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第35話 不満が解消しない元魔王
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それから教会の周りを走り込むようになったアリエス。しかし、二周するだけで息が上がってしまうくらいには体力がなく、かなり困った様子を見せていた。
「はあ、はあ……。な、何のこれしきですよ」
「アリエス様、続けるのはいいですけれど、普段の生活に支障を出さないで下さいよ。教会のやつらにどやされるのは勘弁ですからね」
サハーから文句を言われているものの、アリエスはやめるつもりはない。
「わ、私は聖女です。困難に立ち向かい、人々を助ける責務があるのです。この程度の困難、乗り越えられなくてどうするんですか……」
息が上がりながらも言い切るアリエスの姿に、サハーはやれやれといった様子でその姿を見守っている。
「それにしても、最初の日よりも酷い状態ですね。これが本来の体力ってところですか」
「ええ、そうでしょうね。あの日は、おじいちゃんに回復魔法を使ってもらってましたから」
少し休んでいる間に、だいぶ喋れるようになってきている。
どうやら、体力が増えているのではなく、回復力が増えているようだ。聖女らしいといえば聖女らしいが、アリエスとしてはなんとも複雑な気持ちとなった。
「もう普通に喋れていますね。大した回復力ですよ」
「うう、こちらの方が育っていますか……。これはこれでいいのですが、あの頃を思うとすぐに息切れをする状況を早くどうにかしたいですよ……」
なんとも複雑な気持ちになるアリエスである。
「まあ、とりあえず続けてみることですね。私はアリエス様の部下ですから、いくらでも付き合って差し上げられますから」
「分かりました。とにかく頼みましたよ、サハー」
「合点ですとも」
体力がついたようなついていないような微妙な状況に納得しないアリエスは、次のやることをするために、教会の中へと入っていったのだった。
―――
この日も、ライラは聖女について調べるために街の中を散策している。
最初の数日間は、生活資金を得るために依頼をこなしていたので、ようやくまともな調査が始められるというものだ。
「最初に持っていたお金も、こうもあっさり底をついてしまうとは思いませんでしたね。おかげで面倒なことをしないと生活できません。まったく、人間社会というものは面倒なものですね」
ぶつぶつと文句を言いながら、街のあちこちを見て回っている。
街並み自体はかなりきれいに整えられているようで、人間の街の意外なところに驚いているようだった。
「それはそれとして、人間の街は誘惑が多いですね。なんですか、このいい匂いは」
ライラが気になっているのは、肉を焼く屋台だった。
魔族の中では、肉を焼くという文化は根付いておらず、生のままかじりつくことが普通だった。なので、肉を焼くという行為自体が、ライラにとっては新鮮なのだ。
ついつい鳴るお腹の音には勝てず、ライラは気がつくと屋台にやって来ていた。
「すまない、その串を一本もらってもいいですか」
ライラが屋台にいた男性に声をかける。
声をかけられた屋台の主人は、ライラに顔を向けるとにこりと笑っていた。
「あいよ。おっ、見かけない顔だね。ご新規さんで美人さんときたものだ、もう一本持っていくといいよ」
「いいのですか?」
「ああ、見たところ傭兵さんのようだからね。この街は領主様と聖女様と傭兵たちの頑張りで平和が維持されているんだ。だから、俺もこうやって肉を仕入れて、店を構えてられるんだよ」
「そうですか。ならば、その気持ち頂いておきましょう」
「毎度。これからもごひいきに」
無事に売買が成立した主人は、終始にこやかな笑顔を見せてライラを見送ったのだった。
買った肉を頬張りながら、ライラは街の散策を続ける。
ただ焼いただけの肉だというのに、普段食べている肉とは格段に味が違って驚かされる。
「なんと、焼くだけで肉はこんなに変わるのか。かめばかむほどに味が出るというか、このようなことができるとは、人間というのは面白いものだな」
肉を食べ終えたライラの足は、教会へと向かっていた。
(おや、なんだあの走っている少女は)
教会の近くにやって来たライラの目に、縛って束ねた髪をなびかせながら走る少女の姿が飛び込んできた。
その少女を見たライラは、その魔力に思わず足を止めてしまう。
(この魔力は、聖女なのでしょうか。いや、それにしてはどことなく懐かしい感じがしますね……)
魔族にとって聖女の持つ神聖な魔力というものは不快でしかない。だというのに、どこか安心する不思議な雰囲気を持っている少女の姿に、ついライラは目を奪われてしまっていた。
だが、次の瞬間、ライラは正気に戻る。
(げっ、あれはサハーではないか。ちっ、彼がいては留まるのは危険ですね。聞き込みを再開しませんと)
サハーが出てきたことで、ライラはそそくさと教会の前から立ち去っていく。
先日観察を続けていたところ、サハーに気付かれそうになったので警戒しているのだ。
なので、ライラは撤退を余儀なくさせられてしまったというわけなのである。
(あの少女、とても気になります。もっとよく観察せねば……)
ライラは不思議な感覚を覚えたようだ。
自分が惹きつけられるあの聖女は一体何者なのか。ライラはその日の間、気になって仕方がなかったのだった。
「はあ、はあ……。な、何のこれしきですよ」
「アリエス様、続けるのはいいですけれど、普段の生活に支障を出さないで下さいよ。教会のやつらにどやされるのは勘弁ですからね」
サハーから文句を言われているものの、アリエスはやめるつもりはない。
「わ、私は聖女です。困難に立ち向かい、人々を助ける責務があるのです。この程度の困難、乗り越えられなくてどうするんですか……」
息が上がりながらも言い切るアリエスの姿に、サハーはやれやれといった様子でその姿を見守っている。
「それにしても、最初の日よりも酷い状態ですね。これが本来の体力ってところですか」
「ええ、そうでしょうね。あの日は、おじいちゃんに回復魔法を使ってもらってましたから」
少し休んでいる間に、だいぶ喋れるようになってきている。
どうやら、体力が増えているのではなく、回復力が増えているようだ。聖女らしいといえば聖女らしいが、アリエスとしてはなんとも複雑な気持ちとなった。
「もう普通に喋れていますね。大した回復力ですよ」
「うう、こちらの方が育っていますか……。これはこれでいいのですが、あの頃を思うとすぐに息切れをする状況を早くどうにかしたいですよ……」
なんとも複雑な気持ちになるアリエスである。
「まあ、とりあえず続けてみることですね。私はアリエス様の部下ですから、いくらでも付き合って差し上げられますから」
「分かりました。とにかく頼みましたよ、サハー」
「合点ですとも」
体力がついたようなついていないような微妙な状況に納得しないアリエスは、次のやることをするために、教会の中へと入っていったのだった。
―――
この日も、ライラは聖女について調べるために街の中を散策している。
最初の数日間は、生活資金を得るために依頼をこなしていたので、ようやくまともな調査が始められるというものだ。
「最初に持っていたお金も、こうもあっさり底をついてしまうとは思いませんでしたね。おかげで面倒なことをしないと生活できません。まったく、人間社会というものは面倒なものですね」
ぶつぶつと文句を言いながら、街のあちこちを見て回っている。
街並み自体はかなりきれいに整えられているようで、人間の街の意外なところに驚いているようだった。
「それはそれとして、人間の街は誘惑が多いですね。なんですか、このいい匂いは」
ライラが気になっているのは、肉を焼く屋台だった。
魔族の中では、肉を焼くという文化は根付いておらず、生のままかじりつくことが普通だった。なので、肉を焼くという行為自体が、ライラにとっては新鮮なのだ。
ついつい鳴るお腹の音には勝てず、ライラは気がつくと屋台にやって来ていた。
「すまない、その串を一本もらってもいいですか」
ライラが屋台にいた男性に声をかける。
声をかけられた屋台の主人は、ライラに顔を向けるとにこりと笑っていた。
「あいよ。おっ、見かけない顔だね。ご新規さんで美人さんときたものだ、もう一本持っていくといいよ」
「いいのですか?」
「ああ、見たところ傭兵さんのようだからね。この街は領主様と聖女様と傭兵たちの頑張りで平和が維持されているんだ。だから、俺もこうやって肉を仕入れて、店を構えてられるんだよ」
「そうですか。ならば、その気持ち頂いておきましょう」
「毎度。これからもごひいきに」
無事に売買が成立した主人は、終始にこやかな笑顔を見せてライラを見送ったのだった。
買った肉を頬張りながら、ライラは街の散策を続ける。
ただ焼いただけの肉だというのに、普段食べている肉とは格段に味が違って驚かされる。
「なんと、焼くだけで肉はこんなに変わるのか。かめばかむほどに味が出るというか、このようなことができるとは、人間というのは面白いものだな」
肉を食べ終えたライラの足は、教会へと向かっていた。
(おや、なんだあの走っている少女は)
教会の近くにやって来たライラの目に、縛って束ねた髪をなびかせながら走る少女の姿が飛び込んできた。
その少女を見たライラは、その魔力に思わず足を止めてしまう。
(この魔力は、聖女なのでしょうか。いや、それにしてはどことなく懐かしい感じがしますね……)
魔族にとって聖女の持つ神聖な魔力というものは不快でしかない。だというのに、どこか安心する不思議な雰囲気を持っている少女の姿に、ついライラは目を奪われてしまっていた。
だが、次の瞬間、ライラは正気に戻る。
(げっ、あれはサハーではないか。ちっ、彼がいては留まるのは危険ですね。聞き込みを再開しませんと)
サハーが出てきたことで、ライラはそそくさと教会の前から立ち去っていく。
先日観察を続けていたところ、サハーに気付かれそうになったので警戒しているのだ。
なので、ライラは撤退を余儀なくさせられてしまったというわけなのである。
(あの少女、とても気になります。もっとよく観察せねば……)
ライラは不思議な感覚を覚えたようだ。
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