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第97話 娘の成長を見守る元魔王
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エリスの抱えている事情が分かったアリエスだったが、とても口にできるような内容ではなかった。
自分の前世が魔王で、その魔力の影響でエリスの母親が妊娠したなど、どうして言えようか。とてもじゃないが口が裂けても言える内容ではない。
そのため、アリエスはスラリーに話はしたものの、周囲にはとにかく隠し続けた。
そんなことよりも、今はエリスの聖女としての能力を伸ばすことの方が先決である。これを達成しないことには、アリエスはサンカサス王国に戻れないのだから。
(あの文面からすると、絶対にキャサリーンがやってくる。そうなると、エリスの力が弱いとなったら、絶対俺の方にとばっちりが来るだろうからな。まったく、他人事でないことが分かったとはいえ、どうして俺がこんな苦労をせねばならんのだ……)
アリエスの内なる魔王は、とても悩ましい状態のようだった。
それでもアリエスは、とにかくエリスを鍛え続けている。朝は走り込み、昼からは座学と実習。これを毎日繰り返す。
そのかいあってか、エリスの神聖力は徐々にだが強まっているようだった。
「それでは、治癒魔法を使っていただきましょうか」
「は、はい! ですが、誰に使われるのですか?」
ある日の昼下がり、アリエスはエリスにそんな課題を出していた。
エリスは元気よく返事をしたものの、一体誰に魔法を使うのか疑問に思っているようだ。
次の瞬間、アリエスは袖をまくる。そして、どこから出したのか分からない短剣で、露わになった腕を切り裂いていた。
「あ、アリエス様?!」
「アリエス様、何をなさっているのですか!」
エリスはもちろん、カプリナだって突然のことに驚いている。
「ケガ人が用意できないのなら、作るしかないではありませんか。さあ、エリス様。この傷をあなたの神聖力で治すのですよ」
「わ、分かりました。やってみます」
戸惑いながらも、エリスはアリエスの腕の傷に手をかざす。アリエスが自分につけた傷は思ったよりも大きなものだ。よく見ると血だって流れている。
(この程度の傷、戦場や災害の現場に行けば、軽傷にすぎぬ。もっと悲惨な状況が待ち受けているのだ。この程度で怯んでいるようでは、立派な聖女にはなれぬというものだぞ、エリス)
正直言えば、アリエスだってこの傷は痛い。しかし、聖女が向かう現場には、これ以上のものがいくらでも存在しうるのだ。
そう、治癒魔法の特訓といいつつも、アリエスは同時にその覚悟を問い掛けているのである。
最初こそ驚いていたエリスも、アリエスの意図が分かったらしく、アリエスが自分でつけた傷をじっと見つめながら、かざして手に神聖力を集中させていく。
「ヒール!」
集まり切ったところで、エリスは魔法を使う。
エリスの手のひらから光が放たれ、アリエスの腕についた傷に集まっていく。じわじわと光が体に吸い込まれていくと、みるみるうちにその傷がふさがっていっていた。
荒療治ではあったものの、アリエスの目論見通り、エリスは見事に回復魔法を使ったのだった。
「ええ、見事にふさがっていますね。おめでとう、エリス様。これだけしっかりと魔法がお使いになられるようでしたら、国を覆う結界も、十分使いこなすことができるでしょう」
「えっ、傷を治すのと結界とでは、規模が違いすぎませんか?」
アリエスの言葉に、思わず身を引いてしまうエリスである。
これにはカプリナも否定的な考えを示している。それでもアリエスは自分の言った言葉を取り消すつもりはないようだ。
「魔法はどんなものでも基本は同じです。効果を思い浮かべ、それを魔力で実現するのです。ですので、今さっきは私の傷を治すイメージができていたのですから、それを国を覆い尽くす強力な結界に置き換えればいいのです。何も難しいことではありませんよ」
アリエスがにっこりと微笑んでいるが、エリスにはどうも想像できないようで首を横に振っているようである。
「無理ではありませんよ、エリス様」
否定的な態度を示すエリスに、アリエスは真顔を向けている。
「できるできないのではないのです。やるのです。あなたはどういう方ですか?」
「えっと、ゼラブ国の聖女です」
「そう、聖女にはできないという選択肢はありません。やるしかないのです。キャサリーン様は張られていった結界は、簡易のものです。いずれ近いうちに効果が薄れてしまうでしょう。そうなると、誰がこの国を守るというのですか?」
アリエスに強い口調で迫られ、エリスはただ黙り込むしかなかった。
そう、国民の強い心の拠り所である聖女がやるしかないのだ。
「……分かりました。やってみます」
アリエスに説得されて、エリスは国土を覆う結界の展開を心に決める。
正直なところ、まだまだ自分の力に不安しかないのだが、アリエスにここまで言われてしまえばやるしかないのである。
「国土を覆う大きな結界、国土を覆う大きな結界……」
エリスはぶつぶつと呟きながら、じっと集中して魔力を溜めていく。
「国土を覆う大きな結界よ、ここに現れよ!」
両手を広げて掲げると、エリスの全身から光の粒が放たれている。
その様子を見たアリエスは、うんうんと頷いているようだった。
どうやら、結界の展開に、エリスは成功したようなのだった。
自分の前世が魔王で、その魔力の影響でエリスの母親が妊娠したなど、どうして言えようか。とてもじゃないが口が裂けても言える内容ではない。
そのため、アリエスはスラリーに話はしたものの、周囲にはとにかく隠し続けた。
そんなことよりも、今はエリスの聖女としての能力を伸ばすことの方が先決である。これを達成しないことには、アリエスはサンカサス王国に戻れないのだから。
(あの文面からすると、絶対にキャサリーンがやってくる。そうなると、エリスの力が弱いとなったら、絶対俺の方にとばっちりが来るだろうからな。まったく、他人事でないことが分かったとはいえ、どうして俺がこんな苦労をせねばならんのだ……)
アリエスの内なる魔王は、とても悩ましい状態のようだった。
それでもアリエスは、とにかくエリスを鍛え続けている。朝は走り込み、昼からは座学と実習。これを毎日繰り返す。
そのかいあってか、エリスの神聖力は徐々にだが強まっているようだった。
「それでは、治癒魔法を使っていただきましょうか」
「は、はい! ですが、誰に使われるのですか?」
ある日の昼下がり、アリエスはエリスにそんな課題を出していた。
エリスは元気よく返事をしたものの、一体誰に魔法を使うのか疑問に思っているようだ。
次の瞬間、アリエスは袖をまくる。そして、どこから出したのか分からない短剣で、露わになった腕を切り裂いていた。
「あ、アリエス様?!」
「アリエス様、何をなさっているのですか!」
エリスはもちろん、カプリナだって突然のことに驚いている。
「ケガ人が用意できないのなら、作るしかないではありませんか。さあ、エリス様。この傷をあなたの神聖力で治すのですよ」
「わ、分かりました。やってみます」
戸惑いながらも、エリスはアリエスの腕の傷に手をかざす。アリエスが自分につけた傷は思ったよりも大きなものだ。よく見ると血だって流れている。
(この程度の傷、戦場や災害の現場に行けば、軽傷にすぎぬ。もっと悲惨な状況が待ち受けているのだ。この程度で怯んでいるようでは、立派な聖女にはなれぬというものだぞ、エリス)
正直言えば、アリエスだってこの傷は痛い。しかし、聖女が向かう現場には、これ以上のものがいくらでも存在しうるのだ。
そう、治癒魔法の特訓といいつつも、アリエスは同時にその覚悟を問い掛けているのである。
最初こそ驚いていたエリスも、アリエスの意図が分かったらしく、アリエスが自分でつけた傷をじっと見つめながら、かざして手に神聖力を集中させていく。
「ヒール!」
集まり切ったところで、エリスは魔法を使う。
エリスの手のひらから光が放たれ、アリエスの腕についた傷に集まっていく。じわじわと光が体に吸い込まれていくと、みるみるうちにその傷がふさがっていっていた。
荒療治ではあったものの、アリエスの目論見通り、エリスは見事に回復魔法を使ったのだった。
「ええ、見事にふさがっていますね。おめでとう、エリス様。これだけしっかりと魔法がお使いになられるようでしたら、国を覆う結界も、十分使いこなすことができるでしょう」
「えっ、傷を治すのと結界とでは、規模が違いすぎませんか?」
アリエスの言葉に、思わず身を引いてしまうエリスである。
これにはカプリナも否定的な考えを示している。それでもアリエスは自分の言った言葉を取り消すつもりはないようだ。
「魔法はどんなものでも基本は同じです。効果を思い浮かべ、それを魔力で実現するのです。ですので、今さっきは私の傷を治すイメージができていたのですから、それを国を覆い尽くす強力な結界に置き換えればいいのです。何も難しいことではありませんよ」
アリエスがにっこりと微笑んでいるが、エリスにはどうも想像できないようで首を横に振っているようである。
「無理ではありませんよ、エリス様」
否定的な態度を示すエリスに、アリエスは真顔を向けている。
「できるできないのではないのです。やるのです。あなたはどういう方ですか?」
「えっと、ゼラブ国の聖女です」
「そう、聖女にはできないという選択肢はありません。やるしかないのです。キャサリーン様は張られていった結界は、簡易のものです。いずれ近いうちに効果が薄れてしまうでしょう。そうなると、誰がこの国を守るというのですか?」
アリエスに強い口調で迫られ、エリスはただ黙り込むしかなかった。
そう、国民の強い心の拠り所である聖女がやるしかないのだ。
「……分かりました。やってみます」
アリエスに説得されて、エリスは国土を覆う結界の展開を心に決める。
正直なところ、まだまだ自分の力に不安しかないのだが、アリエスにここまで言われてしまえばやるしかないのである。
「国土を覆う大きな結界、国土を覆う大きな結界……」
エリスはぶつぶつと呟きながら、じっと集中して魔力を溜めていく。
「国土を覆う大きな結界よ、ここに現れよ!」
両手を広げて掲げると、エリスの全身から光の粒が放たれている。
その様子を見たアリエスは、うんうんと頷いているようだった。
どうやら、結界の展開に、エリスは成功したようなのだった。
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