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第147話 命を狙われる元魔王
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テレグロス王国を出発したキャサリーンは、正直なところ気が重いようだった。
同行している将軍は、見慣れないキャサリーンの様子に不満そうな顔を見せている。
「どうなさったのですかな、キャサリーン殿」
これまで国のために尽くしてきた聖女であるキャサリーンに対して、同格レベルの敬称をつけている。テレグロス王国の中では、聖女の立ち位置はそれほど高くないのだろう。でなければ、見下したような視線を向けられるわけがないのである。
「いえ、何でもありませんよ」
キャサリーンはその将軍へとまったく目を向けることなく、前を見たまま将軍の言葉に答えていた。
ただ、その視線は少し物思いにふけっているような感じである。
(私はどうしたいのでしょうかね。魔族が許せないのは確かなのですが、サンカサス王国に攻め入るのは間違っているとしか思えません……。ですが、陛下の命令には逆らえませんし……)
数千という兵が、サンカサス王国に向けて進軍していく。
その中で、キャサリーンが珍しく思い悩んでいるようだった。以前のキャサリーンであれば、おとなしく国王に従っていただろう。だが、この時ばかりはキャサリーンの様子がずっとおかしいのである。隣で一緒に馬に乗る将軍は、かなり不快感を露わにしているようだった。
(いけない。将軍が隣にいる状態でこのような様子を見せ続けては、不信感を強めてしまいます。戦いが終われば、おそらく遠慮なく斬り捨ててくるでしょう。今は耐えなければ……)
キャサリーンはしっかりと前を見る。
サンカサスへと行軍しながら、どうやってこの場をうまく乗り切るか、キャサリーンにしては珍しい後ろ向きな作戦を練り始めたのだった。
平和を維持することこそ、聖女の存在意義なのだ。その意義に背くような行為に、手を染めるわけにはいかない。キャサリーンの苦悩は続くのであった。
―――
一方その頃、ハデキヤ帝国へ向けて、アリエスは移動をしている真っ最中である。
周辺地域とはいえテレグロス王国を通らなければ、ゼラブからハデキヤ帝国へと移動することはできないのである。
「ここはテレグロス王国の中ですね」
「さすが聖女キャサリーン様が管理されているとあって、こんな辺境地域でも豊かですね」
「いやはや、聖女という存在の力を思い知らされますな。私たち魔族には、とてもこのようなことはできません」
「そうですね。私も魔王時代にこのようなことができていれば、こじれることはなかったでしょうに……」
「アリエス様……」
ペガサスに乗りながら、アリエスは反省を口にしている。
自分が魔王だった時代に事態の改善を行えなかったことは、今回の和平交渉が実現したとはいっても、今のアリエスに暗い影を落としていた。
「アリエス様は、本当にお優しい方ですね」
「私は、魔王時代から争いごとは嫌いですよ。生き残るために、やむなくといったところです。話し合いで済めばそれでいいのですが、人間も魔族も私の言うことを聞いてくれませんでしたからね」
「本当ですな。アリエス様が魔王になられた頃からすれば、最後の辺りはかなり従うようにはなっていましたがね。そこまで持っていくのはとても大変でしたよ」
「ええ、まったくです。さて、人の多いところに差し掛かるので、お話はこの程度に致しましょうか」
「そうですね。テレグロス王国の中ですし、これ以上は危険ですね」
目の前に集落のようなものが見えてきたので、アリエスたちは話を終わりにすることにした。
ここは魔族に対して特に風当たりの強いテレグロス王国だからだ。
「あら?」
「どうかなさったのですか、アリエス様」
前方の集落を見ながら、アリエスは顔をしかめていた。それもそうだ。人の動きが慌ただしいのだから。
念のためにスラリーに頼んでサハーを擬態させる。なにせ半魚人であるフィシェギルなのだ。一発で魔族であることが分かる姿なのだからしょうがない。
ペガサスに乗ったアリエスが、馬車を待機させて村へと近付いていく。よく見ると兵士たちがやって来て何かをしているようだった。
「あの、申し訳ございませんが、これは一体何があったのでしょうか」
アリエスはペガサスから降りて、村人たちに話しかけている。
「これは通りすがりの神官様。見ての通りです。村の食糧を差し出しているところなんですよ」
「まあ、どうしてそのようなことを?」
村人が素直に答えたので、アリエスはさらに質問をぶつけている。
ところが、そこへ気が付いた兵士が割り込んできた。
「おい、どこの誰だ。邪魔立てするのなら、遠慮なく斬り捨てるぞ。さっさと立ち去れ!」
ものすごい剣幕でアリエスたちを邪魔者扱いしている。
アリエスが抗議しようとすると、別の兵士が近付いてきて驚きの表情を見せていた。
「おい、こいつ……」
「どうした?」
「サンカサス王国の聖女、アリエスじゃないのか?」
「なに? 元魔王とかいう噂の聖女か?」
兵士たちの話に、アリエスは驚いていた。
この話はまだサンカサス王国とゼラブ国にしか明らかにしていない話である。だというのに、テレグロス王国の兵士が知っているのだ。これが驚かずにいられるというものだろうか。
「どこでそのような話をお聞きになりましたか?」
「……ふん、お前の知ったことではないわ! ちょうどよい、ここで死ぬがよい!」
質問にまともに答えることなく、兵士が剣を振り上げる。
あまりにも突然なことに、村人たちの悲鳴が響き渡るのだった。
同行している将軍は、見慣れないキャサリーンの様子に不満そうな顔を見せている。
「どうなさったのですかな、キャサリーン殿」
これまで国のために尽くしてきた聖女であるキャサリーンに対して、同格レベルの敬称をつけている。テレグロス王国の中では、聖女の立ち位置はそれほど高くないのだろう。でなければ、見下したような視線を向けられるわけがないのである。
「いえ、何でもありませんよ」
キャサリーンはその将軍へとまったく目を向けることなく、前を見たまま将軍の言葉に答えていた。
ただ、その視線は少し物思いにふけっているような感じである。
(私はどうしたいのでしょうかね。魔族が許せないのは確かなのですが、サンカサス王国に攻め入るのは間違っているとしか思えません……。ですが、陛下の命令には逆らえませんし……)
数千という兵が、サンカサス王国に向けて進軍していく。
その中で、キャサリーンが珍しく思い悩んでいるようだった。以前のキャサリーンであれば、おとなしく国王に従っていただろう。だが、この時ばかりはキャサリーンの様子がずっとおかしいのである。隣で一緒に馬に乗る将軍は、かなり不快感を露わにしているようだった。
(いけない。将軍が隣にいる状態でこのような様子を見せ続けては、不信感を強めてしまいます。戦いが終われば、おそらく遠慮なく斬り捨ててくるでしょう。今は耐えなければ……)
キャサリーンはしっかりと前を見る。
サンカサスへと行軍しながら、どうやってこの場をうまく乗り切るか、キャサリーンにしては珍しい後ろ向きな作戦を練り始めたのだった。
平和を維持することこそ、聖女の存在意義なのだ。その意義に背くような行為に、手を染めるわけにはいかない。キャサリーンの苦悩は続くのであった。
―――
一方その頃、ハデキヤ帝国へ向けて、アリエスは移動をしている真っ最中である。
周辺地域とはいえテレグロス王国を通らなければ、ゼラブからハデキヤ帝国へと移動することはできないのである。
「ここはテレグロス王国の中ですね」
「さすが聖女キャサリーン様が管理されているとあって、こんな辺境地域でも豊かですね」
「いやはや、聖女という存在の力を思い知らされますな。私たち魔族には、とてもこのようなことはできません」
「そうですね。私も魔王時代にこのようなことができていれば、こじれることはなかったでしょうに……」
「アリエス様……」
ペガサスに乗りながら、アリエスは反省を口にしている。
自分が魔王だった時代に事態の改善を行えなかったことは、今回の和平交渉が実現したとはいっても、今のアリエスに暗い影を落としていた。
「アリエス様は、本当にお優しい方ですね」
「私は、魔王時代から争いごとは嫌いですよ。生き残るために、やむなくといったところです。話し合いで済めばそれでいいのですが、人間も魔族も私の言うことを聞いてくれませんでしたからね」
「本当ですな。アリエス様が魔王になられた頃からすれば、最後の辺りはかなり従うようにはなっていましたがね。そこまで持っていくのはとても大変でしたよ」
「ええ、まったくです。さて、人の多いところに差し掛かるので、お話はこの程度に致しましょうか」
「そうですね。テレグロス王国の中ですし、これ以上は危険ですね」
目の前に集落のようなものが見えてきたので、アリエスたちは話を終わりにすることにした。
ここは魔族に対して特に風当たりの強いテレグロス王国だからだ。
「あら?」
「どうかなさったのですか、アリエス様」
前方の集落を見ながら、アリエスは顔をしかめていた。それもそうだ。人の動きが慌ただしいのだから。
念のためにスラリーに頼んでサハーを擬態させる。なにせ半魚人であるフィシェギルなのだ。一発で魔族であることが分かる姿なのだからしょうがない。
ペガサスに乗ったアリエスが、馬車を待機させて村へと近付いていく。よく見ると兵士たちがやって来て何かをしているようだった。
「あの、申し訳ございませんが、これは一体何があったのでしょうか」
アリエスはペガサスから降りて、村人たちに話しかけている。
「これは通りすがりの神官様。見ての通りです。村の食糧を差し出しているところなんですよ」
「まあ、どうしてそのようなことを?」
村人が素直に答えたので、アリエスはさらに質問をぶつけている。
ところが、そこへ気が付いた兵士が割り込んできた。
「おい、どこの誰だ。邪魔立てするのなら、遠慮なく斬り捨てるぞ。さっさと立ち去れ!」
ものすごい剣幕でアリエスたちを邪魔者扱いしている。
アリエスが抗議しようとすると、別の兵士が近付いてきて驚きの表情を見せていた。
「おい、こいつ……」
「どうした?」
「サンカサス王国の聖女、アリエスじゃないのか?」
「なに? 元魔王とかいう噂の聖女か?」
兵士たちの話に、アリエスは驚いていた。
この話はまだサンカサス王国とゼラブ国にしか明らかにしていない話である。だというのに、テレグロス王国の兵士が知っているのだ。これが驚かずにいられるというものだろうか。
「どこでそのような話をお聞きになりましたか?」
「……ふん、お前の知ったことではないわ! ちょうどよい、ここで死ぬがよい!」
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あまりにも突然なことに、村人たちの悲鳴が響き渡るのだった。
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