9 / 156
第9話 再会する元魔王
しおりを挟む
「きゃあっ!」
カプリナの元へと急ぐアリエスの耳に悲鳴が聞こえてくる。
「カプリナ様!」
(くそっ、この体は動きは遅い。身体強化を使ってもこの程度なのか?)
アリエスは小さな体躯を必死に走らせると、ようやくカプリナのいる場所へとたどり着く。
そこで見た光景は、ゴブリンアーチャーが奇妙な物体によって倒された光景だった。
(半透明の体をして不定形の物体……。こいつはスライムか。だが、このスライムはどこかで……)
奇妙な物体はゴブリンアーチャーを何度も踏みつけている。
「あぶなかった。たすかる? たすかる?」
「ひぃっ、なんですか、これ。喋りましたよ!」
目の前で左右に体を揺らしながら言葉を発する様子を見て、アリエスは目の前のスライムが何者か思い出したようだ。
(思い出した。こやつは俺の部下だったスラリーだな。喋るスライムという時点で、もはやあいつしかおらん)
アリエスの中の魔王が、目の前のスライムの正体を突き止めたようである。
スラリーというのは、魔王だった頃の配下の一人で、四天王とまではいかないものの重要な地位についていたスライムである。
最後の聖女たちの襲撃の際にも、それをいち早く伝えてきたのがスラリーであり、なんにでもなれるその性質はずいぶんと諜報活動では役に立ったものだった。
「怖がることはありませんよ。どうやらこのスライムは、私たちを助けてくれたようです」
「まおうさまをねらう、ふとどきもの。だから、たおした。すらりー、えらい?」
(おいこら、面倒な単語を出すな)
スラリーの反応に、アリエスは表情を笑顔のまま引きつらせた。
「えと、魔王様ってなんですかね……」
カプリナはおそるおそるアリエスに尋ねている。
魔王なんて単語が出てきたら、聖騎士として反応せざるを得ないというものである。
「き、気のせいではありませんかね。魔物のいうことを真に受ける必要はありませんよ」
アリエスは表情を引きつらせたまま、カプリナに言い聞かせるように声をかけている。この時のアリエスの表情が恐ろしかったのか、カプリナは黙ったままこくこくと何度も頷いていた。
カプリナが黙ってくれたので、アリエスは両手でスラリーを抱え上げる。
「スラリー? 魔王とかいう単語を口にするんじゃありませんよ?」
両手で押し潰すような形で、アリエスはスラリーに言い聞かせている。もちろん、カプリナには聞こえないくらいの声でだ。
「いたい、まおうさま」
だが、スラリーはアリエスのことを魔王と呼び続けている。
言葉が話せたり、情報のやり取りができたりと、スラリーはスライムにしてはとても頭がいい。だが、ところどころ抜けているところが問題なのだ。
この状況の理解力というのが、スラリーの最大の欠点だったのである。
ただ、言ったことに対してはちゃんと守るので、言い聞かせれば大丈夫というわけだ。
そんなわけで、今はアリエスによるお説教タイムに突入していた。
「今の私は聖女見習いアリエスです。呼ぶならば聖女様、もしくはアリエス様と呼ぶようにして下さい」
スラリーを挟み込む手にものすごく力が入っている。いくらスライムとはいえ、神聖魔力のこもった手でつかまれてはひとたまりもない。
「やめて、まお……ありえすさま。そのちから、からだ、とけてしまう」
スラリーは、必死に手を離すように懇願してくる。そのくらいに、アリエスの手にはたっぷりと神聖魔力がにじみ出ていたのだ。
「おっと、それはいけませんね。恩人に対して、それはあまりにも失礼というものです」
ようやくアリエスはスラリーから手を離して解放したのである。
「あ、アリエスさん、そのスライムは一体……?」
カプリナは完全に自分が何を見ているのか分からないようだった。
「落ち着いて下さい、カプリナ様。とりあえず状況を説明願いますか?」
「は、はい」
アリエスはスラリーが登場するまでの状況の説明を求める。
カプリナによれば、アリエスの指摘した通り、ゴブリンは第二の矢を放てずに困っていたらしい。そこに近付いてきたカプリナに対して、その場に落ちていた石を拾って投げつけようとしたそうだ。
ところが、その石は投げられることはなく、身構えた再び見た時には先程の状況になっていたのだという。
「なるほど、スラリーはカプリナ様を守って下さったのですね」
「ありえすさまの、においがする。なかま、まもる。すらりー、えらい?」
体を左右に震わせながら、スラリーは自慢げに話をしている。
「ふふっ、えらいですよ、スラリー」
「このて、あたたかい……。なつかしい」
神聖魔力を抑えた状態であるなら、スラリーの体も平然と撫でることができるようだ。
「聖女様、カプリナ様、どうかなさいましたか!」
ようやく落ち着いたと思ったら、落ち着かない人たちがやって来た。
そう、カプリナとアリエスを陰から支援しようとしていた騎士たちだった。
当然ではあるものの、スラリーを見つけた騎士たちは剣を構える。
「聖女様、カプリナ様、早くそのスライムから離れて下さい!」
必死に訴えてくるものの、アリエスとカプリナは笑いながら顔を見合わせていた。
状況が分からない騎士たちが再度訴えるものの、アリエスはスラリーを抱きかかえてにこりと微笑む。
「大丈夫です。このスライムは私たちを守ってくれたのですから」
「へ? スライムが守る?」
アリエスの証言に、騎士たちはわけが分からないという感じで間の抜けた表情をさらしていた。
これは説明が必要そうだと、アリエスは苦笑いを浮かべたのだった。
カプリナの元へと急ぐアリエスの耳に悲鳴が聞こえてくる。
「カプリナ様!」
(くそっ、この体は動きは遅い。身体強化を使ってもこの程度なのか?)
アリエスは小さな体躯を必死に走らせると、ようやくカプリナのいる場所へとたどり着く。
そこで見た光景は、ゴブリンアーチャーが奇妙な物体によって倒された光景だった。
(半透明の体をして不定形の物体……。こいつはスライムか。だが、このスライムはどこかで……)
奇妙な物体はゴブリンアーチャーを何度も踏みつけている。
「あぶなかった。たすかる? たすかる?」
「ひぃっ、なんですか、これ。喋りましたよ!」
目の前で左右に体を揺らしながら言葉を発する様子を見て、アリエスは目の前のスライムが何者か思い出したようだ。
(思い出した。こやつは俺の部下だったスラリーだな。喋るスライムという時点で、もはやあいつしかおらん)
アリエスの中の魔王が、目の前のスライムの正体を突き止めたようである。
スラリーというのは、魔王だった頃の配下の一人で、四天王とまではいかないものの重要な地位についていたスライムである。
最後の聖女たちの襲撃の際にも、それをいち早く伝えてきたのがスラリーであり、なんにでもなれるその性質はずいぶんと諜報活動では役に立ったものだった。
「怖がることはありませんよ。どうやらこのスライムは、私たちを助けてくれたようです」
「まおうさまをねらう、ふとどきもの。だから、たおした。すらりー、えらい?」
(おいこら、面倒な単語を出すな)
スラリーの反応に、アリエスは表情を笑顔のまま引きつらせた。
「えと、魔王様ってなんですかね……」
カプリナはおそるおそるアリエスに尋ねている。
魔王なんて単語が出てきたら、聖騎士として反応せざるを得ないというものである。
「き、気のせいではありませんかね。魔物のいうことを真に受ける必要はありませんよ」
アリエスは表情を引きつらせたまま、カプリナに言い聞かせるように声をかけている。この時のアリエスの表情が恐ろしかったのか、カプリナは黙ったままこくこくと何度も頷いていた。
カプリナが黙ってくれたので、アリエスは両手でスラリーを抱え上げる。
「スラリー? 魔王とかいう単語を口にするんじゃありませんよ?」
両手で押し潰すような形で、アリエスはスラリーに言い聞かせている。もちろん、カプリナには聞こえないくらいの声でだ。
「いたい、まおうさま」
だが、スラリーはアリエスのことを魔王と呼び続けている。
言葉が話せたり、情報のやり取りができたりと、スラリーはスライムにしてはとても頭がいい。だが、ところどころ抜けているところが問題なのだ。
この状況の理解力というのが、スラリーの最大の欠点だったのである。
ただ、言ったことに対してはちゃんと守るので、言い聞かせれば大丈夫というわけだ。
そんなわけで、今はアリエスによるお説教タイムに突入していた。
「今の私は聖女見習いアリエスです。呼ぶならば聖女様、もしくはアリエス様と呼ぶようにして下さい」
スラリーを挟み込む手にものすごく力が入っている。いくらスライムとはいえ、神聖魔力のこもった手でつかまれてはひとたまりもない。
「やめて、まお……ありえすさま。そのちから、からだ、とけてしまう」
スラリーは、必死に手を離すように懇願してくる。そのくらいに、アリエスの手にはたっぷりと神聖魔力がにじみ出ていたのだ。
「おっと、それはいけませんね。恩人に対して、それはあまりにも失礼というものです」
ようやくアリエスはスラリーから手を離して解放したのである。
「あ、アリエスさん、そのスライムは一体……?」
カプリナは完全に自分が何を見ているのか分からないようだった。
「落ち着いて下さい、カプリナ様。とりあえず状況を説明願いますか?」
「は、はい」
アリエスはスラリーが登場するまでの状況の説明を求める。
カプリナによれば、アリエスの指摘した通り、ゴブリンは第二の矢を放てずに困っていたらしい。そこに近付いてきたカプリナに対して、その場に落ちていた石を拾って投げつけようとしたそうだ。
ところが、その石は投げられることはなく、身構えた再び見た時には先程の状況になっていたのだという。
「なるほど、スラリーはカプリナ様を守って下さったのですね」
「ありえすさまの、においがする。なかま、まもる。すらりー、えらい?」
体を左右に震わせながら、スラリーは自慢げに話をしている。
「ふふっ、えらいですよ、スラリー」
「このて、あたたかい……。なつかしい」
神聖魔力を抑えた状態であるなら、スラリーの体も平然と撫でることができるようだ。
「聖女様、カプリナ様、どうかなさいましたか!」
ようやく落ち着いたと思ったら、落ち着かない人たちがやって来た。
そう、カプリナとアリエスを陰から支援しようとしていた騎士たちだった。
当然ではあるものの、スラリーを見つけた騎士たちは剣を構える。
「聖女様、カプリナ様、早くそのスライムから離れて下さい!」
必死に訴えてくるものの、アリエスとカプリナは笑いながら顔を見合わせていた。
状況が分からない騎士たちが再度訴えるものの、アリエスはスラリーを抱きかかえてにこりと微笑む。
「大丈夫です。このスライムは私たちを守ってくれたのですから」
「へ? スライムが守る?」
アリエスの証言に、騎士たちはわけが分からないという感じで間の抜けた表情をさらしていた。
これは説明が必要そうだと、アリエスは苦笑いを浮かべたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
狼になっちゃった!
家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで?
色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!?
……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう?
これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる