1 / 3
第1話:姉は破滅確定のチュートリアル戦闘キャラ
しおりを挟む
王立学園の中庭は、冬の光が白い石畳に反射し、澄んだ空気が肌を刺すように冷たかった。
その中心で、平民の少女ステラが王太子アラン・アストレアに向かって笑みを向けていた。
栗色の髪が肩で揺れ、素朴な顔立ちの中に冒険者らしい芯の強さが見える。
「アラン様、私と一緒に魔の森へ行きませんか? 二人で魔王を倒して世界を救うために、これから強くなりましょう!」
金髪を短く整えたアランは、若さゆえの自信をそのまま形にしたような表情で頷いた。
「わかった。どんな時でもお前を守るから、安心してくれ」
その瞬間、鋭い声が空気を裂いた。
「そのようなことは許さないわ!」
白銀の髪を背に流し、光を纏ったような気品を持つ少女――姉のセレスティア・フェルディナが歩み出た。
宝石のように澄んだ瞳は怒りよりも正義感の強さを宿している。
「ステラとかいう平民の娘! あなたの未熟な腕前で王太子殿下を連れて行こうなど、言語道断です! そのまま挑めば、二人とも命を落とすのが関の山でしょう! どうしてもと言うのなら――まずはこの私を倒してからにしなさい!」
その声を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。
目の前の光景が、これまで何度も見た光景と完全に一致していたからだ。
――思い出した。
ここは、俺が前世で遊んでいたシミュレーションRPG「アストレア戦記」の世界だ。
このゲームは、主人公を選ぶことで物語の視点や仲間の構成が変わるのが特徴で、ステラはその中でも王道ルートの主人公だった。
現代日本で暮らしていた前世の俺がどうなったのかは知らないが、気付けばこれまでの十数年間、アストレア戦記の世界の人間として生きていた。
それも、序盤に登場する悪役令嬢、セレスティア・フェルディナの弟として。
作中では、姉を応援して主人公たちを貶す意地の悪い貴族で、醜悪なグラフィックのキャラクターとして一瞬表示されただけだったが……。
どうしてよりによってこんなキャラクターに転生してしまったのかと、嘆いている暇はなかった。
今、目の前で始まろうとしているのは、プレイヤーに「戦略次第で能力差を覆せる」ことを教えるためのチュートリアル戦闘イベントだった。
セレスティアは、ステラが主人公のストーリーで王太子を仲間にしようとした際に立ちはだかる敵で、ゲーム序盤の圧倒的な壁として登場する。
レベルも能力も高く、スキルも破格の性能だ。
しかし、挑発に乗りやすく、詠唱の長い光線魔法に頼りすぎるため、位置取りを工夫されると簡単に崩れる。
ステラが正しい手順を踏めば、どれほどセレスティアが強くても必ず負けるように設計されていた。
つまり、ゲームではセレスティアの敗北が確定しているイベントだった。
そして敗北すれば、ステラに惹かれたアランからセレスティアは婚約破棄され、フェルディナ家は没落する。
俺はその未来を知っている。
知っているからこそ、止めなければならない。
「姉上、待ってくれ!」
駆け寄ろうとしたその瞬間――騎士科の取り巻きが俺の前に飛び出してきた。
「うわっ……来るなッ!」
「目が合った……最悪だ……!」
彼らの顔が一瞬で青ざめ、次の瞬間には怒りとも恐怖ともつかない表情に変わった。
「いや、お前ら、自分から飛び出してきてその反応ってどうなんだ……」
話しかけた瞬間、彼らの体が反射的に後ずさりする。
「しゃ、しゃべった……!?」
「相変わらず不細工で気味の悪い男だ。気が遠くなるから近づかないでくれ!」
「貴様、何を企んでいる? その顔で近づいてくるなんて、どう考えてもろくなことじゃない!」
「そうだ、絶対何か裏がある! 止まれ、今すぐ止まれ!」
俺はただ、セレスティアを止めたいだけだ。
だが、彼らは俺の言葉を聞く前に、悪意ありきで判断してくる。
「何も企んでなんかいない! 俺は姉上を止めようとしているだけだ!」
「黙れッ! 声を聞くだけで鳥肌が立つんだよ!」
「これほどまでに我々の心の平静を失わせるとは……さすが人類史上もっとも醜悪な男……!」
一人が剣の柄に手をかけた。
本気で斬りかかるつもりだ。
俺の顔を見るだけで、理性よりも本能が先に動くらしい。
こういう反応は、今に始まったことではない。
物心ついた頃から、俺はずっとこうだった。
泣き出す子ども、逃げる動物、怯える大人。
大抵の人は攻撃をしてくるか逃げるかするし、話し合いなんてしようがない。
俺が何を言っても「醜悪な外見だから」「雰囲気が不気味だから」という理由で、邪悪なことを企んでいるに違いないと決めつけられる。
この世界で生まれてからずっと、俺はそういう存在だった。
両親もセレスティアも、そして親族も、美男美女揃いの家系で、俺だけそんな異常な醜さで生まれていた。
いきなり斬りかかられてはたまらないと、黙って引き下がる。
アランとステラとその取り巻きは、セレスティアを連れて決闘演習場に向かって歩き出した。
「……レオン様、放っておいてよいのですか? 王太子殿下とセレスティア様の関係が悪くなると、フェルディナ家にもよくない影響があるのでは?」
後ろから、婚約者のシャルロッテが心配そうに声をかけてきた。
淡い茶髪を編み込み、控えめな雰囲気の令嬢だ。
こんな俺でも、侯爵家の令息なので婚約者がいる。
数え切れない相手に断られたが、姉のセレスティアが王太子殿下であるアランの婚約者となり、ようやく決まった婚約者だった。
今後勢力を増すであろうフェルディナ侯爵家と繋がりを持つための、政略的な婚約なのは間違いないが、俺には本当に嬉しい婚約だった。
セレスティアが破滅してフェルディナ侯爵家が没落すれば、俺とシャルロッテの婚約も消えるだろう。
そうなった後、俺は一生、誰にも選ばれない。
可愛い奥さんと幸せに暮らす未来が消える。
そうならないためにも――セレスティアを守り、ゲームの確定イベントを俺が変えなければいけない。
「……仕方ない。俺も行くよ」
俺はセレスティアの隣に立ち、決闘の場へと向かった。
その中心で、平民の少女ステラが王太子アラン・アストレアに向かって笑みを向けていた。
栗色の髪が肩で揺れ、素朴な顔立ちの中に冒険者らしい芯の強さが見える。
「アラン様、私と一緒に魔の森へ行きませんか? 二人で魔王を倒して世界を救うために、これから強くなりましょう!」
金髪を短く整えたアランは、若さゆえの自信をそのまま形にしたような表情で頷いた。
「わかった。どんな時でもお前を守るから、安心してくれ」
その瞬間、鋭い声が空気を裂いた。
「そのようなことは許さないわ!」
白銀の髪を背に流し、光を纏ったような気品を持つ少女――姉のセレスティア・フェルディナが歩み出た。
宝石のように澄んだ瞳は怒りよりも正義感の強さを宿している。
「ステラとかいう平民の娘! あなたの未熟な腕前で王太子殿下を連れて行こうなど、言語道断です! そのまま挑めば、二人とも命を落とすのが関の山でしょう! どうしてもと言うのなら――まずはこの私を倒してからにしなさい!」
その声を聞いた瞬間、胸の奥がざわついた。
目の前の光景が、これまで何度も見た光景と完全に一致していたからだ。
――思い出した。
ここは、俺が前世で遊んでいたシミュレーションRPG「アストレア戦記」の世界だ。
このゲームは、主人公を選ぶことで物語の視点や仲間の構成が変わるのが特徴で、ステラはその中でも王道ルートの主人公だった。
現代日本で暮らしていた前世の俺がどうなったのかは知らないが、気付けばこれまでの十数年間、アストレア戦記の世界の人間として生きていた。
それも、序盤に登場する悪役令嬢、セレスティア・フェルディナの弟として。
作中では、姉を応援して主人公たちを貶す意地の悪い貴族で、醜悪なグラフィックのキャラクターとして一瞬表示されただけだったが……。
どうしてよりによってこんなキャラクターに転生してしまったのかと、嘆いている暇はなかった。
今、目の前で始まろうとしているのは、プレイヤーに「戦略次第で能力差を覆せる」ことを教えるためのチュートリアル戦闘イベントだった。
セレスティアは、ステラが主人公のストーリーで王太子を仲間にしようとした際に立ちはだかる敵で、ゲーム序盤の圧倒的な壁として登場する。
レベルも能力も高く、スキルも破格の性能だ。
しかし、挑発に乗りやすく、詠唱の長い光線魔法に頼りすぎるため、位置取りを工夫されると簡単に崩れる。
ステラが正しい手順を踏めば、どれほどセレスティアが強くても必ず負けるように設計されていた。
つまり、ゲームではセレスティアの敗北が確定しているイベントだった。
そして敗北すれば、ステラに惹かれたアランからセレスティアは婚約破棄され、フェルディナ家は没落する。
俺はその未来を知っている。
知っているからこそ、止めなければならない。
「姉上、待ってくれ!」
駆け寄ろうとしたその瞬間――騎士科の取り巻きが俺の前に飛び出してきた。
「うわっ……来るなッ!」
「目が合った……最悪だ……!」
彼らの顔が一瞬で青ざめ、次の瞬間には怒りとも恐怖ともつかない表情に変わった。
「いや、お前ら、自分から飛び出してきてその反応ってどうなんだ……」
話しかけた瞬間、彼らの体が反射的に後ずさりする。
「しゃ、しゃべった……!?」
「相変わらず不細工で気味の悪い男だ。気が遠くなるから近づかないでくれ!」
「貴様、何を企んでいる? その顔で近づいてくるなんて、どう考えてもろくなことじゃない!」
「そうだ、絶対何か裏がある! 止まれ、今すぐ止まれ!」
俺はただ、セレスティアを止めたいだけだ。
だが、彼らは俺の言葉を聞く前に、悪意ありきで判断してくる。
「何も企んでなんかいない! 俺は姉上を止めようとしているだけだ!」
「黙れッ! 声を聞くだけで鳥肌が立つんだよ!」
「これほどまでに我々の心の平静を失わせるとは……さすが人類史上もっとも醜悪な男……!」
一人が剣の柄に手をかけた。
本気で斬りかかるつもりだ。
俺の顔を見るだけで、理性よりも本能が先に動くらしい。
こういう反応は、今に始まったことではない。
物心ついた頃から、俺はずっとこうだった。
泣き出す子ども、逃げる動物、怯える大人。
大抵の人は攻撃をしてくるか逃げるかするし、話し合いなんてしようがない。
俺が何を言っても「醜悪な外見だから」「雰囲気が不気味だから」という理由で、邪悪なことを企んでいるに違いないと決めつけられる。
この世界で生まれてからずっと、俺はそういう存在だった。
両親もセレスティアも、そして親族も、美男美女揃いの家系で、俺だけそんな異常な醜さで生まれていた。
いきなり斬りかかられてはたまらないと、黙って引き下がる。
アランとステラとその取り巻きは、セレスティアを連れて決闘演習場に向かって歩き出した。
「……レオン様、放っておいてよいのですか? 王太子殿下とセレスティア様の関係が悪くなると、フェルディナ家にもよくない影響があるのでは?」
後ろから、婚約者のシャルロッテが心配そうに声をかけてきた。
淡い茶髪を編み込み、控えめな雰囲気の令嬢だ。
こんな俺でも、侯爵家の令息なので婚約者がいる。
数え切れない相手に断られたが、姉のセレスティアが王太子殿下であるアランの婚約者となり、ようやく決まった婚約者だった。
今後勢力を増すであろうフェルディナ侯爵家と繋がりを持つための、政略的な婚約なのは間違いないが、俺には本当に嬉しい婚約だった。
セレスティアが破滅してフェルディナ侯爵家が没落すれば、俺とシャルロッテの婚約も消えるだろう。
そうなった後、俺は一生、誰にも選ばれない。
可愛い奥さんと幸せに暮らす未来が消える。
そうならないためにも――セレスティアを守り、ゲームの確定イベントを俺が変えなければいけない。
「……仕方ない。俺も行くよ」
俺はセレスティアの隣に立ち、決闘の場へと向かった。
24
あなたにおすすめの小説
断罪イベントの夢を見たから、逆ざまあしてみた
七地潮
ファンタジー
学園のパーティーで、断罪されている夢を見たので、登場人物になりきって【ざまぁ】してみた、よくあるお話。
真剣に考えたら負けです。
ノリと勢いで読んでください。
独自の世界観で、ゆるふわもなにもない設定です。
なろう様でもアップしています。
転生ヒロインは乙女ゲームを始めなかった。
よもぎ
ファンタジー
転生ヒロインがマトモな感性してる世界と、シナリオの強制力がある世界を混ぜたらどうなるの?という疑問への自分なりのアンサーです。転生ヒロインに近い視点でお話が進みます。激しい山場はございません。
問い・その極悪令嬢は本当に有罪だったのか。
風和ふわ
ファンタジー
三日前、とある女子生徒が通称「極悪令嬢」のアース・クリスタに毒殺されようとした。
噂によると、極悪令嬢アースはその女生徒の美貌と才能を妬んで毒殺を企んだらしい。
そこで、極悪令嬢を退学させるか否か、生徒会で決定することになった。
生徒会のほぼ全員が極悪令嬢の有罪を疑わなかった。しかし──
「ちょっといいかな。これらの証拠にはどれも矛盾があるように見えるんだけど」
一人だけ。生徒会長のウラヌスだけが、そう主張した。
そこで生徒会は改めて証拠を見直し、今回の毒殺事件についてウラヌスを中心として話し合っていく──。
乙女ゲームはエンディングを迎えました。
章槻雅希
ファンタジー
卒業パーティでのジョフロワ王子の婚約破棄宣言を以って、乙女ゲームはエンディングを迎えた。
これからは王子の妻となって幸せに贅沢をして暮らすだけだと笑ったゲームヒロインのエヴリーヌ。
だが、宣言後、ゲームが終了するとなにやら可笑しい。エヴリーヌの予想とは違う展開が起こっている。
一体何がどうなっているのか、呆然とするエヴリーヌにジョフロワから衝撃的な言葉が告げられる。
『小説家になろう』様・『アルファポリス』様・自サイトに重複投稿。
奪われ系令嬢になるのはごめんなので逃げて幸せになるぞ!
よもぎ
ファンタジー
とある伯爵家の令嬢アリサは転生者である。薄々察していたヤバい未来が現実になる前に逃げおおせ、好き勝手生きる決意をキメていた彼女は家を追放されても想定通りという顔で旅立つのだった。
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる