魔王聖女

未羊

文字の大きさ
136 / 156

第136話 司祭から頼みごとをされる元魔王

しおりを挟む
 司祭に呼ばれたアリエスは、深刻な表情で出迎えられた。
 一体何が起きているのだろうかと、心配になってきてしまう。

「司祭様、お呼びでしょうか」

「おお、アリエス。よく来てくれたね。とりあえずそこに座りなさい」

 司祭に言われたので、アリエスはおとなしく椅子に腰掛ける。
 部屋の中にはアリエスの育ての親である牧師の姿もある。そろって深刻な表情をしているので、アリエスはなかなか不安でたまらない。
 元魔王とはいっても、今は十一歳の少女だ。そちらの方がどうしても自然と態度に出てしまうのである。

「どうなさったのでしょうか。魔王軍との話し合いは無事に終わりまして、魔族との大きな衝突は無くなりました。それでも何かご不安でもあるのでしょうか」

 アリエスは司祭に対して質問を投げかけている。このようなことを思うのも、まあ当然というところだろう。
 聖女としてやることはやり遂げたはずなのである。だというのに、深刻な表情を向けられてしまえば、アリエスが気にならないわけがないのである。

「いや、魔王軍との問題を解決してくれたのは、国としてはありがたい話なのですよ」

 司祭はアリエスの問い掛けに、このように答えている。

「でしたら、なぜ」

 アリエスは問い掛ける。
 司祭は牧師と顔を合わせると、アリエスに向かって話を始める。

「魔族との間で脅威がなくなると、次は何が起こるか分かっているのかな?」

「え……?」

 アリエスは思わず言葉を失ってしまう。自分の予想だにしていない事態があるというのかという、意外さからくる反応である。

「……正直、想像しかねます」

 アリエスは正直に答える。
 なにせ魔王時代にはあまり経験がない話だからだ。
 長らく自分が魔王として統治していたということもあって、その間、魔王軍をはじめとした多くの魔族の状況は安定していた。それゆえに、アリエスは司祭の質問に答えられなかったのだ。

「そうか……。アリエスは優しいから分からぬか」

 司祭は予想通りだったのか、淡々とした様子で話している。
 あまりにも分からない話なので、アリエスは顔を歪めてじろじろと司祭の顔を眺めている。

「司祭様、もったいぶらずにお話し願えませんか?」

「そうだな、話すとしよう」

 アリエスの催促に、司祭は話を始めることにした。

「人間というのは実に愚かなものでな、外敵がいなくなると、今度は人間同士で争うのだ」

「まあ、そうなのですね」

 司祭の話に、アリエスは驚いた表情を浮かべていた。
 ところが、アリエスはなんとなく話が見えてきたのか、司祭の話を遮って、提案を始める。

「分かりました。今度は人間同士の争いを食い止めればよいのですね」

「理解が早くて助かる。教会と聖女同士のつながりがあるとはいえ、どちらも国家には逆らえぬ。魔族という脅威がいたからこそ抑えられていた欲望が、これを機に発露せぬとも限らぬからな」

「そうですね。……となりますと、テレグロス王国でしょうか。キャサリーン様のお話を聞く限りは、あまりいい印象を抱きませんでしたし」

「まあ、そうだな。本当に理解が早いな、アリエスは」

「だてに魔王をしておりませんよ。種族が違えば考えも異なりますからね、魔族というのは。それをまとめ上げていた私の手腕の見せどころでしょうかね」

 柔らかな笑みを見せてアリエスを褒める司祭に対して、普段はすることのない仕草で話をするアリエスである。ここはちょっとばかり魔王が顔を出したようだった。

「そこでアリエスに頼みたいことがある」

「分かりました。私にできる限りのことをさせていただきます。なんでも仰って下さい」

 司祭が真面目な顔をすると、アリエスもまた、気合いの入った引き締まった表情を見せている。

「そうだな。サンカサスとテレグロス、二国の周辺各国の説得に回ってもらいたい」

「分かりました。平和な世界というのは、私の魔王時代からの望みでございます。かならず、各国の説得を成功させてみせましょう」

「うむ、頼んだぞ、アリエス」

「はい、お任せ下さい」

 司祭の言葉に、アリエスはしっかりと頭を下げて約束をしていた。

 アリエスが部屋を去ると、司祭と牧師がほっとした様子を見せている。

「ふぅ……。本当に素直に育ってくれたものだな」

「まったくですぞ。魔王と聞かされた時は、心臓が止まる思いでしたからな」

「ほっほっほっ、私もですぞ」

 正直なところ、魔王だった人物が転生した姿と聞いた時にはとてもじゃないが信じられなかった。
 しかし、魔族を次々と手元に引き込んでいたことを思うと、なんとなくながら納得できる話だった。

「不思議な話ですな」

「ええ、聖女から最も遠い場所にいたと思われる人物が、これだけしっかりと聖女を務めあげているのですからね」

「……アリエスならば、やり遂げてくれるかもしれませんな」

「ええ。サンカサスの聖女として認めた以上、私たちはアリエスに賭けるしかないのですよ」

「何もなければいいのだがのう……」

 司祭も牧師も、アリエスのことをかなり気にかけているようだった。
 人間たちの国同士の平和な関係を、元魔王のたった十一歳の少女に託すことになったのだ。気にならない方がおかしいというものである。

「我々でも、できるだけ手助けをしなければなりませんな」

「ええ、各国の教会に書簡を出すこととしましょう」

 頼むだけでは、育ての親として情けないと考えた司祭と牧師は、できる限りの援助をと思い、各国の教会に向けた書簡を認めることにしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

狼になっちゃった!

家具屋ふふみに
ファンタジー
登山中に足を滑らせて滑落した私。気が付けば何処かの洞窟に倒れていた。……しかも狼の姿となって。うん、なんで? 色々と試していたらなんか魔法みたいな力も使えたし、此処ってもしや異世界!? ……なら、なんで私の目の前を通る人間の手にはスマホがあるんでしょう? これはなんやかんやあって狼になってしまった私が、気まぐれに人間を助けたりして勝手にワッショイされるお話である。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

処理中です...