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第98話 置き土産を試みる元魔王
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国土を覆うほどの大きな結界が無事に展開される。
エリスは呼吸を荒げているものの、その表情はやり切った感覚にあふれていた。
(まったく、さすがは俺の娘だな。魔力自体はかなり多いから、このくらいは楽勝のようだな)
アリエスは満足そうな表情のエリスを見つめて、安心したように笑顔を見せている。
ところが、エリスは慣れない大規模な魔法を使用したことで、体がふらついてしまう。
「大丈夫ですか、エリス様」
倒れそうになるエリスを、カプリナがしっかりと支えている。さすがは聖女の護衛騎士。その反応はとても早かった。
「あ、ありがとうございます」
エリスは助けてくれたカプリナにお礼を言っている。
「アリエス様、今の魔法ってそんなに消耗するものなのですか?」
「はい。今のは国土全体に魔族などを退けるための結界を張り巡らせたのです。ゼラブ国はそれほど大きくはございませんが、この手の魔法に慣れていらっしゃらないエリス様には、少々消耗が大きすぎたようなのです」
「そうなのですね」
アリエスの説明に、カプリナは納得がいったのか頷いていているようだった。
(エリスは半分魔族だから、この結界の影響を受けてしまったということは、伏せておこう。カプリナは知らぬことだしな)
言わぬが仏。
アリエスはエリスが倒れた真の理由を明かすことはなかった。
ちなみにだが、スラリーはまったくもって平気である。今もカプリナのマントのふりをして平然としていることからもよく分かることだろう。
頻繁にアリエスと会っているせいか、その影響で聖女の魔法に対しても耐性ができているようなのである。
今の状態で最強聖女であるキャサリーンに襲われたとしたら、おそらく一撃は耐えられるのではないだろうかと思えるくらいである。
(スラリーのやつ。もしかしたら俺よりも強くなるかもしれんな。スライムというのは、予想よりもはるかに可能性を秘めた種族なのかもしれんな)
目の前の光景にそう思いながら、アリエスはエリスに近付いていく。
「さて、エリス様」
「はい、アリエス様……」
まだ疲労から回復してない状態だが、アリエスに話しかけられて、エリスは返事をしている。
「よく頑張りましたね。私からの指導はこれで終わりです。今日のところは、ゆっくりお休みください」
「あ、ありがとうございます」
アリエスにそうだけ答えると、エリスはそのまま寝息を立てながら眠ってしまった。
すーすーと眠り表情は、とても穏やかだった。
「さあ、お部屋までお連れしましょうか」
「はい、アリエス様」
アリエスに言われて、カプリナはエリスを背負う。さすがに聖女に肉体労働をさせるわけにはいかないからだ。
「本当に、エリス様って軽いですよね。私たちより年上ですのに、驚きですよね」
「ええ。それだけ、このゼラブ国の状況が思わしくないのでしょう」
カプリナの疑問に、アリエスは憶測ながら語っている。
教会の中でこそあまりそういった状況は感じられないが、王都やその周辺の状態を見る限り、あまりよろしいようには思えないのである。
だが、アリエスは他国の聖女、しかも正式任命されて一年にも満たない聖女である。キャサリーンのように内部干渉はあまり好ましくない。
(知ってしまうと、この国も無視はできんからな。なにより、俺の娘の関わる土地だ。昔の罪滅ぼしというわけではないが、何かちょっとでもしてやりたいものだな……)
エリスの部屋に向かう途中、アリエスは真剣にそんなことを考えていた。
そもそもゼラブ国に対して、何か手を施そうとは考えていた。ところが、エリスが自分の魔力から生まれた子どもだと知ると、とても見ず知らずの国だという考えにはなれなかった。
そこには、魔族とはかけ離れた親子の情のようなものが存在しているようだった。
(とはいえ、やはり他国にはあまり干渉すべきではないな。そもそもエリスの魔力をどうにかしてほしいという話だったからな。自国の結界を張れるようになった今、俺の役割は終わったといっていいはずだ)
アリエスはずいぶんと揺れ動いていた。
あまりにも他人に対して気を揉むあたり、さすがは神の手によって聖女に転生させられただけあるというものである。
(まあいっか。よく頑張った娘のために、最後に置き土産をしていくくらいは)
エリスを部屋まで連れ帰ってベッドに寝かせると、アリエスはカプリナに先に部屋に帰ってもらう。
何をする気なのかと聞かれたものの、アリエスは唇の前に人差し指を立てていた。どうやら秘密にしたいらしい。
さすがに聖女であるアリエスには逆らえなかったので、カプリナはおとなしく先に部屋へと戻っていった。
「さて、頑張ったエリス様にご褒美をあげませんとね」
アリエスはそういって床に跪くと、聖女として祈りを捧げ始める。
(さあ、ゼラブの眠れる命よ。ほんのちょっとだけ手助けをしてやるから、目を覚ますがいい!)
アリエスの体からまばゆい光が一瞬だけ放たれる。一体何が起きたのか分からないくらい、実に短い時間だった。
「さあ、これで少しはゼラブ国はマシになるでしょう。ここからはあなたの番ですよ、エリス様」
最後に頭を撫でたアリエスは、そのまま静かに部屋を出ていったのだった。
エリスは呼吸を荒げているものの、その表情はやり切った感覚にあふれていた。
(まったく、さすがは俺の娘だな。魔力自体はかなり多いから、このくらいは楽勝のようだな)
アリエスは満足そうな表情のエリスを見つめて、安心したように笑顔を見せている。
ところが、エリスは慣れない大規模な魔法を使用したことで、体がふらついてしまう。
「大丈夫ですか、エリス様」
倒れそうになるエリスを、カプリナがしっかりと支えている。さすがは聖女の護衛騎士。その反応はとても早かった。
「あ、ありがとうございます」
エリスは助けてくれたカプリナにお礼を言っている。
「アリエス様、今の魔法ってそんなに消耗するものなのですか?」
「はい。今のは国土全体に魔族などを退けるための結界を張り巡らせたのです。ゼラブ国はそれほど大きくはございませんが、この手の魔法に慣れていらっしゃらないエリス様には、少々消耗が大きすぎたようなのです」
「そうなのですね」
アリエスの説明に、カプリナは納得がいったのか頷いていているようだった。
(エリスは半分魔族だから、この結界の影響を受けてしまったということは、伏せておこう。カプリナは知らぬことだしな)
言わぬが仏。
アリエスはエリスが倒れた真の理由を明かすことはなかった。
ちなみにだが、スラリーはまったくもって平気である。今もカプリナのマントのふりをして平然としていることからもよく分かることだろう。
頻繁にアリエスと会っているせいか、その影響で聖女の魔法に対しても耐性ができているようなのである。
今の状態で最強聖女であるキャサリーンに襲われたとしたら、おそらく一撃は耐えられるのではないだろうかと思えるくらいである。
(スラリーのやつ。もしかしたら俺よりも強くなるかもしれんな。スライムというのは、予想よりもはるかに可能性を秘めた種族なのかもしれんな)
目の前の光景にそう思いながら、アリエスはエリスに近付いていく。
「さて、エリス様」
「はい、アリエス様……」
まだ疲労から回復してない状態だが、アリエスに話しかけられて、エリスは返事をしている。
「よく頑張りましたね。私からの指導はこれで終わりです。今日のところは、ゆっくりお休みください」
「あ、ありがとうございます」
アリエスにそうだけ答えると、エリスはそのまま寝息を立てながら眠ってしまった。
すーすーと眠り表情は、とても穏やかだった。
「さあ、お部屋までお連れしましょうか」
「はい、アリエス様」
アリエスに言われて、カプリナはエリスを背負う。さすがに聖女に肉体労働をさせるわけにはいかないからだ。
「本当に、エリス様って軽いですよね。私たちより年上ですのに、驚きですよね」
「ええ。それだけ、このゼラブ国の状況が思わしくないのでしょう」
カプリナの疑問に、アリエスは憶測ながら語っている。
教会の中でこそあまりそういった状況は感じられないが、王都やその周辺の状態を見る限り、あまりよろしいようには思えないのである。
だが、アリエスは他国の聖女、しかも正式任命されて一年にも満たない聖女である。キャサリーンのように内部干渉はあまり好ましくない。
(知ってしまうと、この国も無視はできんからな。なにより、俺の娘の関わる土地だ。昔の罪滅ぼしというわけではないが、何かちょっとでもしてやりたいものだな……)
エリスの部屋に向かう途中、アリエスは真剣にそんなことを考えていた。
そもそもゼラブ国に対して、何か手を施そうとは考えていた。ところが、エリスが自分の魔力から生まれた子どもだと知ると、とても見ず知らずの国だという考えにはなれなかった。
そこには、魔族とはかけ離れた親子の情のようなものが存在しているようだった。
(とはいえ、やはり他国にはあまり干渉すべきではないな。そもそもエリスの魔力をどうにかしてほしいという話だったからな。自国の結界を張れるようになった今、俺の役割は終わったといっていいはずだ)
アリエスはずいぶんと揺れ動いていた。
あまりにも他人に対して気を揉むあたり、さすがは神の手によって聖女に転生させられただけあるというものである。
(まあいっか。よく頑張った娘のために、最後に置き土産をしていくくらいは)
エリスを部屋まで連れ帰ってベッドに寝かせると、アリエスはカプリナに先に部屋に帰ってもらう。
何をする気なのかと聞かれたものの、アリエスは唇の前に人差し指を立てていた。どうやら秘密にしたいらしい。
さすがに聖女であるアリエスには逆らえなかったので、カプリナはおとなしく先に部屋へと戻っていった。
「さて、頑張ったエリス様にご褒美をあげませんとね」
アリエスはそういって床に跪くと、聖女として祈りを捧げ始める。
(さあ、ゼラブの眠れる命よ。ほんのちょっとだけ手助けをしてやるから、目を覚ますがいい!)
アリエスの体からまばゆい光が一瞬だけ放たれる。一体何が起きたのか分からないくらい、実に短い時間だった。
「さあ、これで少しはゼラブ国はマシになるでしょう。ここからはあなたの番ですよ、エリス様」
最後に頭を撫でたアリエスは、そのまま静かに部屋を出ていったのだった。
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