けている。
なにせこの航宙船に書かれた文字を読めるのは自分だけなのだ。
これまでほとんど役に立ってこなかったのだから、ここでこそ役に立ちたいと思うのは当然だろう。
目の前のパネルを凝視するニックの指は、さっきからまったく止まる気配がなかった。
航宙船の内部見取り図や物資の配置、護衛ロボットの詳細など、調べる内容は実に多岐に渡っていた。
それらのすべてのチェックを行うニックの手は、脇から見るとまったく目で追えないくらいのスピードで動いている。
「う~ん、ロボット格納庫は、さっき移動してきた転移装置の裏側ですね」
「この航宙船のシステムが、俺たちを襲わせようとしていた防衛システムのことか?」
「はい、その通りです」
ニックの声にアーツが質問を投げかけると、すんなりと答えが返ってきた。
どうやらあの転移装置の裏側には、大量のロボットが隠されているようなのだ。
だが、そうなれば不思議なものである。
ロボットがそんなにたくさんあるのであれば、恐竜が独自の進化を始めた時点で殲滅できたはずだ。
アーツやレンクスにはそういう考えが浮かんだようである。
「ロボットがなぜ対恐竜兵器として駆り出されなかったのか。その疑問を解決するポイントは、僕たちは既に経験しています」
「えっ、どういうこと?」
クロノが口に手を当てながら驚いている。
「思い出してみて下さい。システムが動いているのに、一部のシステムが停止してしまったアーツの航宙船を」
「あっ……!」
ニックに実例を出されてしまうと、途端に理解できてしまうクロノである。
「そういうことか」
「大気中にあふれた魔素のせいで、ちゃんと動作しなくなったってわけか」
アーツもレンクスもちゃんと分かったようである。
「そういうことですね。でも、今のロボットたちは魔素に十分慣れていますので、動かすことは可能です」
「でも、俺たちを排除しようとしながらも動かなかった」
「ロボットたちの中では、まだこの船の乗組員たちは生きているという認識なのでしょう。だから、乗組員を危険に遭わせると判断して、システムの命令を拒んだんです」
「なるほどなぁ。話が見事に全部つながってるじゃねえか……」
ニックの推理に感服するしかないレンクスたちである。
「それで、先程システムへの介入をしましたので、僕たちもこの航宙船の乗組員の認識に改められました。なので、うまくいけば船底のロボット兵たちを、対恐竜兵器として導入できると思うんです」
「そいつはいいな。それで、そのロボットたちはどんな機能を持ってるんだ?」
アーツがわくわくした表情でニックへと視線を向けている。
だが、肝心のニックはなんとも渋そうな表情をしている。
「おい、どうしたんだよ」
アーツが疑問に思って声を掛けると、ニックは視線を逸らしながら答える。
「あー……。まだ分からないんですよね」
「分からない?」
きょとんとした顔をしてしまう。
「システムや船内の構造を調べるので精一杯で、ロボットの機能についてはこれからなんですよ。ちょっと待ってて下さいね、すぐに調べますから」
「た、頼むぜ、ニック……」
慌ててロボットの機能を調べ始めたニックを見て、しょうがないなとはにかみながら声をかけるアーツなのだった。
「あっ、ブラン」
急にクロノが声を上げると、ニック以外の視線が集まる。
「どうしたの、クロノ」
「腕、ケガしてるわ」
「あっ、本当だ」
ブランが自分の左腕を見ると、確かにどこかで切ったかのような傷がついていた。
「多分、さっき土の中を移動してた時ね。出っ張っていた岩か何かにぶつけちゃったんだと思う」
「ちょっとじっとしてて」
「えっ、でも、クロノ。その能力って……」
「何言ってるのよ。万一が起きるよりはマシだし、対策だってあるわ。ヴェール」
時を操る能力だと判明したことで、ブランがクロノに治してもらうことを躊躇している。
だが、クロノはそれを強行する。様子を見るに、どうやら秘策があるようだ。
まずはブランの腕の傷を治す。時を戻す効果なので、破けた服も元に戻っていく。
「ヴェール、頼まれてくれるかしら」
『よし来た、任せろ』
クロノが声をかければ、ヴェールが近寄ってくる。
先程ブランの傷を治したばかりの手をヴェールに置くと、クロノの手の周りにまとわりついた魔素が、ヴェールへと吸い込まれていく。
一体何が起きているのだろうか。
「クロノ、今のって一体?」
「うん、時を戻す能力を発動させると、しばらくの間だけど手の周りに魔素として残るんだって。それをヴェールたちが吸収してくれるの。つまり、私に起こるはずの老化をヴェールたちが肩代わりしてくれるのよ」
「ええ、そんな!」
ブランが驚くのも無理はない。クロノの発動した能力を取り込むということは、自分の眷属たちが老化してしまうということなのだから。
だが、ヴェールたちは気にした様子はない。
『俺たちは既に死んだ身だ。時間が進もうが戻ろうが、関係ない話なんだよ』
『そういうことだ、主。クロノを失うことで主が悲しむより、この方がよほどマシなのだよ』
『その通りよ、主』
「みんな……」
ブランは虫たちの気遣いに、つい涙を浮かべてしまう。
自分たちの関係のことを尊重してくれているなんて、思ってもみなかったのだから。
「いい話ですね。ついでですから、僕からもいい話をしましょう」
ニックが振り返りながら、得意げな表情をしている。
ニックがもたらすといういい話とは一体何なのか。アーツたちは気になって仕方ないようである。
なにせこの航宙船に書かれた文字を読めるのは自分だけなのだ。
これまでほとんど役に立ってこなかったのだから、ここでこそ役に立ちたいと思うのは当然だろう。
目の前のパネルを凝視するニックの指は、さっきからまったく止まる気配がなかった。
航宙船の内部見取り図や物資の配置、護衛ロボットの詳細など、調べる内容は実に多岐に渡っていた。
それらのすべてのチェックを行うニックの手は、脇から見るとまったく目で追えないくらいのスピードで動いている。
「う~ん、ロボット格納庫は、さっき移動してきた転移装置の裏側ですね」
「この航宙船のシステムが、俺たちを襲わせようとしていた防衛システムのことか?」
「はい、その通りです」
ニックの声にアーツが質問を投げかけると、すんなりと答えが返ってきた。
どうやらあの転移装置の裏側には、大量のロボットが隠されているようなのだ。
だが、そうなれば不思議なものである。
ロボットがそんなにたくさんあるのであれば、恐竜が独自の進化を始めた時点で殲滅できたはずだ。
アーツやレンクスにはそういう考えが浮かんだようである。
「ロボットがなぜ対恐竜兵器として駆り出されなかったのか。その疑問を解決するポイントは、僕たちは既に経験しています」
「えっ、どういうこと?」
クロノが口に手を当てながら驚いている。
「思い出してみて下さい。システムが動いているのに、一部のシステムが停止してしまったアーツの航宙船を」
「あっ……!」
ニックに実例を出されてしまうと、途端に理解できてしまうクロノである。
「そういうことか」
「大気中にあふれた魔素のせいで、ちゃんと動作しなくなったってわけか」
アーツもレンクスもちゃんと分かったようである。
「そういうことですね。でも、今のロボットたちは魔素に十分慣れていますので、動かすことは可能です」
「でも、俺たちを排除しようとしながらも動かなかった」
「ロボットたちの中では、まだこの船の乗組員たちは生きているという認識なのでしょう。だから、乗組員を危険に遭わせると判断して、システムの命令を拒んだんです」
「なるほどなぁ。話が見事に全部つながってるじゃねえか……」
ニックの推理に感服するしかないレンクスたちである。
「それで、先程システムへの介入をしましたので、僕たちもこの航宙船の乗組員の認識に改められました。なので、うまくいけば船底のロボット兵たちを、対恐竜兵器として導入できると思うんです」
「そいつはいいな。それで、そのロボットたちはどんな機能を持ってるんだ?」
アーツがわくわくした表情でニックへと視線を向けている。
だが、肝心のニックはなんとも渋そうな表情をしている。
「おい、どうしたんだよ」
アーツが疑問に思って声を掛けると、ニックは視線を逸らしながら答える。
「あー……。まだ分からないんですよね」
「分からない?」
きょとんとした顔をしてしまう。
「システムや船内の構造を調べるので精一杯で、ロボットの機能についてはこれからなんですよ。ちょっと待ってて下さいね、すぐに調べますから」
「た、頼むぜ、ニック……」
慌ててロボットの機能を調べ始めたニックを見て、しょうがないなとはにかみながら声をかけるアーツなのだった。
「あっ、ブラン」
急にクロノが声を上げると、ニック以外の視線が集まる。
「どうしたの、クロノ」
「腕、ケガしてるわ」
「あっ、本当だ」
ブランが自分の左腕を見ると、確かにどこかで切ったかのような傷がついていた。
「多分、さっき土の中を移動してた時ね。出っ張っていた岩か何かにぶつけちゃったんだと思う」
「ちょっとじっとしてて」
「えっ、でも、クロノ。その能力って……」
「何言ってるのよ。万一が起きるよりはマシだし、対策だってあるわ。ヴェール」
時を操る能力だと判明したことで、ブランがクロノに治してもらうことを躊躇している。
だが、クロノはそれを強行する。様子を見るに、どうやら秘策があるようだ。
まずはブランの腕の傷を治す。時を戻す効果なので、破けた服も元に戻っていく。
「ヴェール、頼まれてくれるかしら」
『よし来た、任せろ』
クロノが声をかければ、ヴェールが近寄ってくる。
先程ブランの傷を治したばかりの手をヴェールに置くと、クロノの手の周りにまとわりついた魔素が、ヴェールへと吸い込まれていく。
一体何が起きているのだろうか。
「クロノ、今のって一体?」
「うん、時を戻す能力を発動させると、しばらくの間だけど手の周りに魔素として残るんだって。それをヴェールたちが吸収してくれるの。つまり、私に起こるはずの老化をヴェールたちが肩代わりしてくれるのよ」
「ええ、そんな!」
ブランが驚くのも無理はない。クロノの発動した能力を取り込むということは、自分の眷属たちが老化してしまうということなのだから。
だが、ヴェールたちは気にした様子はない。
『俺たちは既に死んだ身だ。時間が進もうが戻ろうが、関係ない話なんだよ』
『そういうことだ、主。クロノを失うことで主が悲しむより、この方がよほどマシなのだよ』
『その通りよ、主』
「みんな……」
ブランは虫たちの気遣いに、つい涙を浮かべてしまう。
自分たちの関係のことを尊重してくれているなんて、思ってもみなかったのだから。
「いい話ですね。ついでですから、僕からもいい話をしましょう」
ニックが振り返りながら、得意げな表情をしている。
ニックがもたらすといういい話とは一体何なのか。アーツたちは気になって仕方ないようである。
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