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第26話 我慢できない元魔王
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「ただいまです、おじいちゃん」
「おお、アリエス。戻ったか」
帰りは何も問題なく……いや、サハーのことで少々問い詰められはしたものの、無事にゾディアック伯爵領の教会へとアリエスは戻ってきた。
牧師とアリエスは再会を喜び合うが、他の神父たちはものすごく警戒した様子で立ち尽くしていた。
「そなたらがアリエス様の住む教会の方々か。お初にお目にかかる、俺はサハーという。フィシェギルという種族の勇敢な戦士だ。アリエス様の護衛として、この地に住まわせてもらうことになった。よろしく頼む」
右腕を体の前で折り曲げて添え、深々と頭を下げるサハー。その仕草はまるで騎士のような姿だった。
「彼なら大丈夫です。私に対して忠誠を誓ってくれていますから」
「この身に迫った危機を救って頂き、感謝しております。必ずやアリエス様のお役に立てるよう、しっかりと努めてまいります」
フィシェギルというの種族はそもそもは蛮族のひとつである。
だが、サハーはスラリー同様、アリエスの前世である魔王の下で鍛えられてきた経緯がある。そのため、魔王軍の兵士としての誇りを持っており、その魔王が転生したアリエスに対して強い忠誠を誓っているのである。
これが、アリエスが大丈夫と言い張る根拠なのである。
「ただ、正直な気持ちを言いますと、魔王様を殺した聖女という存在の下につくのは、本当は我慢なりませぬ。ですが、アリエス様の人柄と慈悲に触れ、その考えを改めた次第であります」
恥ずかしげもなく話すサハーだが、あまりにも堂々としていたために、アリエスは吹き出しそうになるのを必死に我慢していた。
聖女であるアリエスが戻って来たことは喜ばしい教会ではあるが、おまけでくっついてきた魔族の姿に思わず頭を抱えているようだ。その様子も相まって、アリエスはさらに笑いをこらえるのに大変になっているようである。
「お、おじいちゃん。とりあえず部屋に戻っていいでしょうか」
「ああ、そうだな。長旅で疲れているんだ。デビュタントも無事に終わったのだし、ゆっくり休むといいよ」
育ての親である牧師の許可が出たことで、アリエスは笑い出さないうちに逃げるようにして教会の中へ駆け込んだのだった。
当然ながら、その後しばらくの間、教会の中からアリエスの笑い声が響き渡ったのはいうまでもないことである。
一方その頃、アリエスを無事に教会へと送り、邸宅に戻ってきたカプリナたちは頭を抱えていた。
それというのも、王族たちに非があるとはいえど、アリエスがケンカを吹っかけてしまったからだ。
「王子や王女たちは分かってくれたとはいえ、あの国王が簡単に引き下がってくれるだろうか……」
どうやら、サンカサス王国の国王はちょっと性格に難がありそうなのである。
自分の国に長らく聖女がいなかったことで焦っているのは分かるのだが、まさかあそこまで侮辱の限りを尽くすとは思わなかった。
なるほど、聖女が今までいなかったことになんとなく納得してしまうというものだ。
「今の国王のことを思うと、次の世代は少しはマシになりそうだな……」
「そう思いますよ。シラー様たちは、話をしていて話しやすかったですし」
「ですが、国王陛下を止められるかというと、それは別問題でございますね」
「ああ、そうだな……」
ゾディアック伯爵は、額に手を当ててため息をついている。
「ありえすさま、ぶじょく。すらりー、こくおう、ゆるせない」
カプリナの肩に乗っかるスラリーは、体をぶよぶよと跳ねさせながら、国王の文句を言っている。
だが、カプリナはスラリーの言葉に素直に首を縦に振れずにいた。
「かぷりな、だいじょうぶ?」
さっきから真剣な表情をしているカプリナが心配になるスラリーである。
「ええ、大丈夫ですよ。ただ、私たちは王国の民です。国王がやれといえば、それに従わなければならないですからね。私たちは、どうすればいいのでしょうかね」
カプリナの悩みは、王命が下った時の心配だった。
国によっては聖女の立場がまちまちで、国王よりも上の国もあれば、国王の次というような国もある。
サンカサス王国では、聖女は国王よりも下に位置している。そのことがカプリナにとって悩みの種となっているのだ。
「ありえすさま、みんなすくう。こくおう、なにもしない。したがうべき、どちらか、はっきりしてる」
「そ、そうですね。私はアリエス様の聖騎士なのです。国王に従う必要は、……ありませんか」
スラリーの言葉に、カプリナの心が決まる。
「……親は子どもを守るものだ。カプリナがそう決めたのならば、私たちもそれに協力してあげよう」
「そうですね、今の国王陛下には、まったくと言っていいほど恩義がありませんし」
なんということだろうか。ゾディアック伯爵夫妻も、国王に従うつもりがまったくないようである。
やはり、娘とその友人が侮辱されたことが、伯爵たちにとっては決め手となったようである。
屋敷に入るかと思った伯爵たちは、その足でそのまま再び教会へと向かっていく。
万一への事態に備えて、伯爵たちは動き出したのだった。
「おお、アリエス。戻ったか」
帰りは何も問題なく……いや、サハーのことで少々問い詰められはしたものの、無事にゾディアック伯爵領の教会へとアリエスは戻ってきた。
牧師とアリエスは再会を喜び合うが、他の神父たちはものすごく警戒した様子で立ち尽くしていた。
「そなたらがアリエス様の住む教会の方々か。お初にお目にかかる、俺はサハーという。フィシェギルという種族の勇敢な戦士だ。アリエス様の護衛として、この地に住まわせてもらうことになった。よろしく頼む」
右腕を体の前で折り曲げて添え、深々と頭を下げるサハー。その仕草はまるで騎士のような姿だった。
「彼なら大丈夫です。私に対して忠誠を誓ってくれていますから」
「この身に迫った危機を救って頂き、感謝しております。必ずやアリエス様のお役に立てるよう、しっかりと努めてまいります」
フィシェギルというの種族はそもそもは蛮族のひとつである。
だが、サハーはスラリー同様、アリエスの前世である魔王の下で鍛えられてきた経緯がある。そのため、魔王軍の兵士としての誇りを持っており、その魔王が転生したアリエスに対して強い忠誠を誓っているのである。
これが、アリエスが大丈夫と言い張る根拠なのである。
「ただ、正直な気持ちを言いますと、魔王様を殺した聖女という存在の下につくのは、本当は我慢なりませぬ。ですが、アリエス様の人柄と慈悲に触れ、その考えを改めた次第であります」
恥ずかしげもなく話すサハーだが、あまりにも堂々としていたために、アリエスは吹き出しそうになるのを必死に我慢していた。
聖女であるアリエスが戻って来たことは喜ばしい教会ではあるが、おまけでくっついてきた魔族の姿に思わず頭を抱えているようだ。その様子も相まって、アリエスはさらに笑いをこらえるのに大変になっているようである。
「お、おじいちゃん。とりあえず部屋に戻っていいでしょうか」
「ああ、そうだな。長旅で疲れているんだ。デビュタントも無事に終わったのだし、ゆっくり休むといいよ」
育ての親である牧師の許可が出たことで、アリエスは笑い出さないうちに逃げるようにして教会の中へ駆け込んだのだった。
当然ながら、その後しばらくの間、教会の中からアリエスの笑い声が響き渡ったのはいうまでもないことである。
一方その頃、アリエスを無事に教会へと送り、邸宅に戻ってきたカプリナたちは頭を抱えていた。
それというのも、王族たちに非があるとはいえど、アリエスがケンカを吹っかけてしまったからだ。
「王子や王女たちは分かってくれたとはいえ、あの国王が簡単に引き下がってくれるだろうか……」
どうやら、サンカサス王国の国王はちょっと性格に難がありそうなのである。
自分の国に長らく聖女がいなかったことで焦っているのは分かるのだが、まさかあそこまで侮辱の限りを尽くすとは思わなかった。
なるほど、聖女が今までいなかったことになんとなく納得してしまうというものだ。
「今の国王のことを思うと、次の世代は少しはマシになりそうだな……」
「そう思いますよ。シラー様たちは、話をしていて話しやすかったですし」
「ですが、国王陛下を止められるかというと、それは別問題でございますね」
「ああ、そうだな……」
ゾディアック伯爵は、額に手を当ててため息をついている。
「ありえすさま、ぶじょく。すらりー、こくおう、ゆるせない」
カプリナの肩に乗っかるスラリーは、体をぶよぶよと跳ねさせながら、国王の文句を言っている。
だが、カプリナはスラリーの言葉に素直に首を縦に振れずにいた。
「かぷりな、だいじょうぶ?」
さっきから真剣な表情をしているカプリナが心配になるスラリーである。
「ええ、大丈夫ですよ。ただ、私たちは王国の民です。国王がやれといえば、それに従わなければならないですからね。私たちは、どうすればいいのでしょうかね」
カプリナの悩みは、王命が下った時の心配だった。
国によっては聖女の立場がまちまちで、国王よりも上の国もあれば、国王の次というような国もある。
サンカサス王国では、聖女は国王よりも下に位置している。そのことがカプリナにとって悩みの種となっているのだ。
「ありえすさま、みんなすくう。こくおう、なにもしない。したがうべき、どちらか、はっきりしてる」
「そ、そうですね。私はアリエス様の聖騎士なのです。国王に従う必要は、……ありませんか」
スラリーの言葉に、カプリナの心が決まる。
「……親は子どもを守るものだ。カプリナがそう決めたのならば、私たちもそれに協力してあげよう」
「そうですね、今の国王陛下には、まったくと言っていいほど恩義がありませんし」
なんということだろうか。ゾディアック伯爵夫妻も、国王に従うつもりがまったくないようである。
やはり、娘とその友人が侮辱されたことが、伯爵たちにとっては決め手となったようである。
屋敷に入るかと思った伯爵たちは、その足でそのまま再び教会へと向かっていく。
万一への事態に備えて、伯爵たちは動き出したのだった。
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