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第72話 気難しさを感じる元魔王
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教会の中に入っていったヴァコルは、なんともしかめっ面である。
「なんというみすぼらしい教会なんですか。これが聖女様の住まう場所だと思うと、不快な気持ちになりますね」
ヴァコルはなんとも辛辣な言葉を放っている。
確かに、王都暮らしであれば、ゾディアーク伯爵領の教会の中はとても質素で飾り気が少なく感じるかも知れない。
しかし、小さい頃から暮らしてきた場所だし、そもそもアリエスの前世である魔王もあまりごちゃごちゃしたのは好きじゃなかったので、アリエス自身はとても気に入っている。
その場所をけなされて、アリエスはずいぶんと不機嫌な表情を見せている。
「お言葉ではございますけれど、私はこの場所が大変気に入っております。神様に仕える聖女と致しまして、環境などはあまり大切に思っておりません。その信仰心こそがすべてだと思っております」
(俺は何を言っているんだ)
聖女としてヴァコルの言葉に反論しながらも、心の中の魔王は頭を抱えているようである。
とはいえ、心の魔王がいくら反発しようとも、聖女として振る舞うと決めた以上はそれを貫き通す。決めたことは曲げないのが、アリエスの信条なのである。
ところが、そのしっかりとした表情は、ヴァコルの驚きを誘っていた。
「そ、そういう考え方もあるのですね。これは失言でした」
真剣な表情を見せてはっきりと言いのけたアリエスの態度に、ヴァコルは謝罪の言葉を述べていた。
これはヴァコルの従者たちが動きを止めるくらい衝撃的なことだった。
「嘘だろ、あのヴァコル様が失言と認めたぞ」
「さすがは聖女様。芯の通った考えをお持ちですね」
騎士や使用人たちがこそこそと話し出す。
「何をおしゃべりしているのですか。さっさと荷物を運びなさい」
「はっ、はい!」
ヴァコルの命令で、騎士や使用人たちがきびきびと動き始める。
「まったく、なぜ宮廷魔導士である僕が教会で暮らさなければならないのですか。そもそも魔導士と神官たちは仲が悪いというのに」
ヴァコルはぶつぶつと文句を言っている。その不機嫌そうな表情を見て、神官たちはいそいそと立ち去っていく。
「……実に不愉快です」
舌打ちをして、ヴァコルは神官に声をかける。
「僕の部屋はどこですか。さっさと案内しなさい」
「はっ、ただいま案内致します」
ヴァコルの怒号にびっくりした神官が、すぐに駆け寄ってきた。
神官はヴァコルに頭を下げると、そのまま泊まってもらう部屋へと案内を始めたのだった。
「まあ、なんなんですか、あの態度は」
「ああ見えてもヴァコル様は最年少の宮廷魔導士ですからね。待遇がよろしくないと感じていらっしゃるのでしょう。それに……」
「それに?」
司祭の言葉に、アリエスは小さく首を傾げる。
「魔法使いと神官は仲が悪いのですよ。ともに魔法を使いますが、魔力と神聖力という異なる力を根源としますからね」
「なるほど……。これはなんとも仲良くするのは大変そうではありませんか?」
話を聞いていたアリエスが、司祭に思わず疑問をぶつけている。
これには司祭も苦笑いをしている。
「私もそう思いますよ。なにせ、王宮の中で設備に恵まれた中ではたらいていらしたのです。ゾディアーク伯爵領は田舎ですから、そういったものが望めません。それゆえに、苛立ちを募らせているのでしょう」
「なるほど……。確かに、デビュタントで訪れました王都や王宮はとても華やかでしたものね。お金や手間暇がかかっていてそれは素晴らしいと思いました」
アリエスは体の前で両手を握ったまま司祭と話を続けていく。
「きっと、ここでの経験は宮廷魔導士様にもいい経験となりますでしょう」
話をしていた司祭が、唐突にポンと手を叩く。
「そうです。宮廷魔導士様の歓迎を致しませんと。普段は節制を心掛けている我が教会ですが、この時ばかりはちょっと豪華にしましょうかね」
「それでしたら、私も手伝いましょうか?」
司祭の言葉に、アリエスはにっこりと微笑みながら乗っかろうとする。
ところが、司祭からはしっかりと止められてしまった。
「いいえ、聖女様は何もなさらなくてよいのです。普段のように、祈りを捧げて下さっていればいいのですよ」
「……分かりました。それでは、私は一度部屋に戻らさせていただきます」
「ええ、そうして下さい」
ヴァコルとの顔合わせも終わり、司祭との話を終えたアリエスは、一度部屋に戻って休息をとることにしたようだ。
一日に二度行っている祈りも、ひとまず朝と昼以降、とにかくどこでもいいので祈っていればいいというくらいにアバウトである。だからこそ、普段のアリエスは思った以上に自由に行動ができているというわけなのだ。
(やれやれ、あのヴァコルという魔導士はなかなかに気難しそうな人物のようだな。なんというか、出会った頃のパイシズを思い出すな)
部屋に戻りながら、懐かしさについ顔をにやつかせてしまうアリエスである。
(おっと、いかん。ここは教会の中だ。先程あの魔導士に会った直後だから、下手な表情は要らぬ誤解を与えかねん。平常心を保たねば)
今自分がいる場所を思い出して、すぐさま真顔になるアリエスである。
こういった状況の判断をすぐにできるあたり、長年の魔王としての経験が活きているといったところだろう。
一時的に自分の部屋に戻ったアリエスは、ひとまずはほっとひと息をついたのだった。
「なんというみすぼらしい教会なんですか。これが聖女様の住まう場所だと思うと、不快な気持ちになりますね」
ヴァコルはなんとも辛辣な言葉を放っている。
確かに、王都暮らしであれば、ゾディアーク伯爵領の教会の中はとても質素で飾り気が少なく感じるかも知れない。
しかし、小さい頃から暮らしてきた場所だし、そもそもアリエスの前世である魔王もあまりごちゃごちゃしたのは好きじゃなかったので、アリエス自身はとても気に入っている。
その場所をけなされて、アリエスはずいぶんと不機嫌な表情を見せている。
「お言葉ではございますけれど、私はこの場所が大変気に入っております。神様に仕える聖女と致しまして、環境などはあまり大切に思っておりません。その信仰心こそがすべてだと思っております」
(俺は何を言っているんだ)
聖女としてヴァコルの言葉に反論しながらも、心の中の魔王は頭を抱えているようである。
とはいえ、心の魔王がいくら反発しようとも、聖女として振る舞うと決めた以上はそれを貫き通す。決めたことは曲げないのが、アリエスの信条なのである。
ところが、そのしっかりとした表情は、ヴァコルの驚きを誘っていた。
「そ、そういう考え方もあるのですね。これは失言でした」
真剣な表情を見せてはっきりと言いのけたアリエスの態度に、ヴァコルは謝罪の言葉を述べていた。
これはヴァコルの従者たちが動きを止めるくらい衝撃的なことだった。
「嘘だろ、あのヴァコル様が失言と認めたぞ」
「さすがは聖女様。芯の通った考えをお持ちですね」
騎士や使用人たちがこそこそと話し出す。
「何をおしゃべりしているのですか。さっさと荷物を運びなさい」
「はっ、はい!」
ヴァコルの命令で、騎士や使用人たちがきびきびと動き始める。
「まったく、なぜ宮廷魔導士である僕が教会で暮らさなければならないのですか。そもそも魔導士と神官たちは仲が悪いというのに」
ヴァコルはぶつぶつと文句を言っている。その不機嫌そうな表情を見て、神官たちはいそいそと立ち去っていく。
「……実に不愉快です」
舌打ちをして、ヴァコルは神官に声をかける。
「僕の部屋はどこですか。さっさと案内しなさい」
「はっ、ただいま案内致します」
ヴァコルの怒号にびっくりした神官が、すぐに駆け寄ってきた。
神官はヴァコルに頭を下げると、そのまま泊まってもらう部屋へと案内を始めたのだった。
「まあ、なんなんですか、あの態度は」
「ああ見えてもヴァコル様は最年少の宮廷魔導士ですからね。待遇がよろしくないと感じていらっしゃるのでしょう。それに……」
「それに?」
司祭の言葉に、アリエスは小さく首を傾げる。
「魔法使いと神官は仲が悪いのですよ。ともに魔法を使いますが、魔力と神聖力という異なる力を根源としますからね」
「なるほど……。これはなんとも仲良くするのは大変そうではありませんか?」
話を聞いていたアリエスが、司祭に思わず疑問をぶつけている。
これには司祭も苦笑いをしている。
「私もそう思いますよ。なにせ、王宮の中で設備に恵まれた中ではたらいていらしたのです。ゾディアーク伯爵領は田舎ですから、そういったものが望めません。それゆえに、苛立ちを募らせているのでしょう」
「なるほど……。確かに、デビュタントで訪れました王都や王宮はとても華やかでしたものね。お金や手間暇がかかっていてそれは素晴らしいと思いました」
アリエスは体の前で両手を握ったまま司祭と話を続けていく。
「きっと、ここでの経験は宮廷魔導士様にもいい経験となりますでしょう」
話をしていた司祭が、唐突にポンと手を叩く。
「そうです。宮廷魔導士様の歓迎を致しませんと。普段は節制を心掛けている我が教会ですが、この時ばかりはちょっと豪華にしましょうかね」
「それでしたら、私も手伝いましょうか?」
司祭の言葉に、アリエスはにっこりと微笑みながら乗っかろうとする。
ところが、司祭からはしっかりと止められてしまった。
「いいえ、聖女様は何もなさらなくてよいのです。普段のように、祈りを捧げて下さっていればいいのですよ」
「……分かりました。それでは、私は一度部屋に戻らさせていただきます」
「ええ、そうして下さい」
ヴァコルとの顔合わせも終わり、司祭との話を終えたアリエスは、一度部屋に戻って休息をとることにしたようだ。
一日に二度行っている祈りも、ひとまず朝と昼以降、とにかくどこでもいいので祈っていればいいというくらいにアバウトである。だからこそ、普段のアリエスは思った以上に自由に行動ができているというわけなのだ。
(やれやれ、あのヴァコルという魔導士はなかなかに気難しそうな人物のようだな。なんというか、出会った頃のパイシズを思い出すな)
部屋に戻りながら、懐かしさについ顔をにやつかせてしまうアリエスである。
(おっと、いかん。ここは教会の中だ。先程あの魔導士に会った直後だから、下手な表情は要らぬ誤解を与えかねん。平常心を保たねば)
今自分がいる場所を思い出して、すぐさま真顔になるアリエスである。
こういった状況の判断をすぐにできるあたり、長年の魔王としての経験が活きているといったところだろう。
一時的に自分の部屋に戻ったアリエスは、ひとまずはほっとひと息をついたのだった。
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